第百五十九話 ボインミサイル一直線
○ボインミサイル一直線 その1○
ショックに打ちひしがれたかおるは床に両手をつき哀れそのもの。
そんな彼女を視界に収めながらも賢斗は容赦ない言葉を言い放つ。
「それじゃあ皆、やる事やったしさっさと宿に帰ろうぜ。」
ここで情けは禁物、この人の精神的ダメージが回復する前に宿に退避しなくては・・・
「でも賢斗ぉ、かおるちゃんがぁ~。」
・・・これはもう桜達にも事情を説明してやった方が良さそうだ。ゴニョゴニョ
「・・・つぅ訳で先輩は今一時的に大きく落ち込んでいるって訳だ。
しかし良いか?ここで先輩に情けを掛けるのは悪手そのもの。
事もあろうかこの人は男の俺にそのボインミサイル何つぅとんでもおっぱい系スキルを取得させようとしてたんだからな。
下手したら皆も巻き込まれる可能性があるから注意しといた方が良い。」
「えっ、ホントぉ~?
どうやったら取れんの?それぇ~。」
えっ、どうやったら?
「流石はかおるさんです。
その様な素晴らしいスキルを取得されていたとは。」
素晴らしい?まっ、女性の立場で効果内容だけ見れば確かに・・・
「なるほどぉ、勇者さまはかおるお姉さまの様な釣り鐘型の乳房に弱いという訳ですね。
だったら茜も取得したいですぅ。」
いやまあ俺の好みどうこう以前にあの超一級品の先輩の胸に文句をつける様ではおっぱいソムリエ失格だからな。キリッ
って待て待て・・・う~む、これはちと迂闊だったか?
この危機的状況を分かって貰う筈がこれでは寧ろオメガ様の復活を促す事に・・・
「かおるちゃん、私もボインミサイル取りたぁ~い。」
待てっ、桜っ!
「はい、是非取得方法をご教授下さい、かおるさん。」
まっ、不味いっ!
「そしてその説明をこっそり拝聴するのが私の作戦です。」
くっ、来る・・・
「スクッ、みっ、皆、心配させたみたいで悪かったわね、でももう大丈夫、私は素晴らしい仲間を持って幸せ者よっ!グスン」
「かおるさんっ!」「かおるちゃんっ!」「かおるお姉さまっ!」
ヒシッ!胸に飛び込む三人をしっかりと受け止めた彼女は言った。
「さあ賢斗君、こうなったらこのまま皆で第2回ダンジョン温泉スキルゲット大作戦に突入するわよっ!」
・・・最悪だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ボインミサイル一直線 その2○
オメガショックから立ち直ったかおるさんに賢斗との混浴の件を忘れてくれるつもりは無いらしい。
美肌の湯のある4階層へと移動した賢斗達、周囲警戒係に小太郎が選任されると早速スキル共有を済ませた。
「さあ賢斗君、お待ちかねの混浴のお時間よ。
特別に皆も一緒に入ってくれるそうだから君も早く賢子ちゃんに成っちゃいなさい。あはっ」
・・・このまま行けば俺はボインミサイル一直線。
はてさて問題はどうやってこのピンチから抜け出すかだが・・・
「いや先輩、別に昼間の件なら気にしないで下さい。
これだけ心強い仲間も出来た事ですし元々そんな女性用スキルを男の俺にってのはどう考えてもおかしいです。
という訳でお邪魔虫はこの辺で退散させて貰いますよ。ニコリッ」
逃亡の機会を逸した賢斗だったが何も悪い事ばかりでは無い。
彼以外にもこのスキルを取ろうとするお仲間が出来た以上かおるが賢斗にこだわる理由も既に無くなっている。
それをこのオメガ様に気付かせてやれば良いだけ。
しかしそんな都合の良い考えは当然の様に・・・
(言いたい事はそれだけかしら?賢斗君。
この私がそう簡単に君を逃がすとでも?)
(逃がす?とは。
先輩はボインミサイル仲間が欲しかっただけ、これ以上俺にこだわる理由が見当たりませんが。タラリ)
(しらばっくれても無駄よ、賢斗君。
桜のあのバストサイズでボインミサイルが取得出来るとでも?)
なっ、まさか先輩も気付いているのか?
いやまあ先生のピークがまだ先でこのおっぱい系スキルが取得出来そうもないのは誰が見ても明らかだしな。
(いや~桜は兎も角他の二人なら大丈夫なんじゃないですかぁ?)
(本気でそう思ってるの?賢斗君。
私の見立てではあの二人でも恐らく無理よ。
その理由も君ならとっくに理解してると私は思っているのだけれど。)
ちっ、まさか全てお見通しとは・・・
円ちゃんのドリームボールなら質感、形状共に問題は無い。
だがしかし惜しむらくはそのボリューム、今この場で猫女王様に成れないのが実に悔やまれる。
一方茜ちゃんの白玉ボンバーに関してはまだテイスティングも終わってない状況。
とはいえあの揺れ加減からしてかなりの柔らか仕上げ。
先輩と同等の振動波を生み出せるのか?と言われればかなりの疑問が生じてしまう。
・・・こういう時の頭の回転は流石だな、この人。
最早こうなったら有無を言わさず転移逃亡を図るしか道は・・・
(言っとくけど賢斗君、もしこの混浴から君が逃げ出すつもりなら今後一切君の武器メンテはお断り、これで少しは私の本気が伝わるかしら。)
なっ、武器メンテを盾にするとは卑怯な・・・今回は先輩もかなりガチだ。
しかしだからと言ってそう簡単に諦めのつく話ではない。
(さあ分かったら大人しくこのかおるちゃんとボインミサイル同盟を組むのよ。)
何だ、その破廉恥極まりない同盟はっ。
しかしこれはもう万事休すか?逃げ出す事すら許されないこの状況では・・・
はっ!いや、まだだ。
(分かりましたよ、先輩、そこまで言うなら混浴には付き合ってあげます。
でも俺がボインミサイルを取得出来なかったとしても恨みっこなしですよ。)
(はいはい、まあ賢子ちゃんにしたって100%取得できる保証なんて何処にも無いものね。
分かったわ、その場合は仕方ないって諦めて上げる。)
よっ、よし、何とか最悪の事態だけは避けられた。
後で吠え面かいても知りませんよ。ニヤリ
「茜ぇ~、神秘の湯次何時出現するか占っといてくれるぅ~?
これが終わったらそっちにも賢子ちゃんに入って貰わないとだし。」
なっ、何恐ろしい事言ってんだ?この人。
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○ボインミサイル一直線 その3○
ちゃぽん、湯船に入るといよいよ混浴がスタート。
おっ、結構深いなこの湯船、俺が立った状態でも肩口辺りまであるぞ。
まっ、そんな事より今はこの運命の3分間をどう乗り切るか。
たとえハイテンションタイムで泥風呂に浸かろうがじっとしていれば振動波は生まれない。
このまま微動だにせず無事タイムアップを迎える事が出来れば俺の勝ちは確定する。
「かおるちゃん教えてぇ~、どうすれば良いのぉ~?」
「えっ、あっ、うん、えっとぉ、両手を頭の後ろにやったら肩を交互に前後移動させる様な感じで・・・」
よし、ナイスだ先生、そうやって先輩の注意を引き付けておいてくれ。
「ぷるるぅ~ん、ダメですかおるさん、一度お手本をお願いします。」
やっぱり円ちゃんはパワー不足かな?
「分かった、見てなさい。ユサユサ、ぷるるるるぅ~ん」
波立つ湯面に見え隠れする西アルプス東アルプス。チャプチャプチャプチャプ
生み出された2つのボイン波は拡散する事無く前方に進んで行った。
何だあれ?普通ああはならんだろ。
「どう?茜は取得出来た?」
「いいえ、ダメですぅ、かおるお姉さまぁ。ぷるぅ~んぷるぅ~ん」
そりゃそうだ、あんな芸当普通の人間には到底無理。
見た目大きさ共に遜色ない賢子ちゃんボディの俺でさえアレを真似るのは無理な気がする。
まっ、試すつもりなんて毛頭ないけど。
「ほら賢子ちゃん、貴女も見てるだけじゃなくちゃんとやってみなさいよ。」
ちっ、流石にバレたか。
しかしハイテンションタイム終了まで残り1分、そんな羞恥スキル保持者は先輩だけで十分ですよ。
「先輩、確かに混浴する事には同意しましたが俺は積極的にボインミサイルを取得するとは言ってませんよ。
そしてその結果がどうあれ恨みっこなしというのが今回の約束だった筈。」
「なっ、何よそれ、そんな屁理屈通用する訳無いでしょ。
良いから私がやった様に身体を揺らしなさいよっ!ズイズイ・・・」
パッ、近づいて来るかおるを賢斗は左手を突き出し制止する。
「ちょっと先輩、それ以上接近するのは危険ですよ。
そんな姿で近寄られたら俺は我慢できずに濡れた湯浴み着一枚の先輩を抱き締めてしまうと思うんで。」
「なっ、ちゃぷん、ちょっと賢子ちゃん、この期に及んで何変な事言ってるのよ。カァ~」
かおるは胸を両手で隠すと顔が真っ赤になっていく。
存分に恥じらうが良い、この超恥ずかしがり屋さんめ。
効果時間は残りあと15秒・・・ふっ、これは勝ったな。ニヤリ
10、9・・・
「でもまあそうよね。
賢子ちゃんになっても中身は賢斗君なんだもの、私にメロメロなのは当然よねぇ~、うふっ♪」
よし、絶賛幸せ回路発動中か、今回に関しちゃ意外と先輩もチョロかったな、ふっ。
「でもでもぉ~、このままだと賢子ちゃんにボインミサイルを取らせて上げられなくなっちゃうしぃ~。
かといって近寄ったら賢斗君に抱き締められちゃうなんて・・・いや~ん、かおるちゃん困っちゃ~う♪クネクネ」
随分嬉しそうだな、おい、ってバカ、ちょっと待て・・・
ユサユサ、ぷるるるるぅ~ん
そっ、それ洒落になって、ちっ、この至近距離では逃げようが・・・
チャプチャプチャプチャプ・・・2、1
くっ、来るなぁ~~~っ!
ぷるるるるぅ~ん、ぼよぼよぼよぉ~~~ん♪
『ピロリン。スキル『ボインミサイルシグマ』を取得しました。』
・・・ふっ、不覚ぅ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○スキル公開非公開○
かおるのボイン波を受けた賢子ちゃんの胸は共鳴、吸収、増幅、受け流し・・・かくして賢斗は望外にも同系列新スキルの取得に至った。
一方茜の占いによれば今回の滞在期間中、もう神秘の湯への道は開かれる事は無い。
帰還した彼等はその後宿での温泉入浴、夕食を済ませると賢斗は再び武器メンテの為桜達の女子部屋に向かった。
「シグマ君、いらっしゃ~い♪」
うっさいっ、オメガっ!
ったく、このバカタレの所為で久々のやらかした感だぜ。
「皆、俺があんなスキルを持ってるっつぅのは絶対秘密だからな。」
「え~、何でぇ~、カッコ良いのにぃ~。」
いやこんなのドキドキ星人以上に知られちゃ不味いだろ。
「それとボスもさっき言ってたし皆も早めに隠蔽スキルを取っといた方が良いぞ。」
Sランク昇格と言ってもナイスキャッチに対する世間のイメージは可愛い女の子で構成された探索者アイドルパーティー。
実際何が優れているかについてはあまり知られておらず、これでは今後も賢斗の意に沿わないイベントでのお飾り的なお仕事依頼しか入って来ない。
そこで今まで非公開だった賢斗達のスキルについても可能な限り一般公開してはどうか?
また今後はこれまで以上に注目される、隠すものはもっとしっかり隠しておくべきというのが夕食時に中川が言った内容である。
「でもさぁ賢斗ぉ、今更隠蔽するようなスキルなんて私持ってないよぉ~。
Sランクに成ったらとラッキードロップも公開するって決まったじゃ~ん。」
桜のラッキードロップを公開すればお宝調達系の高額依頼が舞い込む事が期待出来る。
当初考えていた諸々のデメリットも今の桜なら回避できるという判断の元、8月からHP上での公開を決めていた。
「私も人に隠し立てする様なスキルは所持していませんよ。」
と本人は言っているが円のキャットクイーンに関しては今後も非公開を継続。
彼女の今の成長を考えれば桜同様デメリット部分は問題ないと判断出来るが公開した場合逆にアイドル的依頼が増加してしまい兼ねないというのがその理由であった。
「いやでも二人とも、感度ビンビンとかを知られたら流石に女子として恥ずかしいだろぉ?」
「べっつにぃ~。」
「何を言っているのか分かりませんよ、賢斗さん、他人より感度が良い事は恥ずかしがる様な事なのですか?
私には寧ろ誇らしい事に思えます。」
う~む、どうやら女子高通いのお嬢様連中とは羞恥基準に差があるのか?
「けっ、賢斗君、私も他人に知られちゃダメってスキルなんか一つも無いわよ。」
おい、その口は良くそんな事が言えるな。
アンタの場合は羞恥スキルのオンパレードだろうがっ!
次回、第百六十話 聞き覚えのある声。
午前10時にアップします。




