第百四十三話 フィナーレの主役
○マジコン終了と帰還報告 その5○
「ふ~む、中々強情な奴じゃ。
なら一度見合いしてみるというのはどうじゃ?」
いやだから高校生に見合いとか、何時の時代の話だっつの。
ポンッ
あれっ、どして?
その瞬間、賢斗の女体化は特別応接室に居た者達の前で解除されていた。
「あははっ、追い詰められて女装が解けちまったか。
ったくビックリ箱みてぇな奴だな。
爺ぃもその辺で勘弁しといてやれよ、クククッ」
おや、こいつは好都合。
何か姿かたちだけ変わるスキルみたいに勘違いされちゃってたみたいだな。
にしても円ちゃんの猫人化はまだ・・・あっ、そっか。
猫人化の効果時間は1時間と高を括っていた彼であったが、これはスキルシェアリングの効果時間が切れた結果であった。
「ふ~む、仕方あるまい、この件はまた頃合いを見た方が良さそうじゃ。
にしても銀二、これはいよいよお主の話が現実味を帯びて来たのぅ。」
「ああ、俺の予想より遥かに早いが、条件は揃っちまった。」
えっ、何の?
「どうじゃ小僧、その手に入れた天叢雲剣を寄贈してみる気は無いか?」
へっ、寄贈?いやいや、そりゃ勿体ないお化けが出ちゃうでしょ。
「爺ぃ、それじゃちっと言葉が足りてねぇだろ。
この爺さんが言いたいのは、もしお前等がその国宝級のお宝を国立ダンジョンアイテム博物館にでも寄贈すりゃ、Sランク選考基準を満たすって事だよ。」
ん、Sランク選考基準?
「ちょっとぉっ!御二人とも何を考えてらっしゃるんですかっ!
ナイスキャッチの皆さんはまだAランクにも成ってないんですよっ!」
「何恍けた事言ってんだ?笹岡ぁ。
確かに5年以上Aランクを維持し続けるっってのはSランク選考基準の一つになってるし、これまでSランクに選ばれた奴等は皆そうだったかもしれない。
しかしお前の大好きな規定にはそんな事一切触れられてねぇだろ。
大事なのはその選考基準って奴を二つ以上クリアしている事だ。」
「ふむ、この富士ダンジョンの完全攻略は必須じゃが、他は特に決まっておらんからのぅ。」
「ですが選考基準には公共への貢献度というものも・・・はっ!だから寄贈させようと?」
「まあそういう事じゃ。
これなら間違いなくあそこの館長も首を縦に振る。
新たな乗り物系アイテムの入手も合わせれば、委員会の採決でも過半数は何とかなるじゃろうて。」
何かえらい話になって来てるぞ、おい。
もしかしてこの剣を無料で手放せばSランクに昇格出来ちゃうって話ですかぁ?
でも折角手に入れたお宝なのに、う~む、実に悩ましい。
とここで。
トントンガチャリ
「来客中どうも済みません。
ここに協会長と中山氏が居ると・・・ってお二人ともこんなところで何やってるんですかっ!
早く私と一緒に来て下さい、もう表彰式が始まってしまいますよっ!」
「ありゃ、見つかってしまったか。」
「ちっ、しゃあねぇ、時間切れか。」
そそくさと退室して行く両名。
「コッ、コホン、まあ兎も角Sランク推薦人資格のあるあのお二人があの様に言ってましたので、その天叢雲剣を寄贈する意思を表明すればSランク選考委員会が招集される事になるでしょう。
とはいえナイスキャッチの皆さんとしてもそれを寄贈するか否かを決める時間も必要かと思います。
それにマジコンを終えたばかりの皆さんをこれ以上足止めするのも気が引けますし、この話はまた後日という事で如何ですか?」
「はっ、はい、勿論それで結構です、ここでの返答は致しかねますし。」
うんうん、確かに即答なんて出来っこないわ。
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○フィナーレの主役 その1○
午後1時、入口前広場ステージ。
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第1位
第2位 松永 秀治(1) 獲得額 12000000円
第3位 梅干しパンチャーズ(3) 獲得額 9200000円
第4位 成瀬 浮雲(1) 獲得額 8500000円
第5位 ブラッディサービス(3) 獲得額 7500000円
第6位 ハデスギル小林(1) 獲得額 6800000円
第7位 ヘビィコンタクト(4) 獲得額 6600000円
第8位 葉山 恵(1) 獲得額 5800000円
第9位 なんちゃってバンジーズ(2) 獲得額 4350000円
第10位 踊り子シスターズ(2) 獲得額 4220000円
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『さぁ皆様、いよいよ今大会の覇者、第1位の発表ですっ!
栄えある第20回マジックストーンコンペティショングランプリの優勝に輝いたのはぁっ!』
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優勝 レッドライオン(3) 獲得額 13500000円
赤羽浩一(32)
青谷 流(31)
御茶目田 満(29)
総魔石獲得額 40500000円
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『やはり最後はこのパーティーっ!
優勝はレッドライオンだぁぁぁぁあっ!』
ウォ~~キャーパチパチ―
「あっ、蛯名協会長に中山さんっ!この大事な時に何処へ行っていたんですかっ!
もう段取りが滅茶苦茶ですよっ!」
「ふぉっふぉっふぉ、ちと野暮用での。」
「まあ兎も角これから表彰が始まりますから早く壇上に上がって下さい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○フィナーレの主役 その2○
ナイスキャッチ一同がコテージへと戻ると賢斗は一人洗面所でメイク落とし。
ゴシゴシ、ふぅ、やっとこの女装状態から解放されたか。
もうキャットクイーンの共有は懲り懲りだな。
その後帰りの荷物を纏めリビングに来てみれば、円の猫人化も解除され桜とかおるの猫コスプレタイムも終了していた。
「じゃあもう帰るだけですけど、皆さんお昼はどうしますか?
失格した場合には一人300円までって言われてましたけど、今先生に確認したら上限無制限って事になりましたし。」
ほう、単に失格だった場合にはそんな事態に・・・
小学生の遠足のおやつじゃあるまいしもうちょっとこう、いや普段の昼飯はそんなもんだな、うん。
まあ兎も角だ、富士ダンジョン完全攻略効果で限界突破した今、ここは帰りにどっかのお高そうなステーキハウスにでも寄って極上和牛ステーキでも・・・
「じゃあさぁ、屋台で何か買って来よぉ~。」
「ええ、私も屋台は大好きですしそれで構いませんよ。」
なっ、またお前等という奴は・・・
「チラッ、そうねぇ、私もそっちの方が良いかなぁ、何か面白そうだし♪」
おい、今目があっただろっ。
アンタ、お高い昼飯より自分の面白嗅覚を優先すんのかよっ。
「多田さんもそれで構いませんか?」
「はい、別に良いっすよ、それで。プンプン」
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○フィナーレの主役 その3○
屋台で買い物を終えた賢斗達は丁度空いていた広めの飲食スペースを見つけた。
するとそこにはテレビモニターが設置され今現在入口前広場のステージで行われているマジコンの表彰式の模様が流れていた。
・・・もし俺達がトップテン入りしてたら、あそこに立ってたかもしれなかったんだな。
しばし立ち止まったままその映像を眺めてしまう面々。
『いやぁ、優勝おめでとう御座いましたぁ。
これでマジコン3連覇達成っ、今のお気持ちを聞かせて下さい。』
『ふっ、まあほっとしたというのが正直なところだな。
今回ばかりは不確定要素も多かったし、見えない影に終始怯えっぱなしだったよ。』
『アハハ、確かに中間順位発表では第2位に甘んじていましたからねぇ。
その見えない影とはやはり松永秀治さんの存在でしょうか?』
『確かにアイツもそうだったが・・・いや、まあそんなところだ。』
『それでは最後にご覧の皆さんに何か一言お願いします。』
『皆さんの声援が我々レッドライオンを三連覇へ導いてくれたと感謝の気持ちで一杯です。
また来年もこの場に立って居られる様頑張っていくのでこれからもレッドライオンを宜しく。』
ウォ~~キャーパチパチ―
『大変有難う御座いましたぁ。
それでは本年度のマジックストーンコンペティショングランプリはこれにて閉幕。
また来年お会い・・・』
ウゥゥゥ――――ウゥゥゥ~
今まさにその大会が幕を閉じようとした時、突如この富士ダンジョン前広場全域に長いサイレン音が鳴り響いた。
おや、なにごと?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○フィナーレの主役 その4○
ウゥゥゥ――――ウゥゥゥ~
警戒を促す様な場違いなサイレン、この富士ダンジョンに来ていた人々全てが静まり耳を澄ませた。
『ピンポンパンポーン、臨時ニュースをお伝えします。
先程Dランクパーティーナイスキャッチによるこの富士ダンジョンの完全攻略が8年ぶりに認定されました。
繰り返しお伝えします・・・ピンポンパンポーン』
シィィィ――――ン
ザワ、ザワザワ、ザワザワザワ・・・
「今ナイスキャッチって言ったよな・・・」「マジか・・・」「ウソだろ・・・」「だってあいつ等・・・」「完全攻略ってどういう事?」ヒソヒソ・・・
ウワワワァァァァ――――――っ!!!
小さなざわめきは次第に大きな怒号へ、敷地内に居た全ての人々の歓喜の声が木霊した。
「おいっ、ここに居るぞっ!ナイスキャッチだっ!」
あっ、見つかっちった。
ドドドドドドォ~~~っ!
えっ、嘘・・・
見れば大勢の人の波が押し寄せて来ていた。
これは不味い。
「皆、一先ず上空退避だっ。」
賢斗は咄嗟に水島と円を両脇に抱きかかえると上空へ、桜とかおるもそれに続いていた。
ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ・・・ピンクちゃぁ~んっ!かおるさまぁ~っ!
すると真下ではナイスキャッチコールの大合唱が始まり、図らずも上空退避が目印に成ってしまっているのかその数はどんどん増えて行く。
おおっ、何か凄ぇな。
「ほらっ、多田さんも手を振ってあげて下さい。
あの人々は全員皆さんが今回成し遂げた大偉業を祝福して下さってるのですから。」
つってもなぁ、お目当てはどうせ・・・
ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ・・・
「・・・そっすね。フリフリ、アハハ~」
ふっ、失格しちまったが、これでちっとは報われた気になれたな。
他の少女三人は目を潤ませ地上の人々に両手を振って応えていた。
あらら、この感激屋さん達め。
・・・でもまあこんな光景見たら仕方ねぇか。
逆にここで涙の一つも流れない様ではどんだけ・・・はっ!
くそっ!・・・涙出ろぉ~、涙出ろぉ~、ダメか。
「先輩、ちょっと強めにほっぺを抓って貰えます?」
「どうしたの?賢斗君。グスッ
まさかこれが夢なんじゃないかとか思っちゃってるの?ギュウッ」
痛てててっ!よしっ、これでOK。ニヤリ
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○フィナーレの主役 その5○
一方ステージ会場では先程まで埋め尽くしていた人々の姿が嘘の様に無くなっていた。
なっ、たくっ、これじゃ一体誰が・・・くそっ。
マジコン優勝?
大会三連覇?
そんなもんを目標にしてた時点で俺達は・・・
「ふっ、まあそう気を落とすな、浩一。
あいつ等はこれまでの常識がまるで通用しねぇ規格外の化け物だからな。
つっても富士ダンジョンの最前線に居る事で満足しちまってたお前にはこれも良い薬になっただろ。
その気になりゃお前等だって十分まだ上を目指せる筈だし、もうちっと気合入れて頑張ってみろや。」
「・・・そっ、そっすね、中山さん。」
確かにこの人の言う通りか、俺達にだってまだチャンスは十分ある。
「会長っ!もう勘弁して下さいよぉ~。
こういうのは事前に言っといて貰わないと困りますって。」
「ふぉっふぉっふぉ、それじゃサプライズにならんじゃろうが。
それにこの大会の話題の中心に居ったのは常にあ奴等じゃなかったか?
これ以上このフィナーレの主役に相応しい奴等は他に居るまい。」
「分かりました、会長がそういうおつもりならこっちにも考えがあります。
おいっ、放送枠を2時間大至急押さえろ。
いや夜中でも何でも良いから大至急だっ!」
ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ!ナイスキャッチッ・・・
さて、いい加減帰りたいんだが、一体これ何時まで続くの?
見下ろす人の数はどんどん増えて行くばかり。
「なあ皆、飯も食い損なってるしそろそろ帰ろうぜ。」
「ですねぇ、これじゃあキリがありませんし。
でもこの様子じゃ地上に下りるのは危険ですし、私の車に乗る時も結構危ないかもしれませんよ。」
「あっ、車なら後で俺が回収に来ますんで大丈夫っす。
そんじゃあ桜、先輩、俺の肩に掴まってくれ。」
「ほ~い。」
「はいはい。」
よし、このままステーキハウスにレッツゴ~♪
キィィ―――ン、キラン
こうして第20回マジックストーンコンペティショングランプリはその幕を閉じた。
そして午後2時には全国にナイスキャッチによる富士ダンジョン完全攻略のニュース速報が流れ、夜中に放映された特番ではその時間帯で過去最高の視聴率を記録したそうである。
次回、第百四十四話 宴。




