第百六十四話 レベル11の解析力
○清川ダンジョン攻略 その2○
清川ダンジョン3階層のフィールドフロア。
ドリリンガーから降りた賢斗と茜は湖の方へと歩いていく。
「なんだかとっても綺麗なところですね。
二人っきりでムードも満点ですぅ」
ふっ、まっ、さっきから俺を睨み付けてる白カラスさえ・・・
ってそれだけじゃないか。
湖畔近くまで来てみれば赤、青、黄、緑、紫、水色にオレンジといった色とりどりのスライム達。
脳内マップで確認すればそれは湖全域を取り囲み最早その数は把握できないほどである。
おっ、あれは・・・
大部屋に居る個体と同じアメーバ系スライムに混じって楕円球体状でピョンピョンと飛び跳ねて移動する個体の姿も見えた。
まさか図鑑に載ってたオーバル系スライムにまで出会えるとは。
このスライムの楽園にうちのゴールデンコンビを連れて来れば結構面白いことになりそうだな、うんうん。
賢斗が手当たり次第にそこいらのスライムを解析していくと・・・
『ピロリン。スキル『解析』がレベル11になりました。』
既にマルチアナライザージョブを取得していた賢斗の解析スキルがレベルアップ。
えっ、何これ凄い、あの図鑑でもここまで詳しく・・・
その解析力は格段に向上していた。
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名前:オーバルブルースライム
生体種別:魔物目スライム科オーバル属ブルー種
進化形態:通常1
総個体数:3872
状態:良好
特性:レベルアップに伴う身体形状変化能力の向上(中)。
レベル:5(6%)
≪能力限界値≫
HP 15/15
SM 14/14
MP 7/7
MS 8/8
SP 5/5
≪基礎能力値≫
STR : 5
VIT : 5
INT : 7
MND : 5
AGI : 2
DEX : 9
LUK : 7
CHA : 3
SPL : 4
【スキル】
『酸吐出LV4(29%)』
『物理耐性LV4(56%)』
【強属性】
水属性
【弱属性】
火属性
【ドロップ】
『スライムジェルの瓶詰(ドロップ率10.0%)』
【レアドロップ】
なし
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ふむ、MSってのはメンタルストレングス(精神量)、SPってのはスピリチュアルポイント(霊力量)でSPLが霊力値・・・
にしてもレベル11の解析力はここまで突き抜けてんのか。
で、この総個体数ってのは・・・
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名前:ブルースライム
生体種別:魔物目スライム科アメーバ属ブルー種
進化形態:通常1
総個体数:318974
状態:良好
特性:レベルアップに伴う身体形状変化能力の向上(小)。
・・・
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ふむ・・・
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名前:多田スラ太郎 (アクアマリンスライム)
生体種別:魔物目スライム科ジュエル属アクアマリン種
進化形態:特殊5
総個体数:1
状態:テイム
特性:レベルアップに伴う身体形状変化能力(特大)。同硬化能力の向上(特大)。同スキル習熟効果(特大)。同スキル取得率(特大)。同特異個体化発生率(特大)。
・・・
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ブフォッ!スラ坊の名前が!?
まさか解析情報にまで反映されるとは・・・なんかこんな安易な名前を付けたことに罪悪感を覚える事案だな。
まっ、それはそれとしてだ。
注目すべきはこの特性の違い、薄々そうじゃないかと思っていたがこれで改めてスラ坊のポテンシャルの高さが証明されたわけだ。
そしてこれ等の違いから総個体数の意味を考えれば恐らくこの数字は他のダンジョンも含めた今現在出現している同じ種の全個体数ってことで間違いない。
「スラ坊、やっぱお前は凄いぞぉ、どうやらこの世界で唯一無二の存在みたいだしな、ナデナデ」
「えっ?それはホントですか?マスター。
なんだか誇らしいです♪」
アハハ、何故か褒めずにはいられない心境だ。
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その2○
西平安名岬ダンジョンのフロアは100km四方を軽く超え諸々の悪条件が重なるここの探索は通常1フロア当たり1週間程度の探索期間を要する。
「じゃあそろそろ本格的にここの攻略を始めましょうか。」
今回の攻略にあたり新たに購入した方角ステッキ100をかおるは地面に突き立てた。
いとも簡単にゴール地点の方角が割り出されると二人はゴーグルを装着し強風吹き荒ぶ草原の上へと舞い上がる。
「きゃあっ」小さな悲鳴を溢す彼女等、その場に留まっているのもままならない状況の中遠くを見据えて短距離転移を発動。
移動先で地上に下りていくと強風からの退避場所となる風よけドームをドリアードが作り上げていた。
ふぅ、まあ大分距離は稼げたし、ここのダンジョンの攻略方法はこれが正解ね。
円と小太郎が周辺の魔物を撃退する間にかおるは再び方角ステッキで方向確認、かなり風に流された誤差を修正すると再び上へと舞い上がる。
そんな作業を5回ほど繰り返すとようやく1階層のゴール地点に到着、そこにはぽっかりと開いた大穴に下へと繋がる階段が見えていた。
その後要領を得た二人はそれなりに苦労しつつも2階層、3階層、4階層とかなりのハイペースで攻略を進めていく。
「ところでかおるさん、テイムモンスターはどうするんですか?」
「うん、まあ蛇とかトカゲは好みじゃないし、もうちょっと先に進んでから吟味させてもらうわ」
とそんなこんなで4時間経過。
二人はなんとか5階層のボスポイントまで辿り着くと草むらの僅かな隙間から10m程先の状況を見つめている。
その一角は背の高い雑草が根元から刈り取られたかの様に開け、出口通路をまるで自分の巣穴だと言わんばかりに3mもある大きなヤシガニ型の魔物が半身を乗り出していた。
レベル23・・・アレがここの階層ボスかぁ。
毒々しい紫がかった斑模様、不釣り合いなほど大きく発達したハサミからは見ただけでその危険度が伝わってくる。
MPも消耗してるし今日は出直した方がいいかなぁ。
あの頑丈そうな甲殻は私の弓とかなり相性が悪そうだし。
「行きますよ、小太郎」
「わかったにゃ」
「えっ、ちょっと円っ!」
・・・でもまあ敵が見えてるこの状況なら円の場合キャットクイーンが使えるし大丈夫よね。
しかしそんなかおるの予想に反し円は猫人化もせずに威嚇ポーズを取るとそのまま精神集中。
その彼女へとポイズンココナッツクラブが麻痺性毒のシャボン玉を撒き散らせながら接近して来ていた。
ちょっとどうするつもりなのよ?円。
するとクイクイッと招き猫ポーズで来い来いアピールをした小太郎が円の胸元の巾着から飛び出した。
えっ、何あれ?
魔物は子猫の動きに誘導されその進路を変更。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃあっ!」
四肢を使ったラッシュ攻撃。
しかしその一つ一つの攻撃力はそれ程でも無く硬い甲殻を持つこの魔物には左程効いていない。
そしてそのラッシュが途切れた瞬間・・・
小太郎君、危ないっ!
ポイズンココナッツクラブの強靭なハサミが宙に浮いたままの子猫を襲った。
バチィーン、しかし閉じたハサミは子猫ではなく木の枝を粉砕していた。
ふぅ、もうヒヤヒヤさせるわね。
「お疲れ様でした、小太郎。
こちらの準備も整いましたよ」
胸元に戻った小太郎を感じ取ると円はゆっくり目を開けた。
「じゃあ後は任せたにゃ」
小太郎は自ら巾着の中に入ると首だけ出して戦況を見守る。
再び円に迫るヤシガニ型の魔物。
ちょっと今度は何をするつもりなの?
そのままじゃ貴女・・・
ポイズンココナッツクラブのハサミが円へ伸びて行く。
あっ、危ないっ!
ガキィ―――ン、えっ、何故?
そのハサミが閉じる事なく停止していた。
「今です、ハイパー激おこ猫パァ~ンチッ!」
防御効果が切れると同時に放たれたそのチャージタイプのパンチは見事ポイズンココナッツクラブの身体に風穴を開けていた。
「やるじゃない、円、今の一体何よ?」
「アレはにゃんタッチャブルという猫拳の秘奥義です。
そしてその効果が切れると同時に放ったのが猫拳最終奥義、ハイパー激おこ猫パンチというわけです」
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『猫拳LV10(-%)』
種類 :アクティブ
効果 :特殊技を得る効果。
【特殊技】
『猫だまし』
種類 :アクティブ
効果 :柏手を打って敵を驚かせ、5秒間硬直状態にする。
『激おこ猫パンチ』
種類 :アクティブ
効果 :威嚇ポーズから放つ強力な猫パンチ。攻撃力は闘争本能の高まりに依存。
『魔ねき猫』
種類 :アクティブ
効果 :招き猫ポーズで敵の注意を引き付ける。
『激おこ猫キック』
種類 :アクティブ
効果 :威嚇ポーズから放つ強力な猫キック。攻撃力は闘争本能の高まりに依存。
『激おこ猫ラッシュ』
種類 :アクティブ
効果 :四肢を使った強力な連続攻撃。攻撃力は闘争本能の高まりに依存。
『ニャンたっちゃぶる』
種類 :アクティブ
効果 :完全防御シールド能力。効果時間1分。クールタイム3時間。
『ハイパー激おこ猫パンチ』
種類 :アクティブ
効果 :チャージ型の激おこ猫パンチで1分で3倍の威力を発揮する。
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なるほどねぇ、こんなのまでカンストさせてたなんてこれは私もウカウカしてらんないわね。
「アイツ、こんなの落としていたにゃ」
飛び出して行った小太郎が引き摺ってきたドロップアイテムを抱え上げた円はその右手に装着してみる。
これは少し大き目ですねぇ、ジャキンジャキンッ
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○盛岡ダンジョン攻略 その3○
盛岡ダンジョン攻略は早くも最終局面を迎えていた。
接近する大黒鬼、スケルトン武者が居合の一閃を放つが、キィーン、艶のある黒に近い鋼色の肌はまるで刃物を通さなかった。
「五右衛門さん、だいじょうぶぅ~?
あの鬼さんレベル22だよぉ~。」
(お任せ下され主君。
ここで死しても主との楽しい日々、拙者なんの悔いも・・・ドゴォォォッ!)
大黒鬼の大金槌が横殴りにスケルトン武者を吹き飛ばすとその身体は岩に激突し砕け散る。
「あっ、五右衛門さぁ~んっ!」
叫ぶと同時に桜は彼女の最大攻撃を放っていた。
その魔法は紅炎の変化杖により一段と威力を増し最早紅色ではなく僅かに青みがかった白く輝く火球。
大黒鬼の鋼の身体はその接近と共に溶け始め衝突時には既に霧散を始めていた。
「だいじょぶぅ~?!五右衛門しゃ~ん」
スケルトン武者に駆け寄る桜。
(ご心配召さるな、主君。
拙者頭部が破壊されぬ限りは休息で自動回復が可能でござりまする)
「なぁ~んだぁ~、本気で心配しちゃったよぉ~」
ってあれぇ?五右衛門さんのレベルが下がっちゃってるぅ~???
まあそれは後で考えるとしてぇ~、今は五右衛門さんをなんとかして上げなくっちゃだねぇ~。
「ウォーターヒールゥ~」
(ぐおぉぉぉ、召される、召されますぞ、主君よぉ)
「いいか桜、一応言っとくけどアンデット系のテイムモンスターに回復系の魔法は御法度だからな。」
あっ!
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○本日の活動報告 その1○
午後4時、拠店部屋には各ダンジョンから帰還した面々が集合。
先ずは桜が本日の活動報告を行っていた。
「盛岡ダンジョンの攻略は終わったよぉ~。
最後のボスを倒したらこんなアイテムまで手に入ったしぃ~♪」
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『一発逆転ハンマー強化版』
説明 :叩いた相手のレベルをランダムに1~30低下させる。破壊率90%。ATK+7。
状態 :30/30
価値 :★★★★
用途 :スペシャルウェポン。
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おや、アイテム解析の方は前と全然変わってないな。
まっ、それは仕方ないとして、敵のレベルをランダム低下させるアイテムとは中々エグイ。
ほぼ1回限定のスペシャルアイテムって感じだが、一人でこんな高価値アイテムを入手してくるとは流石うちの大先生ってとこだな。
「それはそうと桜、何時まで五右衛門さんをこの部屋にって、あら?ちょっと雰囲気が変わったわね」
あっ、ホントだ、なんかちょっと偉そうになってる。
頭には陣笠、着流しに髑髏紋の入った黒い羽織、腰には2本の刀を水平に差していた。
「そっ、そんなことないってばぁ~」
いや明らかに違うだろ。
まっ、先生は嘘が下手だからなぁ、どれどれ。
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名前:五右衛門さん(スケルトン武者奉行)
生体種別:魔物目アンデット科スケルトン属武者奉行種
進化形態:特殊3
総個体数:3
状態:テイム
特性:レベルアップに伴う骨質硬化能力(大)。同スキル習熟効果(大)。同スキル取得率(大)。同特異個体化発生率(大)。
レベル:21(6%)
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ふむ、総個体数3とはやっぱ五右衛門さんも只もんじゃなかったか。
元々躑躅ヶ崎ダンジョンで特異個体だって騒がれていた程の逸材な訳だし・・・
ってあれ?五右衛門さんの本来の名前に奉行なんてついてたか?
う~む、仮にこの進化形態の特殊3ってのが特殊固体化の回数を表しているのだとしたら・・・
「レベルも一つ上がっているし、絶対何かあったでしょ?」
「えっ、うそぉ~、さっきはレベル3つ下がってたんだよぉ~」
3つもレベルダウンした魔物が一気に4つもレベルアップ?
やはりこれは・・・
「桜、魔物は瀕死状態から回復すると大幅にレベルアップしその際稀に特殊個体化するのはお前も知ってるだろ?
それを踏まえてよぉ~く思い出してみろ」
「えっ、わっ、私五右衛門さんにウォーターヒールなんて掛けてないよぉ~」
うん、俺はお前のそういうとこが大好きだ。
次回、第百六十五話 国際探索者連盟。




