第百六十六話 西平安名岬の一角天馬
○西平安名岬ダンジョン攻略 その5○
ユニコーンとペガサスが融合した見た目にサラブレッドの三大始祖の名を持つ魔物。
一見のんびりとした様子と裏腹にその馬体からは得も言われぬ風格が漂っていた。
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名前:一角天馬 ダーレーアラビアン
生体種別:魔物目ホース科アイアンホース属一角天馬種(レアランク:★★★★★)
進化形態:幻獣化4
総個体数:1
状態:良好
特性:レベルアップに伴う馬体成長力向上(中)。同競走能力向上(極大)。同飛翔能力の向上(中)。同角伸縮能力の向上(大)。
・・・
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なんか色々ごちゃ混ぜになってんなぁ。
あんな固有名持ってる魔物なんて初めてだし、ってあれ?ダーレーアラビアンって鹿毛じゃなかったか?
まっ、それはこの際いいとして注目すべきはこっちの方か。
先の解析力の向上はレア個体にランクが存在することまで明らかにしていた。
にしても凄ぇな、コイツが円ちゃん効果によるレア個体だってのは何となく予想できてたけど。
「きっとこれは運命の出会いって奴よ。
あの見た目なら絶対清らかな心の持ち主、私との相性もピッタリだわぁ♪」
かおるは目を♡にし、胸キュンお祈りポーズで上空を見つめていた。
随分と惚れ込んじゃってまあ。
ともあれあのお馬さんをテイムしたいならこのチャンスを活かすべきなのは確かだろう。
星5ランクってのが如何程のモノかを抜きにしても進化形態が幻獣化4で総個体数1とかあの魔物はどう考えても超希少種だろうし・・・
レア個体には元の魔物と同系統の魔物であるという法則性があるがその種類が一種類だけとは限らない、賢斗はつい先日見た図鑑でこの辺の知識も得ていた。
ホース系に関していえばそのレア個体の種類は数十種にも上るが今回賢斗達の前に姿を現したこの一角天馬はその図鑑にも載っていなかった。
レア個体の出現率自体只でさえ低い。
通常この魔物が出現する確率は限りなく0に近く、円が居る賢斗達にしても出直してまた同じ様に出現してくれる保証は何処にも無いと言えた。
つってもそう考えたところで・・・
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レベル:33(7%)
≪能力限界値≫
HP 100/100
SM 73/73
MP 74/74
MS 64/64
SP 118/118
≪基礎能力値≫
STR : 53
VIT : 49
INT : 46
MND : 39
AGI : 61
DEX : 38
LUK : 62
CHA : 68
SPL : 72
・・・
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幾らかおるのテイム力に長けているとはいえ、このレベル33の魔物相手にHPを1まで削りワンチャンスでテイムを成功させるのはどう考えても無謀な試みである。
「ちょっと先輩、馬鹿なこと言ってないでここは早く撤収しましょう。
相手はレベルが8つも上ですしテイムなんか成功するわけないでしょ」
「ヤダヤダァ~、私はあの白いお馬さんを絶対ゲットするのぉ~っ!
ようやく見つけた性格よし子ちゃんなのよ?ウルウル」
泣くなっつの、ったく白馬の王子様でも夢見てんのか?このメルヘン様は。
とはいえこんな駄々っ子モードじゃ手が付けられん。
「あっ、だったらこれ使ってみるぅ~?」
桜が見せたのは昨日入手したての一発逆転ハンマー。
ん、あっ、そうかっ!
そいつで旨いこといい感じにレベルダウンさせることができれば先輩のテイムも成功するかも。
となるとハンマーで叩くのは桜がベストだし問題は・・・
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【ジョブ】
『ヴァージンナイトLV1(6%)』
【スキル】
『幻影LV10(-%)』
『雲魔法LV10(-%)』
『豪脚LV10(-%)』
『ホースソニックLV10(-%)』
【強属性】
なし
【弱属性】
なし
・・・
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あっちゃ~、幻影に雲魔法持ってんのか。
スキルの詳細を見るまでも無くこんな奴にうちの先生のへなちょこハンマー攻撃が当たるわけない。
なんて事をやっている間に地上から迫っていたアイアン宮古馬達の包囲網が完成していった。
カシャン、ウィーン、ドンドドンドンッ!
終結した魔物達の背部が開くと垂直発射式六連装ミサイルが発射された。
ひゅ~ん、えっ、何あれ?
なっ、ヤバい!
「マッドシールドぉっ!」
「ストーンウォールっ!」
ドカドカドカァ~ン、桜と円の防御壁が間一髪間に合うが数秒程度の時間稼ぎにしかなりそうにない。
賢斗は咄嗟に三人を抱き寄せると空飛ぶ白馬の更に上空まで転移した。
いや~危なかったぁ。
アイアンが付く魔物にはロボ要素でも入ってんのか?
「皆、大丈夫か?」
「うっ、うん、だいじょぶだいじょぶぅ~」
「はい、少々強引ですがこういうのも悪くないですよ」
「ちょっと賢斗君、どさくさに紛れて何時まで触ってんのよっ!」
これは失礼、がしかしどうにもこの手があっしの言うことを・・・モミモミ
バチンッ!ぶへっ!
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その6○
ほっぺに紅葉マークを頂いた賢斗であるがこのフロアで彼がその拘束を解けば三人の少女達は風に流されてしまう。
そんな状況を鑑み彼女等は賢斗に掴まりつつ自らそのポジションチェンジに動き出した。
「い~い?賢斗君、この手はこの位置でしっかり固定するだけ、分かったわね?キッ」
そう言ってかおるは賢斗の手を自分の腰に回し睨み付けた。
しかしそれに反して彼の顔は何故か薄らほころんでいた。
うほっ、東アルプスが脇腹にぃ♪
「もうニヤニヤしないっ!ギュウ」
痛ってぇ!
「こんな美人の先輩の腰に手を回すことができて嬉しいのは分かるけど少しは我慢しなさいな」
おっ、おう、確かにこの喜びを悟られては台無しだ。
・・・ここはポーカーフェイスに徹っするのみっ!
「ゴソゴソ、わっ、私はこのまんまで良いよぉ~、じゃないと風に流されちゃうしぃ~」
耳を真っ赤にした桜はその身をクルリと反転、賢斗の胸元から顔を見上げて現状のポジションキープを希望。
うむ、先輩の後に先生の態度を見るとまるで天使のようだ。
「でしたら私は何時ものポジションですにゃん。ヨジヨジ」
幼女化した円は彼の顔面登山を決行、そのまま背後に回るとおんぶ態勢に移行した。
でしょうね。
そして出来上がったのは三人の美少女に囲まれた見事なまでのハーレム状態。
ムフゥ、三人一緒にこんな密着されたの初めてかも♪
いや~俺は今この時を大事に生きていくっ!
ポーカーフェイスを維持しつつもそんなアンポンタンな事を考えていると・・・
・・・ゾワッ!えっ、クルッ
眼下では一角天馬が上空の賢斗を睨み付け強烈な殺気を放っていた。
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その7○
そういや今はまだ戦闘中だったな。
この喜びは後から噛み締めるとしよう。
とはいえまだ最大の問題が・・・
どうやってあの化け物相手にうちの先生の一撃を与えるかだが・・・
「にしても変ですねぇ。
あのお馬さん全く攻撃して来ませんにゃん」
確かにあれだけ敵対心剥き出しにこっちを睨み付けている割には・・・
地上に居たアイアン宮古馬がミサイル攻撃をして来た時もこの一角天馬は只上空でそれを眺めていただけであり、飛行能力を備えたあの魔物が攻撃を仕掛けて来ないのは不思議としか言い様がなかった。
ハッ!これはもしかすると・・・
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『ヴァージンナイトLV1(0%)』
ランク :SR
ジョブ効果 :処女以外との戦闘時、STR及びAGI値10%上昇。処女への攻撃不可。
【関連スキル】
『ヴァージンラブLV10(7%)』
『角槍術LV10(56%)』
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おおっ、やっぱりだっ!
ユニコーンは処女好きだって聞いた事あるしな。
「よし桜、お前アイツの背中に転移してさっきのハンマーで攻撃を喰らわせて来い。
大丈夫、桜の物理攻撃なんてアイツに取っちゃ肩叩き程度のもんだろうしちっさいお前が乗ったって暴れたりしない筈だから」
「私ちっちゃくないもぉ~ん!」
いや小さいだろ。
「そうです、桜はとても大柄な女性ですにゃん」
何で乗っかってんだよ。
「っとにデリカシーってものが存在しないの?
賢斗ワールドには」
いや小さい女子好きな野郎なんて世の中五万と居るだろうし、寧ろセールスポイントじゃないの?
でもまあここまで言われちゃ・・・
「じゃあハッキリ言ってやる。
アイツはヴァージンナイトっつうジョブまで持ってる処女が大好きな魔物なんだよっ!
一番純情そうな桜ならこれまで彼氏はいなかっただろうし、奴のこの弱点を最大限利用できるだろ?」
シーン・・・コクリ、桜は何か納得した様子で静かに頷くと一角天馬の背へと転移した。
「賢斗さん、私も彼氏は居ませんにゃん」
「わっ、私もまだ男の人とちゃんとお付き合いなんかした事ないんだからね、賢斗君」
あっ、そう?別に懺悔を強要した覚えはありませんけど。
いや、今はそんなことよりも・・・
「え~いっ!ポコン」
桜が魔物の背上からハンマー攻撃を加えると一角天馬は見る見る犬並みにまでダウンサイジング。
おっ、あれは成功なのかっ?
解析してみれば一角天馬はレベル3にまでレベルダウン。
それに合わせ所持スキルの方も軒並みレベルダウンしていた。
って嘘・・・俺はちょっと先生の強運を甘く見ていた様だ。
桜はランダムダウンの最大値を引き当てた上に破壊確率90%までをも掻い潜っていた。
「もういっちょお~」
(桜っ、もう十分だ、こっちに戻って来いっ!)
(ほ~い)
桜は再び先程の賢斗の胸元ポジションに帰還。
今度は四人で魔物との距離を詰めていき・・・
「いきますにゃん、シュッ、シュシュッ、シュッ」
円がエアパンチを繰り出すと目出度く魔物のHPは1になり、テイムへのお膳立てが全て完了した。
「じゃあ先輩、テイムしてみてください」
まっ、レア種のテイム確率がどれ程のモノか知らんけど何とか上手くいってくれ。
「う~ん、それなんだけどどうしよっかなぁ~。
だってあの魔物って処女好きの変態なんでしょ?」
「何言ってんすか、先輩。
処女ってのは男なら誰しも好ましく思うものですしそれがイコール変態だとは限りませんよ?
それにあそこまで弱体化したなら性格もしおらしく素直な幼い感じになってる可能性だって十分です」
この人ここまで来て何言い出してんだ?
性格が多少アレでもこの際少しは我慢しろっつの。
ふ~ん、そうなんだぁ。
まあ確かに処女が好きっていうのも清純な女性が好きって事の延長なだけでスケベ親父な性格だとは限らないものね。
「うっ、うん、分かった、やってみる。
幼い内から教育して上げれば私好みの性格に育てられるものね」
うむ、光源氏理論は最強、まっ、レベルダウンで性格まで幼くなんてのは全くの当てずっぽうだが。フッ
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その8○
かおるはやる気マンマンでテイムを発動。
「よしっ♪成功よ、賢斗君。
これからよろしくね、君。ポンポン」
(・・・コクリ)
あはっ♪どうやら今度はホントに大丈夫みたい。
無口な少年ぽくって、今までの苦労が報われた気分よ。
かおるはポニー程に小さくなった一角小天馬の首筋に頬擦り。
「ねぇ、かおるちゃん、その仔馬さん鼻血出てるよぉ~」
「あらホントだ、今拭いてあげるわね、フキフキ」
「おい、なんかそいつニヤけてねぇか?」
ガブッ、白馬は賢斗の手に噛みついた。
「痛ってぇ~っ!」
「ほら、賢斗君が失礼なこと言うから罰があたったのよ」
「新人さんにはもっと優しくしてやんなくちゃダメだよ、賢斗ぉ~」
「このお馬さんはきっと高貴な魔物なんですにゃん」
ニィ~、賢斗に向かい勝ち誇った笑みを浮かべる白馬。
・・・おい、お前等、そいつの性格相当ひん曲がってんぞっ!
かくして一角天馬のテイムは目出度く成功した訳だがまだここのラスボスは残っている。
猫女王様による討伐案もあるにはあるが、先程使用した一発逆転ハンマーは未だ健在。
ここまで来たら討伐して帰りたいと考えるのは当然であった。
固まったまま勇者オーラを発動しギガントアイアンホースへ突撃。
桜がハンマー攻撃するとその特殊武器は跡形もなく消え去ってしまったが巨大馬の魔物は20もレベルダウン。
レベル18となったボスに円があっけなくフィニッシュを決めると、呼び寄せられていたアイアン宮古馬達も散り散りになっていった。
結果として討伐には成功したわけだがこの討伐策は一つの落とし穴が存在。
今回これだけの強敵を討伐したにもかかわらず誰一人としてレベルアップすることは無く、レアドロップされる筈だった脚力増強アンクレット(極)が手に入ることもなかった。
ダンジョンコアの部屋に入るとかおるがようやくSSRジョブ、風弓の天女を手に入れた。
「五右衛門しゃ~ん、そこ押すだけでいいからぁ~」
(お任せでござる。パシャ)
最後に皆で記念撮影したところでこの西平安名岬ダンジョン攻略は幕を閉じたのだった。
次回、第百六十七話 清川鉄道。




