第百六十一話 アクアマリンスライム
○アクアマリンスライム その1○
奇妙なスライムとの再会。
「するとお前はあの時俺がテイムしたスライムだって事なのか?」
改めて掌の上のスライムを見つめていると確かに何かが繋がっている様な感覚があった。
(そうです、僕のマスターはこの世でマスターだけです。)
う~む、まさかこんな変わり果てた姿で生き延びていたとは・・・
普段魔物の討伐を生業としているテイマー兼探索者達にとってはテイムモンスターに対し道具以上の特別な感情等というものは芽生え難い。
しかしこの奇跡の再開は賢斗にそれ以上のモノを既に感じさせ始めていた。
にしてもどうすっかなぁ。
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名前:アクアマリンスライム
種族:魔物 (テイム)
レベル:1(12%)
HP 7/7
SM 6/6
MP 10/10
STR : 7
VIT : 8
INT : 5
MND : 5
AGI : 1
DEX : 4
LUK : 12
CHA : 18
【ジョブ】
『海に愛されし者LV1(0%)』
【スキル】
『物理耐性LV3(3%)』
『分裂合体LV1(1%)』
『エアライズLV1(1%)』
【強属性】
全水系属性
【弱属性】
なし
【ドロップ】
『アクアマリン(ドロップ率50.0%)』
【レアドロップ】
『海魔法のスキルスクロール(ドロップ率0.0001%)』
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このツッコミどころ満載のステータスからしてどう考えてもコイツはこの研究所の実験対象だった筈。
しかも俺はここの魔物を全て討伐する様仰せつかっている訳だし、こっそり連れ帰るのは何かと問題がある様な・・・
(大丈夫だよ、マスター。
僕はもうここでは死んだ事になってるし、この姿の僕をここの人達誰も知らないから。)
へっ、そなの?
そういや俺も最初コイツが魔物である事にすら気づかなかった。
がしかしだからと言って・・・う~む、よし、ここは一つあの隊長さんに聞いてみるか。
外に出た賢斗は早速大黒に完了報告。
それと同時にこのスライムの話を持ち出してみると・・・
「何だ?その妙ちくりんなスライムを連れて帰りたいだと?」
コクコク、う~ん、やっぱダメかな・・・
法律上放置していたテイムモンスターを他者に捕獲されてしまった場合テイマーはそれに対する権利を主張出来たりはしない。
この場合も普通に考えれば賢斗が勝手にこのスライムを持ち去る事は違法行為である。
「まっ、一応満足のいく結果を出してくれた事だしそんな取るに足らねぇスライムの1匹やそこらご褒美をくれてやっても構わねぇか。」
ともあれ今回に限っては研究所側がDDSFに魔物の鎮圧を要請した時点で施設内の魔物に対する権利は全て放棄したものとされている。
そして今現在この施設内の魔物の処遇に関し全権を握るのはDDSFの隊長を務める大黒。
彼が許可を与えるのであればこのスライムお持ち帰り事案に何の問題も生じないと言えた。
おや、意外とすんなり。
(良かったな、スラ坊。)
(うん♪)
ふっ、こいつとなら上手くやって行けそうだ。
しかしこの時レベル1のスライムが国際基準SSSランク探索者の目までも欺いている事に誰一人として気付きはしなかった。
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○アクアマリンスライム その2○
DDSFの現場検証の後はクレイジーバットによる空の旅を満喫。
そんな賢斗が拠点部屋に直接帰還してみると、女性陣の姿はまだそこには無く彼はしばらく待つことに。
そして10分程して部屋の扉が開くと彼女達は一斉に口を開いた。
「何それ、賢斗ぉ~?」
「ちょっと賢斗君、岩の塊なんかをこの部屋に持ち込まないでよ。」
「そういうご趣味があおりでしたか?賢斗さん。」
ふっ、やっぱこいつ等にもスラ坊のフレキシブル認識阻害は破れねぇみたいだな。
「いやまあ待てって。
今からちょっとした手品を見せてやろうと思ってな。
ワン、ツー、スリー、パチンッ」
賢斗が指を鳴らすとあら不思議。
先程までテーブルの上に乗っていた岩の塊は押し潰されたティアドロップ型、まるで淡い水色の輝きを放つ大きな宝石に。
「うぉ~すっごぉ~い♪」
「だろぉ?」
「ホント不思議です、少しも触れていないのに。」
「ちょっと賢斗君、早く種を教えなさいよ。」
ったく、せっかちだなぁ。
まっ、こいつ等に隠す必要も無いけど。
賢斗がそれを手に取ると・・・ブヨブヨ
「うっ、動いた。」
「・・・とまあ実はコイツは以前皆と一緒に俺がテイムしたブルースライムでさ、どうやらあそこの研究所の実験体にされてたみたいなんだ。
そして姿形がすっかり変わっちまってるのも然る事ながら何とこいつは・・・
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『海に愛されし者LV1(0%)』
ランク :SR
ジョブ効果 :海上海中エリアでは全ステータス10%上昇。
【関連スキル】
『海魔法LV3(23%)』
『アクアマリンLV1(23%)』
【スペシャルスキル】
『海のお守り』
種類 :セミパッシブ
効果 :フレキシブル認識阻害。全ての状態異常防御。
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こんなSRジョブまで持ってる。
さっきやったマジックの種はこの海のお守りというスペシャルスキルのフレキシブル認識阻害の効果って訳。」
ちなみにこのセミパッシブという発動形態は通常常時発動型で任意解除できる形式である。
「ちょっと何よそれ、賢斗君だけ狡いわよ。」
フッ、先輩の悪態も今は心地よい。
レベル1にしてジョブ持ち個体。
まだ良く分からん海魔法だけ取ってみてもこいつのポテンシャルの高さは折り紙つきだ。
「まっ、でも諦めて下さい、先輩。
仮にコイツのテイムを俺が解除したとしても先輩が俺に代わってテイムする事は無理でしょうから。」
「えっ、何でよ?」
「こいつの海のお守りには全状態異常防御の効果もあります。
魔物にとってテイムは状態異常と変わりませんし今のコイツに改めてテイムをしても失敗に終わると思いますから。」
「あ~ん、私も勇者さまと一緒の魔物がテイムしたかったですぅ。」
う~ん、まっ、ジョブ持ち個体じゃないアクアマリンスライムならテイムは可能かもしれんが・・・
「それはきっと無理ですよ、緑山さん。
アクアマリンスライムなんて魔物、折角10万円も出して購入したこの世界ダンジョンモンスター図鑑にも載っていませんし。
まあ超希少種であるジュエル系スライムの一種だとは思いますけど。」
おぅ、何時の間に・・・
まっ、それはそれとしてそんなお高い図鑑にも載ってないとなると、諸々の経緯からしてスラ坊は何処のダンジョンにも出現しない魔物の可能性すら出て来たな。
後でそれ俺にも貸して下さい、水島さん。
そんなひと悶着が終わると・・・
「何か可愛いねぇ~、そのスライムぅ~。」
「はい、普通のスライムはアメーバみたいで気持ち悪いですがこの子はとても綺麗で可愛いです。」
「うんうん、何か弾力があってヒンヤリしてるし、お熱が出た時おしぼり要らずね。ツンツン」
少女達の心をすっかり魅了。
「おっ、お前、おいらのポジションを脅かすんじゃないにゃ。」
(ぼっ、僕悪いスライムじゃないよぉ~。ブルブル)
賢斗以外とは言語を介した意思疎通を図れる訳では無いが、スライムはその身を震わせ感情を見事に表現していた。
ふっ、一躍人気者ってとこだな。
「賢斗ぉ、名前は決めたのぉ~?」
「いや俺はもうスラ坊って呼んでるし特に改めて名前を付けるつもりは無いよ。
桜はあのスケルトン武者に別の名前をつけたのか?」
「うん、五右衛門さん。」
・・・まっ、分身さん1号よりはマシか。
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○8月に向けた準備期間○
さて予定されていたスケジュールが終わると7月も残すところあと3日。
ナイスキャッチのSランク昇格に伴う国内全てのダンジョン解禁やテイマーズバトル大会、はたまた清川ダンジョン購入等を控え、ギルドクローバーとしてはそれに向けた準備を加速させていく事に。
朝のギルド活動では新たに空間魔法を取得したギルドの面々がそのレべリングに精を出す中、円も遅ればせながら空間魔法を取得。
そんな彼女曰く・・・
「賢斗さん、今後は気が付いたら私が背中におぶさっている・・・
なんて事も十分考えられるのでご注意下さい。ドヤッ」
それは犯行予告と受け取れば良いのか?
また賢斗がテイムしたアクアマリンスライムならばとかおるが魔物とのスキル共有検証を実施。
結果スキル共有自体は見事な成功を納めていたのだが・・・
「よぉ~し、いっくわよぉ~、かおるちゃん、ぶんれぇ~つっ!ビシッ
・・・あれっ、おっかしいわね。」
・・・ポーズまで決めてノリノリだったのが酷く痛々しさを感じさせるな。
この後3日に渡る検証で物理耐性は問題無く発動したのだが、分裂合体の様な種族固有スキルの類は発動しない事が判明していた。
一方アクアマリンスライムの海に愛されし者の取り扱いダンジョンを茜のジョブ診断で調べて貰うとその結果は不明。
無しではなく不明とされた意味を彼女に訊ねると・・・
「それはまだそれを取り扱うダンジョンが誰にも発見されていなかったり若しくは元々魔物固有のジョブで魔物以外には取得出来ない場合が不明って事だそうですよぉ、勇者さま。」
ちなみに彼女のキュンキュン通信によればダンジョンで生み出される魔物のジョブ取得方法は条件を満たせば勝手に付与されるシステムであり、これはスキルに於いても同様との事。
テイムモンスターの育成に於いては実に有益な情報にも思えたのだが・・・
意外と俺達にとっては残念な情報かもな。
スキルの取得方法がここまで異なっているのであれば恐らくスラ坊にドキドキ星人を共有させてスキルをバンバン取得させる作戦は無理。
再びかおるの協力の下検証を実施してみたのだが、案の定結果はこの彼の推測を裏付けるものとなっていた。
そんな朝の活動以外のところでは新たな転移ポイント確立の為選抜メンバーが全国各地のダンジョンへ。
「ちょっと光さん、西平安名岬ダンジョンの下見が日帰りってどういう事ですか?」
「だって沖縄県宮古島といっても帰りは転移で帰って来れるんですから日帰りも十分可能ですよぉ。」
まっ、羽田から直行便が出てるんだからそこまでの移動時間を考えてもイケるわな。
「私はそういう事が言いたいんじゃないんですぅ。
これじゃあちっとも・・・ゴニョゴニョゴニョ」
おい、不満があるならハッキリ言え。
「それじゃあ私お姉ちゃんと冷麺食べて来るぅ~。」
いや先生、そこは表向きだけでも盛岡ダンジョンの下見に行くと言ってくれ。
そうこうするうちに3日という時間はあっという間に過ぎて行った。
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○Sランク昇格式典○
8月1日木曜日午前11時。
クローバー執務室では溜まった仕事の処理に追われる中川の姿。
そんな部屋のテレビには賢斗達が出席しているSランク昇格式典の模様が映し出されていた。
『いや~実に8年振りのSランク探索者パーティーの誕生。
しかもそれが高校生探索者パーティーとは驚きと共に新たな時代の到来を感じざるを得ません。
それではご登壇頂きましょう。
ナイスキャッチの皆さん、どうぞこちらにお上がり下さい。ワァーパチパチ~』
トゥルルルル・・・
「はい、ダンジョンショップクローバーです。
あっ、三角さん。」
その電話は清川ダンジョンの落札成功を知らせるモノであった。
「・・・そう、やっぱり森下探索者カンパニーは入札を取り下げていたのね。
・・・ええ、うちとしては良かったけど、それを素直に喜んじゃちょっと不謹慎ね。
・・・ええ、分かったわ、どうも有り難う三角さん、はい、じゃあ後程。」
まさか最低落札額で清川が手に入るなんて、これなら直ぐにでもダンジョン前の土地購入にも動けそうね。
『ではお一人づつ今回Sランクに昇格した感想を聞かせて頂いて良いですか?』
『超嬉しぃ~、皆ありがとねぇ~♪』
『はい、私達は最高の果報者です。』
『とても光栄であると同時にまだまだ未熟な私達がSランクに昇格なんて少し恐れ多いなというのが正直な感想です。
ですがこうして認めて頂いた以上、Sランクの名に恥じない様精一杯精進していくつもりでおりますので、これからも温かい目で応援して頂けたらと思います。』
『Sランクに成る事は僕の小さい頃からの夢でした。
それがこんなにも早く実現でき今とても幸せな気分でごじゃりま・・・あっ。』
ああん、惜しい。
次回、第百六十二話 それぞれの攻略。




