第百四十二話 十中八九蛯名っち
○富士ダンジョン攻略認定用の写真撮影○
ラスボス討伐を終え、ダンジョンコアの部屋に移動した賢斗達。
早速攻略認定用の写真撮影を始めたのだが・・・
「ほら、早く写真撮ろ~よぉ~、賢子ちゃ~ん。
30分以上遅刻すると捜索隊出されちゃうよぉ~。」
くそっ、何たる失態だ。
猫人化を誤魔化すくらいは造作も無いと思っていたのに。
「そうそう、もうこの際仕方ないじゃない。
今写真撮って帰らないと攻略認定も貰えないんだから。」
「一体何が御不満ですか?賢斗にゃん。
折角かおるにゃんが皆の分の猫耳と尻尾を作って下さったのですよ。」
ああ確かに皆で猫コスプレしてりゃ上手い事誤魔化せるだろう。
だがしかしだ。
こんなボインな身体では女装趣味まで疑われちまうだろうが。
「もう、仕方ないわねぇ、皆、手伝って。」
「おっけぇ~。」
「むふぅ、賢子にゃんにも困ったものですにゃん。」
「なっ、お前等っ、何をするっ!ヤメロォォォ~~~っ!」
「「「ハイチーズ。パシャ」」」
ちなみに特段美形でもない賢斗が女体化しようが美少女になる筈も無かった。
しかしかおるにメイクを施されたその姿は仏頂面だがアングル次第ではアリな感じにまで仕上がっていたそうな。
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○マジコン終了と帰還報告 その1○
ダンジョン通路の入り口近くにある出場者の集合場所、既に大会の集合時間が過ぎたそこには人の姿も疎らとなっていた。
ゴガガガガ・・・
突如響き出すキャタピラ音、ダンジョン入口からでも1階層通路の奥から接近して来る黄色い車両の姿が見え始めた。
「せっ、先生っ、ドリリンガーですよっ!
ようやく皆が帰ってきましたぁ♪」
スマホ片手にダンジョン入口で様子を窺っていた女性は早速報告を入れた。
「うふっ、じゃあ後は任せたわ、光。
気を付けて帰って来て頂戴。」
っとにもう、随分心配させてくれたわねぇ。
帰って来たらお説教よ。
ギィィ、バタン、トコトコトコトコ
ドリリンガーを降りた少女三人は集合場所の受付に向かった。
「大変遅れて申し訳ありません。」
「いえ、御無事で何よりでした。
もう少しで捜索隊を依頼しないとイケないところでしたよ。
にしてもナイスキャッチの皆さん揃って猫ちゃんのコスプレですか。
美少女揃いの皆さんがそんな恰好したら、ファンの方達の騒ぎになってしまいそうですね。」
円もフードを被らずに居るのだが、その男性職員には何かを疑う様子も無かった。
「うふっ、そうですかぁ♪」
「あっ、それより見たところリーダーの多田さんがいらっしゃらない様ですが・・・」
「うちのリーダーなら、ほらあそこに。」
チラッ
ドリリンガーの後部ハッチから顔の半分だけ覗かせる賢子ちゃん。
「ああ、ちゃんといらっしゃる様ですね。
でも良くお顔が見えませんし怪我等をなされてないか確認する必要もありますのでこちらまで来て頂きたいのですが・・・」
「賢子ちゃ~ん。
やっぱり降りて来ないとダメだってぇ~。」
「ホ~ント仕方ないわねぇ、皆、行くわよ。」
「おっけぇ~。」
「むふぅ、賢子にゃんにも困ったものですにゃん。」
ズリズリズリズリ・・・
「なっ、お前等っ、何をするっ!ヤメロォォォ~~~っ!」
と抵抗空しく引きずり出される賢子ちゃん。
「ぽっ、あっ、あれ、リーダーの多田さんは男性の方でしたよね?」
おい、今こいつぽっとか言わなかったか?
「いやぁ、それがそのぉ、ついでなんで彼には女装もさせてみました。
結構良い出来だと思うんですけど如何ですか?」
「あっ、そういう事ですか。
言われてみれば確かに多田賢斗さんに間違いなさそうです。
いやぁ随分気合の入ったメイクでちょっと勘違いしてしまいましたよ。
ホント学生の皆さんは楽しそうで羨ましい。」
(ほらぁ、やっぱり中途半端が一番イケないのよぉ、賢子ちゃん。)
うっさい。
「では帰還申請の方はこれでOKです。
とはいえ魔石の買取の方をご希望でしたらお時間の方が過ぎてますので後は協会の方でお願いします。」
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○マジコン終了と帰還報告 その2○
ダンジョンを出ると聞こえて来る大歓声。
入口前ステージでは本戦での順位発表が既に始まっており、人々の注目はそちらに集まっている様だった。
おっ、これはナイスなタイミング。
今のうちにやる事済ませてとっとと帰ろう。
と協会支部へと急ぐ賢斗達だったが、そんな彼等に声を掛ける一人の女性。
「もうぉ、皆さん心配しましたよぉ。」
なぁ~んだ、水島さんか。
「あっ、水島さん、こんな結果でどうも済みません。
只今戻りましたぁ。」
「それより一体どうしてこんなに遅くなったのかちゃんと説明をって、ぷっ、多田さんどうしたんですか?その恰好。」
「いやぁ、これはそのぉ・・・」
「賢子ちゃんだよぉ~。」
「あっ、突如ダンジョン内で乙女心に目覚めてしまった少年。
その困惑する心の在り様がマジコン中だという事まで忘れさせてしまったと・・・
ふむ、私もあまりそっちの話には詳しくありませんが、成程、分かりました、これは一種の事故みたいなモノですね。」
ちょっと待て、どう解釈したらそう言う結論になるんだよっ。
水島さんなら後で幾らでも話し合いの場を持てるが、こういう誤解は早めに・・・
「よう、多田ぁ、随分遅いご帰還だったな。」
ビクッ
「にしても遅刻で失格とは不甲斐ない・・・って何だ?その猫耳と尻尾は。
そんなお遊びに興じてるから集合時間にも遅れちまうんだろうが。」
ちっ、これまた嫌なタイミングで・・・
ここは水島さんを後回しにする他あるまい。
「あ、ああ、分かってるって。
それよりお前は何位だったんだ?」
「ん、俺か?マジコン順位の方は37位だったぞ。
まっ、これもきっとお前と組んで9階層まで行く事が出来たお蔭だな。」
「そっ、そうか、上々の成績で良かったじゃねぇか。」
よし、一応一通りお喋りしてやったしこんなもんで良いだろう。
「あっ、あとこれ、忘れない内に返しておく。
滅茶苦茶助かった、ありがとな。」
サッ
賢斗は後ろを向いたまま方角ステッキを伊集院に差し出した。
ほれ、これ持ってさっさとどっか行け。
「ふっ、それくらい気にするな。
にしてもお前随分可愛らしい声だが、何かあったのか?
体の線まで細くなってる気がするしまるで女にでもなっちまった様な・・・」
なっ、ヤバい。
「そっ、そんな事ある訳ないだろっ。」
「ふむ、まっ、そりゃそうだ。」
セ~~~フ。
「しかしそれは普通の奴だったらの話だ。」
そう言うと伊集院は・・・
ガシッ、グルリッ、ぼいぃ~ん
強引に賢斗を方向転換。
「ふっ、やはりな、後ろ姿だろうが俺の目は誤魔化せんぞ。」
「賢子ちゃんだよぉ~。」
先生はちょっと黙ってて。
「こいつぁ女装なんつぅ生易しい代物じゃあない。
完全に女体化しちまってるだろ、お前。」
くっ、完全にバレてる。
「ふっ、だが安心しろ、多田。
俺は他人の秘密は守る主義だし、そんなお前も見事に俺の許容範囲だぜ。ニヤリ」
何怖い事言い始めてんだよっ。
あっ、そうだ、ここはもうこいつを精神洗浄してしまえば、えいっ。
「ズッキュ~ン、まさかこの俺の心を一瞬で射抜くとは。
やるな、その方。」
何だろう、事態が良化しねぇ。
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○マジコン終了と帰還報告 その3○
協会支部の買取受付には顔見知りの畑山が座っていた。
「あっ、畑山さん。
魔石の買取お願いしたいんですけど。」
「あら、ここへ来たという事はマジコンの集合時間に、って、どうしたんですか?そんな恰好して。
あんまりハメを外し過ぎるから、遅刻しちゃったりするんですよ。」
ふむ、一番想定内かつ許せる範囲の反応、やっぱり畑山さんは良い人だな。
「アハハ、そっすね。」
ゴトゴトゴトゴトゴト・・・いや~一杯あるなぁ。
「うわぁ、すご~い、まるでAランクの探索者さんを相手にしている気になっちゃいますよぉ。」
鑑定メガネを掛けた畑山は早速出された魔石を査定して行く。
「え~ナイスキャッチの皆さんにお持ち頂いたのはレベル25のビッグスノーワームの魔石が24個で計100万円。
レベル30のアイスゴーレムの魔石が15個で90万円。
レベル33のジャイアントアイスマンモスの魔石が1個で14万円。
合計で204万円になります。
いや~ホントに皆さんは15階層の階層ボスを討伐してらしたんですねぇ。
もし遅刻していなかったら結構良い順位だったかもしれませんよぉ。」
ゴトゴトゴト・・・
「えっ、ちょっと待って下さい・・・まだあるんですか?
って、嘘・・・」
取り出したのはアーマードケラトプスの魔石、10個。
「こっ、これAランクのトップの方達以上の魔石なんですけど・・・
あっ、ご免なさい、えっとこのランクですと特大Bランクですので10個で180万円に。
って、ホントにコレ皆さんが?」
「ええ、まあ。」
つかまだあるんだが・・・ゴトンゴトンゴトン
アーマードティラノの魔石、5個。
アーマードジェネラルの魔石、1個。
「こっ、これってまさか極大サイズ・・・」
ふぅ、ようやくこれで最後か。ゴットン
「はぁぁぁあ?」
「一応証明写真も撮って来たんで攻略認定もここでして貰えると更に助かるんですけど。」
「攻略認定ってまさかこの魔石は・・・」
「ええ、21階層の階層ボス、レベル47の八岐大蛇の魔石です。」
しばらく目を見開き大口を開けていた畑山は傍らの受話器を手に取ると震えた声で報告を入れた。
「たたた、大変です支部長。
Dランクの高校生パーティーが、こっ、この富士ダンジョンを完全攻略しちゃってますぅ!」
ガタガタガタッ
その瞬間協会に居た全ての職員が立ち上がっていた。
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○マジコン終了と帰還報告 その4○
富士ダンジョン協会支部2階、特別応接室。
ソファに並んで腰を下ろす水島を加えたナイスキャッチの面々、その反対側にはこの富士ダンジョン支部支部長の笹岡。
そしてそこから離れた椅子に腰を下ろす中年紳士と顎に白髭を蓄えたご老人。
ガチャリ
「笹岡支部長、査定の方がようやく終わりました。」
「うむ、ではその内訳を説明してくれ。」
「はい、では先ずレベル39のアーマードケラトプスの魔石ですがこれは10個で180万円。
続いてレベル40のアーマードティラノの魔石が3個で60万円です。
そしてここからが極大サイズの魔石になるんですが・・・」
レベル41以上になるとその魔石は極大サイズに分類され、日本の探索者協会におけるサイズ基準となる規格は無い。
そしてこの極大サイズの査定方法については過去に獲得された極大魔石のデータとの照合や時価相場によりその査定額が決定され、査定時間も長くなってしまう。
「レベル41のアーマードティラノですが、こちらは1個30万円。
レベル42のアーマードティラノが1個で50万円。
レベル43のアーマードジェネラルが1個で80万円となりました。」
また極大サイズの魔石の査定はレベルが上がる程希少価値も高く、総じてその査定額は跳ね上がる。
「そして最後はレベル47の八岐大蛇の魔石ですが、こちらは1個で700万円。
含有魔力量も過去最大となっておりましたしこの辺りが相当の査定額かと。」
「ったく、この国の探索者協会の魔石査定は相変わらずだな。
おい爺ぃ、もうちょっと色付けてやれよ。
ジョブを取得した魔物だって増えて来てんだぞ。」
「そうは言ってものぉ、銀二、それはまだ時期尚早と言う奴じゃ。
そのジョブ持ち個体の出現にしてもまだひと月も経っておらんじゃろ。」
笹岡は脱線する二人を制する様に咳払いを一つ。
「コッ、コホン、まあ査定額に関してはそれで良かろう。」
査定額が記載された書類に署名押印した。
「総額1304万円ですか。
まさか失格者の魔石獲得額が今大会でトップテン入りする程になっていたとは。」
えっ、嘘、そなの?
「まっ、何にせよナイスキャッチの皆さん大変お疲れ様でした。
査定額は今お聞きになった通りになりますがこちらで買い取っても宜しいですか?」
「あっ、はい、それは勿論。」
「あと富士ダンジョンの攻略認定もされたいとのご希望ですが、提出されるお写真の方は?」
「あっ、これです。」
「あっはっは、そう来たか。
まさかその女装が攻略認定用の写真撮影の為だったとは。
相変わらず面白ぇ事考えるなぁ、賢坊は。」
いえ、これには止むに止まれぬ事情というものが。
「コッ、コホン、確かにコスプレや女装をして認定写真を撮る等ふざけた事ではありますが、特段それを禁止する規定はありませんし、目の前に居る本人達に相違は無さそうです。
不本意ですが攻略認定の方は認めておきましょう。
そしてランクの方ですが、今回の買取により月末にはパーティーランクがBに上がりそうです。
個人ランクに関しては夫々Dランクといったところでしょうか。」
おっ、やった。
「おいおい笹岡ぁ、堅ぇ事言うなよ。
このAランクの富士ダンジョンを攻略して見せたってのに、それじゃあまたここには入れなくなっちまうだろぉ?」
「いやそう言われましても、この様なケースはこれまでありませんでしたし、それを許容する規定は・・・」
「まあそう言うな、銀二。
Bランクなら特別許可を申請すれば良いだけの話じゃろ。」
ほう、結構簡単にまたこの富士ダンジョンに入れるかもなの?
チラリと水島の顔を窺えばコクリと頷いていた。
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○マジコン終了と帰還報告 その5○
「これで手続きは以上です。
後はこのお二人から質問が幾つかあるそうなので。」
「ふっ、じゃあ先ずは俺からだ。
お前等21階層の八岐大蛇を討伐して来たそうだが、一体どんな手品を使ったんだ?
あの怪物は8つの首を同時に切り落とさねぇと直ぐ再生回復しちまう隠し能力を持ってる。
普通に考えりゃ複数のパーティーが協力して挑む様な相手だし、そんな奴をたった四人で討伐とか差し支えなければ是非教えてくれ。」
おおっ、あの化け物にそんな隠された能力が?
にしても困ったな。
あっし等切り落としてすらいないんですけど・・・
「いや~あれはですねぇ、偶々火山が都合良く噴火してくれたと言いますか。
まあそんな感じです。アハハハハ~」
この雰囲気で普通にパンチ&キックで倒しました、何て言える訳ねぇ~。
「ふっ、やはりお前等も気付いてたのか。
奴をマグマの海に沈めてやればあの再生能力は阻止出来る。
その人数で討伐するにはそれしかねぇよな。」
へっ、そなの?
「なっ、爺さん、こう見えてちゃんとこいつ等は正解に辿り着いてただろ。
とても新人とは思えん奴等なんだよ。」
「ふぉっふぉっふぉっ、確かにのぉ、中々見どころのある連中の様じゃ。
まっ、それはそれとして次は儂の番じゃな。
お主等その八岐大蛇を討伐した時もしかして神酒 八塩折之酒を手に入れてないか?
良ければそれを儂に譲ってくれんか。」
「なっ、会長、そんな私用でそこにいらしたんですかっ!」
「そういう話でしたらクローバーを通して貰わないと困ります。
ナイスキャッチが獲得した魔石以外のアイテムの売買権はうちにありますので。」
「まあその辺も十分理解しておるて、気が短い奴等じゃのう。
じゃが手放すかどうかはこ奴等の意思次第じゃろ?
金はそっちの言い値で構わんから安心しておれ。
で、どうなんじゃ?手に入れたのか?」
「ええ、まああの金徳利のお酒なら手に入れましたよ。
あっ、でもそれならこっちの天叢雲剣の方が・・・」
「なっ、お前それっ!」
「ふぉっふぉっふぉっ、銀二、お前の言うとった通り実に面白い小僧じゃ。
よもや入手不可能とまで言われていた三種の神器の最後の一つまで入手してくるとはのぅ。」
「これはきっとあの博物館の館長も大喜びしますよ。」
「どうじゃお主、儂の孫娘を嫁に貰ってみる気は?
儂が言うのも何じゃが気立ても良くてかなりの別嬪さんじゃぞ。」
へっ、何とっても藪から棒な話してんの?この爺さん。
でもこんな金持ちそうな爺さんの気立ての良いかなり別嬪な孫娘ですかぁ。
う~ん、これは否が応にも期待が・・・
「もうっ、蛯名会長っ!冗談も程々にして下さいっ!」
ん、あれ?ちょっと待て。
「ええいっ、五月蠅いっ!どうじゃ小僧、儂は本気じゃぞ。
早く儂に可愛いひ孫の顔を見せてくれ。」
「あっ、済みません、そういうの間に合ってるんで。」
「何故じゃ、何が不満じゃ。」
不満も何もその孫娘・・・
「いやぁ、俺には勿体ないお話過ぎるかなぁ~なんて。アハハ~」
十中八九蛯名っちじゃねぇか。
次回、第百四十三話 フィナーレの主役。




