第百四十六話 ハニートラップ
○ハニートラップ その1○
午後8時、クローバー執務室のドアを叩いた少年をその部屋の主は快く迎え入れていた。
「あら多田さん、ちゃんと逃げ出さずに来たわねぇ、待ってたわよぉ♪」
「ふっ、当たり前じゃないですか。
不肖この私ボスの願いとあらば何が何でも応える男ですよ。ニヤリ」
インフィニティ揉み放題、これを前にして逃げるとか意味が分からん、うんうん。
「あら、それだったらマジコンが失格になる様な結果にはならなかった筈だけど。」
「あっ、いやっ、それはですねぇ~、アハハ~、いや~なんと申しましょうか・・・」
「ウフッ、まあ良いわ、それよりドアの鍵を閉めて頂戴。
未だ光も居る事だしご褒美タイムをあの娘に見られたら私もちょっと困るわ。」
はっ、仰せのままにっ!
私と致しましても他の人に見られて喜ぶ趣味など一切御座いませんよぉ。ガチャ
二人はソファに並んで腰を下ろす。
「では早速多田さんへのご褒美を始めましょうか。」
はいっ、待ちに待っておりましたっ♪
最早この私の両手の疼きを止める事などできませんぞっ。
「と言ってもご褒美条件のマジコン結果だけ見れば失格は失格。
トップテン入りはおろか中間順位すらクリアしていない。」
へっ、何故今そんな事を?
何か雲行きが怪しくなってきたな。
「だから改めて多田さんへのご褒美を二つ提案させて貰うわ。」
うそぉ~ん、そのインフィニティ様揉み放題じゃないのぉ?
・・・ボスだって今回はそれを補って余りある結果だって言ってた癖にぃ。
コロコロと変わる賢斗の表情を楽し気に眺める中川。
「うふっ、まあそんな顔はご褒美の内容を聞いてからにしてくれるかしら。
まず一つ目は今私が付けてるブラをプレゼントよ。
服の上から触るだけよりよっぽど良いでしょ?」
たっ、確かに・・・ボスの生ブラなら一生の家宝に。
てっきり変化球で誤魔化されるのかと思いきや、これは予想以上のご提案だな。
「そして二つ目は上半身裸の私の胸に直接顔を埋めさせてあげる。」
えっ、嘘・・・ボスの生インフィニティにですとっ?!
これは揉み放題以上のご褒美ではっ!
「さあ多田さん、どっちにする?」
「二番で。」
即答だった。
「あらそう、おススメは一つ目なのだけどホントにそっちで良いの?
途中キャンセルとかは一切受け付けないわよ。」
「ええ、男に二言はありませんよ。」
記念品より実体験って奴が人生に於いては大事な事なのさ、フッ
「うふっ、わかったわ、じゃあ悪いけどちょっと目隠しさせて貰うわね。」
なっ、そう来たか、まあ確かに生乳を拝ませてくれるとは一言も言っていなかった。
うちのボスならこんな落とし穴の一つくらい当然用意しているわな。
中川は賢斗にそっぽを向かせると後ろから黒いアイマスクを彼に着けた。
だがしかぁ~し、この賢斗さんを甘く見てはいけない。
視覚を奪われようとも触覚ドキドキを使えばそれを補う事等いとも容易い。
生ブラにチェンジする気など微塵も起きてはおりませんぞ。
発動っ、ドキドキエンジンっ!
って、あれ、可笑しいな。
発動っ、ドキドキエンジンっ!
やっぱりだ・・・う~ん、はっ!
「ボスぅ、もしかしてスキルキャンセラー使ってません?」
「あら、一体何の事かしら?ウフッ」
・・・これは絶対使ってんな。
とはいえこうなっては致し方なし。
生乳の感触だけでも存分に堪能してやろうではないか。
「じゃあ多田さん、今度はちょっと口を開けてこれを咥えて。」
ア~ン、パクッ、って何これ?・・・はっ!
なるほど、そういう事か。
しかしこんな物まで口に咥えさせられたら、否が応にも期待値が跳ね上がるじゃないですかぁ♪
つまりこれはちょっと質感が違うがエアホイッスル的なアイテム。
ボスのインフィニティともなれば流石に窒息の恐れが生じちゃったりしますからねぇ♪うんうん。
「はい、賢斗ちゃん良く出来まちたぁ。
じゃあおネムの時間でちゅよぉ~、ナデナデ」
へっ、賢斗ちゃん?おネム?
急にボスは何を・・・ってあれ、不味い、今とっても大事なトコなのに・・・バサッ
中川に撫でられた賢斗は強烈な睡魔が襲われ彼女に寄り掛かる様に眠ってしまうのだった。
はい、良い子良い子、ウフッ
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○ハニートラップ その2○
ムニャムニャ・・・うっ、ううん、パチッ、あれ、寝ちまってたのか。
目覚めると時刻は午後10時。
彼は執務室のソファの上でブランケットを被り横になっていた。
何でこんなとこで・・・はっ、ボスのご褒美は?
キョロキョロと部屋を見渡せど中川の姿は無い、そしてテーブルの上には黒い封筒、その隣に小さな紙包みが置いてあった。
どゆこと?
賢斗は手紙を読み始めた。
『多田さんへ。
今回のご褒美はこれでお終いよ。
ちゃんと終わってるから同封した写真を確認して頂戴。』
えっ、これでお終いって、俺はまだ何も・・・
封筒に入っていた写真を手に取っってみると・・・
ぬぁんだこれはぁっ!
その写真には上半身裸になった中川の胸に顔を埋める少年が一人。
これを見れば今回のご褒美が既に終わってしまっている事は一目瞭然であった。
だがしかし只それだけであれば彼がここまでの驚きを見せる事はなかっただろう。
まさかこんなチャイルドプレイがご褒美だってのかっ!
そう、目隠しされた彼の口にはおしゃぶりが、首には可愛らしい涎掛けまで掛けられていた。
ぐぬぬ・・・ボスめ、何ちゅうマネを。
そしてこんな恐ろしい写真を握られて居ては文句を言う事すら出来ない。
彼は今後の人生が終わりかねない写真を手にしつつ手紙の続きを読んでいく。
『PS、ちなみに紙包みの中の物も記念にプレゼントするわ。
本来赤ちゃん用のマジックアイテムなのだけど、ある条件を満たす男の子にも効果があるそうよ。』
ガサゴソ、紙包みに手を入れてみれば、それは彼が咥えさせられていたおしゃぶり。
誰がこんなもん要るかっつのっ!
手にしたそれを壁に投げつけようとする彼だったが・・・
にしてもある条件って?・・・あっ。
ようやく賢斗は今回のご褒美に隠された中川の真の狙いを理解した。
そう、これは中川が仕掛けたハニートラップ。
図らずも彼女の秘密を暴いてしまった賢斗は不相応に重い枷を見事に掛けられていたのだった。
倍返しどころの騒ぎじゃねぇな、ったく。
やっぱうちのボスマジ怖ぇわ。ブルブル
と恐怖に打ち震えていたのも束の間。
その後彼はしばらくその写真を眺め続けていたそうな。
いやしかしインフィニティ様はやはり最高ですなぁ。
俺の頭が無けりゃもっと最高だったんだが・・・
ボスもこの写真がご褒美だってんならもうちょっとサービスしてくれても・・・よしっ、抗議しよう、出来ないけど。
一方赤い高級スポーツカーを飛ばす女性は鼻歌混じりに家路に就いているのだった。
私も少し楽しんじゃったわねぇ。
チェリーボーイ君にもご満足頂けたかしら?ウフッ
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○リトルマーメード その1○
7月20日土曜日、今日からギルドクローバー合同の朝のダンジョン活動も再開。
しかし北山崎ダンジョン1階層には現在、賢斗と桜以外の姿は無い。
これは先程・・・
「私もお空を飛んでみたいです。」
・・・もう全く隠す気は無い様だな。
といつでもおんぶ権を獲得した円が誰憚る事無くこんな事を言い出したのが原因で、その睡眠習熟に同調した面々をかおるが引き連れ白山ダンジョンへといった次第である。
さて残ったお二人さんだが、こちらはこちらでやるべき事が盛り沢山。
まず桜は方角ステッキを使いここ北山崎ダンジョンにあるであろう乗り物系オブジェクトの存在をダンジョン外から確認。
それが終わると今度はその有無確認を1階層から順に進めて行った。
もぉ~4階層まで来ちゃったよぉ~。
(お~い、賢斗ぉ~。
もう調べるとこ5階層だけになっちゃったから迎えに来てぇ~。)
と桜はここで賢斗にご連絡。
その賢斗の方はマジコン前から進めていたこの北山崎ダンジョンの攻略作業を再開。
残すところは最終の5階層のみとなっていた訳だが、通路を抜けてみればまたしてもその出口は海中。
海上に飛び出した賢斗はそのフロアの上空をくまなく飛び回っていた。
(ああ、了解。
つか今先輩達からも連絡があったから一旦拠点部屋に戻ろうぜ。)
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○今後の御予定 その1○
拠点部屋に戻ってみればかおると円の他に水島の姿も。
「円ちゃんも空中遊泳取れたのぉ~?」
「ええ、私に掛かればあんなスキル朝飯前ですよ、桜。」
だったらもっと早く取れよ。
「そういや水島さん達は何を取得したんですか?」
「それは今後を見据えて全員空間魔法を取得させて頂きました。
これが最も実用的ですし、清川購入後はあそこの入り口前の土地も買い取って事務所を立てる計画もありますから。」
ほう、そいつは初耳だな。
「そうなると将来的には私達も清川ダンジョンとの往来が増えると思うので今からその準備という訳です。
一々多田さん達のお世話になる訳にも行きませんからね。」
「ふっ、それはどうも。
でもそんな計画があるならここの店のスタッフが誰も居なくなっちゃいそうっすね。」
「ええ、だからその辺も今日から店舗スタッフとしての役割を小田さんの御姉さんである椿さんにお願いしてありますよ。
今も店頭で仕事覚えて貰ってますし。」
ふ~ん、何か椿さん、そのままクローバーに就職しちまいそうだな。
「そうだったんすか。」
「あと計画では皆さんへの新たなサポートとして今後新しいダンジョンへは私が先行して訪問しておくというのもあります。
前以て行きたいダンジョンを言っておいて貰えれば皆さんを直ぐご案内出来るという訳です。
今回空間魔法を覚えたのにはこんな理由もあったりするんですよ。」
確かにこれは助かるかも。
今後は遠征先も遠くなっていきそうだし、最初の移動時間が長くなるのは目に見えてる。
「え~そんなことしなくて良いよぉ~。」
えっ、何で桜と意見が合わないの?
「そうですよ、光さん。
もう私次の候補地のチェックもしてたんですから。」
あれ、先輩も?
つかチェックって何?
「光ちゃんはさぁ、旅の醍醐味ってやつが全くわかってないんだよぉ~。
現地の街にも美味しいものが一杯なんだよぉ~。プンプン」
「はい、前回のかおるさんおススメのチーズケーキに海鮮丼どれもとても美味しかったです。」
「うんうん、またクローバーの経費ってところが何故か美味しく感じさせてくれちゃうのよねぇ。」
おおっ、思わず俺同様のクズをもう一人発見してしまった。
そしてこの水島さんの焦り様、なるほど、全てを理解した。
恐らく水島さんの先行訪問計画の発端は前回こいつ等が経費で贅沢三昧したのが原因。
にしてもあの土日の強行軍でこんな事態を招くとは・・・
しかしそうなるとあの時の俺へのお土産がレトルトカレー1個というのはどうなんだ?
ここは不満の一つもぶつけてやりたいところだが・・・
「そっ、そう言われましても・・・あっ、そうだ、来週末にはいよいよ那須ダンジョン温泉ツアーですよぉ、皆さん。
ギッ、ギルドメンバーも総出で御伴出来る事になりましたし、あの時よりもきっと楽しくなりますからぁ~。ハハハ」
何かうちのメンバーが済みませんでした、水島さん。
「そっかなぁ~。」
おい先生、もうその辺で勘弁しといてやれ。
にしても茜ちゃんまで来るのか。
これは俺的に何かとお楽しみが増えますなぁ。
って事でそろそろ助け舟を出して上げますかね。
「じゃあ来週クローバーはお休みなんですか?水島さん。」
「あっ、はい、多田さん♪
あそこの温泉は全部ダンジョン内にありますから魔力の湯に浸かりながら今回取得した空間魔法をバンバンレべリングする計画なんですよ。
慰安旅行扱いで先生が会社の方に了解を取ってくれました。」
確かにMPを気にせず魔法スキルのレべリングが出来るのは結構なチャンス。
俺もこの機会に上げられる奴は上げとくか。
「にしてもよく全員分の部屋が取れましたねぇ。」
「それはまあ私が聞いた時は半年先まで予約が一杯って言われちゃいましたけど、蛯名さんにお願いしたら一発でした。」
えっ、まさか・・・
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○リトルマーメード その2○
さて改めて北山崎ダンジョンへ向かう四人であるが、彼等はそのまま転移はせず駐車場へと移動していた。
賢斗がカプセル型アイテムを投げるとそこにドリリンガーが出現。
四人が後部ハッチから乗り込むと程なくその車両は姿を消した。
北山崎ダンジョン5階層スタート地点の上空。
ヒュ~~~ン、バッシャーン、ブクブクブクゥ~
突如出現した黄色い車両は海に落下するとゆっくり沈んで行った。
う~ん、完全防水つっても海水だし後でちゃんと洗車しとかないと錆びちゃうかなぁ。
先程の賢斗の探索でこの5階層には全く陸地というものが存在しない事が既に判明していた。
ではこのフロアで方角ステッキを使うには?
その解決方法がこのドリリンガーに乗ったまま直接転移する方法であった。
ガッシャン
着底したドリリンガーのモニターには岩質の海底が映し出されていた。
「リトルマーメイドのオブジェクトぉ~。パタン」
桜が方角ステッキを数回使うと見事に倒れる方角に偏りがあった。
「あっちにあるみたいだよぉ~。」
「そうみたいだな。
じゃあついでにダンジョンコア部屋の方角もやってみてくれ。
リトルマーメイドを見つけたら直ぐここの攻略も終わらせたいしな。」
「おっけ~。」
この後賢斗達はピンポイントの位置を割り出す為同じ作業を他の2か所で行う。
その際海底でのドリリンガーは推進力が上手く伝わらず、移動手段には転移を余儀なくされていた。
とはいえ30分後にはリトルマーメイドのオブジェクト及びダンジョンコア部屋の所在ポイントを掴む事に成功した彼等はそこで一旦ランチタイムを取るため拠点部屋へと帰還して行くのだった。
次回、第百四十七話 人魚岩。




