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第十五話 ダンジョンショップと睡眠習熟

○魔石の買取○


 午後4時、ダンジョンを出ると賢斗達は魔石買取所に立ち寄る。


「それでは極小魔石Aランクが1個、極小魔石Bランクが32個で13300円となります。

 こちらが明細になりますのでお受け取りください。」


「あっ、ども。」


 ほう、倍とまでは行かないが昨日よりかなり上がったな。

 この調子でどんどん日当が上がって行ってくれれば良いのだが。


「はい、ありがとうございました。」


 ふぅ、とはいえ今日はものの5分で買取が終わったな。

 残るは魔石以外の通常アイテムの買取なんだが・・・


「魔鉄のインゴットなんですけど知り合いの鑑定士さんの店で買い取って貰って良いですかね?

 スキル取得講座の時の鑑定士さんが居るお店なんですけど、協会の買取額より少し上乗せしてくれるようなことを言ってたので。」


 やっぱり、少しでも高く買い取って貰わねば、うん。


「ふ~ん、高く買い取ってくれるのならそれに越した事はないわねぇ。」


「桜もそれで良いか?」


「いいよぉ~、私も名刺もらったけど多分同じ人だよねぇ~。」


 へぇ~、あの人鑑定した人皆に配ってたのかな?


「じゃあ、決まりで。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○アイテムの買取 その1○


 午後4時30分、名刺に載ってる小さな地図を頼りに自転車を走らせること15分、賢斗達は目的の店に辿り着いた。

 白く立派な大理石風の壁には高級感が漂い、二階建ての結構大きな建物。


『総合ダンジョンアイテムショップ CLOVER』


 うん、ここで間違いない。

 にしてもえらい高そうな店だけど、まっ、別に何か買うって訳でもないし、いっか。


 三人は自動ドアから中に入る。


「いらっしゃいませ~。」


 さながらジュエリーショップ然とした店内。

 中央には防犯対策の施されたガラスのショーケースが並び、その中にはダンジョン産のアイテム、スキルスクロール、アクセサリー類、ポーション類等々。

 両サイドの壁際の大きなショーケースには高額な武器、防具の類がディスプレイされ、奥の方にはまるで車のディーラー店舗の様な商談スペースまである。


 う~ん、場違い感半端ねぇな。

 良く分からんが帰りたくなってきた。


「賢斗ぉ~、ほらこれぇ~。」


「ん、どうした?」


 おっ、火魔法のスキルスクロールじゃん。

 って、嘘っ、高っかぁ~、1000万円もすんのかぁ。


「賢斗の言った通り、やっぱりすっごく高かったんだねぇ~。」


 ・・・いや俺の想像の遥か上ですけどね。


「おっ、おう、だろぉ?」


 にしてもあのスクロール売ってりゃ今頃俺の目標年収クリアしてたんじゃねぇか?

 う~ん、でもあの場合アレを売る選択をする訳にも行かなかったし・・・

 まっ、これは売値だし、買取額はこの半分が良いとこだろ。


「そちらはスキルスクロールの中でも、攻撃魔法としてかなり人気の商品なんですよぉ。」


 あらら・・・店員さんが来ちゃったよ。

 これだから高級なお店って奴は。


「これって売ったら幾らで買い取ってってくれるのぉ~?」


 なっ、余計な事聞くなって、桜。

 それじゃまるで俺達が火魔法のスクロールを売りに来てるみたいに思われるだろぉ?


「はい、通常は250万円とい・・・」


「いえ、300万円は出せるわよ。」


 ほら、やる気満々な店員さんまで・・・


 賢斗が振り向くとそこには何時ぞやの中川鑑定士が立っていた。


「あっ、先生。」


 中川が小さく頷くとその場にいた女性店員はお辞儀をして去っていく。


「ああ、どうもスキル取得講座ではお世話になりました。」


「いえいえ、多田君に小田さん、もう一方は初めましてかしらね。

 ようこそお出で下さいました。ニコリ」


「ダンジョンでアイテムを手に入れたから売りに来たんだよぉ~。」


「あら、そうでしたか。

 とはいえ先ずはそちらの席にお座りください。

 飲み物くらいはお出ししますので。」


「あっ、いえ、売りに来たと言っても俺達そんな大したアイテムを持ち込んで来てる訳でもないですし・・・」


「ふふ、別に高額なアイテムをお持ちでなくてもお客様に変わりはありませんよ。

 そんな事仰らずに、どうぞどうぞ。」


○アイテムの買取 その2○


「そこのメニューに載ってる飲み物ならお出しできますから、好きなものを仰って下さい。」


 商談コーナーに移動するとまた先程の女性店員が飲み物を訊ねて来た。


「あ、はい、すいません。じゃあアイスコーヒーで。」


「私はミルクティーがいい~。」


「私は抹茶オレで。」


 何か喫茶店みたいだな。


 程なく飲み物が来ると、それに後れて中川もやって来て彼女も商談コーナーの空いてる席に座った。


「では改めまして皆さん、今日は良くお出で下さいました。

 それで早速ですが本日のご用件の方ですけど、まさか本当に火魔法のスキルスクロールを手に入れたたのかしら?」


 ブフォッ!ったく、桜が余計な質問するから。


 この人は桜のラッキードロップの事を知っている。

 またその一方でこの人にはその鑑定内容が探索者マガジンに載った前科というものがあったり。

 ここでまた新人探索者である自分達が火魔法のスキルスクロールを手に入れたなんて情報が広まれば・・・


 賢斗の頭にはそんな考えが過っていた。


「そっ、そんな訳無いじゃないですか。

 さっき聞いてたのは、火魔法を何時か欲しいなぁって思っただけでごじゃりま・・・」


 ここは旨く誤魔化さねば・・・痛っ!


「今日は魔鉄のインゴットの買取をお願いに伺いました。」


 テーブルの下で賢斗の脚を踏みつけたかおるが代わりに返答した。


(デレデレしすぎ。)


 いや、してませんって。


(だって火魔法を手に入れたとか言えないで・・・痛っ!)


「そうでしたか。ではその魔鉄のインゴットを見せて頂いて宜しいですか?」


ゴソゴソ、ゴトン


 賢斗はリュックから魔鉄のインゴットを取り出し、テーブルの上に置いた。


「失礼ですが、これを何処で?」


「ああはい、白山ダンジョン1階層の宝箱です。」


「えっ、それは本当ですか?

 あそこの宝箱は、大凡7割が石ころ、2割が魔銅鉱石、残る1割が魔鉄鉱石といったものなんですよ。」


 ああ、そうだったのか。

 7割が石ころなら俺が2、3回石ころを連発したところで左程驚く程の事でも無かった訳か。

 にしても俺等より全然良く知ってんなぁ。


「あっ、もしかしてこれは昨日出現した銀製の宝箱から手に入れたものなのかしら?」


 うわっ、もうそんな事まで・・・この人の情報力、マジで凄いな。

 とはいえこの魔鉄のインゴットですら不自然となるとこっちも上手く誤魔化しておかないと。


「そっ、そんなことはごじゃりま・・・」


 痛っ!


「それだったら良かったんですけど、私達も開封された銀製の宝箱を見てとても驚きました。」


「そうでしたか。

 あそこの1階層で銀製の宝箱なんてこれまで聞いた事がありませんし、その宝を手に入れた方に是非お話しを伺いたかったんですけどね。」


(だってよ、やっぱ桜のラッキードロップは凄いな。)


(エヘヘ~、私は宝箱係だしねぇ~。)


(いや宝箱係が凄いんじゃなくてだな、ラッキードロップが凄いから宝箱係になってるんだろぉ?)


(あっ、そうかもねぇ~。)


 まっ、どうでも良いけど。


「とはいえ魔鉄のインゴットが白山ダンジョン1階層の木製宝箱から出たというのも十分驚きに値します。

 白山ダンジョンだとこれが取れるのは、もっと下層の宝箱から極稀にといったものですし、これはそのぉ・・・」


 そこまで話すと急に身を乗り出し声を潜める中川。


「小田さんのスキルの効果なのかしら?」


 痛っ!


(ちょっと先輩、いい加減にして下さいって。

 中川さんは俺と桜が受けたスキル取得講座の時の鑑定士さんなんだから、桜がラッキードロップの所持者だって事も知ってて当然でしょっ!)


(あっ・・・アハハ~ちょっと早とちりしちゃったみたぁ~い。テヘッ)


 テヘッじゃねぇよっ!


「うんっ、宝箱係の私が蓋を開けたんだよぉ~。」


「ふふっ、やはりそうでしたか、それなら色々納得です。

 でもそうですねぇ、この話は一般的には少々不向きかもしれません。

 小田さんの所持スキルへ繋がってしまう可能性もありますし、一応ここだけの話という事にしておきましょうか。」


 あれ、この人その辺の事をちゃんと考えてくれるんだ。

 う~ん、何か探索者マガジンに俺達のスキル情報を流した人とは思えぬ配慮振りなんだが。


「おや、多田さん。何か気に入らない点でも御座いますか?」


「いえ、そうは言ってもまたこの情報がその内他に流れてしまうのかなって心配になりまして。」


「またって、ああ、それはもしかして雑誌に多田さん達のスキル情報が掲載されていた件を仰っているのでしょうか。

 でもスキル取得講座の契約上探索者協会のデータバンクに登録される流れになっていたのは御存知ですよね。

 雑誌社の人はその情報を逐一チェックしてますし、多田さん達だけに限らず新たなスキルが鑑定された時には毎回雑誌に載ったりしていますよ。」


 へっ、そうだったのか、う~ん、となるとこの人を悪く言うのはお門違いも良い所?


「アハハ、そうだったんですね。

 何か済みません。」


 寧ろ俺なんかよりよっぽどその辺しっかりしてるし、逆に良い人なのかもしれない。


「いえいえ、とはいえ小田さんが手に入れたアイテムは今後もうちの店にお持ち頂いた方が宜しいですよ。

 不相応に高額なアイテムを持ち込む新人探索者が居るなんて情報が広まったら小田さんのラッキードロップに気付く人が出て来ても可笑しくありませんし。

 その点プロ鑑定士である私が居るこのお店ならその辺の情報管理も行き届いておりますし安心して頂いて結構です。

 そして何よりもう既に小田さんや多田さんの事情もある程度把握しておりますから。」


「そっすね。確かにこれ以上俺達のスキル情報が広まるのは避けておきたいところですし。」


「はい♪では本題の魔鉄のインゴットの査定の方も頑張らせて貰いましょうか。

 少し重さを量ってくるので皆さんは寛いでいて下さいね。」


○アイテムの買取 その3○


 5分程すると席を離れていた中川が賢斗達の元へ戻ってきた。


「大変お待たせ致しました。

 魔鉄のインゴットの方ですが今の相場に於けるうちの買取額はキロ当たり13万円。

 お持ち頂いた魔鉄のインゴットが2・2kgでしたので買取額は普通なら28万6千円になります。

 ですが多田さんと小田さんのお二人には以前のお約束もありますし30万円ピッタリの買取額を付けさせて頂きますが如何でしょうか。」


「うお~、すっご~い。」


 確かにあの鉄の塊に30万円の値が付くとは。


「ぜっ、是非買取をお願いします。」


「畏まりました。」


 あっ、そうだ、まだ買取品があったんだった。


「あの~、あとゴブリンがドロップした武器を修理して持って来てあるんですが、それも買い取って貰えますか?」


「えっと、それはどなたが修理された物ですか?

 失礼ですが素人が下手に修理された武器だとご期待に添えるかどうか分かりませんが。」


(あれ、話が違うじゃん、チラッ)


 賢斗が念話を送るとかおるは私は知らないとばかりに首を左右に振っていた。


 う~ん、これは下手に修理して持ち込まない方が良かったのか?

 でもまあ一応見るだけ見て貰うか。

 最悪リペア前の買取額でもOKなんだし。


「えっとまあ別に修理した分の買取額の上乗せとかは別に要らないので見るだけ見て貰っても良いですかね?」


「はあ、まあそういう事でしたら構いませんけど。」


 賢斗は修復した武器をテーブルの上に並べて行く。

 棍棒3本、短剣3本、片手剣5本。

 確かにかおるは職人でも何でもないが、彼女の持つリペアスキルの力でその耐久度は見事に完全回復し見た目も新品と思える程の状態に見えた。


「えっと、これで全部です。」


 中川は一つずつ手に取りじっと見つめて品定めしていく。


「これは大したものですねぇ。

 品質的にも申し分ないし修復跡が一つも無いわ。

 こんな事が出来るなんてもしかして皆さんの中にリペアスキルをお持ちの方がいらっしゃるのかしら?」


 うわっ、流石だなぁ、物を見ただけでリペアスキルで修理したって分かるのか。


「ああはい、私がリペアスキルを持っていてその武器達を修理してみたんですけど。」


「やはりそうでしたか。

 それで失礼ですが貴方のお名前を伺っても?」


「あっ、紺野かおると言います。」


「では紺野さん、物は相談なんですがうちの店に鑑定書登録をしてみてはどうでしょう。

 そうすれば今後貴方が修理したアイテム類の一切を信頼できる品として当店で買い取る事が出来ます。」


「えっ、鑑定書登録って?」


「ああ、登録はリペアスキルを貴方が所持しているという証明です。

 方法はお持ちのステータス鑑定書の写しをうちの店に出して頂くだけで結構なんですよ。

 もし知られたくない箇所があれば関連部分以外は黒塗りして出して頂く形でも大丈夫。

 今回に関して言えばそのお約束さえして頂ければこちらの武器についても修理の上乗せをした額で買い取らせて貰らおうかと思いますが如何でしょうか。」


 ほう、そういうシステムになってんのか。

 今後もこの店を利用するつもりなら登録しておいた方が良さそうだな。


「じゃあ、今度鑑定書の写しを持ってきます。」


「分かりました、では修理についての上乗せ分を含めましてこちらの棍棒は3本で1万5千円、短剣は3本で4万5千円、片手剣は5本で10万円での買取額になりますが如何でしょうか?」


「はい、お願いしますっ。」


 程無く買取を終えた賢斗達は受け取った明細書を見てニンマリ。


 おおっ、今回の買取で探索者口座のお金が14万円を超えたぞ。

 これなら取り敢えず今月は安心だな。


○桜の買い物○


 中川と最後の挨拶を済ませ後は帰るだけとなった三人。

 しかし店の出口へ向かう途中で桜が立ち止まった。


「私ちょっとお買い物していこっかなぁ~。」


 彼女の視線は壁際のショーケース内の杖に向けられていた。


 まあ金も入った事だし火魔法を覚えた桜が杖を買いたくなるのも分かる。


「そっか、じゃあその隙に俺も店内を色々見て周ってるよ。」


 連れが買い物中なら気兼ねなく店内を見てられるしな。


「うん。」


 そして15分程すると会計まで済ませた桜が賢斗達の元に戻ってきた。


「賢斗ぉ~、これにしたぁ~。」


~~~~~~~~~~~~~~

『木の杖』

説明 :小魔石を3つ埋めこまれたひのき製の杖。ATK+3。

状態 :100/100

価値 :★★

用途 :武器。

~~~~~~~~~~~~~~


 へぇ、12万円の木の杖か。

 まっ、初心者用の杖ではあるが有ると無いとじゃ大違いってところか。


「何か一気に桜が魔法使いっぽく見えて来たな。」


「でしょ~♪」


「うふっ、後はとんがり帽子にマントが有ったら完璧ね。」


「そ~だねぇ~♪」


 上機嫌の桜を先頭に店を出る三人。


「有難う御座いましたぁ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○女性鑑定士の思惑○


 午後7時半、クローバー内にある中川の執務室。


「先生、どうぞ。」


 立派なデスクに腰を下ろした中川の元に部下である水島がお茶を入れて持ってきた。

 彼女はショップ店員の傍ら何時も鑑定士見習いとして中川の指導を受けている所為か、普段から中川を先生と呼んでしまっている。


「ふぅ~、あっ、ありがと光。」


「随分お疲れのご様子ですね。」


「分かるぅ~?

 あっ、そう言えば今日、男の子1人と女の子2人の3人組が来てたでしょ?

 また来たら直ぐに私に教えて頂戴。次からは私が直接相手をするから。」


「あっ、はい。わかりました。」


 水島が部屋を出て行くとお茶で口を潤した中川は昼間の事を回想し始めた。


 にしてもあの二人が何の前触れも無くこの店に居たのにはビックリしたわぁ。

 スキル講座からしばらく経っちゃってたし、少し不安だったのよねぇ。

 まあ逃がすつもりはありませんでしたけど・・・ふふっ。


 でもまさか小田桜と多田賢斗がパーティーを組んでいたとは、それに加えてリペアスキル持ちの彼女まで居るなんて想定外の幸運だわ。

 あの娘の容姿も相当なものだったし色んな意味で好都合、これはもう三人纏めてうちの事務所に入って貰いましょう。


 まあそれはそうとあの二人はホント情報管理がなってないわねぇ。

 ドキドキ星人は嘘が下手だし、小田桜は帰りに杖まで買っちゃう始末。

 あれじゃ火魔法のスキルスクロールを手に入れましたって言ってる様なものじゃない。


 昨日の白山ダンジョンの銀製の宝箱の件は間違いなくあの子達の仕業ね。


 にしても改めてラッキードロップは凄いわねぇ。

 火魔法のスキルスクロールに魔鉄のインゴット。

 こんなのがホイホイ1階層から産出してたら、今頃白山ダンジョンは日本一の大人気ダンジョンよ、うふっ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移スキルの取得 その1○


 午後8時、アパートに戻った賢斗はパソコンで調べものをしていた。


カチカチカチ


 魔石以外の買取である程度の収入の目途は立った。

 しかしこれはほぼ先輩と桜の力によるところが大きい。

 とはいえそこは適材適所、リペアスキル辺りなら俺でも取得出来そうだが、パーティー的には別な分野で彼女達に報いた方が良いだろう。


カチカチカチ


 となると現状うちのパーティーで問題点として挙がっているのが遠距離攻撃を持つ敵への対処法。

 つまりは昼間試みた転移スキルの取得が今俺がすべきパーティーへの貢献という奴だ。


 意気込んで転移スキルの情報を調べ始める賢斗。


カチカチカチ・・・


 しかし1時間もするとすっかり諦めムードが漂っていた。


 ハハ、やっぱり転移スキルの習熟方法に関する情報なんて何処にも無いわな。

 まっ、冷静に考えてみると、あったら逆にビックリだし。

 でもあれだなぁ、俺的には習熟方法に関しちゃ別に調べる必要無いんじゃないか?

 今現在はチンプンカンプンだが、ハイテンションタイム中はそのメカニズムから習熟工程の構築までは出来て居た訳だし。

 要は習熟途中のイメージの強化が何度やっても上手く行かなかっただけの話で・・・ん、イメージの強化?


カチカチカチ


 おっ、こっちは結構ヒットしますねぇ。


 おや・・・ふむふむ、これはっ!


『・・・潜在意識にまでイメージが浸透すれば、そのイメージは強固なものとなる・・・』


 もしこれが本当なら、俺には一つ当てがある。


 直ぐに身支度を始めた賢斗。

 彼を突き動かしているのは以前右ルートの宝箱部屋で経験した不思議な感覚だった。


○転移スキルの取得 その2○


 怪しげなネットサイトの情報を鵜呑みにする訳には行かない。

 そんな考えを頭の隅に追いやり、白山ダンジョンに入ると彼の脳内マップには右ルートの宝箱は未開封状態の表示。


 急ぎ右ルート宝箱部屋に向かった彼は木製の宝箱に手を掛けた。


 そう、俺がこれから始めるのは睡眠学習ならぬ睡眠習熟。


 この宝箱には睡眠ガスの罠がありテンションタイム中にこいつで眠らされると潜在意識下で自我を保った状態になれる。

 自我があれば更にドキドキジェットを発動しハイテンションタイムにも成れるだろうしイメージ系の習熟活動なら寝た状態でもイケる筈。

 今回のこの潜在意識下で爆発的にイメージが強化されるという話がホントなら、前回上手く行かなかった工程を見事に克服してくれる事だろう。


 さあ、早速行ってみるか。


 賢斗はドキドキエンジンを発動すると宝箱の上蓋を押し上げた。


プシュー


 白いガスが噴き出すとその身体は横に崩れ落ち彼は予想通りまた不思議な感覚になった。

 そしてそこからドキドキジェットを発動しハイテンションタイムに突入、転移スキルの習熟を進めて行く。


 まずは自分の存在を座標化し、移動先との相対位置を固定。

 そして移動先の物理的障害の把握。

 次は自身の観測座標を移動先へと修正し、その修正したイメージを強化・・・・・・さあここが正念場、頑張れっ。


 ・・・固定完了、おっ、イケたっ!


 そして自身の個体情報を量子レベル解析。


 情報転送。


 事象開始。


 個体の魔素化。


 個体再構築。


 よし、一通りの習熟工程をこなす事は出来た。

 あとはこれを反復し事象の具現化を完成させるだけ・・・いっけぇ~。


 一連の工程が星の瞬きのような速さで繰り返されて行く。


『ピロリン。スキル『空間魔法』を獲得しました。『短距離転移』を覚えました。』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移スキルの取得 その3○


「・・・うっ、うう。」


 15分後、賢斗は顕在意識の覚醒と共に目を覚した。

 周囲を見渡せば彼が居る場所は宝箱から5m程離れた位置。


 ふむ、どうやらあのアナウンスは夢では無かったみたいだな。

 とはいえ散々転移スキルとか言ってたけど、転移は空間魔法の一つの魔法だったって事か。


 でもこれ今更なんだけど、人前で使うのはちょっと不味いかもしれないなぁ。

 転移なんて使ったら帰還石や往還石、はたまた超レアアイテムの転移石でも持ってるんじゃないかと勘違いされかねない。

 俺みたいな底辺探索者がそんなの持ってるなんて思われたら即行襲われちまうだろうし、うんうん。

 よしっ、やっぱりこれはパーティーメンバー以外の前では使わない様にしとこう。


 にしてもこの転移の魔法ってダンジョン外でも使えんのかな?

 帰還石や往還石はダンジョン内限定アイテムなんて言われてるし、ダンジョン外でも使えればそれってもう転移石と同じ。

 どのくらいの距離を転移出来るのかとかも気になるところだし。

 ・・・まっ、その辺の検証はまた明日だな。

 今日はもう疲れたし・・・


 賢斗は両手を振り上げ大きく伸びをする。


 う~~~ん、さぁ~て、そろそろ帰りますかぁ。チラッ


 あっ、そういや宝箱まだ開けてなかったな。


 これまでこの白山ダンジョン1階層で彼が開けた宝箱から出たのは石ころだけ。

 そんな一抹の不安が彼の頭をかすめる。


 いやいや~、今の俺は空間魔法なんつー凄いスキルを取得しかなりついてるから大丈夫。

 桜の様な魔鉄のインゴットとまでは言わないが、魔鉄鉱石くらいなら出てくれて良い筈、よしっ。


 気を取り直し賢斗は宝箱の後ろ側に回り込むとその上蓋を持ち上げた。


プシュー


 噴出したガスは程なく晴れる。


 さて、今日の俺ならイケる筈、来いっ、魔鉄鉱石っ!


パタン


 宝箱の中を覗き込んだ彼はその上蓋をそっと閉じた。


 見なかったことにしよう、うん。

次回、第十六話 探索者委員会。

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