第百五十五話 紅炎の変化杖
○紅炎の変化杖 その1○
グワングワングワン・・・風呂場の脱衣場には高級マッサージチェアまであり風呂から上がると賢斗も試しに利用してみる。
ほう、結構気持ち良いぞ、これ。
まっ、俺のマッサージ三昧には遠く及びませんけど。
(賢斗君、お風呂もう上がった?
そろそろ桜の杖の大改造を始めるから早く私達の部屋に来てね。)
かおるがルンルン気分発動状態でリフレクトエクスペリエンスを使った場合彼女はその後疲れで1時間程眠ってしまう。
その為普段これを気軽に行う事は出来ないが今回の様なお泊りはその絶好の機会。
賢斗達はこの旅行中に各々の武器をかおるにメンテして貰う計画を立てていた。
(あっ、はいはい、分かりました、今直ぐ行きますよ。)
そしてかおるが桜の杖のメンテではなく大改造と言ったのは・・・
にしても先輩の奴、どうやって檜製の杖を古代樹素材に変更するのやら。
素材自体は富士ダンジョンで大量入手してあるが杖自体の素材を変更したのではリフレクトエクスペリエンスの経験反映効果は得られない。
勿体つけずに教えてくれりゃいいのに。
早速女子部屋へ赴いた賢斗はかおるにルンルンマッサージ。
「サンキュ~ベリ~マッチョマン、賢斗くぅ~ん♪」
誰がマッチョマンだよ、ったく。
「礼なんて良いからさっさと桜の杖をメンテして上げて下さい、先輩。」
「かおるちゃん頑張ってぇ~っ!」
「よぉ~し、武器メンテアンドロイドかおるちゃん、はっしぃ~んっ♪」
やれやれ、何時改造手術受けたんだ?この人。
かおるがルンルンメンテに取り掛かるとその光景を桜が目の前の特等席で眺める。
賢斗も傍らでそれを見ていたのだが・・・
「あのぉ勇者さまぁ、お暇でしたら私の肩も揉んでくれませんか?」
えっ、別に今暇じゃありませんけど・・・って、何とぉっ!
「ハラリ、ここは渾身のセクシーアピールですぅ~。」
茜は賢斗に背を向けつつも浴衣の肩口をはだけるとその白い肌を露出させる。
湯上りで髪を上げている彼女、その綺麗なうなじと細い首筋はか弱い女性らしさに満ちていた。
う~む、気になるとはいえ所詮自分以外の武器メンテ、結果だけ見せて貰えれば事は足りるか。ニヤリ
かおるがルンルン状態である今、無粋な邪魔は入らない。
彼は今自分が何をすべきかを即座に理解した。
「うん、良いよ。
じゃあ茜ちゃんはどのコースで行く?」
初めて賢斗のマッサージ三昧を味わう事となる茜だがその話くらいは聞いていたり。
賢斗のマッサージにはスッキリコースや爽快コース等様々なコースがある事は彼女も知っていた。
「私は勿論勇者さまのお任せコースでお願いします。
茜は身も心も勇者さまにお任せですよ、なんちゃって。」
・・・お任せコースと来たか。
聞いて驚く事なかれ、この旅行を控えここ最近そのレべリングに注力していた賢斗のマッサージ三昧スキルは今やレベル11にまで到達。
結果とんでもないモノまで会得するに至っていた。
つっ、使って良いのか?今ここで気分ムラムラマッサージを。
多少気が引ける心持ちではあるがお任せコース等と言われては退路は断たれている。
彼は本邦初公開となるこの大技を披露しようとやらしい手つきで茜の肩に両手を伸ばした。そぉ~ワナワナ
いや~しかも女の子の肌に直に触れてモミモミするとかこの私ちょっと緊張いたします。
しかしだらしない表情を浮かべる賢斗の背後には忍び寄る一つの影が。ポン、モミモミ
びくぅっ!って何だ、円ちゃんか。
「では賢斗さんの肩は私がお揉み致しますね。」
スリスリ、モミモミ、スリスリ、モミモミ・・・う~む、これどちらかというとスリスリがメインだな。
気持ち良いか?と言われれば大したことは無いが女の子の小さな手で肩もみされるのは何とも心が安らぐ、うむ。
まあ兎も角だ、今はそれより茜ちゃんのマッサージに集中せねば。
では改めまして、そぉ~ワナワナ・・・
しかしまたもやその作業は中断される。
ガチャリ、ん、誰?
ドアに目を向ければ熱血ファン魂と書かれた鉢巻を額に巻き、手にはデジカメを持った女性の姿。
「おおっとぉ、こいつはいきなりのシャッターちゃ~んすっ!パシャ」
「なっ、何お前写真なんか撮ってんだよっ!」
「あっ、お気になさらず、これはファン倶楽部の会報に載せる写真ですから。」
「気になるわっ!つべこべ言わずにそのデータを消去しろっ!」
「なぁに言ってるんですかっ、多田さん。
ファンは驚きを欲しているんです。
この和洋折衷ハーレムキングの爆誕証拠写真を消すとかお馬鹿さんのする事ですよ?」
「五月蠅ぇっ!良いからそのカメラよこせっ!」
賢斗は立ち上がると蛯名のカメラを奪い取って消去ボタンをポチッ。
「ったく、プライベート写真を公開したいってんなら本人の許可が必要だってのはお前にも分かるだろぉ?」
小言を言いつつ取り上げたカメラを返してやると蛯名はしばらく賢斗の顔を無表情で見つめそのまま何も言わずに部屋の隅へ。
そこで正座をしたかと思えば額の鉢巻を「只今反省中」と書かれた物に取り換えた。キュッ
何だろう、このコイツの怒られ慣れてる感じ。
あまりに素直な反応でちょっと拍子抜けだぞ。
とはいえ何だか気分も削がれちまったしこんな奴が見ている前でムラムラコースを試す訳にも行くまい。
賢斗は無難な爽快コースに考えを改めると茜の肩に手を伸ばすのだった。
がしかし三度その作業は中断させられる。
「うぉ~、すっごぉ~い♪」
びくぅっ!今度は何?
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○アイテムオークションの結果○
一方お隣の部屋では中川、水島、椿の三人が緑茶を飲みつつ語らいのひと時。
テーブルの上には本日開催されたアイテムオークションのカタログから取り外されたファイルが並べられていた。
「へぇ、桜達が出品したアイテムってそんなに高く売れたんですかぁ。」
「ええ、落札総額は4億5060万円。
うちが買い取ったアイテムの総額と合わせれば6億円近い額が彼等の手元に入った事になるわ。
これなら1か月を待たずして清川ダンジョンの名義変更が必要になるかもしれないわね。」
「それはそうと先生、今回のオークションではダンジョンコアも出品されていたんですね。」
「まあ今ダンジョン省の方で採算の取れないダンジョンのコア回収事業を進めていたりするからね。
今後も国からダンジョンコアが出品される機会があるかもしれないわ。」
「あのぉ、中川さん、ダンジョンコアがあれば好きな場所にダンジョンを設置出来るんですよね?
お値段も5億円くらいで落札されたみたいですし清川ダンジョンなんか買わずにダンジョンコアを購入した方が良いんじゃないですか?」
「まあ椿がそう言いたくなる気持ちも分かるけどその出品されたダンジョンコアの回収元、新海ダンジョンってなってるでしょ。
あそこは元々悪臭が酷いダンジョンで有名だったところ。
新たに設置しても元々のダンジョンの性質みたいなものは変わらないなんて言われているし、私からすれば落札額がどうであれまるで利用価値のない代物なのよ。」
「だったら先生、今後良さそうなダンジョンコアがオークションに出品されたら購入するつもりなんですか?」
「どうだかねぇ、そんな幾つもダンジョンなんて要らないし良さそうなダンジョンコアならそれこそ10億円以上の額になり兼ねないと思うわよ。」
「まあ確かにそうですね。」
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○紅炎の変化杖 その2○
クルリッ、賢斗が桜とかおるの方に顔を向ければルンルンメンテが佳境を迎えていた。
手にした宝樹 ドリアードの枝が伸びていくと桜の杖の上に金色の種子が零れ落ちる。
するとその種子はまるで自らの意思で杖の中へと埋まって行った。
ドクンッ、一瞬脈動したかの様に震えた杖は全体が仄かに輝き出す。
汗びっしょりのかおるの手は未だその杖をかざし続ける。
そしてその変化は唐突に訪れた。
メキメキメキメキィィィィッ!
まるで生命が宿ったかの様に成長する杖、太さが増し長さも伸びていく。
更には上部の魔石台座部が大きな三日月型にその造形を変貌させていった。
ゴクリ、予想以上に凄いじゃねぇか。
「あっ、かおるちゃんっ!」
杖の輝きが収まると力尽きた様にかおるはふさぎ込む。
その彼女の身体を桜が支えると賢斗は手を貸し二人でかおるを布団に寝かしつけてやった。
「ふぅ、にしても大層パワーアップしたみたいだなぁ、その杖。
もうお前の身長よか長ぇじゃねぇか。」
「うんっ、何かさぁ、魔石まで赤っぽくなってるよぉ~♪」
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『紅炎の変化杖』
説明 :中魔石が埋めこまれた古代樹製の杖。使用者のイメージに従いその形を変化させる。火属性(中)。火耐性(小)。MATK+5。ATK+7。
状態 :300/300
価値 :★★★★
用途 :リビングウェポン。
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先輩の宣言通りホントに檜製の杖が古代樹製になってる。
そしてこの変化機能は魔法少女に変身した際、杖や衣装も同時に形状変化するからそれが今回のルンルンメンテで反映されたってところか。
にしてもリビングウェポンって何だろうな?
言葉的な意味からある程度推測は出来るのだがこういうのは水島さんに聞いた方が早いか。
「ポンッ、おおっ、ホントに箒になったぁ~。」
桜は杖を箒に形態変化させるとそれに跨り宙に浮いた。
「ほら賢斗ぉ、これ魔法の箒だよぉ~♪プカプカ~」
いやそれ別にその箒に飛行能力がある訳じゃねぇだろ。
「桜、その杖水島さんに見せに行こうぜ。
そんな変化機能まで付いたらお値段的な価値も気になるとこだしな。」
「あっ、うん、そぉ~だねぇ~、自慢しに行こぉ~♪」
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○紅炎の変化杖 その3○
「トントン、ガチャリ、光ちゃん居るぅ~?プカプカ~」
「あら、どうしたんですか?桜さん、その魔法の箒は。」
おっ、早速騙されてる。
桜と賢斗の二人は事の経緯をその部屋に居た三人に話して聞かせ解析結果の疑問点を質問してみた。
「へぇ、あの杖リビングウェポンになったんですかぁ、凄いですね。
リビングウェポンというのは一般的にインテリジェンスウェポンと言われる武器の下級品の様なものです。
ドリアードの種子が埋め込まれた事によりその杖自体に下級精霊が宿ったのかもしれませんね。」
ああ、やっぱそういう事だったか。
「でも買取となるとリビングウェポンというのはそこまで高値に繋がりません。
その状態の武器は中に宿っている精霊がまだか弱い下級精霊なので殆どの場合放っとくと3日くらいで普通の武器に戻ってしまうなんて言われていますし。
恐らくですがその変化機能もその際失われてしまう可能性が高いですね。
とはいえ古代樹製の杖となればその杖の価値は跳ね上がりますし、うちで買い取るなら700万円くらいでしょうか。」
ほう、中々の買取額、元が10万円くらいだった事を考えれば・・・
「でもそれ売るつもりならオークションに出した方が良いわ。
今やナイスキャッチの小田桜が愛用していた杖となればそれだけで価値は爆上がり。
今光が言った額の倍以上の値が付くと思うわよ。」
おおっ、1400万円とは大出世だな。
まっ、桜が売りに出すとは思えないけど。
「ねぇ京子ちゃん、変化機能が無くならない様には出来ないのぉ~?」
「そう言われてもねぇ、下級精霊が居なくなってしまう前に上位精霊に成長させる事が出来ればそれも可能だと思うけど・・・」
「あっ、それなら先生、ここ那須ダンジョンにある幻の源泉に浸けてやれば上手く行くんじゃないですか?」
ん、幻の源泉とな?
「まあそれなら確かに可能性はありそうだけどその秘湯って出現場所も出現時間もランダムで見つけられるかどうかは正に運を天に任せるしかないって話よ?」
ちなみにここ那須ダンジョンはCランクであり未だランクアップの更新が済んでいない賢斗達が普段このダンジョンへ入る事は出来ないのだが、このモンチャレ決勝のご褒美である那須ダンジョンツアーにはその点の特別侵入許可も付いている。
中川の口にした「運を天に任せるしかない」その言葉に賢斗は即座に反応した。
ふっ、そんなのうちの桜先生なら余裕でしょ。
話を終えた賢斗達は元居た女子部屋に戻る。
「あっ、勇者さまぁ、お待ちしておりました。」
そういや茜ちゃんにマッサージしてやるとこだったっけ。
「ゴメンゴメン茜ちゃん、すっかり後回しになっちゃって。」
賢斗は茜へのマッサージをしようと再び彼女の背後に回る。
するとそのまた後ろには当たり前の様に円が位置に着いた。
う~ん、何だこれ。
まっ、いっか、モミモミ・・・パシャ!
その瞬間部屋の隅からデジカメのシャッター音。
「おい、どうあっても会報の写真が欲しいというならもっと凄い事がさっきこの部屋で起こってただろっ!」
彼のマッサージは四度中断する事となった。
次回、第百五十六話 こういうのが見たかったんじゃないのか?




