第百四十話 ボルケーノアタック
○ボルケーノアタック その1○
21階層もまた他の階層同様広大な面積を誇るフィールド型フロアに分類される。
と言っても他に見られる様な空はなく、黒ずんだ岩肌の天井までは30m程。
光源となるのはグツグツと沸き立ちながら赤褐色の光を放つマグマのみで、そこはあたかも火山内部に出来た巨大洞穴と言った様相を呈していた。
またフロアの気温はその天井付近でも50度を超え、マグマに近い岩の上ともなると最早普通の装備では5分とそこに留まる事すら許されない。
そんな高温フロアの上空を1万度まで耐えられる大気圏再突入プロテクトを駆使し悠々と高速で飛行する存在が一つ。
キィィ―――ン
う~ん、暑さ的には問題ないけど、ここじゃ雷鳴剣アタックは使えそうにないなぁ。
空の無いフロアじゃ、雷も呼べないだろうし、まっ、別に戦闘するつもりは更々ありませんけど。
それはそれとして今考えておくべき問題は効果時間が半分になった勇者オーラの使いどころ。
この超高速飛行状態では小回りが利かないし、止まる方法だって勇者オーラを駆使して何処かに激突する方法しかない。
一方出口通路を抜けた先は十中八九20階層の階層ボスポイントだろうし、そこを突破するにも結構な危険が予想される。
一時停止機能で勇者オーラの効果時間を節約するにしても、その2か所のやりくりが上手く出来るかどうか・・・
あっ、でも別に20階層への通路手前で止まる必然性は無いよな?
どうせ目的地は階層ボスポイント周辺、このまま通路に侵入し階層ボスポイント突破と停止時の勇者オーラの使いどころを一回に纏めてしまえば良いだけの話かも。
となると後はこの調整の難しい飛行速度でその通路に上手く侵入出来るかどうかがこの問題の焦点になって来るんだが・・・おっ。
その時20分程飛行を続けていた彼の脳内マップの端に出口通路が表示された。
改めてそのポイントを視力強化した肉眼で注視してみると・・・
あれ、おかしい。
マップは岩場に囲まれたマグマの池と言った感じの区画を指し示している。
これはまさかあのマグマの池自体が通路だとでも?
あんなとこどうやって通るんだよっ。
と言っても今から天井への激突停止に切り替えたところで、あのマグマの通路問題が解決される訳でも無し・・・
う~む、これはもう残りの勇者オーラを使い切る覚悟であのマグマ通路に突入してみるしかないのかもしれない。
ちっ、何とか効果時間内に通路を抜けてくれよぉ~。
ボファ
「いっけぇ~っ!」
勇者オーラを発動した賢斗はまるで隕石が落下するかの様な勢いでマグマ通路へと突っ込んだ。
ドッシャァァァ―ン・・・ゴゴゴゴゴゴォ
粘度の高いマグマに高速で飛び込んだ場合、表面は超硬度の壁と化す。
その激突の衝撃は大空洞の21階層に轟音を響かせていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ボルケーノアタック その2○
マグマ池に飛び込むとその池は見た目以上に深く賢斗はかなりの深度にまで到達していた。
視界は全く利かない状態、脳内マップで確認すればその通路内は緩やかに横へ湾曲、直径100m程にまで広がったかと思えば2m程にまで狭まったりが2km程続く横穴構造といったところ。
そしてここで賢斗に深刻な問題が襲い掛かった。
不味いな、こんな長い通路だとは思わんかったし、さっきの衝撃か知らんが一番大きな空間の先が崩落で行き止まりに成っちまってる。
このマグマ池が終わる地点も丁度その先だったりするし・・・
先程の衝撃の中、賢斗は何とか勇者オーラの残り時間を28秒程残す事が出来ていた。
しかし桜からエアホイッスルを借りて来ていなかった彼は完全にここで詰んでしまった。
流石にこりゃお手上げか?
出直す時間なんかある訳無いし、円ちゃんには悪いけどもうここは猫女王様のステージはあのアイスゴーレム達で我慢して貰うしか・・・う~ん、今更感が半端ねぇな。
よし、こうなったら最後にハイテンションタイムで考えてみるか。
ダメ元だがそれなら諦めもつくしな。
ドキドキジェット、発動っ!
ドッドッドッキィィィィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・
おや、なるほどなるほど、こういう構造だったのか。
そしてこの窮地を打開するには・・・ハハハ、嘘、ホントにソレ大丈夫なの?
う~ん、何つぅ恐ろしい作戦なんだ。
いくら勇者オーラがあるからと言っても我ながらちょっと退く。
とはいえ正攻法じゃ到底無理だし、今までこの状態で出した結論がダメだった事は無い。
ここは信じてやってみるとしますか。
勇者オーラ、再発動っ!
ロケット噴射スタート、発射っ!
どっちゅ~ん、グリュリュリュリュ~~~~
賢斗はマグマ通路を超高速で移動し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ボルケーノアタック その3○
一方、ここは20階層にある細い白煙が立ち昇る山の麓。
そこには21階層へと続く横穴通路があり、ここがこの階層の最終到達地点と言える場所である。
またその入り口は巨大な岩に塞がれ、それを守るかの様に金属の鎧を纏った巨大な恐竜型の魔物達が5体その周囲を固めていた。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
突如揺れ出した地面。
魔物達はキョロキョロと警戒態勢に入った。
どっかぁぁぁぁ~~~ん
山頂から響き渡る轟音、大きなきのこ形の噴煙が吹き上がるとその大爆発は3m以上あろうかというマグマの塊を無数に爆散させた。
するとその岩石に混じって・・・
「あ~れぇ~。」
次々と地上に降り注ぐ高熱の塊は階層ボスである魔物達にも小さくないダメージを負わせていく。
そして木々を薙ぎ倒し山肌を流れて来た灼熱の溶岩流も直ぐそこにまで迫って来ていた。
ひゅ~~~ん、ドテッ、ゴロンゴロンゴロン
落下とほぼ同時に勇者オーラの効果時間が切れると地上を何度も転がった少年はようやく停止した。
痛たたた、はぁ、はぁ、すっげぇ~ビックリした。
『ピロリン。スキル『ボルケーノ』を獲得しました。』
えっ、嘘、何それ。
~~~~~~~~~~~~~~
『ボルケーノLV1(10%)』
種類 :アクティブ
効果 :地面に手を触れると地下マグマの位置を把握出来る。
【特技】
『イラプション』
種類 :アクティブ
効果 :把握したマグマ溜まりを使い火山を噴火させる事が出来る。成功率スキルレベル×10%。クールタイム24時間。
~~~~~~~~~~~~~~
まさかこんなスキルがあったとは・・・
確かに火山構造を想定し上方の地下水脈を探知、噴火の誘発ポイントを割り出した上でピンポイントにそこへ激突してみた訳ですけど。
にしてもこんな火山の噴火を誘発する様なスキル、ダンジョン外で勝手に使ったら大目玉喰らいそうだな。
ギャオォォォ~~~
なっ、この鳴き声はっ!クルッ
見れば飛来した巨大岩石に大ダメージを受けている魔物達の姿。
山肌からの溶岩流が彼等を飲み込み始めていた。
うわっ、ここもヤバい。
50m程上空に避難してみれば、そこは風上で賢斗は運良く噴煙の影響を受けずに済んでいた。
そして彼は真下で起こっている光景を観察しながら現状把握に努める。
ふむ、マップ情報的に考えてアレは恐らくここの階層ボス、一先ず作戦成功と言って良いだろう。
にしてもやっぱここのボスは流石に猫女王様でも荷が重かった様だな。
解析してみればレベル40~42のアーマードティラノという魔物が5体、そこに1体だけレベル43のティラノジェネラルというリーダー格の個体が加わった構成。
今の円のレベルではレベルアップブレスレットの効果を加味しても討伐は出来ない結果となっていた。
でもあれだなぁ。
あいつ等軒並みかなりのダメージを喰らってるんですけど・・・
もしこのままあいつ等が死んじまったら一体誰が討伐した事になるんだ?
見守っていると溶岩流に飲み込まれていたアーマードティラノの一体が霧散を始めた。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル20になりました。』
『ピロリン。スキル『ジャイアントキリング』がレベル2になりました。』
へっ、ホント?らっきぃ~♪
ボッチャ~ン
あっ・・・
ドロップした魔石と兜型アイテムが溶岩流に飲み込まれていった。
ちっ・・・あれはもう回収不能だな。
折角魔石以外のアイテムが珍しくドロップしてくれたと言うのに・・・
う~ん、となればここはもう少し能動的に動くべきか。
キィィーン、パシッ、はい、回収成功♪
霧散を始めた魔物へと急降下した賢斗は素早く左手を突き出しドロップした魔石をキャッチした。
ふぅ、危ない危ないって、おいおい、勝手に消え始めるんじゃ、サッ、パシッ、ふぅ、これで二つ目ゲット。
って、うわっ、今度は2体同時かよっ、ササッ、パシパシッ
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル21になりました。』
『ピロリン。スキル『ジャイアントキリング』がレベル3になりました。』
何だ何だ?この何時も以上のレベルアップ祭り。
いやまあこんな格上の経験値を一人占めしてりゃこうなるか。
っておいおい、結局ドロップ品は魔石だけだったじゃねぇか。
とはいえあと1体残ってる。チラッ
ドォーン
ティラノジェネラルは大きく口を開けるとそこから燃え盛る岩石を吐き出した。
うわっ。
再び上空へ退避し振り返るとその魔物もまた上空の賢斗を睨みつけていた。
なるほど、アイツだけ着けてる装備に炎耐性があったから、まだHPが半分以上残ってるってのか。
にしてもどうすっかなぁ。
チャンスと言えばチャンスだが、別に無理してあいつを討伐する必要なんか何処にも無い。
ここに来た目的は猫女王様のステージ探し、早いとこレベル39個体の魔物が群れてるポイントを見つけて皆の所に戻らなければ、うんうん。
HPが半分まで削られているとはいえ相手は倍のレベルを誇る強敵。
MPに余裕が無い現状も踏まえれば、ここは大人しく本来の作戦に戻るのが当然の選択であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○猫女王様の御降臨 その1○
猫女王様のステージ探しに赴いていた賢斗が少女達の元へ戻るともう時刻はマジコン終了時刻である正午まで1時間を切っていた。
「ただいまぁ~。」
「おっそぉ~い。もうお昼まであんまり時間残ってないよぉ~。」
「ああ、悪ぃ悪ぃ、でもちゃんと猫女王様のステージは見付けて来たから勘弁してくれ。
20階層のボスポイントの近くにあった水場でさ、レベル39のアーマードケラトプスっつぅ魔物が10体も群れてたんだ。」
「むふぅ、流石は賢斗さんです。
私の為にとても良さそうな場所を見つけて来てくれました。」
「へぇ~、それだけ居ればアイスゴーレム達を追加で討伐する余裕も無さそうね。」
ですなぁ、ドロップ品を回収するお時間もあるし。
「じゃあ何にせよ、まずはこのMPポーションを3本くらい飲んどきなさい、賢斗君。
君が転移出来なきゃ、そこまで移動も出来ないでしょ。」
かおるが箱買いして来たMPポーションを1本抜き取ると早速飲み始める賢斗。
「どうしたんすか?このポーション。ゴクゴク」
「賢斗君の居ない間に転移でクローバーまで行って来たのよ。
エボリューションの時、円のおんぶ役の君が一人で何度も転移を発動しなくちゃイケなくなるでしょ。
だからさっきの2本じゃ足りなくなると思って。」
「あ~、それならドリリンガーに乗ったまま転移すれば何とかなるかなって思ってたんですけど。
水晶玉に手を合わせれば、多分皆のMPを使って俺が転移を発動出来たりもするでしょ。
そしたらきっとドリリンガーごと転移出来ますし、更に安全に猫女王様に活躍して頂けるかと。」
「あっ、そうねぇ、それは気が付かなかったわ。」
「あったま良いぃ~、賢斗ぉ~。」
「だろぉ♪」
そしてこの方法なら万が一にも円ちゃんの猫女王様姿をドローン撮影される事も無いだろう、う~ん、我ながら完璧な作戦。
「それは却下です、賢斗さん。」
えっ、何で?
「それでは私が賢斗さんの背中におぶさる理由が無くなってしまいます。」
まあそれはそうだが・・・つってもことおんぶに関してこのお嬢様が譲ってくれるとは到底思えんな。
う~む・・・はてさて。
「いやっ、ほら、おんぶくらい何時でも円ちゃんがして欲しい時にして上げるからさ。」
「えっ、それは本当ですか?!賢斗さん。
後で冗談だって言い出しても円は絶対に許しませんよっ!?」
「あっ、ああ、そっ、そんな事言わないって・・・」
「聞きましたか?皆さん。
ついに私は賢斗さんフリーおんぶ権をゲットしちゃいましたぁ♪」
「そっ、そうね、アハハ」
「良かったねぇ~、円ちゃん。」
「はいっ♪」
まるでお誕生日に新型のゲーム機を買って貰える約束を取り付けた子供の様にはしゃぐ円。
何だろう、もう既に冗談だと言い出したい気分に。
つってもまあお年頃の女子的には羞恥心も働く。
何の必要性も無い時にまで男の俺におんぶをせがむ様なマネは・・・
ポンッ
「おんぶぅ。」
猫幼女化した少女は何の臆面も無く賢斗にその幼い両腕を上げていた。
・・・早ぇよ。
次回、第百四十一話 猫女王様の御降臨。




