第百四十一話 猫女王様の御降臨
○猫女王様の御降臨 その2○
賢斗が見つけて来た20階層の水場ポイントに移動して来た一同。
しかしドリリンガーの魔力動力供給システムを利用し転移するという賢斗の目論見は初っ端から躓いていた。
「ほら、やっぱりMPポーション買い足しといて正解だったでしょ。」
「アハハ、そっすね。」
まっ、あの狭いダンジョンコアの部屋でドリリンガーを出す訳にもいかなかったしなぁ。
ポンッ
さてここでようやくそのドリリンガーに乗り込んだ一同。
車内では小太郎巾着を首に掛けた賢斗が円をおんぶしたまま背もたれを最大限に倒し操縦席に。
その両サイドをしゃがんだ桜とかおる、全員が水晶玉に触れる事が出来る布陣を取っていた。
一方前面モニターに目をやれば地震の余波の影響か、30m程先の水場には先程確認した魔物の群れは居なかった。
う~ん、魔物が大岩に変わっちまったのか?
外部スコープを上から引き下げキョロキョロと周囲を確認してみると500m程離れた場所に遠ざかって行く4体の群れを発見。
また他の方角へと進む6体の群れも確認出来た。
よし、まだ急げば何とかなりそう。
あっ、そう言えば・・・
「一応言っておくと前面のモニターを見てスキルを発動しても外部への発動が上手く行かないから注意してくれ。」
「うん、知ってるよぉ~。
かおるちゃんから聞いたもぉ~ん。」
全面のモニターはあくまで単なる映像であり、転移や遠隔攻撃系のスキルを使用する場合は外部スコープ越しに対象を確認する必要がある。
いや、俺が注意しておきたいのは・・・
「ちょっと、円ちゃん。
ちゃんと聞いてた?」
「スリスリ、あっ、はい、勿論ちゃんと聞いてますよぉ、賢斗にゃ~ん。」
・・・だったら良いけど。
ちなみにこの車両に付いている外部スコープは双眼タイプのものが一つ。
猫女王様御降臨ミッションに於いては円と賢斗が同時使用しなければいけないが、片眼ずつ覗けばまあ何とかなりそうである。
「じゃあ先ずはエボリューション前に小太郎のジャイアントキリングを皆で共有させて貰いましょ。」
だな、俺も同じスキルを取得したがレベル的にはまだ低い。
ここは小太郎のお世話になった方が・・・あっ、そういや。
ここで賢斗は先程のボルケーノアタックで少女等と少なくない経験値差ついているのを思い出す。
このまま放置すればまた単独階層ボス討伐の事実が明るみに出かねない。
今は多少なりともその経験値差を調整しておいた方が良いかも。
となると今は他のスキルを適当に・・・
小太郎の右手にキスをすると、賢斗は肩口でパタパタと動く小さな手にもその唇を触れた。
「何ですか?賢斗にゃん。」
「いや、ちょっとくすぐったかったからさ。」
にしてもコレ男の俺でもちゃんと共有出来んだな。
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○猫女王様の御降臨 その3○
午前11時30分、円が猫女王様になる為の準備が全て整った。
さて、いよいよって感じですなぁ。
このポイントに辿り着くまで俺がどれ程苦労したか・・・いや~ホント涙出そ。
「それでは参りますにゃん。
クイーン猫エボリューションっ!」
円が特技を発動すると全身の体毛が伸び更なる獣人化が進む。
そして幼女化していたその体は成熟した女性の物へと成長を遂げて行った。
ムニュンムニュン
えっ、何ですとっ!
緊急事態発生っ!背部二か所よりドリームボール1号2号と良く似た反応が検出されました。
以後これをエボリューション型ドリームボール1号2号と呼称します。
くぅ~、生きてて良かったぁ~♪
猫女王様になると幼女化も解けちまうのかぁ。ニンマリ
「ちょっとぉ、賢斗君っ!」
何が御不満か知りませんがこれは不可抗力ですよ、先輩。
「先輩、今は大事な猫女王様の御降臨中、無駄口を叩いてる暇はありません。」
転移っ。
かおるを無視し遠ざかる4体のアマードケラトプスの近くへとドリリンガーを転移させる賢斗。
「さあ女王様、今です。」
シュッシュシュッシュッシュッ、バタバタ
ムニュンムニュン
円が攻撃を放てば押し付けられた彼女の胸部が賢斗を夢の世界へと誘う。
モワ~ン、なっ、何だ今のはっ!
今一瞬裸の円ちゃんに後ろから何度も抱き付かれるビジョンが浮かんだぞっ。
これは是非もう一度確認してみなくてはっ。
次はもう一方の6体の群れへとドリリンガーを転移させる賢斗。
「さあ女王様、今度はこちらです。」
シュッシュシュッシュッシュッ、バタバタ
ムニュンムニュン
モワ~ン、はっ!やっ、やはり・・・
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル22になりました。』
『ピロリン。スキル『ジャイアントキリング』がレベル4になりました。』
そしてレベルアップまで付いて来る最強仕様、何と猫女王様は慈悲深いお方・・・
ギュウ、痛ててて・・・
「ひょっとふぇんふぁい、ひゃにひゅんひぇひゅひぁ。」
満面のニヤケ顔で右拳を高々振り上げていた少年の頬を思いっきり抓るかおる。
「仕方ないでしょ、こうでもしないと気が収まらないんだもの。
それよりもう魔物退治は終わったんだから円も賢斗君から離れなさい。」
「でもかおるにゃん。
このお背中はもう私の物ですにゃん。」
う~ん、何だろう、俺の背中なんですけど。
とはいえこのボリューミィーな感触が無くなってしまうのは俺としても寂しい限り。
そして出来る事ならもう一度くらいこのエボリューション型にそのお力を発揮して頂きたいところなんだが・・・
あっ、そういやまだ・・・
横目で解析してみれば、案の定彼女は今回の戦闘で2レベルアップを果たしていた。
よし、これなら・・・
「何言ってるんですか、先輩。
まだ猫女王様の降臨時間は残っています。
ここは速やかにプランBへと移行しましょう。」
有無を言わせず行動を開始する賢斗。
どうせ誰も来ない階層、ドロップ回収は後回しにしても問題あるまい。
全員をドリリンガーから降車させるとまだ1体残っている筈の20階層の階層ボスの元へと向かった。
階層ボスポイント上空に転移してみれば、地上一面既に溶岩流に飲み込まれ煙が立ち上っている。
そして21階層への通路を塞ぐ大岩の前には、ティラノジェネラルが1体火山噴火の大災害を見事に生き延びていた。
「では女王様。
最後のお相手はあの恐竜さんになります。
是非アイツにもクイーン猫パンチ&キックをお見舞いしてあげて下さい。」
さあ来いっ!エボリューション型っ!
「分かりました、行きますにゃん。」
シュッシュシュッシュッシュッ、バタバタ
ムニュンムニュン
モワ~ン、あ~猫女王様バンザァ~イ。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル23になりました。』
『ピロリン。スキル『ジャイアントキリング』がレベル5になりました。』
よしっ、これはもうこの猫女王様に忠誠を・・・
っと今はそれどころじゃなかった。
消え行く魔物のドロップ回収に向かえばギリギリセーフ。
特大魔石の他にマグマニウムヘルムと言う大きな兜型の装備アイテムを何とかキャッチした。
ふぅ、ヤリィ♪
まっ、コレ人が被れる大きさじゃないけど。
そしてこのタイミングで猫女王様はその降臨時間の終わりを迎える。
さようなら、女王様。
次の御降臨時にはこの私の忠誠を是非お受け取り・・・
って、何すか?先輩。
上空を見つめ涙しドロップアイテムを手に鼻血を流す少年とまた背中でスリスリを始めた幼女。
あひる口を尖らせ上目使いのかおるがそんな二人を睨み付けていた。
「もうっ、円は賢斗君の背中でエボリューションするの禁止っ!」
そんな殺生な。
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○富士ダンジョン完全攻略 その1○
階層ボスの討伐後、再び水場ポイントに向かった賢斗達は放置していたドロップ品の回収作業を始めていた。
っとに、先輩にも困ったもんだなぁ。
おっ、あったあった。
簡単に禁止だぁ何て言われても折角の月に一回しか使えない猫女王様の御降臨が勿体ないだろぉ?
円ちゃん以外猫女王様にはなれないんだし・・・って、あれ?
今まで賢斗はその強力なシナジー効果を意識し過ぎるが故に猫女王様降臨時にはジャイアントキリングを全員が小太郎からスキル共有しなければイケないものだと思い込んでいた。
しかしそのジャイアントキリングの恩恵に目を瞑れば、キャットクイーンスキルを共有する事自体は可能なのである。
う~ん、正に目から鱗とはこの事だな。
ジャイアントキリングを自分で取得してみるまで気付かずに居たとは。
そして今現在偶然にも彼はそれを実践していたり。
でも男の俺がホントにこのスキルを使えるのだろうか?
キャットクイーンっつぅくらいだから女性用スキルだろうし。
う~む、ここは一つ試して・・・
って待て待て、流石にタイミングが悪い。
もし仮に猫人化出来たとしたら、その状態でマジコン終了時の集合ポイントに向かわねばならない。
しかし今の賢斗の装備は円の装備の様にフェイスガード付きフード仕様にはなっていない。
手を尽くせば色々と誤魔化す手も思いつくのだが、残り時間僅かとなったマジコン中に敢えて猫人化検証を行う必要性等何処にも見当たらなかった。
やっぱこのくそ忙しい時にそんな事してる場合じゃないわな。
この検証は後々日を改めて・・・ん、いや待てよ。
さっき俺レベル23になったよな?
・・・23×2+1=47。
それは見事にこの富士ダンジョンの最終ボスである八岐大蛇を討伐可能なレベル。
・・・Gランクの俺達がこの富士ダンジョンを攻略?
ハッ、ハハ、まさかそんな大それた・・・
「なっ、なぁ皆、ちょっと落ち着いて聞いてくれ。
もしかしたら俺達、この富士ダンジョンを攻略しちまえるかもしれないんだが。」
「えぇぇ~~~っ!、それホントぉ~?」
だから落ち着いて聞いてくれと言っただろ。
「それもうちょっと詳しく説明しなさいよ、賢斗君。」
「ああ、それは・・・ってな訳でこれが上手く行く様なら最終階層のボスも恐らく討伐出来るかもしれません。
とはいえそうなると時間的にはもう全然余裕無いですし、マジコン大会の方は失格になり兼ねない感じですけど。」
「うぉ~すっごぉ~い。
もしホントに攻略出来たら皆ビックリするよぉ~。」
おう、気付いた俺もビックリだ。
「私は賢斗さんに全部お任せですにゃん、スリスリ」
うん、でしょうね。
「なるほどぉ、君はジャイアントキリングまで取得してたのかぁ。
まああれだけ私達の心配を余所に一人で階層ボス討伐をしてればそんな事にもなるわよねぇ。」
一々チクリと来る言い方ですなぁ、で、ご返答は?
「でもまあ折角共有したキャットクイーンを使ってみるにはこれ以上無いタイミング。
もうこの大会期間が終われば富士ダンジョンには入れなくなっちゃうし、うん、私も別に構わないわよ。
どうせマジコンの順位なんて良くて中の上辺りだろうし。」
ん、中の上?
はっ!そういや片乳揉み放題が・・・
いやでもまだ急げばギリ間に合う可能性だってある。
「よし、そうと決まれば大急ぎで作戦に移ろう。」
「あっ、だったら私協会行ってカメラ借りて来るぅ~。」
あっ、ダメだ、そういや写真も撮らないとだし富士ダンジョン攻略に動いた場合その時点でボスのご褒美は・・・
「ちょっと待ちなさい、桜。
その前に男の子の賢斗君がちゃんとキャットクイーンスキルを使えるか試してからにしましょ。
猫人化程度だったら何とか誤魔化せると思うし、ダメだったらマジコンの集合場所に向かうって事で。」
おお、確かにその確認でダメな様なならまだ引き返せる。
と言ってもそれはそれで・・・う~ん、富士ダンジョン攻略を取るかボスの片乳揉み放題を取るか、ここへ来て実に悩ましい決断を迫られたものだな。
一体どちらが正解なのやら・・・
ええいっ、もうこうなったらこの苦渋の選択は猫人化の成功如何に委ねてみる他ないっ。
行くぞ、猫人化発動っ!
ポンッ
白煙が収まり姿を現したのは・・・
「けっ、賢斗君、貴女・・・」
へっ、何?
「おっぱいが・・・」
ん、おっぱい?ぐわしっ、モミモミ・・・う~ん、意味が分からん。
「にゃっ!ズッキュ~ン!!たっ、タイプだにゃっ♡」
どうした小太郎、目がハート形になってんぞ。
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○富士ダンジョン完全攻略 その2○
桜が攻略認定用カメラを借りて来ると賢斗達は21階層のラスボスポイントへ移動。
そこで再びドリリンガーに乗り込んだ彼女等は30m程離れた大鳥居から八岐大蛇と相対していた。
「桜ぁ、気をつけろよぉ。」
「うん、じゃあちょっと行って来るぅ~、賢子ちゃん。」
誰が賢子ちゃんやねん。
「ダメよ賢子ちゃ~ん、喋り方がはしたないぞ。
女の子何だからもっと言葉使いには気を付けないとぉ♪」
五月蠅いっ、アンタ何時機嫌直ったんだよっ。
「そうですよ、賢子にゃん。
猫人化した時はちゃんとにゃんを付けないと雰囲気が出ませんにゃん。」
うん、成ってみて分かったが、それ別に付けなくても普通に喋れるだろっ。
「これが初恋と言う奴だにゃっ。」
・・・お前はちょっと黙ってろ。
モニターには遠距離からファイアーランスを放つ桜の姿。
しかし灼熱耐性を持つ八岐大蛇はそれを歯牙にもかけなかった。
ダメージは皆無か、だがこれで良い。
討伐時のドロップ率上昇が目当てなだけだし、うんうん。
「たっだいまぁ~。
外は結構暑かったよぉ~、賢子ちゃん。」
お前ソレ賢子ちゃん言いたいだけだろっ。
まっ、それはさておきこれで準備万端、いよいよ俺の出番だな。
「じゃあ円ちゃん、悪いけどそろそろ下りてくれ。
今からラスボス退治に向かうからさ。」
賢斗は首に掛かった幼女の両手を外しに掛かった。
「何をするのですか?賢斗にゃん。
久しぶりのマーキングがまだ終わっていませんにゃん。」
「我がまま言ってるんじゃないの、円。
賢子ちゃんの場合、シャドーボクシングを持ってないし、あのラスボスを直で殴って来ないとイケないのよ?」
うんうん、呼び方はアレだが、言ってる事は正しい・・・ってあれ?
「いいえ、そんな危険な所ならば尚更ですにゃん。
私にはこのマーキングポイント・・・賢斗さんの御背中をお守りするのはこの私の役目ですから。スリスリ」
「もう、そんなちょっとカッコ良い感じに言って誤魔化すんじゃないわよ。
貴女は只そのマーキングとやらをしていたいだけでしょ。」
「そんな事・・・」
かおるの言葉で決着が着きかけたその時、賢斗の口から予想外の言葉が放たれた。
「まあでも先輩。
マーキングはとっても大事ですから仕方ありませんよ。」
なっ、貴女は何を言ってるの?賢子ちゃん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○富士ダンジョン完全攻略 その3○
多数決をしてみれば、マーキング大事派が3対2で勝利を収めてしまう始末。
その結果を受け、ラスボス討伐には円をおんぶ、小太郎巾着を首に掛けたまま臨む事となった。
「おいら幸せだにゃ~♪」
賢斗の盛り上がった胸元で至福の時を送る小太郎。
ふっ、その気持ち分かるぞ小太郎、存分に揉みしだくが良い。
では参る、クイーン猫エボリューション、発動っ!
ポンッ
なっ、更にボリュームアップだとぉっ!
・・・俺って結構ポテンシャル高ぇな。
って、もう今はそれどころじゃない、早くあのラスボスを仕留めに行かねば、転移っ。
クイーン猫パァ~ン・・・ギュオンッ、なっ、反応早過ぎだろっ。
転移した瞬間、背後から八岐大蛇の尻尾が伸びる。
ダメだ、パンチを当てる余裕すら・・・
ボフゥ~~ン
するとお尻を突き出した猫幼女が尻尾を弾く。
「賢子にゃん、背中は私にお任せですにゃん。」
パスン
届かない筈だった賢斗の拳が八岐大蛇に届いていた。
よし、後はキックをお見舞いしてやれば・・・
しかしもうその時点で上から大口を開けた頭部が賢斗達を飲み込む瞬間を迎えていた。
なっ、今度こそヤバい。
ドゴォ~ン
すると金色のオーラハンドがその頭部の軌道を僅かに逸らす。
「今の内だにゃ、マイハニー。」
ふむ、こいつ等連れて来て正解だったな、とうっ!
次回、第百四十二話 十中八九蛯名っち。




