第百三十六話 氷の門番
○階層間隔壁○
午前1時、活動を再開した賢斗達は14階層へと再び移動。
そこからドリリンガーで地下へと潜った。
ゴガガガガガガ・・・
ってあれ、もう下の階層の切れ目か。
地下での潜航速度は凡そ5km/h。
小一時間もすると期待していた鉱脈は見つからないまま地下マップの切れ目が表示されてしまった。
横移動して広範囲を探してみる手もあるのだが、今の賢斗達としては行き掛けの駄賃以上の時間を掛ける訳にもいかない。
彼等はそのまま15階層を目指す事にした。
『間もなく階層間隔壁に到達します。
階層隔壁突破ブーストをお使いの場合はカウントダウンに合わせ右手前のレバーをご使用下さい。
10、9、8、7・・・ゼロ。』
階層隔壁突破ブースト、ゴーっ!
ガチャン
賢斗がレバーを手前に押し込むと魔力メーターが一気に残り10%を切る。
キュィィィィィ――――ン
ドリルユニットが更なる高速回転を始めその先端がぼんやりと黄緑に輝きを放ち出す。
そしてその光がドリリンガー全体を包み込む様に広がっていくと・・・
『これより階層間隔壁に突入します。』
ぐわぁ~ん
なっ、なななななっ。
その瞬間視界は歪み、全てが二重三重に重なって見える。
身体も上手く動かせずまるで時を止められてしまったかの様な感覚が襲う。
少年少女達は只々それをシートに掴まりじっと耐え忍ぶしかなかった。
『階層間隔壁を突破しました。』
ゴガガガガガガ・・・
はっ!おっ、突破したのか。
時計を見ればその針の位置は殆ど変わっていない。
あれこれと現状の把握に努める賢斗だったが・・・
ガラガラガラァ、ひゅ~ん
ドリリンガーは15階層の天井を突き破り、落下を始めた。
うわっ、下層への出口は天井な訳?
何この急展開、このままじゃ・・・
『緊急降下システムを起動します。』
バサァ
車両の四隅から4つのパラシュートが射出されると車体は水平を取り戻し落下速度は緩和された。
お~、ビックリした。
このまま地上に激突するかと思ったぞ。
「アハハ~、面白ぉ~い♪」
えっ、何その余裕・・・こいつは喜んでスカイダイビングとかする口だな。
ガシャ~ン、バサァ、ヒュルヒュルヒュルゥ~
車体が地上に下り立つと、パラシュートは自動収納。
「何か寿命が縮まる思いだったわね。」
確かに、転移もフライもあるけど、このドリリンガーを放って逃げ出す訳にもいかなかったしなぁ。
「着陸の衝撃でまたお茶が零れてしまいました。」
うん、だからその一瞬の隙を突き果敢にお茶を飲もうとするのは止めろぉっ!
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○氷の城門 その1○
15階層に着陸すると天候は回復、星空が覗き遠くまで見渡す事が出来る。
しかしそこは決して氷点下を上回る事のない氷の世界。
永久凍土で覆われた大地には草木も生えず遠くを望めば幾つもの氷山がその行く手を阻む。
前面モニターには、そんな外の様子が映し出されていた。
うっわぁ~、寒そっ。
って、外気温氷点下24度だって。
これもうバナナで釘が打てるレベルだな。
そしてこのロングコートの推奨気温範囲は昨日聞いたら摂氏10度までとか言ってたし・・・う~ん。
ガコン
『これよりドリリンガーモードへの移行を開始します。』
ウィーン、ガチャン・・・
よし、取り敢えずこのままドリリンガーに乗って階層ボスのところへ向かいますか。
降り立った場所が良かったのか、15階層の出口まではそう遠くない。
方角ステッキで確認するまでも無く、階層ボスポイントの位置は賢斗の脳内マップで既に表示されていた。
ガラガラガラガラ
ふ~ん、このドリリンガーの地上での最高速度は60kmってところか。
そしてこの通常走行時でも少しずつだが魔力メーターが回復してる。
しばらく時間は掛かりそうだが、これなら問題は無さそうだ。
まっ、それはそれとして・・・
アイスゴーレムさん達を調子に乗って倒していたら、みんな揃ってレベル18。
となると猫女王様は今現在最高でレベル36の魔物を倒せる。
そしてこれが何を意味するかといえば・・・
う~ん、一体何階層が俺達のゴールになるんだ?
としばらくドリリンガーを走らせていると・・・
「賢斗君、あれが階層ボスポイントかしら?」
「どうやらそうみたいっすね。」
500m程先には氷山の麓に出来た城砦を模した氷のオブジェ。
その中に氷漬けになった巨大マンモスの姿が見えて来ていた。
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○氷の城門 その2○
見たところ先ずあの氷の城門を破壊しないと16階層の通路には入れそうもない。
そしていざ破壊してみればあの巨大マンモスとの戦闘に成っちまうって寸法だな、これ。
で、そのマンモスさんのステータスはどうなってんだ?
~~~~~~~~~~~~~~
名前:ジャイアントアイスマンモス
種族:魔物
レベル:33(51%)
HP 101/101
SM 73/73
MP 74/74
STR : 50
VIT : 56
INT : 46
MND : 44
AGI : 41
DEX : 43
LUK : 52
CHA : 48
【ジョブ】
『氷の番人LV1(6%)』
【スキル】
『踏み潰しLV10(-%)』
【強属性】
水・氷属性
【弱属性】
なし
【ドロップ】
『ジャイアントアイスマンモスの毛皮(ドロップ率(75.0%)』
【レアドロップ】
『ジャイアントアイスマンモスの牙(ドロップ率(5.0%)』
~~~~~~~~~~~~~~
あらあら、HP100超えちゃってるし。
で、この如何にもなジョブは何だよ。
~~~~~~~~~~~~~~
『氷の番人LV1(2%)』
ランク :HR
ジョブ効果 :自身の身体を凍結させる事でHPを自動回復。
【関連スキル】
『氷門LV11(-%)』
『氷結の咆哮LV11(-%)』
『氷耐性LV11(-%)』
~~~~~~~~~~~~~~
あ~なるほど、あの氷の城砦みたいな奴はあいつ自身が作り出してる代物なのか。
そしてあの状態が維持されている間、奴への攻撃は一切通らずその上HPを自動回復までしちまうとか・・・
正に堅牢堅固、氷の番人とは良く言ったもんだ。
で、仮にあの氷の城門を破壊出来たとしても、あのマンモス自体決して弱い訳じゃない。
氷結の咆哮は特殊な超音波を発生し対象を氷漬けにするスキル効果みたいだし、そこから踏み潰しスキルの攻撃なんか喰らったらもうその時点で高レベル探索者だろうがアウトだろう。
う~ん、これステータスも違い過ぎるし普通に考えたら絶対勝てる気がしないわな。
そうなると当然ここはもう猫女王様に降臨して貰うしかないといったところなんだが・・・
あの巨大な氷の城砦に関して言えば、俺の結構氷を切れちゃう剣と氷斬剣の氷消瓦解、そしてドリリンガーによる掘削能力があれば何とかなりそうな気がしないでもない。
そしてその後戦闘に入った際に要注意な氷結の咆哮対策も感度ビンビンで聴覚を無効化してやればイケそうな気もする。
残る問題は有効な攻撃手段だけなんだが・・・
「賢斗ぉ~、ドリリンガーに武器は付いて無いのぉ~?」
ん、おお、そういやその辺はまだ・・・
賢斗は再び取説をパラパラ。
「う~ん、武器は付いて無いみたいだなぁ、これ戦闘用車両じゃないみたいだし。」
「そっかぁ~。」
パラパラ
「あっ、でもそこのパネルについてるクリスタルに触れると、こいつに乗ったまま外部に魔法は放てるみたいだぞ。」
「ホントにぃ~?」
「おうっ。」
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動力魔力外部供給システム
パネル上の水晶玉型操作ユニットを介してドリリンガーの動力魔力を外部から供給出来ます。
また魔力供給以外にも水晶玉を介してドリルユニットの先端から外部に魔法を放つ事も可能。
※操作方法は水晶玉に触れイメージするだけの簡単操作。
※発動後の魔法を操作する際は発動後も水晶玉に手を当てたまま行って下さい。
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まっ、だからと言って今回これが有効な攻撃手段たり得るかは桜のマキシマム次第。
威力自体は特に強化される訳でも無く、俺達が放つ魔法のそれに完全に依存してるみたいだし。
とはいえこの-24度という外気温を考えれば車内に居ながらにして魔法が放てるだけでも結構有り難かったりするか。
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○氷の城門 その3○
さて一応氷斬剣を駆使しつつ賢斗が氷の城砦上部を瓦解させ、下部はドリリンガーの特攻により粉砕していく。
次にジャイアントアイスマンモスの姿が露わになったところで、桜がドリリンガーからマキシマムを放って攻撃する。
とまああくまでマンモスが接近しても動かなかった場合の暫定的な作戦を立案。
勿論如何に桜の最大火力であったとしてもそれだけでこの強敵を討伐出来る等とは彼等も思っていない。
しかしそれでどれだけHPが削れるのかという情報を得る為にも先ずはこの作戦を実行してみようという事になった。
そして万一あの氷の城門を魔物自ら破壊し動きだした場合に備え、直ぐ地下に逃げられる様モグリンガーモードに移行した彼等はジャイアントアイスマンモスへの接近を開始した。
ゴガガガガガガ・・・
するとその距離30mになってもジャイアントアイスマンモスが動く気配は窺えない。
更にそのまま前進を続け10m手前まで到達。
やはり次階層への通路を塞いだこの状況を奴も良く理解している。
予想通りあの氷の城砦は16階層への突破を目指す者が何とかするしかないって訳だ。
「じゃあ先輩、ちょっと運転代わって貰えますか。」
「うん、分かった。
賢斗君のを見てたし私も必要な部分の取説は読み終えたから安心して。」
「私が運転してみたかったよぉ~。」
「まっ、それはまた後でな。
桜には動力魔力外部供給システムを使って魔法攻撃して貰わないとイケないし。」
「賢斗さん、私はとっても暇ですけど?」
・・・この運転席でお茶を溢されると流石にちょっと困る。
つかそれ抜きにしてもこの状況でドリリンガーの運転を任せられるのは俺の中で先輩一択なんだが。
「いや円ちゃんにはいざという時、猫女王様になってあいつを倒して貰う役目があるだろぉ?
今は運転何かして貰ってちゃ困るからさ。」
「あっ、そういう事でしたか。
それなら円も納得です。」
ふぅ~。
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○氷の城門 その4○
後部ハッチから外に出た賢斗は魔物が入った氷塊の上空へと転移。
ドキドキジェットを発動すると愛剣で氷消瓦解を放ち続ける。
ジャキィーン、ジャキィーン・・・
『ピロリン。スキル『氷斬剣』がレベル2になりました。』
おっ、よし、これで発動確率が10%だ。
つかもう寒さが限界・・・早くしてくれぇ~。
『ピロリン。スキル『寒冷耐性』がレベル2になりました。』
よぉ~しよしよし、何とかこっちのレベルも上がってくれたな。
これで直ぐコロッと逝く事は無いだろう。
つってもまだ普通に超寒いけど。
ジャキィーン、ジャキィーン、キィーンガラガラガラァ
おっ、イケるイケる。
その頃ドリリンガーの車内では。
マニュアルでドリルユニットを動かすには・・・このボタンね。
ポチ
キュィィィ―――ン
「じゃあ二人とも、こっちも突撃するわよ。」
「おっけ~♪」
「行っちゃいましょう、かおるさん。」
ゴガガガガガガ・・・ガリガリガリガリ
上部と下部からの二段構えの破壊工作は少しずつだが確実に氷の城砦を攻略していく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○氷の城門 その5○
そして10分後、遂に氷の城砦は崩壊に至る。
ドカッ、ガラガラガラァ
するとその瞬間ジャイアントアイスマンモスの目がキランと光る。
パオォォォ~~~
なっ、聴覚遮断してるのに・・・
ピキィィッ!ひゅ~ん、パキィ~ン、カランカラン
一瞬で氷漬けにされた賢斗はそのまま落下。
地上に落ちた衝撃で粉々に砕け散った。
「あっ、賢斗ぉ~っ!」
「賢斗君っ!」
「賢斗さんっ!」
モニター越しに悲鳴を上げる少女達。
「うぅぅ・・・もう怒ったぞぉ~っ!」
桜は目に涙を浮かべるとパネル上の水晶玉型操作ユニットに手を触れる。
すると・・・
「桜、私にも協力させてっ!」
「私もですっ!」
三人の手が重なり合う。
「「「ファイアーボール・マキシマムぅ~っ!」」」
ドリルユニットの先端からはこれまで見た事も無い緑色に輝く巨大な火球が放たれていた。
次回、第百三十七話 細氷の祝福。




