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第百三十七話 細氷の祝福

○願いは届かない○


 至近距離からの巨大な火球はジャイアントアイスマンモスの頭部に直撃した。

 するとその緑の炎は巨躯を誇る魔物全体を飲み込んでいく。


 燃え盛る炎の中、その灼熱の高温に苦しみ暴れ出す巨大マンモス。

 荒々しくその太い前足を叩きつければ永久凍土の大地は大きく揺れ、首を激しく左右に振れば長い鼻先が周囲の全てを吹き飛ばす。


ガ~ン、クルクルクルゥ~


「「「きゃあああっ。」」」


 ドリリンガーはスピンしながら、十数メートル弾き飛ばされた。

 狭い車内で倒れ込んだ三人は直ぐ首だけ起こすと未だ続く戦況をモニター越しに見つめる。


 尚も暴れ続けるその巨体を覆っていた長毛は既に焼き尽くされ露出した地肌の炭化も始まっていた。

 そしてとうとうその動きは鈍くなりジャイアントアイスマンモスは片膝をつく。


ド~ン


 あともう少し、このまま行けば・・・


 そんな淡い期待を抱き始めた時だった。


パオォォォ~~~


 響き渡るジャイアントアイスマンモスの咆哮。

 鼻先を上空に突きあげたその鳴き声は断末魔の叫びにも思えたのだが・・・


 瞬間、マンモスの体表から氷が形成され始めると緑の業火も消えて行く。

 そして再び氷の城砦が形作られていくと、その中で魔物は着々と失われたHPの回復状態に入った。


「そんな、嘘っ・・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○九死二生○


 さて、一方戦闘開始直後雑魚キャラの如く死んでしまった主人公の様子を見てみよう。

 そこは巨大マンモスから150m程離れたポイント。


 が~んばれっ!が~んばれっ!


 幽体となった彼は吹き飛ばされた肉片の一つを必死に応援していた。


 が~んばれっ!が~んば・・・おっ。


 するとその願いが通じたのか・・・は定かでないが、その肉片は増殖を始め散らばっていた肉片達もそれを中心に集まり出す。


 ふふ~ん、この肉片を見た時、ビビっと来たんですよねぇ・・・まっ、適当でしたけども。

 つかグロいな、やっぱ。

 もう少し掛かりそうだし、ちょっとこのまま放っとこう。


 にしてもさっきはビックリしたよなぁ。

 まさか感度ビンビンの聴覚遮断が打ち破られるとは。

 ホントもう正にあれは身も凍る程の恐怖、あっ、今俺上手い事言っちった。

 って、そんな場合じゃないか。

 身体は復元されても大金叩いた装備類諸共粉砕されちまったし、大事な大事な結構氷が切れちゃったりする雷鳴剣まで・・・う~ん、どうしよう。

 とはいえこればっかりは後で回収確認してみるまではどうなってるかわからんし・・・チラッ


 おっ、もう体が完全体に。

 雪焼けしてたお肌まで随分白くなっちゃってまあ。

 では早速・・・


 ふぇ~ど、いんっ♪


 賢斗の瞼がパチリと開く。


『ピロリン。スキル『九死一生』がレベル11になりました。特技『九死二生』を取得しました。』


 んっ、九死二生?って、痛ってぇぇぇ~~~っ!


 復元された彼の身体は裸状態。

 その背中は既に凍傷を発症し、接した地面の氷とくっ付いて離れない。

 咄嗟にまた感度ビンビンで痛覚を遮断した彼はそのままコテージの屋根裏部屋へと転移した。


 部屋に帰還すると先ずは魔法で凍傷の治癒と回復。


 お~痛かった・・・また死ぬかと思ったぜ。

 あんな極寒の地ですっぽんぽんとか、流石に2回死んだらこの賢斗さんでもホントにお陀仏だからなぁ・・・いや待てよ。


 彼は先程取得した特技を解析する。


 あっ・・・私、残機が二機になりました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○少年の帰還○


 ジャイアントアイスマンモスは再び生み出した氷の城砦の中、自動回復によりその失われたHPの8割を既に回復させていた。

 一方ドリリンガーの車内は張り詰めた静寂に包まれ、モニターに映る光景を三人の少女達が只静かに見つめていた。


 するとそこへ。


「あにきぃ、遅かったにゃ。」


「ああ、ちょっとお着替えに時間取られちまってな。」


 ってあれ、何このお通夜ムード?


 その声にハッとした表情を浮かべ振り向く少女達。


「生きてたの?」


「アハハ、何言ってんすか、先輩。

 俺には九死一生があるのを知ってるでしょ?」


 にしても何で皆さんそんな赤く腫れた目を?

 まさかホントに俺が死んじゃったと勘違いしたのかな?

 いやまあ実際に俺が死ぬ光景を目の当たりにしたのは紛れもない事実。

 聞いてたとしてもそんなものは頭からすっとんじまっても可笑しくないか。


 三人は無言で立ち上がると賢斗へ歩み寄る。


 おおっ♪これは紛れも無く熱い抱擁のお時間。


パチンッ、ぶへっ!


 かおるは力一杯平手を放つ。


パチンッ、ぶへっ!


 するとお次は桜の平手。


パチンッ、ぶへっ!


 そして最後はお嬢様。


 賢斗の頬には見事な3つのもみじ痕。


「ちょっとちょっとぉ、今のは酷くないですかぁ?」


「全然酷くないもぉ~ん♪」


「心配掛けたんだから当然でしょ。馬鹿ねっ♪」


「そうです、何か少しスッキリしました♪」


 ったく、美少女の涙って奴は動きを封じる力でもあんのか?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○討伐する理由○


 その後ドリリンガーの車内では帰還した賢斗を交え現在の戦況を確認。

 先程放った緑のファイアーボールの件を桜が賢斗に説明していた。


「皆で協力したのに倒せなかったんだよぉ~。」


 ふ~ん、この動力魔力外部供給システムはそんな使い方も出来たのか。

 そして外部スコープで確認してみれば、今現在奴のHPはそんな事無かったかの様にほぼ回復してる。

 まっ、桜の話を丸ごと信じてみるなら、回復速度と経過時間からしてその威力は奴のHPを2割以下にまで削って居たと考えられるんだが・・・


 そうは言ってもあの氷結の咆哮はあまりにも危険。

 冷静に判断すればこれ以上あの強敵に普通の戦いを挑む理由等無い。


「じゃあここはもう猫女王様の力であいつを討伐して貰うか。」


 まっ、俺達の実力を冷静に考えりゃこれが当然。


「え~、ダメだよぉ、そんなのぉ~。」


「そうよ、私も絶対あいつは自分の手で倒さないと気が済まないわよ、賢斗君。」


「はい、これは賢斗さんの弔い合戦です。

 皆の手であの魔物を懲らしめて上げねばなりません。」


 三人の様子に目を細める賢斗。


 円のエボリューションで魔物を討伐しようが、その結果は変わらない。

 しかし賢斗を死に至らしめた魔物。

 何としても自分の手で、そんな思いが彼女達にそれを許さなかった。


 ・・・皆も俺と同じ気持ちって事か。

 であればこれ以上遠慮する必要も無さそうだな。


「分かったよ。

 じゃあやるだけやってみるか。」


 こいつ等にあんな顔させるとか・・・

 俺だってホントは腸煮えくり返ってるっつの。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○決戦、巨大マンモス○


ゴガガガガガガ・・・


 ドリリンガーは再び動き出す。


 ジャイアントアイスマンモスは氷の城砦を完全に破壊されるまで動かなかった。

 お前はその氷の中が大好きなんだろう?


 モグリンガーモードのまま地下へ潜るとそのまま氷の城砦へ向かう。


 そろそろだな。ガコン


 賢斗が操縦桿を思い切り引き寄せるとドリリンガーは直上へとその進路を変えた。


ゴガガガガガガ・・・


 程無く地表に達っしたそこには氷の壁。


 だったらもうお前はその氷の牢獄でじっとしてろ。


 賢斗がアクセルを最大に踏み込むと車体は更に上昇力を上げドリルユニットの先端は魔物の下腹部へと突き進む。


ドカドカッ、ガラガラガラァ


 危険を察知した魔物が自らその氷の城砦を崩壊させ始める。


パオォォォ~~~


 剥き出しになった頭部。

 魔物は氷結の咆哮を放った。

 しかしその高い防御能力に加え物理的障害物に包まれたドリリンガーが氷漬けにされる事は無く、遂に魔物の下腹部にその怒りの矛先が到達する。


キュィィィ―――ン、ズガガガガガ


「ここだっ、皆っ!」


 水晶玉に四人の手が重なり合う。

 するとその上に子猫がチョコン。


「「「「いっけぇ~、ファイアーボール・マキシマムぅ~っ!」」」」


「にゃあ?」


 魔物の下腹部を抉り貫いているドリルユニットの先端。

 集約された魔力が高熱を帯び始めるとそれは火球型に広がる。


 盛んに咆哮を上げる巨大マンモス。

 その体内では炭化が進み、熱膨張で魔物の巨躯は更に肥大していく。


「弾けろぉぉぉっ!」


 四人と一匹が持ち得る全てのMPを出し尽くした時。


ピキピキッ


 ジャイアントアイスマンモスの全身に亀裂が入った。


ボファッ


 溢れ出す青白い炎。

 形を維持出来なくなったその巨躯はついに大爆発を起こす。


ボッカァァァァ~ン


ピー、ガァァァー


 瞬間、衝撃でドリリンガーの外部映像が乱れる。


 なっ、どうなったっ!


 一同が固唾を飲んでその乱れた映像を見つめ続けていると、3分程してようやくそれは回復した。


「きれ~い。」


 何とも幻想的な光景。


「そうね。」


 再び映し出されたそこには・・・


「はい、何か感動的です。」


 まるで少年少女達を祝福するかの様に巻き上げられた細氷がキラキラと降り注いでいた。


『パンパカパーン。多田賢斗はレベル19になりました。』


 おっ、どうやら無事あの巨大マンモスを討伐出来た様だな。


 にしても疑ってた訳じゃないがホント凄ぇ威力だったなぁ、あの協力型マキシマムって奴。

 完全回復してたあの巨大マンモスを一撃で討伐しちまうとか。

 これが現時点で俺達の最大火力である事は間違いな・・・


『ピロリン。スキル『ジャイアントキリング』を獲得しました。』


 んっ、ジャイアントキリング?

 いやまあそろそろ取得しても可笑しくは・・・


『以降ジョブ『勇者』の関連スキルとなります。』


 へっ、そなの?

 う~ん、つまり取得に必要なスキル以外にも関連スキルは存在するって事?

 まっ、詳しい事は帰って茜ちゃんにでも聞いてみるか、うんうん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○失われた装備○


ゴガガガガガ、バタン


 ドリリンガーは魔物が討伐された地上に出た。

 しかしモニター越しには失われた賢斗の装備は確認出来ない。

 彼としては早くドリリンガーを降りそれを探したい所なのだが、如何せん今は通常の革ジャンに普通のジーパン姿。

 これで-24度の車外に出るのはあまりにも危険であった。


「悪いけど皆、魔石とドロップの回収ついでに俺の失くした装備の回収も頼めるか?」


「あっ、うん、全然おっけ~。」


「そういえば賢斗君、今剣も持って居ないものね。」


「ええ、勿論お任せ下さい、賢斗さん。

 この円がきっと賢斗さんのお役に立って見せますよ。」


 快く引き受ける少女達。

 寒冷耐性スキル取得を兼ね、スキル共有を済ませた彼女達は早速後部ハッチから外に出て行った。


 まっ、これなら超感覚ドキドキも使えるし、俺の散らばった装備も直ぐ見つかってくれるだろ。


 と待つ事30分程。


 う~ん、ソワソワ、俺の愛剣見つかったかなぁ。


ギィィ、バタン


「ほら、あったわよ、賢斗君、君の愛剣。」


 姿を現したかおるの手にはその原型を留めたままの結構氷が切れちゃったりする雷鳴剣。


 おおっ、流石はレジェンドウェポン。

 あの氷漬けからの衝撃をも耐え抜いてくれていたとは。


「有難う御座います、先輩。」


 いや~、これで最悪の事態だけは避けられた。


「あとボロボロの靴下も見つけたけど、触るのが嫌だったから回収しなかったわよ。」


 ・・・まっ、靴下くらい替えもあるし、理由がちと気に入らんが文句は言えまい。


 そしてお次は桜が帰還。


「賢斗ぉ~、ブーツはだいじょぶだったけどズボンはボロボロに散らばっちゃってたよぉ~。

 一応全部回収してみたけどさぁ~、これじゃメンテで修理は無理っぽいねぇ~。

 あっ、あとパンツはバッチぃから放っといたぁ~。」


 面と向かってバッチぃ等と言われると多少はこの私も傷ついちゃいますよ、先生。

 とはいえパンツはお値段的にこの際どうでも良い。

 が、レザーパンツは結構なお値段。

 う~む、まああの状況を思い返せばブーツが無事だっただけでもめっけもんかぁ。


 最後は円が帰還した。


「賢斗さん、グローブは無事でしたが、流石にロングコートの方は只のボロキレの集まりですよ。

 それとTシャツは風に飛ばされて何処かへ行っちゃいました。」


 あっちゃ~、やっぱりかぁ。

 レザーパンツはまだ辛うじて許容範囲だがあの大枚叩いて買ったロングコートを失くしちまうとか、流石にショックがデカいな。


「先輩、このロングコートだけでも先輩の力で何とかなりませんか?」


「私に頼んだって無理に決まってるじゃない。

 そりゃ裁縫スキルを持ってるし縫い合わせて元の形に戻すくらいの事は出来ても、それはもう全くの別物。

 リペアにしたって耐久度が0になった装備を修復するのは無理だって賢斗君も知ってるでしょ。」


 へいへい、重々承知してます。

 ・・・只言ってみただけですって。ハァ~


「それより帰ったら水島さんにでも相談してみたら?

 もしかしたらまだ買って1週間も経ってないし、保証が利くかもしれないでしょ。」


 あっ、その手があったか。

 このお高い悪天候装備には大層な保証書まで付いてたしきっと新品とのお取替えが利く筈。

 いや~、悩む事無かったじゃ~ん、らっき~♪


 と一安心の彼だったが、ふとある事を思い出す。


「そういや皆、俺の装備類を回収して来てくれたのは非常に有り難い限りなんだが、肝心の魔石と通常のドロップ品は?」


「「「あっ、忘れてたぁっ!」」」


 ったく、何やってんだか。


 慌てた様子でまた後部ハッチから外へ出ていく少女達。

 ひょっとすると彼女達は先程それどころでは無かったのかも知れない。

次回、第百三十八話 次代のSランク候補。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 うん、知らなければ存在しないのと同じだから…(汗) ところで議長!九死二生の読みを『きゅうにしにそう』と空耳ったわたしは悪くないと思います。 [一言] 多田さーん…
[良い点] 細氷の祝福という言葉がとても素敵ですね。 ダイヤモンドダストの柱が目に浮かびます。 鉢久重様のセンスとよく練られた言葉は、本当に素敵だと思います。 本当にこの作品は面白すぎだ!!最高です…
[気になる点] このパターン肌着類は回収されましたね? 絶対隠し持ってる流れですよね?
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