第百五十四話 テイマーズバトル大会参加要項
○ダークホースの出現○
翌7月25日木曜日、午前中賢斗達は国立ダンジョンアイテム博物館で行われた天叢雲剣寄贈式典に出席。
その模様はお昼のニュースでも伝えられ天叢雲剣については三種の神器の最後の一つとして近く国宝にも指定予定、博物館での一般公開は週末からだそうである。
そして午後に入ると館長である吉井の案内で博物館内を見学、彼等が拠点部屋に帰って来たのは午後3時頃であった。
いや~結局丸1日潰れちまった感じだなぁ。
まっ、博物館見学は結構面白かったけど。
「皆さんお疲れ様でしたぁ。
小腹が空いたでしょうからこれでも食べて下さい。」
居合わせた茜がテーブルの上に紙包みを置いた。
おっ、たい焼き。パクッ、モグモグ
「それはそうと多田さん、これがテイマーズバトル大会の参加要項ですよ。」
水島にプリント用紙を手渡されると賢斗はそれをテーブルの上に置いて眺める。
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~テイマーズバトル大会参加要項~
≪大会目的≫
テイマーの地位向上と今後魔物が社会的に活躍出来るものとして多くの人々に知って頂く事を目的としています。
≪開催日時≫
8月23,24,25日
≪開催場所≫
円形コロシアムギガントドーナツ(8月中旬完成予定)
≪参加申込≫
テイマー協会支部の窓口から参加申し込み申請を行って下さい。
※本大会は御一人様1体までの申し込みが可能となっております。
申込受付期間
8月1日~8月22日まで
参加資格
テイマー登録者
参加費
10000円
参加者特典
出場申請の際、魔物3体分の低濃度魔素抗体ワクチンを無料配布致します。
≪入賞特典≫
優勝 賞金10000000円
準優勝 賞金5000000円
※以下10位まで賞金有。
≪ルール説明≫
試合形式
制限時間3分でテイマーとテイムした魔物が協力して戦うバトル形式。
テイマーはテイマーズサポートの他補助系スキル等でご自分のテイムモンスターをサポート出来ます。
※HP回復効果のあるスキル、アイテムでのサポートは反則となっていますのでご注意下さい。
禁止事項
テイマー自身が攻撃を加える事。
テイマー本人への攻撃。
相手のギブアップ宣言後の攻撃。
勝利条件
相手の棄権。
ギブアップ宣言。
テイムモンスターを戦闘不能。
制限時間終了時に相手より残HP比率が高い。(※引き分けの場合は純粋にHP量の高い方が勝者となります。)
≪注意事項≫
万が一参加者のテイムモンスターが消滅した場合でもテイマー協会は一切の保証を致しません。
これは棄権やギブアップの判断もまたテイマーの能力でありその責任はテイマー自身が負うべきものと考えるからです。
これに賛同される方のみご参加下さる様宜しくお願い致します。
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ふ~ん、これが中山さんの言ってたテイマーズバトル大会ねぇ。
参加費が1万円も掛かるみたいだが3体分の抗体ワクチンを先行して貰えるってのはきっとかなりお得な話なんだろうな。
「ホントに銀二叔父ちゃんがこれに出ろって言ってたのぉ~。」
「ああ、俺達ナイスキャッチのメンバーの内誰か一人に優勝して欲しいんだってさ。」
最初俺一人の話かと思ってかなり焦ったぜ。
この大会には賢斗の他に桜とかおるの両名がその参加意思を表明。
円だけは小太郎の存在を意識し即断せずにいた。
「それとこっちはテイムスキルのレベルアップ時の情報を集めて私が纏めてみたものです。」
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~テイムスキル概要~
テイムLV1
テイム条件HP1 テイム可能数1
テイムLV3
特技テイマーズチェックを取得。
テイム時のテイム成功率をチェック出来る他、これにより離れていもテイムモンスターの情報を確認出来ます。
※魔物討伐を指示して放置、ピンチになったら助けに行くといった魔物のレべリング方法が出来る様になるそうです。
テイムLV5
テイム条件HP10%以下 テイム可能数2
特技テイム解除を取得。
テイムモンスターのテイム状態を任意に解除できます。
テイムLV7
テイム条件HP20%以下 テイム可能数3
特技テイマーズサポートを取得。
応援してやる事でテイムモンスターのステータスが一時的に上昇する。
※詳細は良く分かりませんがその効果の程度や時間にはバラつきがあるそうです。
テイムLV10
テイム条件HP40%以下 テイム可能数5
特技テイマーズコールを取得。
どんなに離れていても一瞬でテイムモンスターを目の前に呼び寄せる事が出来ます。
テイムLV11
テイム条件HP50%以下 テイム可能数6
特技マジックコートを取得。
テイムモンスターの階層間移動やダンジョン外への連れ出しが可能になります。
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これまた良く調べたなぁ、流石は水島っち。
「こうなったら私もあのミサイル君は解放して桜に負けない高レベルの魔物を新たにテイムしないとイケないかしら。
スタートがレベル1の魔物じゃとても相手にならないだろうし。」
初開催となるこの大会には勿論予てからテイムした魔物を育てていた者達も参加するだろう。
それに対し現状なるべく高レベルの魔物をテイムしようとする行為は決して無駄では無くその差を少しは埋めてくれる筈である。
とはいえそんな諸々の事情を考えても俺の優勝の目はかなり薄いんだよな。
「かおるお姉さま、一つ私からお願いがあるのですが。」
「何よ茜、改まって。」
「実は私もテイムスキルというモノを取得してみようかと思いましてお姉さまに是非お力添え願えないかと。
断られちゃうかなぁ、私嫌われちゃってるみたいだしぃ。」
「別にアンタを嫌ってなんか居ないし変な事言わないで。
そのくらいお安い御用だから感謝しなさい。」
「わ~い、やったやったぁ。
かおるお姉さま大好きですぅ。
これで茜もテイマーズバトルに参加出来ますね。」
「えっ、茜ちゃんも出るつもりなの?」
「はい、勿論ですよぉ、勇者さまぁ。
もし仮に優勝でもしちゃったら話の流れからして私もナイスキャッチに入れるのかなと思いまして。
これで勇者さまのお傍には何時も私の存在が。
想像しただけで顔がにやけちゃいますね。」
へぇ、茜ちゃんがうちに入りたがっていたとは。
にしても俺的にこれ以上パーティーに美少女が増える事を諸手を上げて喜ぶ訳にも・・・
つかそれ以前にこの茜ちゃんが優勝しちゃった場合彼女をナイスキャッチのメンバーにする事でホントに中山さんとの約束を果たした事になるのだろうか?
う~む、後でちょっと確認しとこう。
「馬鹿ねぇ、アンタの身体レベルじゃ大した魔物をテイム出来ないし優勝なんか出来っこないわよ。」
「それはやってみなければ分かりませんよぉ。
何と言いましてもこの私には補助系スキルの神楽舞がありますから。」
あっ、確かにテイマーズサポート辺りは皆が使いそうだが補助系スキルまで使う参加者はそこまで多く無いだろう。
「あっ、そうだ、じゃあアンタのその神楽舞スキルの取得方法を私にも教えなさいよ。」
しかも茜ちゃんの場合あの神楽鈴 奉神演舞でその効果が増強される訳だし・・・
「それは否ですぅ。
そしたらかおるお姉さまに勝てなくなっちゃいますからぁ。
あっ、でもこの大会が終わってからなら良いですよ?」
これはひょっとするとダークホースの出現か?
「ちょっとアンタねぇ・・・ピクピク」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○那須ダンジョン温泉ツアー その1○
7月26日金曜日午前10時、ギルドクローバーの面々にナイスキャッチファン倶楽部会長である蛯名を加えた一行は予定通り那須ダンジョン温泉ツアーへと出発。
ファミレスでの食事休憩や那須高原付近のアルパカ牧場へも寄った彼等が協会の宿泊施設に到着したのは午後4時頃の事である。
ガチャ・・・中山さんからOKが出てしまった。
これでもし茜ちゃんが優勝しようものならホントに彼女をうちの正式メンバーとして迎える事に・・・
俺的には今の距離感でも十分なんだがホントにこれで良いのだろうか?
とはいえ彼女の優勝確率を考えてもそこまで高くは無いだろう。
今からあれこれ考えても始まらんわな。
「うっわぁ~、ここかぁ~。」
豊かな自然に囲まれひんやりとした空気の中佇むのは豪華な和風旅館と言った感じの建物。
その雰囲気を壊さない様那須ダンジョン協会支部の建屋も併設されダンジョン入口からは30mと離れていない立地の良さ。
ほう、結構良い雰囲気だな。
チェックインを済ませると案内されたのは2階にある3部屋。
女性陣が8畳間の2部屋を八人が2班に分かれ使うのに対し賢斗は6畳間の和室で一人部屋である。
いや~俺だけ一人部屋とは贅沢だな。
ガラガラガラ、おっ、こっからはダンジョンの入り口が見えるのか。
「トントン、ガチャリ、賢斗ぉ、このお宿の中探検しに行こぉ~。」
「おう、そうだな。」
先ずは浴場をチェックしておかねば。ガラガラ、ピシャッ
そんな窓際の様子をダンジョンから出て来た浴衣姿の男が目撃。
何だよ、あの成金パーティーと宿泊日が被っちまったみてぇだな。
「ほら高貴君、突っ立ってると先行くわよ。」
「あっ、済みません奏先輩。」
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○那須ダンジョン温泉ツアー その2○
この施設の夕食は午後7時から宿泊客が宴会場の大広間に赴き並べられた御膳料理を頂くシステム。
その宴会場へと向かう途中賢斗はガンマニアの樋口の姿を見掛け軽く挨拶を交わした。
「おっ、久しぶりだね、多田君。」
「あっ、御無沙汰してます、樋口さん。」
まっ、モンチャレ決勝進出のご褒美だしこんな偶然もあるわな。
夕食を終え部屋に戻ると賢斗は早速風呂支度。
お食事中の会話からこの後直ぐ2班に分かれた女性陣が施設の温泉風呂に入浴するという情報を彼はゲットしていた。
さてこのチャンスを逃す手は無い。
俺もそろそろお風呂に行ってみますか。ガチャリ
「あらお出かけ?賢斗君。」
するとその部屋の前にはかおるが仁王立ち。
おっ、お疲れ様です。
かおるは既に賢斗の幽体離脱スキルの存在を把握している。
そんな彼女がこのタイミングで易々と彼に男湯行きを許可する筈も無かった。
「この後私達が入る時は光さんが賢斗君の監視役なんだから下手な気は起こさない事ね。」
勘の鋭い水島さんが監視役となればチョロインズとは比較にならん堅固さ。
どうやらこの第1ラウンドは諦めざるを得ない様だな。
その後9時過ぎになるとようやく賢斗は浴場へ。
体を洗って男湯の大きな湯船に浸かると目の上にタオルを置いた。
あ~気持ちいいぃ~♪
こうなりゃ普通に温泉を楽しみますかね。
とお風呂の中でリラックスしていると・・・
「ったく、まさか富士ダンジョンまで攻略しちまうとは。
正直ここまでやる男だとは思って無かったぜ。」
何時の間にか賢斗の横にはもう一人の人物が。
えっ、誰?チラッ、なっ、服部じゃん。
「お前今どの程度強くなってんだ?」
う~ん、折角良い気分だったのに。
「まあ身体レベルで言えばレベル25ってところだな。」
「何っ、だったら俺と同じじゃねぇか。
くそぉ、俺がモンチャレで優勝していたら今お前の居る場所に俺が居たかも知れないってのに。」
「いやでも俺が言うのも何だが富士ダンジョン攻略は普通レベル25くらいじゃ到底無理だと思うぞ。
あそこを攻略するには強さ的な実力は勿論大事だが広大なフィールドを制するハイレベルな探索力って奴も重要だからな。」
「ちっ、言うねぇ、だがまあお前にはそれを言う資格があるか。
あっ、そうだ、風呂から上がったらお前の部屋にちょっくら遊びに行っても良いか?
樋口の奴もお前に色々聞きたいみてぇだったしよぉ。」
えっ、野郎共に遊びに来られても俺はちっとも嬉しくないんだが。
「ったく、そんな露骨に嫌そうな顔すんなよ。
お前が喜びそうな情報を教えてやるからよ。」
えっ、俺が喜びそうな情報?
「今このお隣の女風呂には俺の事務所の先輩である踊り子シスターズのお二人が入浴中だ。」
何とっ、あの澪お姉さまが?
「探索者界じゃその美貌でかなり有名なお二方だ。
お前も名前くらいは知ってんだろ。」
コクコク、まさかホントに俺が喜ぶ情報をくれるとは。
「ふっ、その様子なら満足してくれたみたいだな。
精々妄想でも膨らませて楽しんでくれ。
じゃ、後でお前の部屋に行くから宜しくな。バシャアッ!」
服部が湯船から上がって行くと賢斗は早速幽体離脱。
壁をすり抜け女風呂へと向かってみれば・・・スゥ~、バチンッ!
うわっ、何これ?すっげぇ~ビックリしたっ。
「あっ、かおるお姉さま、今私の悪霊退散結界に反応がありましたぁ。」
っとに、賢斗君も懲りないわね。
次回、第百五十五話 紅炎の変化杖。




