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第十四話 ファイアーボール・アンリミテッド

○ファイアーボール・アンリミテッド その1○


 翌日、4月14日日曜日午前8時30分。

 今日も休日の予定通りに朝のハイテンションタイムを白山ダンジョンの大岩ポイントで先ず消化。

 そこで賢斗の解析スキルのレベルはその上限であるレベル10にまで達した。


 ふぅ、無暗に所持スキルを増やしても意味ないし、ハイテンションタイムをレべリングに使うってのも大事だよなぁ。


 彼が一息ついていると、唐突に背後で桜の声が。


「ファイアーボールッ!」


 えっ、何それ?


ドーン


 振り向けば右掌を前に突き出した桜と黒焦げたダンジョンの横壁。


「うぉぉ~、やったぁ~♪」


 あっ、今のは桜の奴が魔法を放ったのか。

 って事はこいつの火魔法もようやくレベルアップしたって事かな。

 でも最大MP1の状態で今の魔法を放つのは無理な気もするし・・・


「桜ぁ、今のはもしかしてレベル2の火魔法の魔法か?」


「うんっ!身体レベルが上がってやっと撃つ事が出来たぁ~。

 これで皆に迷惑かけずに済むかなぁ~?」


 迷惑って・・・あ~昨日俺と先輩ばかりが戦って、桜は見ていただけだったもんなぁ。


「そんな事気にするなって。

 桜は宝箱係で十分パーティーに貢献してるし、戦闘で多少力不足なくらいがバランスとれてて丁度良いくらいだぞ。」


 ふっ、何も考えてなさそうに見えて、意外と気を使ってんだな。


「そうそう、最初の内から上手く戦える人なんて居ないし、賢斗君が変人なだけなのよぉ♪」


 その楽しそうに俺をディスるのやめてくれませんか、先輩。


「うん、でも私もこれからこの火魔法で魔物を一杯倒しちゃうよぉ~♪」


 実際この火魔法があれば桜も戦闘で活躍出来るだろうな。


「そういやレベルアップしたんならまた解析してやろうか?」


「うんっ。賢斗は解析係だもんねぇ~。」


 いや、そんなものになったつもりは無いが・・・まっ、いっか。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:小田桜 16歳(152cm 42kg B79 W54 H80)

種族:人間

レベル:2(3%)

HP 8/8

SM 5/6

MP 2/10

STR : 3

VIT : 4

INT : 10

MND : 3

AGI : 3

DEX : 5

LUK : 69

CHA : 12

【スキル】

『ラッキードロップLV7(10%)』

『念話LV2(54%)』

『限界突破LV3(43%)』

『視力強化LV4(0%)』

『火魔法LV2(12%)』

『感度ビンビンLV2(8%)』

『MP高速回復LV1(0%)』

~~~~~~~~~~~~~~


 お~、一番重要なのはバストが1cm成長している点か・・・さすが成長期、うんうん。


 ・・・ってそうじゃない。


 この最大MPどうなってんの?

 1から10に一気に上がってるし・・・これが普通?いやレベル3の先輩より多いんですけど。

 INT値もかなり上がってるし・・・

 これは才能かはたまた魔法スキルを覚えるとレベルアップに影響があるのかまたその両方の影響か?う~ん。


 一方LUK値も更にとんでもない事になってるな・・・まあこれはもう理由が分かるから良いけど。


 そして見落し厳禁なのがMP高速回復。

 これどうやって取得したんだろ?

 俺にもちょっと教えてほしいとこなんだけど、まっ、魔法スキルが無い俺には意味無かったりするんですけどね。


「・・・ってな感じだったぞ。

 良かったな、桜。」


「そっかぁ~、やったぁ~♪」


「ところでMP高速回復スキルってのはどうやって取得したんだ?」


「えっとねぇ~、限界突破を使ってMP早く溜まれ~ってお願いしてたら取れたぁ~。」


 ハハ、何だよそれ・・・ん、いや待てよ。


 限界突破を使えば最大MPも一時的に倍化する・・・という事は一時的にMP回復速度も倍化するのかもしれない。

 加えて、体外魔素を体内に吸収するイメージをハイテンションタイム中に繰り返せば、それは星の瞬きのように繰り返され・・・

 ほほう、意外にもこのMP高速回復スキルを習熟取得出来てしまう気がする。


 しかしであるならば、こんな習熟方法を桜が一から考え実践していたという事に。

 ふっ、俺はどうやら桜という人間を少し見くびっていた様だな。

 まさかこれ程の論理的思考の持ち主だったとは。


「見直したぞ桜、良くそんな方法思いついたなぁ。」


「エヘヘ~、方法ってなにぃ~?」


 う~ん、何だろう・・・この損した気分。


「先輩のステータスも解析しておきますか?」


「私は別にいいわよ。

 新しいスキルを取得した訳じゃないし、身体レベルも上がってないもの。」


「そっすか。

 なら今回のハイテンションタイムは何してたんですか?」


「今回はねぇ、リペアスキルのレべリングをしていたの。

 お蔭で強化修理を覚えたから、さっき修復した矢は威力が少しは上がっているかしら。」


 あらビックリ、すんなり教えてくれる事もあるんだな。


 う~ん、何だろう・・・この答えて貰っただけで得した気分。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ファイアーボール・アンリミテッド その2○


 午前9時、本日一度目のハイテンションタイムを消化し、賢斗達は昨日の探索ルートをなぞる形で左ルートの宝箱部屋を目指していた。

 EXPシェアリングによる経験値共有も済ませ、順調に進む彼等だったのだが・・・


 おや、宝箱部屋に一杯反応がある。

 これって他の探索者さん達だよな。


 賢斗の脳内マップに映るその反応に移動する気配は無かった。


 う~ん、何で石ころしか出ない宝箱にこんなに探索者が集まってるんだろう。


「先輩、左ルートの宝箱部屋に結構大勢探索者さん達が居るみたいなんですけど。」


「ああ、それきっと宝箱の復活待ちをしているんだと思うわよ。」


「えっ、ここの宝箱部屋ってそんなに人気でしたっけ?」


「あら、君も昨日桜ちゃんが銀の宝箱を出したの知ってるでしょ。

 その宝箱が24時間開封状態で放置されてるんだから、それを見た探索者が宝箱の復活待ちしちゃうのも当然だと思うけど。」


 あ~確かに・・・

 普段は木製の宝箱しか出ないところに、銀製の宝箱が置いてあったらビックリだよな。

 桜以外の奴があそこの宝箱の復活待ちをして銀製の宝箱が現れるとも思えないが、それは俺達しか知らない事だし。


 でもそうなってくると、今日のスケジュールが一気に崩れてしまったなぁ。

 今から右ルートの宝箱部屋に直行しても、復活時間までかなりあるし、結構な時間の浪費になってしまう。

 となればここは引き返して2階層へ向かうのが正解かな。


 賢斗達は左ルートを少し入った所で折り返し予定を変更して中央ルートに入った。

 すると程なく発見したゴブリンを相手に本日の初戦闘が始まる。


「いっくよぉ~、ファイアーボールぅ~!」


 放たれた火球はその着弾と共にゴブリンを炎に包み込むと魔物の身体は呆気なく霧散させた。


「うお~やったぁ~♪」


「おお、一撃だ。」


「大した威力ね、桜。」


「うんっ!」


 昨日とは雲泥の差。

 嬉しそうに微笑む彼女の目尻にはほんの少し涙が滲んでいた。


 ふっ、これならもう安心だな。


 その後も度々ゴブリンとの戦闘を挟みつつも賢斗達は意気揚々と2階層へと進んで行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○白山ダンジョン2階層○


 2階層へと下り立った賢斗達。

 本筋を歩きつつ、行き止まりの確認できない枝道の先を確認できるまで進んでは、また本筋に戻る。

 そんなことを繰り返し、2階層の全体構造を把握していく。


 現時点に於ける賢斗のパーフェクトマッピングはパッシブスキルという事もあり既にレベル8まで上昇。

 基礎把握範囲も周囲2kmまで拡大され彼等の探索をより効率の良いものにしていた。


 午前中一杯を掛け2階層のマップ拡張作業を終えてみれば、枝道はかなりあるが基本的に蛇行した本筋の延長線上に3階層への階段がある1本道。

 罠はあったが宝箱部屋はなく、8km四方に広がったこの階層に賢斗達は左程魅力を感じ無かった様である。


 その後賢斗達は昼食休憩の為階層間の階段に入った。


 ちなみに階層間の通路にも高ランクのダンジョンであれば魔物は出現したりする所もあるのだが、低ランクである白山ダンジョンの階層間で魔物が出現する事はない。

 また各階層に出現する魔物は特異個体という例外を除き階層間を移動する事もない。

 こうした情報は協会の廊下にある情報掲示板で直ぐ知る事ができ、ダンジョン入りする探索者達は誰しもチェックを怠らない。


「やっぱり桜が倒すとドロップ率が違いますなぁ。」


 賢斗はこう言ってるが実はこの時彼は少し勘違いをしている。


「ま~ねぇ~。」


 確かに先程までの2階層探索で20体のゴブリンを討伐し桜が止めを刺した魔物から錆びた短剣が5本もドロップしていた。


「あっ、そうだ。この錆びた短剣って先輩にリペアで修復して貰えば買取額が上がったりしますかね。」


 しかしこれは単に火魔法の威力が高く一撃で全て倒せていた為であり、本来桜のラッキードロップの効果条件は攻撃を当てさえすれば満たされるといったものなのである。


「それなりに高く買い取ってくれるみたいよ。

 私はまだこのスキルでそういう使い方はした事無いけど。」


 おお、やっぱり。

 となれば修復してから買取に持って行った方が良さそうだな。

 俺の月の生活費を抜きに考えても探索者をやってくには何かとお金が掛かりますし。


「じゃあここは一つ、先輩のお力で・・・」


「はいはい、言われなくてもちゃんとやったげるわよ。

 別に減るもんじゃないし、私だって稼ぎは少しでも多い方が良いしね。」


 かおるは錆びた短剣に右手をかざすと3分程でその修復を終えた。


 ほほ~、こんなお手軽に修復出来るのか。

 こんなんで買取額が上がるとか、いやぁ、これは先輩とパーティー組めた事にも感謝しとかないとだな、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ファイアーボール・アンリミテッド その3○


 午後1時、3階層に降り立つと賢斗の頭には周囲2km位の脳内マップが広がる。


 おお~、やっぱこの瞬間は気持ちが良いよな。

 なんかこうワクワクする。


 実際彼の目に見える光景は通路の途中といった感じで大きく弧を描く様に左右に道が伸びている。


 ってあれ、こっちに結構な速さで魔物が近づいてくる・・・あっ、見えた。


 う~ん、ゴブリンじゃない様な・・・


~~~~~~~~~~~~~~

名前:ワイルドウルフ

種族:魔物

レベル:5(12%)

HP 28/28

SM 17/17

MP 11/11

STR : 20

VIT : 10

INT : 6

MND : 18

AGI : 25

DEX : 15

LUK : 10

CHA : 10

【スキル】

『遠吠えLV2(31%)』

【属性】

なし

【弱属性】

土属性

【ドロップ】

『ワイルドウルフの皮(ドロップ率(35.0%)』

【レアドロップ】

なし

~~~~~~~~~~~~~~


 ゲッ!ちょっといきなり強過ぎじゃないか?


 その瞬間かおるが叫んだ。


「賢斗君、桜っ、逃げるわよっ!」


 3階層に下り立ったのも束の間、賢斗達は直ぐ様階段へと再び駆け込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ファイアーボール・アンリミテッド その4○


 賢斗達が階段に逃げ込むと魔物は目標を見失ったかの様に辺りを窺い程なくその姿を消した。


「なんか強そうだったねぇ~。」


「あれはワイルドウルフっていうの。

 3階層はゴブリンの他にあいつが偶に出て来るから厄介なのよ。」


「先輩は戦った事あるんですか?」


「あるけど参考にならないわよ。

 その時たまたま近くにいた他の探索者の人に助けて貰っただけだから。」


「その探索者の方が、強かったって事ですか?」


「うん。確かレベル12で剣装備の人だったかな。

 大学生で背も高くって結構ハンサムな。」


 そんなイケメン情報まで要りませんけど。


「じゃあ今の俺達じゃアレを倒す事は出来ませんね。」


「そうねぇ、あいつを相手にするには最低レベル5はないと厳しいと思うわよ。

 私の撃った矢なんて簡単に避けられてたし。」


 あれだけのステータスを見せられちまうと挑む気にすらならんわな。


「そっかな~、当たれば倒せちゃう気がするんだけどなぁ~。」


 えっ、何言い出してんだ?こいつ。

 いくら桜の火魔法が結構な威力だからって・・・いや待てよ。

 桜には限界突破があったよな。

 火魔法の威力が2倍になるとすれば確かに・・・


「桜っ、限界突破を発動してファイアーボールを撃ったり出来そうか?」


「うん、多分だいじょぶぅ~。」


 よしっ、あとはそれが当たるように、お膳立てが出来れば・・・


「賢斗君、何考えてるの?

 今私とっても嫌な予感がしてるんだけど。」


 しばし見つめ合う二人。


「・・・ふっ。」


 かおるは静かに方向転換、一人帰りの途に就く方針を固めた。


ガシッ


 賢斗はそんな彼女の肩をしっかり掴んだ。


「ちょっと賢斗君、勘弁してよぉ~。

 あんなの倒せる訳ないじゃなぁ~い。」


「逃げちゃダメですって、せんぱぁ~い。

 今とっても良い作戦を思いついたんですよぉ~♪」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ファイアーボール・アンリミテッド その5○


 根負けしたかおるを連れ、賢斗達は3階層に再び下り立った。


 おっ、この距離でもう俺達に気付くのかぁ。


 賢斗の脳内マップには狼の所在を掴むには必要十分なマップ範囲が映し出され、左側の通路の先50m地点に居た狼の動きを的確に捕捉していた。


 ホ~ントゴブリンとは索敵範囲が桁違いだな。


 両手に錆びた短剣を持ち賢斗は前に出て構える。


(みんなもう直ぐ来るぞっ、準備はいいか?)


(ほ~い。)


(もうっ、仕方ないわねぇ。)


(カウント開始、10,9,8・・・3,2・・)


ガルルルゥー


 手前3mから飛び上がったワイルドウルフは牙を剥き出し賢斗に襲い掛かる。


ガチーン


 その牙撃を賢斗は錆びた2本の短剣で受けるとその勢いに押されるまま背中から倒れ込み・・・


 ん~~~、それっ。


 狙い済ませたタイミングで、ワイルドウルフの腹部を蹴り上げた。


「みんなぁっ!」


「ファイアーボール・アンリミテッドッ!」


 宙に浮かんだ魔物は恰好の的となる。


ドォ~ン


ヒュン、グサッ


 桜のファイアーボールとかおるの矢がほぼ同時に空中で身動きできない狼の身体に命中しそのまま落下。

 炎に包まれながら尚も立ち上がろうとする魔物だったが・・・


ヒュン、グサッ


 かおるの第二射が喉元に決まるとようやくその身体を霧散させ始めた。


『パンパカパーン。多田賢斗はレベル3になりました。』


パチンパチンパチン


 頭の中で戦闘の終わりを告げるアナウンスを聞きながら三人でハイタッチを交わす。


「やったねぇ~。」


「おうっ、軽い軽い。

 ほら先輩、上手く行ったでしょ?」


「でも冷や冷やものだったわよ、賢斗君。」


 苦言を呈するかおるの顔にも笑みが溢れていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ゴブリン集団○


 レベル5の魔物相手に勝利を飾った賢斗達は何とも言えない充実感に包まれながら3階層の探索を開始。


「にしても桜、魔法って魔法名を言わないと撃てないのか?」


「えっ、別にそんな事ないよぉ~。」


「ふ~ん、じゃあなんで言ってるんだ?」


「それはほらぁ~イメージを固めるためって言うかさぁ~。

 剣を振る時だってえいっとか言ったりするでしょ~。」


 あ~、力を込める時の掛け声みたいなもんか。

 まっ、それなら気持ちは分からんでもない。


 他愛も無い会話を交えつつ進んでいた一行だったが、しばらく行くと枝道の入り口付近にゴブリン5体の集団が居るポイントに差し掛かった。


 へぇ~、3階層ともなると団体さん数も多いな。

 とはいえ厄介な狼を倒した俺達ならゴブリン程度が5体居ようと特に問題ない筈。

 まっ、大丈夫だろ。


 先程の戦いが少し上手く行き過ぎていたのかも知れない。

 この時の賢斗の見積もりは少々正確さを欠いていた。


 不用意に10mまでゴブリンとの距離を詰めた瞬間。


ヒュン


 1本の矢が賢斗の右頬をかすめた。


 なっ、ゴブリンにも弓使いがいるのかっ。

 遠距離攻撃はヤバい、俺が早めに何とかしないと・・・


シュタッ


 咄嗟の判断で賢斗は弓使いのゴブリンに向け走り出した。

 前衛のゴブリン達を稲妻ダッシュですり抜けて行くと、剣装備が3体、槍装備が1体。


 とはいえ先ずは後衛の弓使いを・・・


シュピンッ


 弓使いまで辿り着くと直ぐ様横薙ぎにゴブリンの首を一閃。


 よしっ、これなら致命傷の筈。

 残りはっ!


 振り返ってみると、剣装備の1体は火達磨、槍装備個体には頭部に矢が刺さっていた。

 しかし残る2体のゴブリンが桜へ向かって走り出している。


ギギャァァァァ―


「きゃぁぁっ。」


 ちっ・・・


 賢斗は音速ダッシュで魔物を追う。


 間に合えぇー。


グサァッ


 背後からゴブリンの左胸を突き刺す。


 くそっ、もう一体が・・・


「さくらぁっ!」


ヒュン、グサッ


 桜の目前まで迫ったゴブリンの頭部にかおるの矢が突き刺さった。


 ふぅ~、あっぶねぇ~。


「大丈夫だったか?」


「うん。MP切れちゃったから焦っちゃったよぉ~。」


 にしてもゴブリン5体に弓使いが居るってのは相当ヤバいな。

 これ以上数が多かったら間違いなく桜が攻撃を受けていただろうし、今の俺達からしたらワイルドウルフよりよっぽど厄介だ。


「賢斗君、今日はもう引き返した方が良いんじゃない?」


「そっすね。」


 今回の苦戦の原因は俺の見積もりの甘さだよなぁ。

 相手に弓使いが居ると分かっていれば・・・あれ、対策がまるで思いつかん、う~ん、どうしよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移スキル○


 午後3時、4体のゴブリンを討伐しつつも賢斗達は無事大岩ポイントまで戻って来ていた。


「ほらっ、賢斗君。いい加減そんなに落ち込んでないで、早くハイテンションタイム済ませちゃいましょ。」


「あんまり気にしちゃダメだよぉ~。」


 そうは言っても対策がまるで思いつかないってのはどうしたって引きずっちまうだろぉ?

 このままじゃその内怪我人が出るのは目に見えてるし。


「アハハ、分かってるって。」


 スキル共有を済ませ、本日2度目のハイテンションタイムを開始するも彼の気持ちが晴れる事は無かった。


 もうああいうのは御免だ。

 今回はあの状況を何とか出来る手札となるスキルを何としても取得しなければ。

 でなきゃ何時まで経っても2階層止まりのまま。

 そんなんじゃリーダーとしてこいつ等と一緒にやってく資格が無いもんなぁ。


 とはいえ相変わらず何も思いつかんし、こんなのもう転移スキルでもなきゃ無理だっつの。


 現在世界中の何処を探そうが転移スキルを所持していると公言している探索者等居ない。

 そしてその手掛かりは悪魔系の高レベルな魔物が使っていたとかいう信憑性の無い目撃証言のみ。

 人々の知識としては誰しも当然の様に知っているこのスキルはこの世界に於いて幻のスキルとして扱われている。


 幻のスキルの習熟方法がそう簡単に・・・ってあれ?


 ハイテンションタイムで高速化した思考が転移スキルのメカニズムを紐解いていく・・・


 現在位置・・・座標・・・相対位置・・・座標・・・魔素のエネルギー変換・・・空間把握・・・観測位置修正・・・イメージ構築・・・イメージ強化・・・

 魔素のエネルギー変換・・・イメージ固定・・・個体情報解析・・・個体情報転送・・・イメージ構築・・・イメージ強化・・・

 魔素のエネルギー変換・・・イメージ固定・・・個体魔素化・・・個体再構築・・・事象開始・・・。


 なにこれ・・・理解出来ている事が不思議なくらいの難解で複雑な多段工程。

 もしかしてハイテンションタイム中の俺ならこのメカニズムを理解し幻のスキルを習熟取得出来るんじゃないか?


 よし、物は試しだ、取り敢えずやってみるか。


 まずは自分の存在を座標化し、移動先との相対位置を固定。

 そして移動先の物理的障害の把握。

 次は自身の観測座標を移動先へと修正し、その修正したイメージを強化、固定・・・・・・


 ・・・って無理。


 くそっやり直し。


 ・・・・・・・・・修正したイメージを強化、固定・・・・・・


 ・・・・・・・やっぱり無理か。


ドッドッドクドク、ドクン、ドクン、ドックン、ドックン。


 残念ながらスキルを取得する事無くハイテンションタイムは終了してしまった。


 ん、さっきまでの理解力は何処行ったんだ?

 ハイテンションタイムが終わった途端、まるでチンプンカンプンになっちまったんだが。


 う~む、失敗はしたがメカニズムは把握出来ていた。


「賢斗ぉ~、終わったよぉ~。」


 途中までは結構上手く行っていた気もするし・・・


「もう今日は帰りましょ。賢斗君。」


 もうちょっと試してみるか。


「えっ、あっ、そっすね。」

次回、第十五話 ダンジョンショップと睡眠習熟。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ずっと思ってたけど、ウィークポイントあるのに使わないんだ……もったいな。 あと、文章改正したほうがいいですよ。おかしいし。
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