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第百六十三話 本当の清川ダンジョン

○茜のテイムモンスター その3○


(・・・茜よ、そなたは少々貞操に疎い面があるな。

 男子とキスなどをすれば、そなたの清廉な触媒としての力が弱まってしまうぞ。

 そう易々とその身を汚すことはこの我が許さん)


(え~神様ぁ、勇者さまとキスもできないなんて悲し過ぎますぅ)


(馬鹿者っ!そなたの類稀なるその力がどれだけ貴重か・・・)


(そんなこと言われましても茜はもっと勇者さまと親密になりたいんですぅ。

 そのためなら触媒としての力なんて無くなっても構いませんよぉ)


(なっ・・・おまっ・・・既に厄災の兆候が、いや・・・

 とっ、時に茜よ、そなた仕える従者を欲しているようだな)


(えっ、あっ、はい、今テイムモンスターを探してる真っ最中ですぅ)


(よし、ならそなたには特別に我から従者となる魔物を用意してやろう。

 また例のダンジョンコアの下まで来るがよい)


「なんてお告げがありまして、私のテイムモンスターは神様から御用意していただけることになりましたぁ。

 これはなんだかとっても楽しみな予感。キャッ」


 へぇ、キスすると触媒能力って低下するのかぁ、まっ、別に俺には関係ないけど。

 にしても神様を翻弄する茜ちゃんぱねぇな・・・


 とそんな訳で何はともあれ神様が用意してくれるという魔物には否が応にも興味が湧く。

 二人は緑山ダンジョンへ急行した。


 緑山ダンジョンのコア部屋にやって来ると茜は早速ダンジョンコアに手を触れる。

 白い輝きを放ち始めるダンジョンコア。

 その輝きは増していき二人が眩しさを覚えた瞬間、その光の粒は上へと立ち昇り鳥の様な形に。

 そのまま飛翔する様に茜の肩に止まった。


 次第に収まっていく光、姿を現したのは赤い目を持つ白いカラス。

 解析してみるとホワイトクロウのレベル1でスキルは何一つ持っていない。

 色こそ珍しいが見た目上ゴミ捨て場などでよく見かけるハシブトガラスとまるで変らず、神が用意したというにはあまりにも普通。


 賢斗はそんな解析結果を茜に教えてやる。


「・・・でっ、でもまあ茜ちゃん、まだコイツ全然弱っちぃけどレベル1だし、育成すればきっと凄いスキルを覚えるに違いないって」


 神様が用意してくれるなんて言ったら普通はめっちゃ期待しちまうもんだろぉ?

 頼むぜ、神様、ったく。


「いいえ、勇者さまぁ、私はこのカラスさんでも十分ですよぉ。

 何だか可愛いじゃないですかぁ」


 その時だった。


(弱っちぃとは我の事を言うておるのか?小僧よ)


 えっ、何?今の声ってこのカラス?


 自分がテイムしたわけでもないのに何故か白カラスの声が聞こえてきていた。

 賢斗が疑問の表情を浮かべていると・・・


 ボワァ~ン、白い煙に包まれたその烏は姿を変える。

 烏のような嘴をした顔に山伏装束、手には長い錫杖を持ち背からは白い翼が生えている。

 改めて180cm程ある人型の魔物を解析してみれば・・・


 えっ、マジか。


 その正体はレベル30の烏天狗。

 既に茜のテイム状態となっているこの魔物はレベル10の神通力を操り、錫杖術にも長けている。


「うわぁ、これはとっても強そうな魔物さんですねぇ。

 私ホントにテイマーズバトルで優勝しちゃうかもですよぉ」


 確かにこんな魔物テイムしてる奴なんかそうは居ないだろ。

 これに茜ちゃんの神楽舞による強化が加われば、確かにテイマーズバトル優勝も夢じゃない。


(是非我にお任せ下され、茜様。

 お望みとあらば死力を尽くして戦いましょう。カッカッカァ~)


 クッ・・・コイツ笑い方がカラスだぞ。

 まっ、それはそれとしてコイツの声が俺にまで聞こえてくるのは何故なんだ?


(我は元々神通力を使い思念で人との交信が可能。

 そこいらの魔物と同じ尺度で測られては困るぞ、小僧)


 うわっ、マジで高スペックじゃん、このカラス・・・


(カァ~、どうやら驚いておるようだな。

 がしかし儂は茜様の用心棒、貴様に何の恨みも無いが主の唇を奪おうとする輩には容赦はせん。   

 今後はそれをよく肝に銘じておくことだ)


 えっ、う~む、確かここの売店には縁結びのお守りも置いてあったはずなんだが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○西平安名岬ダンジョン攻略 その1○


 かおるがテイムするゴールデンイーグルは全部が全部変態親父的性格の持ち主。

 これが呪いによるものかはさておき、いい加減うんざりした彼女は富士ダンジョンでゴールデンイーグルをテイムすることに見切りを付け西平安名岬ダンジョンへ移動。

 ここでの攻略がてら、新たなテイムモンスター候補を探すことにした。


 さて、その西平安名岬ダンジョンは10階層からなり、その全階層共通の特徴として挙げられるのが何処を取っても見渡す限り人の背丈を超える程の雑草が生い茂る草原フロアであること。

 これは単純に進み辛いだけでなく、草原に潜む魔物の存在を視認し辛い。

 またその草原に吹く風はかなり強く裸眼では目を開けているのも一苦労といった具合。

 空中遊泳スキル程度の飛行力では上空を移動するのもそう簡単ではないだろう。


「うわぁ、凄い風ですね、かおるさん」


「それより円、魔物の反応が近づいて来てるわ。

 貴女のシャドーボクシングもこの視界の悪さじゃうまく使えないだろうし、ここは一旦入口通路に退避しましょ」


 このままじゃ私の弓もまるで役に立ちそうにないし。


 戦闘時においても常にこのフィールド状況が不利に働いてしまう点が西平安名岬ダンジョンをBランクにまで押し上げている一つの要因でもあった。


「そうは言ってもきっと状況は変わりませんよ、かおるさん。

 シャドーボクシングやキャットクイーンを使わずとも私が1階層の魔物程度なんとかしてみせます。

 行きますよ、小太郎」


「わかったにゃ」


 二人は軽く握った拳を振り上げ猫拳ポーズを取る。


 ガサ、バサバサッ、クエェ~!


 草むらから飛び出してきたブラックヤンバルンなる鳥型の魔物に円が激おこ猫パンチを合わせると魔物はそのまま霧散する。

 その瞬間、彼女の背後から飛び出してきたブラックヤンバルンには小太郎の激おこ猫キックが決まっていた。


 へぇ、良いコンビネーション、円達も結構やるようになったわね。


 程無くスタート付近の魔物退治は無事終了。

 二人は樹の精霊ドリアードが雑草を操り作ったアーチ状の道を歩いていく。


「円はいいわねぇ、私も小太郎君みたいなテイムモンスターが見つかれば最高なんだけど」


「そんなこと言ってかおるさんにはドリちゃんが居るじゃないですか」


「まあそうなんだけど、精霊もテイムはできないってこの間水島さんが言ってたし」


「へぇ、そうなんですかぁ」


 この世界で魔物と言えばダンジョンに巣食う敵対生物全般を指したりもするが、鑑定や解析の種族的なカテゴリでみるとドリアードの様な精霊は魔物ではなく精霊と表示される。

 ではその違いは何か?と問われれば侵入者に対し敵対、排除するという本能に支配されているかに尽きる。

 勿論サラマンダ―などの様なダンジョンで出会えば往々にして人を襲ってくる精霊もいるがこれは単に粗暴な性格が災いしているだけの話。

 テイムのメカニズムというのはこの魔物の本能を希薄にし友好な使役関係を構築するといったものであり、元々この本能を持たないドリアードやダンジョン外の愛玩動物である小太郎をテイム状態にすることはできないのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○茜のテイムモンスター その5○


 再び清川に舞い戻った賢斗達。

 賢斗は自分の右腕に嵌められた青い腕輪を眺めていた。


「へぇ、スラ坊、こんなこともできるようになったんだ」


 これなら見た目上アクセサリーそのものだし一切邪魔にならない。


(はい、これなら常にマスターと一緒に旅が出来ます)


 ふっ、旅か、まっ、大部屋から出なかったコイツからしたらそんな感じなのかもな。

 つってもダンジョンの外に出る時にはやっぱ外しておいた方が無難かな?

 ・・・バレて罰金じゃ洒落にならんし、うんうん。


 一方茜の右肩には再び白カラスに戻った烏天狗が乗っている。


「そういや茜ちゃん、もうテイムモンスターも手に入ったことだし別にここの攻略にこれ以上付き合うことないよ?」


「そんなつれない事言ったら嫌ですぅ。

 今回の茜は最後まで勇者さまにご一緒しますよぉ。えいっ」


 御ふざけ感を出しつつ茜が賢斗の腕に飛び付こうとした瞬間、ガシャン、彼女の身体を錫杖が制止する。


(これは危ない、茜様。

 お足元にお気を付けください)


 変わり身速っ!

 にしても実際とんでもねぇな、コイツ。


 先程から茜の放つラッキーハプニングは完封され続けていた。


 全く隙がねぇし、真面に俺がさしでやっても勝てるかどうか・・・

 う~む、よしっ。


 賢斗が転移で茜の背後に姿を現した途端・・・

 ドコォッ!錫杖の突きが腹部に放たれていた。


 ぐほっ!ひゅ~ん、ドゴォォォッ!

 そのまま飛ばされた賢斗は横壁に激突。


「勇者さまぁっ!」


「ぐはっ、痛ってぇ~、いや、大丈夫大丈夫、ハハ」


 賢斗は腹部を抑えながら直ぐに立ち上がる。


(小僧、容赦はせんと言っておいただろう。

 今後は妙な考えを起こさぬことだ)


 こりゃ随分茜ちゃんとのファーストキスが遠退いちまったな。

 でもまあ・・・ニヤリ


「やっぱ強ぇなぁ、烏天狗。

 今度俺の特訓相手になってくれよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○盛岡ダンジョン攻略 その2○


 正午、紅炎の変化杖を利用して飛ぶ桜の飛行能力は飛躍的に上昇。

 賢斗程ではないが、ワンフロア50km四方の盛岡ダンジョンの攻略は破竹の勢いで進み、早くも5階層のボスポイントまで辿り着いていた。


 岩山に亀裂が入った下層への通路。

 口から牙が生え指先には鋭い爪に虎皮の腰布。

 細かく縮れた頭髪から角が2本生えた魔物はレベル18の赤大鬼、1本角の魔物はレベル17の青大鬼。

 2体の魔物が地に突起のある大きな金棒を突き立て桜を凝視していた。


 再び上空へと飛び上がった桜はその魔物に袋に入った豆菓子を投げてみる。


 えいっ、パラパラパラ・・・

 あれれ~、鬼は豆に弱いって言ってたのにぃ~。


(主君よ、その程度の攻撃で魔物を倒す事はできませぬ)


「いや~だってさぁ~、じゃあ五右衛門さん、あの2体の鬼さんまだピンピンしてるけど一人で倒せるぅ~?」


 ちなみにテイムモンスターとの交信はセーフティールーム内に居ても可能である。


(はっ、御命令とあらば)


 地上に下り立ち、スケルトン武者を出現させた桜はそのまま豆菓子を食べながら傍観する。


 賢斗はすっごい強いって言ってたけどホントかなぁ~。モグモグ


 骸骨武者は背負った長刀に手を掛けながら2体の魔物へと詰め寄って行く。

 その足を止めると中腰に構え鞘に収めたままの長刀を突き出し右手を柄にかざした。


 瞬間、金棒を振り上げ襲い掛かってくる2体の大鬼。


(許せ、嘗て同胞であった者達よ。

 今の拙者には代えがたき主君ができてしまったのでな)


 シュパーン、横薙ぎの刃は勝負を一瞬で決めた。


「うぉ~すっごぉ~い!

 五右衛門さん、このお豆さん食べるぅ~?」


(ニヤッ、頂くとしよう、モグモグ

 主君よ、拙者チョッポの方が好きでござる)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川ダンジョン攻略 その1○


 はてさて、ようやく清川4階層を目指す賢斗と茜。

 早速ドリリンガーに乗り込み地中に潜り始めたのだが・・・


 ゴガガガガガ・・・キーン


 それはほんの5m程掘り進んだところで硬い金属の壁にぶち当たった。

 ドリリンガーであればその硬い壁を突き破ることも可能だったのだが・・・


 ピコーン、ピコーン・・・


 えっ、何これ?

 ん、あっ、そういうことかっ!


 俺の推測が正しければこの大部屋の内壁はあの岩の壁なんかじゃない。


 賢斗はドリリンガーを方向転換、金属の壁に沿って掘り進めていく。


 あの壁や天井、床、それらは全てミスリード。


 ゴガガガガ、ガラガラ・・・


 大部屋を取り囲む様に存在するこの金属の層こそが本当のこの部屋の壁だ。


 ・・・あった。

 ふっ、こんなのドリリンガーじゃなきゃ、見つけられねぇだろ。


 口を開ける横へと延びる通路。

 そのままドリリンガーで50m程進んでいくと・・・


「うわぁ♪」


 一気に視界が開けた。


 これが本当の姿・・・


 白い靄の掛かるひんやりとした空気の中、もみの木の様な円錐型の木々の向こうからは心地よい川のせせらぎが聞こえてくる。

 高い山々に囲まれたその中心には霧に水面を覆われ、何とも幻想的な雰囲気を持つ湖が見えていた。


 清川はフィールド型ダンジョンだ。

 次回、第百六十四話 レベル11の解析力。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です 鞍馬の山で牛若丸に剣術を教えたとされる烏天狗 稽古つけて貰えば賢斗のいい師匠になりそうですねw [気になる点] 烏天狗のインターセプトだけど 茜ちゃん自ら狙ってフラグ立…
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