第百五十七話 ダンジョン温泉スキルゲット大作戦
○階層ボス単独討伐禁止ルールの改変○
7月27日土曜日午前8時、宴会場での朝食メニューは純和風な白飯、味噌汁、塩鮭等々。
そこで賢斗は昨夜那須ダンジョンの攻略を終えた事を他のメンバーにご報告。
「えっ、昨日一人で那須ダンジョンを攻略して来ちゃったの?」
「あっ、はい、ソードダンスの服部って奴先輩も知ってるでしょ。
アイツが昨日の夜ダンジョン内を案内してくれたんですよ。」
「って事はつまりまた私達に黙って階層ボスを討伐したって事になるけど、アーユーOK?ピクピク」
「いやそれは何と申しましょうか・・・」
と案の定何時もの様に一悶着へと発展する事になった訳だがそんなナイスキャッチ女性陣を中川が嗜める。
「まあまあ今回多田さんがその炎亀を倒したのは仕方がない事だと思うわよ。
状況的に考えてSランクとしての名誉を守るにはそうするしかなかったと思うし。」
おっ、流石はボス、話が分かりますなぁ。
そしてそれを聞いていた水島が今度はその階層ボス単独討伐禁止というパーティールール自体に異を唱える。
「一つ良いですか?
そもそもそのパーティールールって元は多田さんの身を案じてそう決めたんですよね。
でもAランクの富士ダンジョンまで攻略して来月からSランクのパーティーリーダーとなる多田さんにCランクダンジョンの階層ボスは危険だから単独討伐しちゃダメですよって言うのはちょっと過保護過ぎやしませんか?」
あっ、そうそう、良い事言ってくれますなぁ、水島っち。
「安全を重視するのは結構な話ですけど一概に階層ボスの単独討伐を禁止とするルールは成長を遂げた今の皆さんの現状には合わなくなって来てるんじゃないかと。
例えば自分のレベルより上の魔物は単独討伐しないみたいなルールにここはもう変えた方が良いんじゃないですかね?」
ふむ、それなら今回の俺の所業はギリセーフ。
「でもさぁ光ちゃん、賢斗はおっちょこ大魔神なんだよぉ~。」
誰が何だって?先生。
「そうです、この間も賢斗さんは私たちの目の前でポックリ逝っちゃいましたから。」
ええ、お蔭で残機が増えました。
「どう?おっちょこ大魔神になった感想は?」
んなもんねぇよっ!ったく。
まっ、それは兎も角これは丁度良いタイミングかもな。
「なぁ皆、俺の意見も少し言わせて貰って良いか?
心配してくれる気持ちは素直に有り難いけどこの間の件に関しては皆も一緒に居た時の話。
水島さんの案で判断したとしてもアレを単独討伐するのがアウトになる事に変わりはない。
一方今後の俺達の活動方針の一つとしてジョブに関わる日本各地のダンジョンをなるべく早く攻略して行くってのがあるだろぉ?
でもそのダンジョンの数はかなり多いし全てをメンバー全員で攻略に当たっていたら何時終わるか分かったもんじゃない。
そこで俺的には今の俺達の実力からすれば低ランク・・・まっ、Cランク以下のダンジョン辺りまでは分散して攻略して行った方が得策かと。
でもそう考えた時今のこのルールが足枷になるのは間違いないし安全面を重視するにしても水島さんの言う今の俺達に則した形に改変しておくべきなんじゃないかな?」
シーン、オ~、パチパチ、その考えを聞いた一同は感心した様に頷きながらパラパラと拍手を送る。
「うふっ、これはSランクパーティーのリーダーらしい台詞が飛び出したわね。パチパチ」
「急に賢斗が真面な事を言うからビックリしちゃったよぉ~。パチパチ」
まっ、これを言い出すのは今しかないって思ったからな。
「勇者さまは先々の事までお考えなのですね。
何だか茜キュンキュンして来ちゃいましたぁ。パチパチ」
かくしてナイスキャッチの階層ボス単独討伐禁止ルールは改変される事となった。
「パチパチ、ねぇ賢斗君、熱でもあるの?」
お前も拍手と台詞の整合性を取ったらどうだ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ダンジョン温泉スキルゲット大作戦 その1○
さて賢斗達は予てからこのツアー中最大のイベントとしてとある企画、名付けて那須ダンジョン温泉スキルゲット大作戦(ポロリもあるよ~)を計画していた。
まあ簡単に言えばダンジョン温泉の効能のスキル化でダンジョン温泉に浸かりながらハイテンションタイムを消化すればその効能でスキルが簡単にゲット出来てしまうだろうといったお話である。
そして先の賢斗の那須ダンジョン攻略の報告を受けこの大作戦が当初の予定より早く実行に移される事となった。
朝食後、ギルド部外者である蛯名を除き賢斗達は那須ダンジョンへ。
侵入申請を済ませダンジョン入口前でしばしミーティングを行い誰がどこの温泉に入りたいかを確認していくと・・・
「多田さん、私は普通に美肌の湯で良いわ。」
まあボスはお肌が気になるお年頃ですもんね。
「私も泥んこ風呂入りたぁ~い。」
まっ、先生はそうだろうな。
「私も美肌の湯を希望致します、賢斗さん。
美白効果まであるって聞きましたから。」
なっ、円ちゃんまで・・・それ以上白くなってどうすんの?
終わってみれば中川のみならず他の女性陣達も全員美肌の湯をチョイス。
ちっ、予想はしていたがやはりこうなっちまったか。
ちなみに公然と女子の入浴シーンが拝めるこの機会、それだけ聞けば普段の賢斗ならさぞ期待に胸を躍らせているところかもしれない。
しかし魔物が出没するダンジョン温泉に丸裸で入る訳も無くそこは当然湯浴み着を着ての入浴。
加えてこの美肌の湯というのは泥風呂であり湯上りにその薄手の着衣が透けて見えるといった望みも皆無。
流石の彼もこの内容では手も足も出ずといったところであった。
ぐぬぬ、やっぱポロリのポの字もねぇじゃねぇか。
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○ダンジョン温泉スキルゲット大作戦 その2○
移動して来たのは那須ダンジョン4階層、目の前の枝道の奥にはお目当ての美肌の湯が湧いている。
「ストーンカーペット。ゴゴゴゴゴッ」
円がストーンウォールをアレンジした土魔法で床に石道を作り出すと女性陣は入口からぬかるみ出している枝道の奥へと歩いていく。
「じゃあ多田さん、悪いけど警備役お願いね。」
「あっ、はい、任せといて下さい、ボス。」
はてさて俺は何処の温泉に入るかなぁ。
とはいえHP回復にMP回復、疲労回復に治癒といった効能をスキル化しても既に賢斗はその辺りのスキルを所持している。
また魔力の湯に至ってはスキル化出来る様な効能ではない。
う~む、こうなると消去法で必然的に麻痺岩盤風呂か毒霧サウナの2択になっちまうんだが。
しばし賢斗が頭を悩ませていると女性陣が戻って来た。
見れば彼女等は全身泥塗れ、桜に至っては頭の天辺まで泥に塗れていた。
「何だ?桜、足が届かなかったのか?」
「うん、急に深くなっててさぁビックリしたよぉ~。ピュアウォーター、バシャバシャバシャ」
「で、スキルはちゃんと取れたのか?」
「うん、マッドシールドっていうのが取れたぁ~。」
えっ、マッドシールド?
ちっとも美肌効果のあるスキル名に聞こえないんだが。
「椿さんも桜と同じスキルを取得したんですか?」
「ううん、私はお肌ツルツルってスキルよ、賢斗君。」
「ちなみに多田さん、私はお肌スベスベってスキルでした。」
う~む、スベスベにツルツルか、違いが分からん。
がそれはそれとしてやはり桜の取得スキルの違和感が半端ないな。
「円ちゃんは?」
「私はボディペイントというスキルです。」
「あっ、私もそれでした、勇者さまぁ。」
ふむ、色白の二人はそう来るか・・・まっ、ある意味納得だけど。チラッ
でもやはり気になるのはこのお二方・・・
「あら、私が何を取得したか気になるの?」
ええ、物凄く・・・ゴクリ
「と言っても結構有名だし別に大したスキルじゃ無いわよ。
取得出来たのはバストアップ、まあ胸の形が崩れないのは助かるわね。」
なるほど、それでボリューム感がさっきとはまるで別人に。
「じゃあ先輩も同じの取得したんすね。」
「えっ、私?あっ、うん、そうそう。」
何だろう、この怪しさ満点の瓢箪から駒的反応は。
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○ダンジョン温泉スキルゲット大作戦 その3○
「では小太郎、しっかりお役目を果たすのですよ。」
賢斗が入浴する際の周囲警戒係が小太郎に決まると既に事を終えた女性陣は転移で帰還していった。
するとその瞬間堰を切った様に少年の笑い声がダンジョン内に響く。
「ガ~ハッハッハ、聞け小太郎、先輩ボインミサイルなんつぅとんでもスキルを取得してやがったぞぉ~っ!
かぁ~、あの人俺を笑い死にさせる天才かよ、っとに。クックック」
ボインミサイル、それはバストの振動波をミサイル状に打ち出す攻撃スキル。
またその副次効果は男の理想形とも言える所持者の神がかった胸の形状を生涯維持する。
かおるは羞恥に打ちひしがれ、賢斗は笑い飛ばしているが実際のところこれは決して不幸な結果等では無く美肌効果スキル取得を夢見た少女に舞い降りた幸運だと言えよう。
「あんまり笑ったら姉御が可哀想だにゃ。」
う~む、コイツにはボインミサイルという言葉が放つ異常なまでの破壊力が理解できんのか?
「いやだからさっきまで死ぬ思いで必死に我慢してたんだろぉ?あ~腹痛ぇ。
でっ、でもまあそうだな、たとえ本人が帰った後だとはいえ失礼である事には違いない、ククッ、そっ、そろそろ反省反省・・・プルプル」
「ホントに反省したならあにきもマイハニーになって取得してみるにゃ。」
えっ、俺も?
馬鹿だなぁ、こんなの取得出来るのは先輩くらいなもんだって。
勿論これはかなりのレアスキル。
粘性の高い泥風呂の中張りのあるツンと上向き加減の大きな胸で特殊な振動波を生み出す事がこのスキル取得への唯一の道。
おや、取得理由を考えた場合俺が女体化してあの泥風呂に入った場合にも同じスキルが・・・
これを試すのはかなり危険だな、まっ、そんな事には絶対ならんと思うが、うむ。
「何て恐ろしい事を言い出すんだい?小太郎君。
流石の賢斗さんでもそこまでして上げる慈悲の心は持ち合わせちゃおりませんぞ。」
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○ダンジョン温泉スキルゲット大作戦 その4○
温泉というものは3分程度そこに浸かって効能が如実に現れるというものでは無いだろう。
美肌の湯が泥風呂だった事もあるだろうが他の者の取得内容からして温泉の効能をそのままスキル化するというのはそう簡単な話ではないらしい。
そんな状況を踏まえ賢斗が自身のスキルゲット大作戦の場として移動して来たのは那須ダンジョン6階層にある血行の湯である。
まっ、ここなら無色透明な普通の温泉、妙なスキルが取得される事も無かろう。
トランクス型の水着一丁になると湯船にちゃぽん。
深さ50cm程の温泉にその身を横たえた。
ふぅ~、気持ち良い~、あっ、取り敢えずドキドキジェットを発動っと。
・・・にしても何だろうなぁ、これ気持ち良いだけでスキルが取得されそうな気配も手応えも全くない。
ちょっと特徴のない温泉を選び過ぎたかも?
とはいえ男の俺はそこまでこの企画によるスキル取得を期待していた訳でも無し、これが失敗に終わろうと別に構わんけど。
「そういや小太郎、お前もあの泥風呂に一緒に入らされたんだろ?
直ぐ出ちまってたらしいが何か取得してるかもだし一応確認してやるよ。」
湯船に浮かぶタライの中の小太郎を何気に解析してみると彼は見事に体毛操作なるスキルを取得。
これもまた温泉の効能では無く泥塗れ状態のまま身体を拭かれそのまましばらく放置されていた事が功を奏していた。
「おっ、しっかり取れてるじゃねぇか。
体毛を硬化出来るとかお前にとっちゃ結構良さ気な特技だな。」
そう言いながら賢斗は小太郎を抱き上げる。
「どら、ちょっとやってみてくれよ。」
「わかったにゃ。プスリッ」
長毛種の子猫の毛先が彼の膝の辺りを見事に突き刺していた。
うわっ、痛っつぅ~ヒ~ル、余計な事言わなきゃ良かった。
『ピロリン。スキル『活血』を取得しました。』
期せずして刺されたそこは血海と呼ばれるツボの部分、そういった知識がまるで無い彼がそれに気づく事は無かった。
あれ、ちゃんと効能通りのスキルが取れたじゃん。
つっても別にそれ目当てでここに来た訳でも無いんだけど。
その後入浴を終えた賢斗も宿に戻った。
すると彼の部屋には早速お客様が一人。
「トンドン、ガチャリ、賢斗君居るぅ~?」
「ええ、もう帰って来てますよ。
でも神秘の湯の捜索ならもうちょっと後にして下さい。
これからボスをダンジョンコアの部屋に連れてく約束なんで。」
「あ~違うの、今来たのは君にとってもハッピーな提案があるからよ。」
「ピクッ、してそのハッピーなご提案とは?」
「うふっ、今日の夕方このかおるさんが君と一緒に混浴して上げても良いって事。」
えっ、ホント?モワ~ン
「まあ入る温泉は賢子ちゃん状態で美肌の湯って条件を付けさせて貰うけど、どう?嬉しいでしょ?」
・・・この人絶対俺を巻き込もうとするよな。
次回、第百五十八話 神秘の湯。




