第十六話 探索者委員会
○魔法スキル自慢○
4月15日月曜日午前6時、白山ダンジョン1階層入り口通路。
大岩ポイントへと向かう道すがら、賢斗は昨夜空間魔法を取得した事を同じパーティーメンバーである少女二人に明かしていた。
「・・・という訳で、空間魔法なんつー凄い魔法スキルを習熟取得できたんですよ。」
魔法スキルが習熟取得出来るなんて世間が知ったら大騒ぎ間違い無し。
俺的に最重要極秘事項となるのだが、この2人なら信頼できるし同じパーティーメンバーとして情報共有しておくべきでしょう。
単に自慢したかっただけではありませんよぉ♪ホントホント。
「お~、すっごいねぇ~賢斗ぉ~。
私もその睡眠習熟をやってみた~い。」
「そうねぇ、魔法スキルが習熟取得出来るなんて凄い事よ。
もし本当なら私も試してみたいわ。」
そうでしょうそうでしょう。
とはいえ色々条件もありまして・・・
「右ルートの宝箱は午後10時まで開封状態の筈だから、今日のところは無理じゃないかな。
明日の朝、運が良ければ大丈夫かもだけど。」
流石に夜10時の外出はこの美少女二人には厳しかろう。
「じゃあ明日の朝だねぇ~。」
「まあ明日がダメでも、その次もあるしね。」
会話を弾ませ歩いていると程無く大岩ポイントに辿り着く。
そこで賢斗は早速短距離転移の初お披露目をしてやる事に。
「それじゃあいくぞぉ。」
パッ
「あっ、ホントに消えた~。」
賢斗の身体は一瞬にして桜の後に移動していた。
「凄いわねぇ、賢斗君。
そんなスキルがあれば、モンチャレ出ても良い線いくかもよ。」
ほう、俺も今初めて使ったがどうやらこの魔法は目視範囲を任意で転移できる魔法っぽいな。
「いやいや、先輩。
そんなの出たら探索者に成り立ての俺が転移石を持ってるみたいに勘違いされちゃいますって。
妙な輩に絡まれるだけだろうし、勘弁して下さい。」
そして消費MPは3、今の俺が1度に使えるのは現状2回までってところか。
「う~ん、まっ、それもそうか。
なぁ~んか勿体ないけど。」
さて、名残惜しいが魔法スキル自慢もここまで。
「まあ先輩、時間も無いんでそろそろいつものお願いします。」
学校もあるしさっさとハイテンションタイムを始めますか。
「あっ、うん、分かったわ。」
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○隠蔽スキル○
勝手に他人のステータスを鑑定してはいけない。
世間的にもそんな鑑定モラルは確かに存在している。
しかし現実的な鑑定秩序を鑑みれば、中川の様に法的義務をもったプロ達も居れば、野放しのアマチュアも数多い。
勝手に他人を鑑定し、その情報を販売までしてしまう業者が摘発されたなんてニュースが流れたりする昨今。
その自己防衛手段として真っ先に上げられるのが今回彼が取得を目指す隠蔽スキルである。
さて、早速始めてみるか。
俺が他人に解析を使う場合、そのアクセス先は相手の頭部であり脳内の記憶領域。
隠蔽スキルを習熟したいのであれば、このアクセスを遮断する障壁をイメージ構築すればイケる筈。
そのイメージは加速し、まるで星の瞬きの様な速さで繰り返されていく・・・
『ピロリン。スキル『隠蔽』を獲得しました。』
ドッドッドクドク、ドクン、ドクン、ドックン、ドックン。
ふぅ~、空間魔法の難易度が高かっただけに、ちょっと簡単に感じてしまうな。
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『隠蔽LV1(0%)』
種類 :パッシブ
効果 :自己のステータス情報を隠蔽する能力。隠蔽強度はスキルレベルに依存する。
~~~~~~~~~~~~~~
ふ~ん、隠蔽強度とかあるのかぁ・・・
これじゃスキルレベルが上がるまで、まだまだ安心出来そうにないな。
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名前:多田賢斗 16歳(168cm 56㎏ C88 W78 H86)
種族:人間
レベル:3(32%)
HP 12/12
SM 9/10
MP 3/6
STR : 9
VIT : 6
INT : 10
MND : 16
AGI : 11
DEX : 8
LUK : 5
CHA : 8
【スキル】
『ドキドキ星人LV10(-%)』
『ダッシュLV10(-%)』
『パーフェクトマッピングLV9(32%)』
『潜伏LV7(26%)』
『視覚強化LV8(82%)』
『解析LV10(-%)』
『聴覚強化LV7(37%)』
『念話LV3(41%)』
『ウィークポイントLV1(8%)』
『短剣LV1(44%)』
『忍び足LV1(42%)』
『空間魔法LV1(12%)』
『隠蔽LV1(0%)』
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ほほう、自分の解析は隠蔽状態でも出来ると・・・いや障壁の内側から解析してる様なもんだし当たり前か。
あとは表示を改変するような特技とかあったら怪しまれずに済むだろうし完璧なんだけど。
まっ、そっちはレベルアップ待ちだな。
「賢斗ぉ~、もう行くよぉ~。」
「おう、分かった。」
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○勇者君現る○
学校の昼休憩中、賢斗はいつもの菓子パンとコーヒー牛乳で昼食を取りつつ、探索者マガジンをパラパラめくる。
週刊探索者マガジン本日発売、300円。
・・・思わず今朝買って来てしまった。
『スクープ!勇者君現る。~恩恵取得で限界突破を取得した期待の高校生~』
限界突破を取得すると、こんな騒ぎになるのかぁ。
勇者君ねぇ~。
うちの桜の方が全然凄そうだけど。
でもこいつ自分が限界突破を取得した事よく公開したな。
俺の時と違って個人名までしっかり載っちゃってるし。
でもまあよくよく考えれば、短時間ステータスが2倍になるだけで他人にとっては左程魅力を感じない。
別に目立ちたがりの奴なら誇らしいだけで公開しても気にならないか。
にしても・・・高橋義則ってどっかで、まっ、いいか。
パラパラ
『今週のスキル紹介~あなたも猫語スキルで大好きな猫ちゃんとお話しよう!~』
女性探索者に大人気・・・フムフムなるほど。
習熟方法も簡単みたいだしこれなら直ぐ取得できそうだ・・・まっ、取る気ないけど。
パラパラ
『浮遊島ダンジョン到来!~今秋、日本領海上空を30年ぶりに通過する可能性大~』
へぇ~、探索者対象の浮遊島ダンジョンツアー7月から予約開始か。
浮遊島ダンジョンとは書いて字の如く島そのものがダンジョン化している浮遊島の事。
今現在この世界では大小15の浮遊島ダンジョンが確認され、海抜12000mの上空をゆっくり移動し続けている。
一方この浮遊島ダンジョンへの入場は相応ランクの探索者資格を持っている事は勿論、国際ライセンスとして認められるSランク探索者は別として自国の領海内に滞在している間に限られる。
また交通宿泊費だけでも馬鹿にならないこの浮遊島ダンジョン探索はある種探索者達のステータスシンボルとなっていたり。
ふ~ん、Bランクの人が引率してくれるみたいだし、探索者に成ったからには一度くらい・・・
って、参加費300万円もすんのかよっ。
30年ぶりとか言われようが、貧乏人には無理な話だな、うん。
といつもと変わらぬ昼休憩をのんびり過ごしていると、突然教壇に立った男子生徒が声を上げた。
「ちょっとみんな聞いてくれ。
僕はこの間の探索者資格試験を受け見事合格、そして恩恵取得したスキルは何とあの勇者シリーズの限界突破だ。
これからパーティーメンバーを募集するつもりだから、興味のある人が居たら是非声を掛けて欲しい。」
あっ、勇者君だ。
その後、年齢制限のある国家資格を高一のこの時期に取得し、かつ、レアスキルまで取得した彼の元には何人かのクラスメイトが集まっていた。
入学早々資格を取った奴がこのクラスに俺の他にも居たとはなぁ。
しかも人が羨む大層なレアスキルまで。
にしてもこの間の資格試験日っつったら8日前かぁ。
あいつこんな宣言するまでの1週間、このクラスの人間の品定めでもしてたのか?
・・・いやまあ俺もクラスメイトとパーティーを組むとするならそのくらいの事はするか。
「賢斗っち~、俺を賢斗っちのパーティーに入れてくれっしょー。」
「嫌だよ、お前先輩目当てで言ってるだろ。そういう奴は要らん。」
「そりゃないっしょ―。
この学校のマドンナを一人占めしてると数多の男子の反感を買ってしまうっしょ~?」
「一人占めってなぁ、うちのメンバー3人だし別にお付き合いを始めた訳でもないだろぉ?
そんなにパーティー組みたいのなら、あいつのとこに行ったらいいじゃねぇか。」
賢斗は視線で高橋の方を促す。
「あいつはダメっしょー。
あからさまにクラスの女子を狙ってメンバー募集しやがって・・・」
ん、そういや女生徒ばかりに囲まれているな。
賢斗がモリショーに詳しく聞けば、高橋は集った男子に「悪いね、勇者パーティーのメンバーは勇者以外全員可愛い女子って決まってるんだ。」とお断りを入れたそうである。
えっ、そんな決まりが?
いやいや勇者パーティーつかそれハーレムパーティーだよな。
そして普通の男子ならここで非難の言葉を浴びせるべきところと当然心得ている訳だが、それは今の俺的にどうだろう。
う~ん、ど~も奴を非難する資格が今の俺には無い様な気がする。
「だったらモリショー、お前もクラスの女子を誘えばいいじゃないか?
パーティーメンバーの募集なんて基本自由なんだし。」
・・・取り敢えず勇者君の味方をしておこう、うんうん。
「そりゃそうだけど俺も今週末の試験を受けるつもりっしょー。
時期的に丸かぶりだしこのままじゃ俺が試験に受かっても探索者に興味のある女子は皆あいつに取られちまってるっしょ~?」
「うん、まあ確かにタイミング的には最悪だし君が可哀相な奴なのは認めよう。
しかし女子とパーティー組めない奴なんて世の中大勢居るだろぉ?」
テキトーにモリショーをあしらい何気に視線を移せば、微かに鼻で笑った仕草で目を逸らす高橋。
なぁ~んかホントに性格悪そ、良く知らんけど。
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○嫌な予感 その1○
キーンコーンカーンコーン
最後の授業終了を告げる鐘の音が響く中、今日もダンジョンへと向かう予定の賢斗が忙しなく帰る準備を始めると突然かおるから念話が入る。
(賢斗君、今日の白山ダンジョンなんだけど私行けなくなちゃた。ゴメンね。)
(あっ、そっすか、まっ、用事がある時はそっち優先って決めてあるし別に全然良いですけど、何かあったんすか?)
(ああ、うん、昨日白山ダンジョンで岩下君が怪我して入院したらしいのよ。
放課後スキル研究部の皆でお見舞いに行く事になっちゃったから。)
あ~、あの2年の先輩か。
そういや朝のHRで、担任が2年生で怪我人が出たとか言ってた様な。
(それは大変っすね。
じゃあ桜の方には俺から連絡入れときます。)
(うん。お願いね。)
にしても怪我で入院とか・・・身近にそういう人が出ちゃうと、探索者は危険ってのを痛感するなぁ。
(桜ぁ、今大丈夫かぁ?)
(あっ、賢斗ぉ~、なにぃ~?)
(今日の探索、先輩に急用が出来ちまってお休みになったぞ。)
(ふ~ん、そっかぁ~。
それじゃ仕方ないねぇ~、明日はだいじょぶぅ~?)
(まあ友人のお見舞いに行く様な話だったから、きっと大丈夫なんじゃないか?)
(りょうか~い。)
ふぅ、これで良し。
さて、一気に暇になっちまったが家事も溜まってる事だし帰るとするか。
「多田君、ちょっと話聞いて貰って良いかな?」
念話を終えた賢斗に声を掛けて来たのは、その真面目そうな面立ちと可愛いルックスがクラス委員決めの投票で圧倒的男子票を集めた白川日向。
このクラスであまり他の生徒に興味を示さない賢斗であっても既に彼女の名前くらいは頭に入っている。
う~ん、話した事も無い俺に委員長様が一体何の御用ですかね?
「恩恵取得って、探索者資格のない女の子でも安全に取得できたりするものなのかな?」
困った表情で賢斗に問い掛ける白川。
あ~、探索者関連の質問だったか・・・
俺が探索者資格を取ってる事は、モリショー経由でもう結構知られちまってるみたいだなぁ。
「まあプロ探索者がその場の安全確認をしている分には危険はないと思うけど。」
要領を得ない返答に彼女は質問を繰り返す。
「あっ、えっと高橋君が恩恵取得させてやるって言ってクラスメイトを白山ダンジョンに連れて行っちゃったんだけど・・・それって大丈夫なのかな?」
あ~、そゆこと。
まあ目的がそれなら奥まで行く必要なんて無いし、一人くらいなら大丈夫かも。
「それって何人くらい連れてったの?」
「えっと、3人。
恩恵取得したスキルでパーティーメンバーを選ぶんだって。」
3人か・・・それだと結構危ない気もしてきたなぁ。
1人くらいなら恩恵取得する場所は通路で事足りるだろうし、奥に進んだりする必要も無い筈だけど、3人同時となると場所を求めて第1ポイント辺りまで行きかねない。
あっ、でも勇者君意外と白山ダンジョンに慣れっこだったり?
一度も出くわした事無いけど。
「高橋の奴は良く白山ダンジョン行くのかな?」
「あっ、いや、彼も試験日以降ダンジョン入るのは今日が初めてって言ってたらしいけど・・・」
う~ん、聞けば聞く程不安要素盛り沢山だな。
つまり勇者君は限界突破スキルを持った超初心者って事だろぉ?
限界突破は確かに凄いが時間的制約もあるし、その辺の事を奴がどの程度理解しているか、解析が無かった時は俺も手探り状態だったしなぁ。
こと今回の話的には索敵スキルでもあった方がよっぽど役に立つ。
まっ、怪我人出なきゃいいけど。
「うん、それだと結構大丈夫じゃないかも。」
「どうしよう、多田君。」
いや、それを俺に言われましても・・・
「担任に言ってみれば?」
「えっ、でも今朝担任にあんなこと言われたばっかだよぉ?」
今朝のHRでは先程かおるの念話にもあった二年の生徒が怪我をしたと言う話がなされていた。
ああ確かにタイミング的に言い辛いわな。
「でもクラス委員長としてはそんな事言ってられないでしょ。」
「う、うん、やっぱりそうよね。」
そう言うと白川は困った表情のまま教室を出て行った。
担任から探索者協会に連絡を入れれば捜索隊を出動して貰えるだろう。
・・・5万円掛かるけどな。
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○嫌な予感 その2○
下校途中のスーパーで食材を購入した賢斗は自宅アパートで夕食の準備。
いや~、ダンジョンに行く予定が無くなった日くらい自炊しないとなぁ。
最近金も無いのにコンビニ弁当ばっか食ってたし。
と程無く出来上がった夕食を食べていると・・・
うん、まあ上出来、これで2日は大丈夫。
(賢斗君、今大丈夫?)
(えっ、あ、はい、先輩ですか?
大丈夫ですよ。今カレー食べてるだけですから。)
(ふふっ、私は夕食まだだからそれ以上は言わないで、ってそうじゃなかった。
今ねぇ、岩下君のお見舞いから帰ってきたとこなんだけど、病院で細川先生にすれ違ったわよ。
何か凄く慌てた様子だったし、細川先生って賢斗君のクラス担任よね?
君が何か知ってるかと思って。)
えっ、うちの担任が病院に?
う~ん、嫌な予感しかしないんですけど。
賢斗は高橋と女生徒3名の放課後の動向を説明した。
(それかなり危険だと思うわよ、賢斗君。
岩下君が怪我したのは2階層だったんだけど、その相手がワイルドウルフだったの。)
えっ、どういう事?
(つまり今、白山ダンジョンには特異個体が出現しているのよ。)
特異個体とは魔物の変異種でそのレベルは通常個体より総じて高く極めて危険度が増した魔物の事である。
そして忘れてはいけない特徴がもう一つ。
(特異個体って階層間も自由に移動しちゃうんですよね?)
(そうそう、だから今の白山ダンジョンは1階層だからって決して安心できないのよ。)
どんどん話が悪い方向へ行っちまってるなぁ。
つかもう情報を総合的に考えると、高橋達の誰かが特異個体のワイルドウルフにやられて怪我をしたって可能性が非常に高い。
(先輩、取り敢えず明日の朝のハイテンションタイムもお休みって事にしときますか。
そんな特異個体のワイルドウルフが居るダンジョン内で、睡眠習熟なんて危険過ぎますし。)
(うん、そうした方が良いわね。
悪いけどまた桜ちゃんへの連絡頼めるかしら。)
(了解です。)
にしても桜の奴かなり楽しみにしてたんだよなぁ、明日の睡眠習熟。
明日学校に行くのもなぁ~んか憂鬱だし。
(・・・つー訳だから桜、明日もダンジョン活動はお休みだからな。)
(え~~~、プンプンプンプン・・・)
なっ、何だ?この呪文の様なエンドレスプンプンは。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○探索者委員○
4月16日火曜日午前8時30分。
翌朝賢斗が学校に着くと教室内に昨日の4人の姿は無かった。
ヒソヒソと話す声が聞こえて来る中、席に着き待っていると臨時全校集会の開催を知らせる校内放送が流れた。
程無く全校生徒は体育館へ。
立て続けに起こった高校生のダンジョン事故、しかも同じ高校・・・チラッ
そりゃTVカメラも入ってくるわな。
校長の長い話を纏めれば、昨日白山ダンジョン1階層で生徒4人が特異個体のワイルドウルフに襲われ怪我をした。
幸い命に別状はないが、男子生徒は片腕を骨折、残りの女生徒三人は何れも軽傷ながら精神的に不安定になっているという事だった。
1時間にも及んだ全校集会を終え教室に戻ると今度は担任からの注意喚起の雨あられ。
あ~やっぱ今日休めばよかった。
入学して2週間、モリショーくらいとしか話もしていない俺には、他のクラスメイトが怪我したとか言われても興味すら湧かんし。
彼の頭の中はそんなところ。
ボーッと担任の話を聞き流していると不意に声が掛かった。
「・・・という訳で、白川さん、多田君、悪いけど探索者委員の仕事宜しくお願いします。」
はい?
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○お昼休み○
午前の授業がようやく終わると、菓子パン、コーヒー牛乳、探索者マガジンの3点セットを机上にご用意。
う~ん、周りの雰囲気が暗いと何時もより何か疲れますなぁ。
「よっこいせっと。」
えっ、何?
膝裏のスカートの裾を押えつつ前の席に座った彼女は、当たり前の様に自分の弁当を広げ始めた。
「どうしたの?委員長。」
「うん、お弁当食べながら、探索者委員の事を少しお話しようと思って。」
そんなお話する程力入れる必要あんのか?探索者委員。
「探索者委員の仕事なんて私に勤まるかどうか不安だし。」
にしても女子の弁当箱は小さいよなぁ、モグモグ
「昨日の事があって急に決まっちゃったけど、私は探索者資格も持って無いし。」
おっ、あのハンバーグは手作りか?
「じ~~~、ちょっと聞いてる?」
結構形が歪だし、自分で作ったんだろうか?
「うん。委員長って結構女子力高いね。」
「もう、やっぱり聞いてない。」
あれっ、「女子力高い」は女子が喜ぶパワーワードの一つだった筈。
「多田君も探索者委員なんだよ。」
あ~・・・はい。
「これからはクラスメイトの探索者資格取得希望者の面倒をみたり、探索者資格を取得した人の探索予定の確認と担任への報告、月1の探索者委員会への出席等々、一杯仕事が増えちゃうんだよ。」
おおっ、そうなのか・・・予想以上の面倒臭さだな。
とはいえ真面目な委員長と一緒であれば丸投げ大作戦が使えたり・・・
「多田君も他人事みたいな顔してちゃダメだよ。もう。」
無理っぽいな、う~ん、やっぱり俺って顔に出易いのかなぁ。
となると何処か他に逃げ道を探さなければ。
「何で俺が選ばれたの?」
「えっ、何、先生の話聞いてなかったの?
もうぉ、多田君はクラスで初めに探索者資格を取得したんだから、うちのクラスでは一番の経験者でしょ。他に誰が居るのよ。」
一番の経験者って、2週間やそこらは誤差の範囲だろ。
ここは俺より勇者君の方が適任・・・いや怪我した張本人は流石に不味いか、う~む。
「それより問題は私の方。
探索者の事なんて全く知らないし、どうしたらいいか困ってたのにぃ。」
確かにそんな委員が探索者についての知識ゼロでは、厳しい気もするし、しない気もする。
「でもまあ委員長は真面目だから何とかなるんじゃないかなぁ。
俺も微力ながら協力するらしいし。」
とはいえ人気投票みたいな選挙でクラス委員になっちまった委員長にあまり我儘言っちゃいけないくらいの感情は持ち合わせておりますよ。
「協力って、何でそんなに他人事感丸出しなのよ。
探索者委員の仕事は知識量から見ても多田君が上司で私が部下のサポート係でしょ。
だからクラスの皆の面倒を見る前に、先ずは部下である私に色々教えて育てて欲しいのっ。」
う~む、とても部下とは思えん態度だが?
「でもそんな事言ったって俺も十分初心者だぞ。
資格試験の勉強なんか委員長なら一人で全く問題ないだろうし、特に教える事なんて無いぞ?」
「うん、だからそういう事じゃなくって、私がお願いしたいのは現場体験。
今日の学校の帰りにでも1回多田君にダンジョンへ連れて行って貰おうかと思って。」
女子一人引率して白山ダンジョンに入る程度の話、今の賢斗にとっては別に大した事ではない。
しかし日中のスケジュールはパーティー活動で埋め尽くされ、そこに彼女を同伴させるのはもっての外。
それに加え、今の白山ダンジョンには特異個体という脅威も存在。
賢斗には彼女に耳触りのいい返事をしてやる事が出来なかった。
「どうしてもダメ?」
「ダメ。」
「ホントにダメ?」
「うん。」
「分かった。」
やっと諦めたか。
「また後でお願いしてみる事にする。」
次回、勇者になった日。




