第百四十五話 ギルドクローバー戦略会議
○一夜明け その2○
午前10時、クローバー執務室。
「ええ、こちらこそ宜しくお願い致します。
はい・・・はい、では一応本人達の意思も確認しておきますので詳しい事はまた後日という事で。
はい、失礼致します。」
もう、今日は朝からひっきりなしねぇ。
「今度のお電話はどちらでしたか?」
「ああ、にゃんにゃんランドの社長さんよ。
今度自分の所のイメージキャラクターとしてナイスキャッチを起用したいらしいわ。」
「うわ~やりましたねぇ。
にゃんにゃんランドって言ったら県内に3店舗もある猫カフェチェーンじゃないですか。」
「ええ、美少女四人の猫コスプレが自分の所のイメージにピッタリなんですって。
ぷふっ、ホント有り難いお話ね。」
「あはっ、その社長さんきっと昨日の特番ご覧になられてたんですねぇ。
でもその言い方だともしかして多田さんの女装に気付いてないんじゃないですか?」
「そうかもねぇ、でもまあそこは敢えて確認しないのが商売を上手くやるコツよ、光。」
あっ、先生悪い顔してる。
ちなみにマジコン大会に於いて飛ばされていた撮影用ドローンはSランク探索者である中山氏協力の下設置されていたものだがその範囲は19階層まで。
賢子ちゃんが活躍した20階層、21階層での戦闘の模様は特番では放映されていない。
しかし帰還報告を行った際の模様はしっかり特番でも放映され、真近で見るドリリンガーのインパクトと合わさり結構な反響を呼んでいた。
「ところで先生、例のドリンクカムカムの飯田さんからは連絡ありましたか?
マジコンは確かに失格でしたけど、決して悲観する様な結果では無かった筈ですけど。」
「そうねぇ、でもまああそこは結構大きな会社だし色々あるんじゃないかしら。」
トゥルルルルル
あら、噂をすればって奴かしら。ガチャ
「・・・ああはい、こちらこそ御無沙汰しております。
・・・態々有難う御座います・・・
アハハ、ええ、今回はご免なさいね、まさか失格になるとは私も思って無かったし。
・・・ウフッ、そう言って貰えると助かるわ。
ええ・・・ええ・・・じゃああっちの方は予定通りという事でお願いするわね。
はい、それじゃあまた。ガチャ」
「どちらでしたか?」
「ああ三角さんよ、ナイスキャッチの富士ダンジョン攻略おめでとうですって。
後は清川ダンジョン落札の件の確認ね。
それより光、今日はギルドクローバーの戦略会議を開くから貴女は今回のマジコンでナイスキャッチが獲得したアイテムリストをお願いね。」
「あっ、はい、分かりました。」
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○アイテムエンジニア○
昼休憩、昼食を取る賢斗の眼前にはニコニコと頬杖を突き彼の食事風景を眺める上級生が一人。
「いや~意外と私と賢斗君が一緒に居るとだぁ~れも話し掛けて来ないもんねぇ。」
ええ、ギャラリーは凄い事になってますけどね。モグモグ
「それで先輩、今日のご用件は?」
「何よそれ、そっけないなぁ。
こんな状況だし君とちょっとイチャついてみようかなって思ったんだけど。」
ブフォッ!これだけの人前でそんな事したらこの学校の全男子生徒を敵に回しちゃうでしょ。
「ほら、そのパン貸して。
私が千切って食べさせてあげる。ウフッ♪」
つかこの人の場合それは寧ろ大歓迎って感じか。
超恥ずかしがり屋の癖に俺を攻めるのだけは大好物とかホント始末に負えない。
「じゃあ先輩がこのパンをカミカミしてから直接マウストゥマウスでお願いします。」
「なっ、ちょっ、そんな事出来る訳ないじゃないのっ!」
ほれ、やっぱり。
「だったらさっさと用件済ませてお帰りを。」
「うぅぅ、仕方ないわね。
はい、これ、新しいジョブのスペシャルスキルを使ったら何とかロングコートの復元に成功したわよ。
君はこの愛しのかおる先輩に大感謝しなさい。」
「おおっ、ホントっすかっ。
ハハァ~この度は大変有難うでござぁ~い。」
(でもホント凄いっすねそのジョブ。
スペシャルスキルまであるとか。)
(うん、一応SRランクのジョブみたいだからねぇ、アイテムエンジニアって言うのよ。
スペシャルスキルの方はスクラップ&ビルドって言って完全破壊されたアイテムでも場合によっては復元可能って感じの効果ね。)
(場合によってはってどういう事っすか?)
(それは完全破壊されても今回のロングコートの様にボロボロになってしまった生地が残るケースもあるでしょ。
復元の成功率はその残骸の残存率に依存してるってこと。)
(あ~そういう事っすか。)
とはいえそうなるとアイテム自体が完全消失してしまわない限りは復元できる可能性がある訳だな。
いや~流石はSRランクのジョブだわ。
「って事でまた放課後ね、賢斗。ウフッ♪」
おい、最後もちゃんと君を付けてけ。
「うぉ~~~、今呼び捨てにして行ったっしょぉぉぉ~っ!」
ほれ、馬鹿が一々反応するだろぉ?
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○ギルドクローバー戦略会議 その1○
午後5時、クローバーにある会議室では中川と水島それにナイスキャッチの面々を加えたメンバーで戦略会議なるモノが開かれていた。
「今日は忙しいところ悪かったわね。
でも早めに皆で話し合っておきたい事案が幾つかあるので勘弁して頂戴。
という訳でまず一つ目の議題は神器 天叢雲剣の寄贈に関する件よ。
これに関してはナイスキャッチというパーティーの問題なのだけどギルドとしても今後の活動に大きく影響を及ぼす内容。
四人にはこの機会に我々の意見も参考にしつつ慎重に決定して貰いたいの。
といっても先ずは貴方達四人がどうしたいのか、夫々考えを聞かせてくれるかしら。」
「俺個人としては正直ちょっと自分で天叢雲剣を使ってみたい気持ちはあります。
でもそうなるとこの国宝級のお宝を俺一人が独占する形になりますし、寄贈すればSランクへの道が開けパーティー全体の為になる。
そう考えるとここは寄贈するのが正解かなって。」
「別に賢斗が使ったって誰も文句言わないよぉ~。」
「そうそう、私だって今回ドリちゃんを手に入れた事だしそこで君に変に気を遣われちゃったら逆に困っちゃうもの。」
「何を言っているのか分かりませんよ、賢斗さん。
その剣は手に入れた時から賢斗さんが使うべきだと私は思っておりました。」
まあなぁ、剣装備は俺だけだしSランク推薦なんて話がなけりゃ・・・
「やはりまだちゃんと決まってはいない様ね。
ならここは一つ私の話も聞いてくれるかしら。
その博物館への寄贈の話だけど仮に寄贈しても多田さんが必要な時にまた使える形にして貰ったらどう?」
「そんな事出来るんすか?」
「交渉次第では出来ると思うわよ。
こんな高額な国宝級アイテムなら書面で正式な寄贈契約が交わされる事になるだろうし、そういった特約を付けて貰えば良いのよ。
とはいえちゃんと事前連絡を入れたり休日の書き入れ時には貸出不可、下手したら閉館日のみ貸出可能って事にもなりそうだけど。」
ふ~ん、まっ、そういう手もあんのか。
「それともう一つ。
今回そのアイテムを寄贈すれば貴方達間違いなくSランクに成れるわよ。」
えっ、いや寄贈しようがSランク選考委員会が招集されるだけ、ホントに俺達がSランクに成れるかどうかはその委員会で・・・
「逆に言えばこんなチャンスが次に舞い込むとすればそれはもう5、6年先、しかもその時のSランクへの昇格期待度は今回程高くないと思っておいた方が良いわ。」
そうなの?
「それってどういう意味ですか?」
「まあこれに関しては多少推測が入るけど結構自信はあるわよ。
貴方達ももう知ってるでしょ?ダンジョンにジョブ持ち個体の魔物が現れ始めている件。
以前より危険度が増し始めたダンジョン、今後この情報が広がれば探索者人口の減少、特に新しく探索者に成ろうとする若者が減って行く事くらい誰にだって簡単に予想できる。
業界的には今ジョブの出現で色めき立っているけど協会としては寧ろそっちの方を心配してるのよ。
そんな時に高校生である貴方達が富士ダンジョンを攻略。
協会としてはこれを利用しない手は無い。
史上初の高校生Sランク探索者パーティーの誕生なんてビッグニュース、世間の目を逸らすにはまさに打ってつけだもの。」
はあ、成程ねぇ、そんな裏事情があったればこそあの爺さんから寄贈の話を持ち掛けられたという訳か。
まっ、よくよく考えりゃ本来寄贈なんて自発的にやるものだしな。
「とまあそんな協会側の事情は兎も角今回ギルドとしての意見を言わせて貰えばあの天叢雲剣は絶対寄贈しておくべきだわ。
ゴッズ級の装備アイテムと言えばもう二度とドロップされないユニークアイテム。
中でも有名な三種の神器なら売れば数億は下らないでしょうけどSランク探索者パーティーという名誉はそれ以上の恩恵を今後我々に齎してくれる筈だし。」
おおっ、やっぱ売れば数億もすんのか。
う~ん、でもなぁ、ボスにここまで力説されちゃ寄贈しませんとは・・・
「じゃあ寄贈って事にしようか?皆。」
「え~賢斗が使わないんだったら私が使うぅ~。」
「いやこれ両手剣だし桜じゃ振れないだろ。」
「そんな事ないってばぁ~。」
いや絶対無理だから。
「私は賢斗さんの御好きな様にして頂いて構いませんよ。」
「まあ私も賢斗君がそう言うなら別に構わないけど、ホントにそれで良いの?」
「ふっ、何言ってんすか?先輩。
俺の相棒はこの先もずっとこの先輩から貰った愛剣ですよ。」
「えっ、あっ、そっかぁ♪
賢斗君が愛しの先輩から貰った剣を手放せる訳なかったわね。
すると私はずっと君の手の中で生涯を送る事に・・・」
おい、途中から主語変わってんぞ。
「不束者ですがどうぞ宜しくお願いします。」
「いえいえこちらこそ宜しくお願いします。」
って、何だこれ?
「でそろそろ最終的な意見を聞かせて貰って良いかしら。」
「はい、じゃあ今回はその中川さんの言う何時でも使用可能な形での寄贈って奴で行こうかと。」
まっ、自分達の気持ち一つで決めるより、周囲の状況を踏まえたボスの意見の方が正解な気がするし。
「そう、良い判断よ、じゃあ後の連絡や相手方との交渉に関しては私と光で進めておくから、貴方達もそのつもりでいて頂戴。」
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○ギルドクローバー戦略会議 その2○
「それで次の議題なんだけどこれはギルドから四人へのお願いになっちゃうわね。
ともあれ先ずはナイスキャッチが今回富士ダンジョンで獲得して来たアイテムリストに目を通して貰えるかしら。」
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~富士ダンジョン獲得アイテムリスト~
~買取予定~
氷魔法のスキルスクロール 買取単価400万円 数量1
シルバーワイルドウルフの毛皮 買取単価50万円 数量3
ビッグスノーワームの甲羅 買取単価200万円 数量15
ケラトプスの角 買取単価500万円 数量5
神酒 八塩折之酒 買取単価3000万円 数量1
魔銀鉱石1トン 買取額 1億円
小計1億9050万円
~アイテムオークション出品予定~
大吟醸猿殺し 出品時開始額500万円 数量1
金色シルク 出品時開始額700万円 数量1
ゴーレムコア 出品時開始額1000万円 数量6
マグマニウムヘルム 出品時開始額1800万円 数量1
小計9000万円
合計2億8300万円
~不買アイテム~
シルバーワイルドウルフの毛皮 数量2
古代樹の枝 数量12
魔銀鉱石を0.2トン
宝樹 ドリアードの枝
神楽鈴 奉神演舞
ケラトプスの角 数量5
地下探索車両 ドリリンガー
神器 天叢雲剣
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おおっ、ほぼ3億円って、俺達こんなに稼いでたのか。
これなら天叢雲剣を寄贈してもそんなに痛くも・・・ってイカンイカン、感覚が麻痺してるぞ、うんうん。
「一応事前に光が貴方達に確認して置いた筈だけどこの内容で間違いないかしら?」
「ないよぉ~。」
「はい、にしても私もある程度予想はしていましたがこうして現実化されてみると改めて小田さん擁するナイスキャッチの力は凄いの一言ね。ウフッ」
「そっかなぁ~、エヘヘ~♪」
うんうん、先生は本来そうやって盛大に踏ん反り返ってて良いんだぞ。
「ちなみにアイテムオークション品に関してはこのスタート額の1.5倍から2倍くらいの値が期待出来るわ。
そうして見ると今回の売却総額は実際のところ3億円以上に換算できるかしらね。」
ふむ、となると俺一人の今回の報酬は7000万円以上。
贅沢し放題だな、こりゃ。ニヤリ
「ではここからが本題、今我々ギルドクローバーは清川ダンジョン購入に向け動いている最中だけれどその資金繰りは芳しくない。
それで今回貴方達が富士ダンジョンで稼いだお金をそっくり無利子で貸して欲しいの。」
えっ、まあ貸すって事ならどうせ運用する知識なんか持って無いし良いけど。
「そうなれば清川購入資金は銀行からの融資と合わせて8億円くらいまで見積もれるし確実にあそこのダンジョンを購入出来る筈よ。」
それに俺としても清川が他人の手に渡るのは避けたいとこだし。
「とはいえ只ギルド側が一方的に融資を受けるって話だけじゃ貴方達も困るわよね。
だからこういうのはどうかしら。
今後お金が溜まったら清川を貴方達が何時でもギルドから落札時の価格で購入できる権利を付ける。
つまり行く行くはダンジョンオーナーの名義が貴方達に変わりその後はギルド側から賃料を支払う事になる。
まあ現時点でその賃料は毎月50万円くらいで考えているのだけれどどうかしらね。」
ふ~ん、利子代わりにそんな特典つけてくれんの。
まっ、ギルド所有の形で何等問題無い訳だが、ダンジョンオーナーとは何ともそそる響きではある、うん。
それに毎月安定収入が見込めるのは将来的には結構魅力的かもな、探索者なんてやってれば今後どうなるか分からん訳だし。
つっても買い取るにしたって足りない数億円をこれから貯めなきゃならん訳だが・・・
「今の貴方達なら5億円くらいひと月ふた月で簡単に稼ぎ出しちゃいそうだし、こちらとしても銀行からの融資期間は短い方が助かるのよ。」
いやいやボス、幾ら俺達でもそんな簡単に・・・
Sランクになれば富士ダンジョンもフリーパス。
また銀鉱脈でも幾つか見つけてしまえばあら不思議。
おや・・・確かに意外とイケるかも。
「でもまあこの件の返事は四人で相談して今週中にでも聞かせて頂戴。
という事で時間も結構経っちゃったし今日のところは終わりにしておきましょうか。
あと明日はナイスキャッチの今後の活動スケジュールについても色々とお話をさせて貰う予定だからまた同じ時間に集まる事。
それでは解散。」
中川の言葉で席を立ち退室して行く面々、しかし議長であった彼女は一人その場に留まり最後方を歩く賢斗にアイコンタクトを送っていた。
えっ、何すかボス?
声も出さずに口をパクパクと動かす中川・・・後で待ってるわよ、多田さん。ウフッ
はっ、了解でありますっ!
次回、第百四十六話 ハニートラップ。




