第百三十八話 次代のSランク候補
○その後の足取り○
階層ボス討伐後、16階層スタート地点に出てみるとまるでプラネタリウムの様な星空がお出迎え。
遠方まで広がる平原は温暖な気候に包まれ付近には魔物の反応も無かった。
おおっ、ここへ来て攻略難易度が下がってくれるとは・・・
まっ、ホントにそうなのかは知らんけど、ロングコートを失くした俺的には実に有り難いですなぁ。
そんな好感触の一方でドリリンガーの魔力メーターはまだ十分に溜まっておらず、また賢斗を除く全てのメンバーが指輪の分も含めた殆どのMPを失ってしまっている。
そこで一計を案じた賢斗は女性陣には1、2時間ドリリンガーの運転を楽しんで貰い、自分は単独でまた16階層の探索を進める事をご提案。
「だったらさぁ、この辺潜ってまた鉱脈を探してみるよぉ~。」
あっ、それ最高。
「ならその鉱脈探しの運転は私が務めましょう。
そろそろ私と交代のお時間です、桜。」
「あっ、そうだねぇ~。」
あっ、それ最低。
程無く彼女等と別れた賢斗は早速探索に向かう。
上空を飛行していく彼の眼下ではレベル28~36の恐竜型の魔物をあちこちで確認。
う~ん、この階層は恐竜ワールドですか?
あれだけ高レベルの魔物が群れてるとか怖すぎでしょ。
まっ、遭遇しなけりゃ関係ありませんけど。
確かに空を飛べるというアドバンテージはこの階層でも賢斗に味方していた。
しかし地上を進む探索者達を考えた場合、出現する魔物はレベル帯域が広くなり群れを成す傾向まで強まっている。
このフロアの攻略難易度としては魔物との戦闘面に難易度傾向が特化し、総合的にそれは上がったと見るのが一般的な見解である。
とはいえそんな賢斗も全くのノーリスクという訳では無かった。
前方に見えた白雲、何時もの様に突っ切ろうとそのまま進んで行くと・・・
えっ、何だろ?
白雲は形を変え始めその姿はまるで飛行型恐竜。
慌てて解析してみればクラウドプテラノドンなるレベル34の魔物だった。
そして脳内マップにも反応が映らなかったその敵から賢斗は不意打ちを喰らう。
ドンッ
口を開いたその魔物が放つ目に見えない衝撃波。
なっ、うっ・・・
気を失った彼は上空から真っ逆さまに落ちて行った。
あわや地上に激突というピンチだったが、幸運にも落下地点は水深が結構ある水場。
衝撃で意識を回復し水面から顔を出した賢斗が見たものは、岸際で大口を開け居並ぶバクバクデイノスクスなる巨大ワニの様な魔物集団。
勿論直ぐ様転移を駆使してそこから逃亡を果たした訳だが、彼が目的のポイントにゴールしたのは午前6時を過ぎた頃。
いや~、お空の旅と言えども流石にもうこの階層まで来ると危険が一杯だったな。
うん、この先の下層探索はドリリンガーに任せるとするか。
実に3時間を超える空の旅はようやく終わりを告げるのだった。
「あ~賢斗ぉ~、びしょ濡れじゃ~ん。」
「それにちょっと臭います。」
「いや~、池に落っこっちゃってさぁ。」
「もう仕方ないわねぇ、ちょっとそのままじっとしてて。」
かおるが両手を賢斗にかざしていくと・・・
おおっ、この人洗濯屋さんにも成れそう。
つか俺もリペア取ろっかな、何時も洗濯やら革製品のお手入れやら大変だし、うんうん。
賢斗の帰還後、彼等はドリリンガーで17階層から地中に潜り18階層を目指していく。
そして18階層と言えば、そこはもう優勝争いを繰り広げるトップクラス達の戦場である。
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○次代のSランク候補 その1○
午前9時、すっかり朝を迎えた入口前広場ステージには多くの人々が集まり、既に昨夜の戦闘シーン映像等が紹介されていた。
ワァァァー――
『どうですか?皆さん。
熾烈なトップを争いを演じる3組の戦闘シーンをご覧頂きましたが、実に見応えがありますよねぇ。
一体何処が優勝するのやら、私も期待で胸が高鳴ります。』
とそこへ、司会者の元へスタッフの一人が歩み寄り、何やら耳打ち。
『えっ、それホント?
にしてもそんな大事件・・・あっ、そうだ、大至急中山さん呼んで来てっ。
あの企画を前倒しでやっちゃいましょう。』
スタッフが走って行った10分後。
「ちっ、こんな朝っぱらから人を呼び付けやがって。
一体何の騒ぎだ?ったく。」
「いや~済みません。
実は是非Sランクの中山さんにコメントを頂きたい映像が溜まってまして。アハハ」
不機嫌そうなSランク探索者が登壇すると、中断していたステージは再開される。
『え~皆様、大変お待たせ致しました。
実はですねぇ、昨晩このマジコン本戦中にまた大事件が起こっていた模様です。
そしてその大事件の立役者はまたしてもあのナイスキャッチ。
ここはその足跡を辿る意味でもそれをお伝えする前に先ずはこちらの映像をご覧下さい。』
巨大スクリーンには以前流された火の玉になった少年の映像が流れていた。
ブフォッ!なっ・・・賢坊じゃねぇか。
やはりあいつ等揃ってこの大会に出てたのか。
『ご覧頂けたでしょうか。
この映像は紛れもなく富士ダンジョン2階層のもの、そしてこれが撮影されたのは本戦前の下見期間二日目の事です。
ここから皆さんにご注目して頂きたいのは彼は間違いなくこの富士ダンジョンへ入ったのはこの大会が初めての新人であるという事実。』
そりゃあいつ等はまだ高一だしな。
にしてもあんな俺すら知らねぇ飛行系のスキルまで持ってんのか。
『では次の映像に参りましょう。』
スクリーンにはアイスゴーレムと戦う一人の少年が映し出されていた。
『そしてこちらの映像は14階層のスタート地点の映像です。
こちらは本戦一日目の深夜に撮影された物なのですが、どうですか皆さん、この顔に見覚えがありませんか?
そうです、ここに映る彼もまた先程と同一人物、ナイスキャッチリーダーの多田賢斗君なのです。
そしてこの映像から読み取って頂きたいのは、たった3日で彼がこの富士ダンジョンの探索範囲を14階層まで広げているという事です。』
確かにAランク探索者共と比べても尋常じゃない探索速度だ。
つってもさっきの飛行系スキルを見せられた後じゃそう驚く程の事でもない。
『そして次がいよいよ昨晩起こった大事件の正体。
それでは心してご覧下さい。』
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○Aランクを越えて行け○
ゴガガガガガ・・・
「あっ、そういや桜、この階層で鉱脈は見つかったのか?」
「あ~全然ダメだったよぉ~。」
「まあステッキは方角を示してくれたんだけどね。
ドリリンガーのレーダーには何も映らなかったのよ。」
あの時はスタート地点から遠く離れた湖の地下。
初っ端に直ぐ発見したもんだから結構簡単に見つかるものなのかと思っていたが、本来あんなスタート地点周辺の地下を探してもそう簡単に見つかるものでは無いのかもしれない。
まっ、操縦者もお嬢様だった様だしそこまで期待してなかったけど。
『間もなく階層間隔壁に到達します。
階層隔壁突破ブーストをお使いの場合は・・・』
おっ、もうついちゃったか。
やっぱ俺の飛行探索よりこっちの方が全然速いな。
『10、9、8、7・・・ゼロ。』
階層隔壁突破ブースト、ゴーっ!
ガチャン
その頃18階層のとあるポイントでは戦闘を終えた探索者パーティーが一息入れていた。
「あっ、赤羽さん、アレ何ですか?」
ん、何だ、ありゃ。
仲間の一人が指差す先には、パラシュート降下して来る鋼の車体。
マジコン本戦中、その時間の貴重さは誰よりも承知している。
「おいっ、お前等ちょっと見物に行くぞっ。」
だがあんなもん見せられちゃじっとしてなんか居られんだろ。
ガシャ~ン、バサァ、ヒュルヒュルヒュルゥ~
車体が地上に下り立つと、パラシュートは自動収納。
こっ、こいつはやはり間違いないっ、乗り物系アイテムだっ!
しかしこんなもんを所有してるとしたらSランクの奴等くらいだろっ。
一体誰が・・・
ギィィ、バタン
「あっ、こんちわっすぅ~。
一つ伺いたいんですが、この階層の魔物のレベルってどのくらいっすか?」
なっ、何だ?この若造は・・・
どう見てもSランクなんかじゃねぇだろっ。
いや、この顔確か・・・
「おっ、おう、この階層で俺が見たのはレベル37の個体が最高レベルだな。」
あら、とっても紳士なお方。
調査する必要も無くなっちゃったし、女子だったら惚れちゃいそう。
「それよりお前、その乗り物系アイテムはどうしたんだ?
こっちも情報提供したんだし教えてくれるのが探索者のモラルって奴だろう。」
ああ、そりゃそっすよねぇ。
「これは10階層で見つけたドリリンガーという地下探索車両です。
あっ、キーアイテムは14階層で見つけてそれを着けたら見事に動いてくれちゃいました。
まあ暇があれば少しくらい乗せてあげても良いですけど、こっちも先を急ぎますし今お互いちょっと忙しいかと思うんで。」
何を言っているんだ?こいつは。
「うむ、まあそうだな。」
この階層の出現レベルを確認した上で先を急ぐだと?
「それではお邪魔しましたぁ。」
ギィィ、バタン・・・ゴガガガガガ・・・
「なっ、今度は地下に潜って行きますよ、赤羽さん。」
あいつはこのAランクの俺達をも越えて行くと言うのか。
ちっ、如何、また鳥肌が立っちまってる。
やはり俺が睨んだ通り最大の不確定要素はあいつだった様だ。
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○次代のSランク候補 その2○
巨大スクリーンに映し出されたのは15階層の階層ボスジャイアントアイスマンモスの討伐シーン。
青白い炎に包まれ爆散する巨大マンモスとその後巻き起こったダイヤモンドダスト。
ワァァァー――
観衆が目を奪われる中、地下からそれを引き起こした立役者が姿を現す。
「なっ、何だ?あの戦車みたいな奴はっ。」
『15階層の階層ボスと言えば今月に入って特異個体化し強くなってしまった魔物の筆頭株。
今16階層以降を活動場所にしている探索者達の間でも、今大会最も避けるべき魔物と囁かれていた程の存在です。
それが何と見た事も無い鋼鉄の乗り物により討伐されてしまいましたぁ。
いや~、これはホントーに驚きの大事件ですっ。
そしてその中から出て来たのは三人の美しい少女達。
我々がこの顔を見間違う筈ありません。
そうです、あのジャイアントアイスマンモスを討伐したのは先の多田賢斗をパーティーに要するナイスキャッチの美少女達。
大変気になる点も多いこの記録映像ですが、先ずはSランク探索者の中山さんに解説して頂きましょう。』
『ちっ、分かったよ、確かにお前じゃこの映像の解説は無理だろうからな。』
映像が続く中、中山が解説を始める。
『先ず皆の目が行ってるあの乗り物は、ダンジョン産の乗り物系アイテムって奴だ。』
『はぁ、やはりあれは乗り物系アイテムだったんですねぇ。
海外ダンジョン産の奴は何度か映像で見た事はありますが、この日本での物を見たのは初めてです。』
『そうか?まっ、普通の探索者じゃ手に入れる事が出来ねぇ代物だしな。
よし、じゃあ毎度高ぇ出演料も頂いてる事だしひとつ良いもん見せてやるよ。』
ポンッ
『こいつはスカイデーモンっつう空飛ぶどっかんターボバイクって感じの乗り物系アイテムだ。
昔こいつの鬼ハンを湘南ダンジョンで見つけた時は俺も全身が震えたぞ。』
ウオォォ―――
『この暴走族が乗る様な黒いバイクがホントに飛んじゃうんですかぁ?』
『まあ、見てろ。』
中山はバイクに跨るとボタンをポチッ
ウィーン、バサッ
バイクのサイドから悪魔の翼の様なものが広がった。
右手のアクセルを絞ると・・・
ドルルゥ~~~ン
『おおっ、翼から風が・・・これは凄いっ。』
会場に集まっている人々の頭上を一周しステージ上に戻る。
キィィ
『まっ、てな訳だ。
魔力動力で動くこの乗り物系アイテムって奴は未だ通常実現し得ない機能を搭載し、かなりのオーバースペックを実現しているものが多い。
あのど新人の嬢ちゃん達が15階層の階層ボスまで討伐出来たのももしかしたらその辺に秘密があるのかもしれない。』
『いや~、乗り物系アイテムを生で見る事が出来るとは感激致しましたぁ。
とはいえ逆に驚きなのがここまでその実力を示したナイスキャッチが何と中間順位では最下位に甘んじている点です。
先の映像も含め中山さんから見てナイスキャッチは最終的に何位くらいに浮上すると?』
『そうは言ってもこの大会の順位に関しちゃたかが知れてるだろ。
だがまあこの大会に限らず、今この国で次にSランクになりそうな奴を選べっつぅなら、俺は間違いなくあいつ等を選ぶよ。』
『これは驚きましたぁっ!
何とあの日本の重鎮、Sランク推薦委員の肩書まで持つ中山氏からとんでもない発言が飛び出しましたぁっ!』
まっ、この間の失態もあるし、このくらい言っといてやれば十分だろ。
『ナイスキャッチもまた今後は次代のSランク候補としてその名を連ねる事になりそうです。』
ワァァァァァ―――
「おい、あの少女達、何やってんだ?」
未だ流れていた映像には三人の少女が布きれを手に何やら言い争い。
『中山さん、あれも何かのお宝でしょうか?』
『いや、ありゃ只の男もんのパンツだな。』
次回、第百三十九話 ラスボスポイントへ簡単に辿り着けちゃう人。




