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第百四十四話 宴

○宴 その1○


 午後4時、クローバー拠点部屋に帰還すると午後7時から祝勝会を開くと中川からのお達し。

 一旦自宅に帰った賢斗達だったが、その時刻には近郊にあるチャイニーズレストランへと足を運ぶ事になった。


 通された個室には高級中華が乗った丸テーブルを囲みギルドクローバーの面々が勢揃い。

 椿や茜の姿もあるそこには賢斗に向かってビーム攻撃ポーズを取り続ける孫娘の姿も。


 何でまたコイツまで居るんだよ。


「先ずは多田さん、小田さん、紺野さん、蓬莱さん、今回は大変お疲れ様でした。

 マジコン失格は確かに残念な結果でしたが、富士ダンジョンの完全攻略はそれを補って余りある結果。

 今日このお食事会は誰が何と言おうと祝勝会に間違いありません。

 それではナイスキャッチの富士ダンジョン完全攻略にカンパァーイ!」


 大人組はビール未成年組は炭酸レモン飲料片手に宴の席は始まった。


パシャパシャ


 にしても丸石さんまでカメラマンで呼ばれてんのか。

 まっ、あの人の席だけ何故か隔離されちゃってるけど。


 何てことを思いつつ賢斗は隣に座った水島の分も含め大皿から回鍋肉を取り分けると早速食べ始めた。


「有難う御座います、多田さん。

 あっ、でもさっきのアレは何ですか?

 私を抱えて飛ぶ時はもうちょっとスピード落として飛んで下さいよぉ。

 何か私に恨みでもあったんですかぁ?モグモグ」


 彼女が言っているのは富士ダンジョン広場から飛び去った後の事。

 ステーキハウスへ向かう途中その飛行速度は時速100kmを軽く超えていた。

 レベルが上がっている桜や円はまだしも水島にとってはとても耐えられる様なモノではなかったのである。

 そして目的地に辿り着いた頃には彼女は既にグロッキー。

 その顔はとても生きた人間のモノとは思えなかったとか。


「いや~アハハ、そんなの全然ないですって。

 とはいえこの機会に水島さんにはちゃんとご説明しておくべき事案が一つありまして・・・という訳です、御理解頂けましたか?モグモグ」


「はいはい、その辺はちゃんと分かってますよぉ。

 人と違う趣味に目覚めてしまった戸惑いは理解出来なくもないですから。モグモグ」


「いやだからそうじゃなくってですねぇ、別に俺はこれっぽっちも目覚めては・・・モグモグ」


 などと賢斗が水島と少々込み入ったやり取りをする中、一方では・・・


「はい、茜ちゃん、この鈴お土産だよぉ~。」


 少女三人が茜に奉神演舞を渡していた。


「えっ、こんな高価そうな神楽鈴をホントに貰っちゃって良いのですか?」


「別に構いませんよ、茜さん。

 その程度のアイテム、このナイスキャッチに掛かれば幾らでも手に入るアイテムですし。」


「でもその代り、私の言う事にはちゃんと従って貰うわよ。

 それと今後も必要な時は何時でもその鈴を使わせて貰うつもりだから、レンタルに近い感じに受け止めて置いて。」


「それはもう、私がかおるお姉さまの言いつけを破った事が有りましたでしょうか?

 あっ、あったかもしんない、内緒内緒、キャッ」


「良かったわね、緑山さん。

 これからは四人の気持ちに応えるためにも頑張って頂戴。」


「えっ、四人?それはつまりこの神楽鈴には勇者さまの想いもてんこ盛り。

 となれば今夜はこの鈴と一緒にお布団に入っちゃったりなんかして。

 うわぁ、ちょっと茜ったら大胆過ぎぃ。」


 ・・・結構妄想激しいわね、この娘。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○宴 その2○


 宴が進むと神楽鈴を手にした茜が皆の前で神楽舞を披露していた。


シャーンシャーンシャーン


ワァ~パチパチ~


 いや~やっぱ踊ってる時の茜ちゃんは最高だな。

 何か清楚で厳かな感じが溢れちゃってたし。

 しかもあの鈴でこんな綺麗な音色を奏でるとは・・・ムフッ


「とっても綺麗だったわ、緑山さん。

 ちょっと私にもその神楽舞を教えてくれないかしら?

 こう見えて昔日本舞踊を習った事もあるの。」


 ほう、そんな高尚な習い事まで、うちのボスは流石ですなぁ。


「へぇ~、そうなんですかぁ。

 ではこの鈴を持って私の動きに合わせてみて下さい。」


 って、おいおい、その鈴をボスに持たせちゃ・・・


ゴワァーンゴワァーンゴワァーン


 まっ、そうなるわな。


 しばらく手にした神楽鈴を見つめていた中川は鋭い視線を少年に向けた。


キッ!グルンッ!


 しかしその瞬間彼は凄い勢いでそっぽを向いていた。


「多田さぁ~ん、明日私の部屋に一人でいらっしゃぁ~い。

 今回のご褒美上げないとだし、来なかったら承知しないわよぉ♪」


 へっ、今回のご褒美?

 まさかボスはこの結果でも・・・


ガクガクガクガク・・・


「はっ、ははは、はい必ず。」


 恐怖を欲望で克服していく少年の姿がそこにはあった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○宴 その3○


 1時間もすると賢斗のお腹も膨れ、いい加減何時お開きでも良い感じ。

 そんな彼の視界の片隅では先程から蛯名っちがビーム攻撃を放ち続けていた。


「おい、蛯名っち、それ一体何のつもりだ?」


 賢斗が暇つぶしがてら聞いてみると・・・


「ふっふっふ、どうやらようやく効いてきましたね。

 このビームは蛯名っちが編み出した興味津々ビームです。

 これの前では何人たりとも私に興味を魅かれてしまうとっても恐ろしいモノなのですよ。

 恐れ入ったかコンチクチョーっ!」


 ふっ、確かにそんな効果がホントにあったら恐ろしいわ。

 にしてもその年で良くそんな阿呆なマネが出来るよなぁ。

 つっても今は目出度い宴の席、偶にはコイツのおふざけにも付き合ってやるか。ソレッ


「ばりあーっ。」


 賢斗は両手で自分の前に長方形の壁を描いた。


「一体何をやってるんですか?多田さん。

 そんな幼稚なマネなんて今時小学生だってしませんよ?」


 ・・・どうやらコイツは死にたいらしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○宴 その4○


 時刻は午後8時50分。

 店に居られる時間もあと10分程になっていた。


「そういや水島さん。

 一つ早めにお願いしておきたい事があったんですけど。」


「えっ、何ですか?一体。」


 賢斗はロングコートの残骸が入った透明なビニール袋を取り出すと水島に見せる。

 そして保証で何とかして貰おうと事情を説明してみると・・・


「ああ、多田さん、それきっと保証外って言われちゃいますよ。

 だってそんな極寒な気温下ではとても通常の使用方法とは言えませんし。」


「いやでもまだ買って一週間も・・・」


「まあ確かに他の探索者の方達もそんなメーカーの推奨気温をしっかり守ってる方ばかりではないですし、多田さんの言い分も分かります。

 ですがこういうケースで幾らごねても買った側に勝ち目はありませんよ。」


 へっ?嘘、俺の1000万円が、ガーン


 賢斗が失意のどん底に沈んでいると・・・


「賢斗君、それちょっと一晩私に預けてみなさい。バサァ」


 そう言ってかおるは賢斗の持つビニール袋を取り上げた。


「もしかしたら何とか出来るかもしれないから。」


 それホント?グスン


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○一夜明け○


 7月19日金曜日午前8時10分。

 今日のナイスキャッチの朝のダンジョン活動は無し。

 何時もより早く登校している賢斗には周囲の視線が突き刺さる。


 チリンチリン、ほえ~、これまたモンチャレ優勝以来の雰囲気。

 経験上こういう日は休んだ方が良いのだが・・・ボス曰くこういう日に休むのは馬鹿のする事だそうである。


 教室のドアを開ければ・・・ガラガラガラ


「おっ、高校生ランキングトップ様がお越しになられたっしょー。」


 そんな言葉を吐きながらモリショーは手にしたスマホの画像を見せ付けてくる。


--------------------------------------

~探索者パーティーランキング高校生部門~

1位 ナイスキャッチ(4) Eランク(初年度) 13691000円

2位 ソードダンス(3) Eランク(3年目) 2432050円

3位 ガンマニア(3) Eランク(3年目) 1775060円

・・・

--------------------------------------


 ほう、断トツトップに躍り出たか、まっ、高校生ランキング等どうでも良いが気分自体は悪くない。

 こいつ一人くらいなら別に相手をしてやっても良いところだが・・・


 その声に反応しクラスメイト達がドカドカと周囲に集まり出した。


 やはりこうなってしまうか。

 しかし今の俺はこれまでと一味違う、転移っ。


「なっ、賢斗っち、何処行ったっしょ~?」


 賢斗が転移したのは教壇の机の裏側、身を隠した彼はそこで潜伏を発動、しばらく様子を見る事にした。


 ふっ、今までチンピラ探索者の影に怯え人前での転移発動は控えて来たが、マジコンを経てレベル25にまでなった今その必要もあるまい。

 そして一般人と底辺探索者で構成されたクラスメイト風情がここに居る俺の存在に気付ける筈も無いのだ。フッフッフッ


 なぁ~んて思っている彼の元へと一直線に歩み寄る女生徒が一人。

 そしてすんなり教壇の裏を覗き込んだ彼女はそのまま、じ~~~~。


 えっ、嘘、何で見つめられてんだ?

 まさか気付かれて、ってちょっとちょっと顔近いって。


「居る?わよね、ペチッ、あっ、やっぱり。

 みんなぁ~、多田君はここに居るわよぉ~。」


 白川は賢斗の頬に両手を当てて確認するとそのまま彼の手を取って声を張り上げる。


 なっ、何故こうもあっさり・・・はっ!


 そう、彼女の持つマイダーリンにはどこでもセンサーなる特技が存在する。

 そして単に方角が分かるだけであったその効果内容は彼女の感情の強さにより精度が増していたり。


 ちっ、教室内に転移したのが間違いだったか、こうなったら・・・


「もう逃げちゃダメ。」


 そんな事言われて素直に聞く奴なんか居ないっつの、転移っ!

 あっ、あれ、おかしい、転移っ!転移っ!


「あはっ、やっぱり思った通りの効果だったみたい。」


 何だよそれ、まさかマイダーリンに新たな特技が?

 にしても俺の転移を封じる特技とはまた厄介な。

 一体どんな特技・・・いや待てよ。

 確か委員長の持つマイダーリンというスキルは意中の人にしかその効果が無い代物。

 となればその効果がどうあれ、ここはアレを使っちまえば全て解決できるっ。


 全てを無に帰せっ、精神洗浄っ!


 いや~委員長にはもっと早めにコイツを使っとくべきだったなぁ、反省反省。テヘ


「さあ多田君、捕まった以上は大人しくマジコン失格記念丸ごと多田賢斗クラストークショーを開催して貰うわよ。

 HRの時間は自由に使って良いって担任の細野先生から許可は取ってあるし。」


 おい、そんな不名誉なトークショー誰が開催するんだっつの。

 まっ、そんなものに付き合う気は更々無いし、別にどうでも・・・

 っておや、おかしいな、精神洗浄の効果があまり感じられないんだが、いやまあしかしそんな事ある訳無いか。

 となればここはもう屋上にでもトンズラさせて貰って授業が始まるギリギリまで雲隠れさせて頂こう、転移っ。


 しかし賢斗の長距離転移の魔法は未だその発動を阻害されていた。


 あれ?妙だな、精神洗浄効果で俺はもう委員長の意中の相手ではなくなった筈・・・


 多少鑑定モラルを気にしていたもののここでようやく賢斗は白川を解析してみる事に。


 なっ、嘘だろ・・・


~~~~~~~~~~~~~~

『マイダーリンLV10(-%)』

種類 :パッシブ

効果 :習得特技の使用が可能。

【習得特技】

『ハートウォッチング』

種類 :アクティブ

効果 :意中の人の気持ちが何となく分かる効果。

『どこでもセンサー』

種類 :アクティブ

効果 :意中の人の居る方角が何となく分かる効果。

『もう逃げちゃダメ』

種類 :アクティブ

効果 :触れながら「もう逃げちゃダメ」と言う事で意中の人の逃亡行為を阻害する効果。

『セーフティーハート』

種類 :アクティブ

効果 :意中の人への想いに対する外部干渉を一切遮断するセキュリティーガード効果。

~~~~~~~~~~~~~~


 新たに彼女が取得した特技の内容を見れば、今し方賢斗の身に降りかかった事象も頷けた。

 しかし彼にはそれ以上に気になる点が一つ。


 ちょっとこのレベルアップは早過ぎねぇか?

 委員長の奴は何の習熟促進効果も持ってない訳だし。


 勿論賢斗達の様に習熟ドキドキ等無くても2か月もあれば一つのスキルがカンスト状態になる事はあるだろう。


「ほら、早く立って、多田君。

 クラスのみんなが貴方のよもやま話を聞きたくて待ってるんだから。」


 がしかしそれはかなり能動的に動いた場合のお話である。


 う~む・・・


「なぁ、委員長って普段ダンジョンで何考えてんの?」


「へっ、なっ、やだっ、何でそんな事聞くのよっ。

 たっ、多田君には関係ないでしょっ。」


 最後は蚊の鳴く様な声になる目の前の少女は見事な乙女の恥じらいを少年に披露していた。


 ゴクリ・・・こっ、これ以上踏み込んではイケない説。

次回、第百四十五話 ギルドクローバー戦略会議。

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