第百五十六話 こういうのが見たかったんじゃないのか?
○やる気満々グローブタイプR○
元がかおるの御手製で武器としてカテゴライズすらされていなかったグローブだが仲間外れは良くない。
本日2回目の武器メンテの対象となるのは円のやる気満々グローブである。
疲労睡眠から回復した紺野さんに賢斗がマッサージを施すと彼女は再びかおルンルンに。
「サンキュ~ベリ~マッチョマン、賢斗くぅ~ん♪」
おい、毎回それ言うと定着する恐れが出て来るだろ。
「礼なんて良いからさっさと円ちゃんのグローブをメンテして上げて下さい、先輩。」
「宜しくお願いします、かおるさん。」
「わっかりマッチョマ~ン♪」
だからそれを止めなさい。
その10分後仕上がっていたのがこちら。
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『やる気満々グローブタイプR』
説明 :装備者のやる気に応じてATKが少し上昇するグローブ。遠隔攻撃可能(射程5cm)。
状態 :80/80
価値 :★★★
用途 :武器。
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う~む、タイプRか、何か無駄にカッコイイな。
速いパンチが繰り出せるグローブをイメージしそうになるがこれはこの新たに加わった遠隔攻撃機能のリモートを単に示しているだけだろう。
にしても既にシャドーボクシングを持つ円ちゃんには不要な上にこのとんでもなく短い射程はもう少し何とかならんかったのか?
先程同様その買取額を水島に問い合わせてみれば何と驚きの500万円。
えっ、こんな空手家の人くらいしか使い道の無さそうなグローブが?
「だって実際には当たらない筈のパンチが当たっちゃうんですよぉ?
先程先生にも言われちゃいましたしナイスキャッチの紺野さん御手製で蓬莱さんが愛用しているという点も査定ポイントに加えた結果です。」
「流石はかおるさんに作って頂いたグローブです。ヒシッ」
う~む、何かもういっそ売っちまって新しいのを買えば良いのに。
そんなこんなで本日のルンルンメンテはかおるの負担を考えこれにて終了であった。
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○男子会 その1○
午後11時過ぎ、自分の部屋に戻った賢斗は腰を下ろすと水島から借りて来た那須ダンジョン温泉ガイドブックを開く。
那須ダンジョンは洞窟型で内部は直径5m程の通路が伸びその所々にある枝道の奥に温泉が湧く小部屋があるというのが各階層の基本構造。
神秘の湯の話題だけが先行していたが常時出現型のダンジョン温泉ポイントが他に数多く存在している。
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那須ダンジョン内名所温泉ポイント
1階層 HP回復の湯
2階層 疲労回復の湯
3階層 治癒の湯
5階層 MP回復の湯
7階層 麻痺の岩盤風呂
9階層 毒霧サウナ
10階層 魔力の湯
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そして一般的にここのダンジョン温泉の目玉となるのは魔力の湯でその効能は長時間浸かっていれば自身の最大MPを増加してくれるというもの。
とはいえ無尽蔵に増やす事など出来る筈も無く回を重ねる毎に湯船に浸かる時間も延びて行く。
またそれは個々の資質による最大MPの限界値を超えて増える事も無く上昇度合いにもそれによる個人差が生じる。
とまあそんな効能内容から最大MPを増やしたいと考える探索者の他にもMP上昇度合いの違いにより自分の魔法資質を見極めようと考える探索者がこの魔力の湯に足を運ぶ理由になっていたりするのである。
まあ魔法資質に関してはうちでは桜が一番だろうな。
いやでも先生は早熟タイプなだけかも?身体は晩成だけど。
また先に挙げた温泉ポイントの他にもこの那須ダンジョンには美肌の湯や血行の湯といった外の世界と同じ様な効能を持つ温泉も多数存在。
簡易マップが公開されている1階層以外はお目当ての温泉ポイントを探し出すのも一苦労といった具合。
まっ、先生に方角ステッキ使って貰えば問題無しか。
一々全部回ってたら大変だしな。
にしても「耐性スキルの取得に持って来い、貴方もレッツチャレンジッ!」なんて書いてあるけど麻痺の岩盤風呂とか毒霧サウナって普通にトラップなんじゃねぇか?
トントン、ガチャリ、とここでお客様。
「ようっ、遊びに来たぜ。」
「お邪魔するね、多田君。」
入って来たのは風呂場で約束した服部と樋口の両名。
お熱いので気を付けてね。コトッ
嫌がっていた割にはテーブルに胡坐をかいて座る二人に緑茶を出して上げるお客慣れしてない賢斗さん。
「なぁ~んだぁ、お前もやっぱり魔力の湯に行くつもりなのか。」
広げていたガイドブックを見た服部は挨拶代わりにそんな事を言う。
って事はこいつ等も?まっ、樋口さんには魔法資質が結構ありそうですけど。
「まあどっち道この旅行中にここのダンジョンも攻略しちまう予定なんで。」
那須ダンジョンの取り扱いジョブはマルチアナライザー。
このジョブは中川が今最も欲しているジョブであり賢斗は何度も念を押すように那須ダンジョン攻略をお願いされていたり。
とはいえ彼としても解析スキルを更にレベルアップさせたいところであるし自分も鑑定スキルを取得しこのマルチアナライザージョブの取得を目論んでいたりする。
「なっ、Cランクダンジョンを2日で攻略とか、ったく簡単に言いやがるねぇ。
でもそんな苦労しなくても俺がこのダンジョンの有名温泉ポイントに連れてってやっても良いぞ。
まっ、つまりこれがお前に用意した今回の富士ダンジョン攻略話への返礼って奴だ。
俺は昼間の内にうちのお姉さま方にナビして貰っといたからな。」
えっ、ホント?それとっても助かる。
洞窟型だとフライは使い勝手が悪いし普通に時間掛かりそうだなって思ってたんだよねぇ。
よしよし、そんな対価を頂けるのならある程度踏み込んだお話もして上げましょうかね。
賢斗は客人のリクエストに応え富士ダンジョンのフィールド情報やら魔物情報を色々とアドバイス的なモノも交え説明して上げる。
「最低でも1000万円の落雷対策装備ですかぁ。カキカキ」
「ジョブ持ち個体の魔物まで出現するとはな。カキカキ」
意外とマメなんだなぁ、こいつ等。
しかしこの二人のランクからして富士ダンジョンに入る事など出来はしない。
その点を疑問に感じた賢斗が訊ねてみると・・・
「それはつまり引率制度を活用するのさ。
うちの事務所には幸運にもマジコン3位の梅干しパンチャーズさんが居るからね。
夏休み中はあの人達の付き人として僕達ガンマニアは同行させて貰える事になってるんだ。」
「うちも社長の計らいで同じ様な話になってる。
お前等が攻略した事で高校生の俺達でも富士ダンジョンでやれるって事が証明されちまったからな。
まっ、秋のモンチャレのレベル上限も上げる方向で話が進んでるらしいしこうも水を開けられた状況は俺等的にもうちの事務所的にも看過出来ないって訳だ。」
ふ~ん、そんな話に。
こうした高校生探索者のトップレベル達の更なるレベル向上への動きは何もこの二人に限った話では無いだろう。
そしてそれに呼応するかの様にモンチャレ決勝大会での召喚レベル上限の引き上げ。
賢斗達の富士ダンジョン攻略の知らせは本人達の窺い知らぬところで様々な影響を及ぼしている様である。
って待てよ・・・
「ねぇ服部さん、ソードダンスを引率するのってもしかして澪お姉さま達なのか?」
「あん、うちの事務所で富士ダンジョンフリーパスつったら踊り子シスターズのお二方以外には居ねぇからな。」
くっ、やはり・・・
「何だ?まさか八人の美女達とここに来てるハーレムキング様が羨ましいとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
なっ、おまっ、その言い方・・・おっ、おのれぇ~。
「だがまあそんなお前に一つ忠告しといてやる。」
ん、何だ?実は結婚してましたぁとかか?
「これは他言無用だがああ見えてうちのお姉さま方正真正銘のアラフォーだぞ。」
ブフォッ!嘘っ、まさかの美魔女?
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○男子会 その2○
午前0時、富士ダンジョン攻略話の返礼を受ける為賢斗は二人と那須ダンジョンへ向かった。
「とまあ種明かしをすりゃあの美貌を維持していられるのもここの幻の秘湯 神秘の湯に毎年浸かり続けているのがその理由だったりする訳だ。
今は良いが効能が切れちまいそうだった春先何かうちのお姉さま方がやたらピリピリしてて参ったぜ。」
「えっ、幻の秘湯って精霊をパワーアップさせる温泉じゃないの?」
「アハハ、精霊をパワーアップとか多田君は実に面白い話をするね。
神秘の湯ってのは別名生命の湯とも言われる温泉でその効能は人により様々な形で現れるって話だよ。
僕の聞いたところでは余命1か月と言われた患者の寿命が半年延びたって話だったし踊り子シスターズさんの場合は若い頃の肉体を維持する効果があったみたいだね。」
ふ~ん、随分漠然とした感じの効果なんだな。
まっ、ともあれその感じなら逆に杖の中の精霊さんを何とかしてくれそうな気もするけど。
そんな話をしつつ各階層の温泉ポイントを案内して貰っているといよいよ最後の10階層、魔力の湯の前まで辿り着く。
「魔力の湯の温泉ポイントはあそこだ。
まっ、アレに入るにはここのラスボスであるアイツを討伐しないとダメだろうけどな。」
えっ、こんなとこだったの?
そこはこのダンジョンの最終ポイントとも言える場所。
源泉の湧く温泉の前には以前伊集院が富士ダンジョンで苦戦を強いられていた全長5mもある巨大な炎亀の姿があった。
「どうだ多田、物はついでだ、俺達三人でアイツを倒してひとっ風呂浴びて帰るっつうのは。」
ふっ、相手はレベル25の魔物だ。
これで富士ダンジョンを攻略したこいつの実力が本物かどうか確認出来るってもんだ。
「いやぁ、俺は明日うちのメンバーと・・・」
調子に乗ってまた階層ボスを黙って倒すと皆に怒られちゃうからなぁ。
「何を言っているんだい、多田君。
優勝パーティーのリーダーたる君がまさかここで引き下がるのかい?
モンチャレトップ3のリーダーが共闘なんてこれ以上胸を熱くする展開もないだろう。」
あら、意外と熱血だったんすね、樋口さん。
とはいえ相手は厄介な亀型、物理攻撃主体だと普通はかなり苦戦すると思いますけど・・・
「まあ良い、放っとけ、樋口。
コイツはそういう奴だ、損得勘定でしか物事を考えねぇ、人の期待に応えてやろうっつぅ気持ちに欠けてんだよ。」
なっ、そこまで言う事無いだろぉ?
こっちにも事情ってもんがあるんだから。
「そんな事は無いんじゃないかな。
多田君達のパーティーは今度Sランクに昇格するって話だし。」
おっ、よく御存知で。
僕は逃がさないよ、多田君。
「樋口っ!そりゃ本当かっ?」
「うん、うちの梅之丈さん情報だから間違いないよ。」
誰だよ、それ。
梅干しパンチャーズリーダー、梅田梅之丈。
彼の所持スキル梅干しパワーは食べた梅干しの酸っぱさにより肉体をパワーアップ出来ると言う。
「ふふっ、なぁ多田、Sランク様がレベル25の魔物相手に尻尾を巻いて逃げちまった。
これ広まると結構不味いお話に聞こえねぇか?ニヤリ」
「そうだね、本来あの魔物を一人で倒したって可笑しくないところだし。フッ」
なっ、何これっ!何時の間にやら嵌められてる?
あのタイミングでSランクの話題をぶっこんでくるとは・・・
くそぉ、樋口さんとんだ食わせもんだな。
少し腹立たしさを覚える賢斗。
でも確かにこの程度の魔物を簡単に倒せない様ではSランクパーティーのリーダーとしてどうなんだ?
だがそれと同時にこんな自問が彼の頭を霞める。
・・・言いたい放題言いやがって。
ちっ、そんなに見たいなら見せてやるよ。
「お前等は手を出さなくて良いからな。」
賢斗は一人炎亀へとゆっくり歩き出す。
グオォォォーッ!
その足取りが射程内に入るやいなや魔物は首を伸ばし獰猛な牙を彼に向けた。
鬼出電入・・・バチンッ
ガチィィィーン
僅かに電撃が残されたそこに対象の姿は無く魔物の噛み付き攻撃は空を切る。
無駄だっつの。
気付けば彼は悠々と歩き続けていた。
ガチィィィーン、ガチィィィーン、ガチィィィーン
魔物が攻撃を繰り返す中賢斗は魔物の首の根元へ難なく辿り着いた。
はい、チェックメイト。
未だ攻撃を繰り返す魔物に防御態勢を取る様子は無い。
紫電一閃っ、ピカッ、バチバチィィィ
スゥ~、ボトリ、炎亀の首が静かに落ちていく。
自身と同レベルの魔物に対し圧倒的な力量差を感じさせる一戦。
なっ、コイツホントに俺と同じレベルなのか?
つっ、強さの次元がまるで違う・・・
事もな気に戻る姿に高校生探索者のトップレベルの二人ですら呆気にとられ舌を巻いていた。
「何だ?お前等。
こういうのが見たかったんじゃないのか?」
次回、第百五十七話 ダンジョン温泉スキルゲット大作戦。




