第百三十四話 モグリンガーと階層隔壁突破ブースト
○発進、ドリリンガー その2○
改めてコックピット周りを確認してみれば、操縦桿越しに見えるスピードメーターや出力計と思われる計器類。
また前面横長のモニターがまるでフロントガラスが張ってあるかの様に外の景色を映し出し車両メカニズムモニターや現在地を映す地下マップ、広範囲探査レーダー等がポップアップウィンドウで表示されている。
一方左右のパネルには様々なボタンやレバー型のスイッチ類、足元には先程踏み込んだアクセルペダルとその反対の左足部分にはブレーキペダルといった具合。
にしても何か無暗に触っちゃ不味そうなレバーやスイッチが結構あるなぁ。
さっきは勢いで適当に動かしたが、ちゃんと操縦するにはちょっとお勉強が必要かも・・・
おっ、こんなところに操縦マニュアルが。
賢斗はサイドポケットに入っていたマニュアルを取り出すと早速開いた。
パラリ
フムフム、取り敢えずこれが後部ハッチの開閉ボタンか。ポチ
ギィィ、バタン
小さなワンボックスカー程度の車内には細い通路を挟んで左右に四つのシートがあり、突き当りの中央が操縦席。
車両後部のハッチから早速乗り込んできた女性陣はそのシートには座らずそのまま賢斗の元へ。
「賢斗ぉ~、もう動かせるのぉ~?」
程無くギュウギュウ詰めのコックピットが出来上がる。
おいおい、皆顔近いって・・・まっ、別に良いけど。
「おっ、おう、ちゃんと動力は回復したみたいだ。
でもさっき動かしたのは適当にやっただけだし、ちゃんと動かすにはしっかりこいつを読んでからにしないと。」
賢斗は自分が読んでいた操作マニュアルを彼女達にも見せる。
「そうねぇ、でもエアコンくらいは早めに点けちゃいましょ。」
ポチッ、ふわぁ~
「ちょっとせんぱぁ~い。」
「いいじゃない、A/Cって書いてあるし、温度調整のツマミまで隣にあるんだから間違いないでしょ。」
まっ、そうだけども。
「あっ、ビームボタンだぁ~。」
「なっ、おいっ・・・」
ポチッ、ウィーン、パッ
なぁ~んだ、前方のライトが点いただけか。
にしてもリトラクタブルライトを採用とは、なかなか分かってますなぁ。
って違ぁ~うっ!
「ちょっと桜まで勘弁してくれ。
俺がまだ取説読んでる最中だろぉ?」
「え~、だってビームボタンだよぉ~?」
まあビームボタンじゃ仕方ない・・・ってなる訳ねぇだろっ!ったく。
まっ、気持ちは少し分かるけども。
ってあれ?
この流れであのお嬢様が黙っていられる筈が・・・
何かとってもワクワクしますねぇ。
「えいっ!」
パシッ
目をギュッと閉じ右手を伸ばす少女の手首を賢斗はしっかりと掴んだ。
ふぅ、間一髪だったぜ。
「ちょっと賢斗さん、何をするんですかっ。
手を離して下さい。」
がしかしその腕は依然その意思を失わずプルプルと震え続けている。
う~ん、いきなりそこに手を伸ばすとは流石だな、このお嬢様。
「円ちゃん、少し待ってくれ。
今俺がそのレバーが何なのか調べてみるから。」
「賢斗さんともあろう御方がまるで分かっていませんねぇ。
こういうのは何が起こるか分からないからこそ楽しいのではないですかっ。」
「まあ人には夫々見識の違いというモノが・・・」
円はもう限界ですっ♪
「えいっ!」
ガチンッ
あっ、何やってんのっ!
円が反対の手で左手前のレバーを押し込むと・・・
『これよりモグリンガーモードへの移行を開始します。』
唐突に響くアナウンス。
えっ、何?
ウィーン、ガチャ、ガコン
『モグリンガーマウス展開完了。』
あちこちから聞こえて来る動作音。
ガチャンッ、ブゥイィーン
『モグリンガーアーム展開完了。』
フロントモニターには地下潜航形態へと変わっていくドリリンガーの姿が映し出されていた。
『地下潜航スタンバイ、オールクリア。
モグリンガーモードへの移行が完了致しました。』
「「「「おおっ♪」」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○発進、ドリリンガー その3○
パラパラパラ・・・
ドリリンガーの足回りの転輪は左右に6つずつありキャタピラは3つの転輪毎に前後に分かれたセパレートタイプ。
モグリンガー形態へと移行すると前側の転輪3つが更に車両の前方へと移動。
更に90度外側に展開したそのキャタピラの外側には鋭いスパイクが突き出し、鼻先のドリルと共に前方の掘削を担う。
ふむふむ、モグリンガーアームってのは正にモグラの前足って感じか。
で車体の前に出来たでっかい口は何なんだ?
また車両前部の装甲の形状が変化したモグリンガーマウスは発生する土砂の処理を行う。
なるほどぉ、このブルトーザー(ブルドーザー)のバケットみたいな代物は土砂は集めてどっかの異次元空間にでも自動排出するシステムって訳か。
他にも車両の下から補助輪みたいなのが出てるみたいだけど、恐らくこれは・・・
「何かこのモグリンガー形態は地中に潜る時の形態みたいですよ。」
「あっ、やっぱり?
この形からして如何にも潜りますよぉって感じがするものねぇ。」
「では賢斗さん、早く動かしてみて下さい。」
「うんっ、もう我慢の限界だよぉ~。」
う~ん、まっ、粗方走行に関する部分だけなら頭に入ったし、皆をこれ以上お待たせする訳にも行くまい。
「・・・そうだな。
それじゃあ皆、席に着いてシートベルトを着けてくれ。」
「「「お~っ!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○発進、ドリリンガー その4○
取り敢えずこんなモードにチェンジしちゃってるし地下に潜ってみるか。
何たってこの車両は地下探索車両だし。
えっと、地下に潜る時は先ず操縦桿で前方の地表に照準を合わせてこのボタンを。ポチッ
ギュィィィ―――ン
モグリンガーアームの転輪が高速回転を始めると角度調整を自動で行いながら車両前方の地表を削り始める。
よし、後は少しずつアクセルを。
後部駆動が推進力を生み出すと車体は徐々に前傾姿勢になって行く。
そしてドリルユニットの先端が地面を感知すると高速回転を始め、車体は地中へと潜り始めた。
ゴガガガガガガガガガガ
おおっ、ちゃんと潜ってる潜ってる。
「あら、意外と揺れは大した事ないわね。」
確かに地中走行でこの程度なら満点に近い評価を与えても良いだろう、うんうん。
「でもこんな薄いシートクッションなんて、長時間乗ってるとお尻が痛くなっちゃうかも。」
っとに分からん奴め。
この無骨なメカには黒革の薄いクッションが最高だろうに。
「アハハ~、何かジェットコースターみたいだねぇ~。」
う~ん、まあスピード感は無いが、かなりの角度で進んでるからなぁ。
シートベルトが無かったらアウトなこの状態は確かにジェットコースターが上から下に移動する時に近いものがあるな。
「あっ、賢斗さん大変です。
スイッチを押したらお茶が出て来たのですが、直ぐ零れてしまいました。」
うん、そのボタン今押しちゃイケない事くらい少し考えれば分かりそうなもんだが。
・・・ちゃんと拭いておいてね。
としばらく地中を進み地下1000m程に到達すると・・・
ピコーン、ピコーン
レーダーに反応が現れた。
『地下鉱脈を発見しました。
解析しますか?Yes/No』
車内アナウンスと共にモニターに映し出される文字。
おおっ、やっぱりあったか。
探査レーダーなんてものがあったしもしかしてとは思ってたが、どうやらダンジョンの地中にはこんな風に地下鉱脈が存在する様だ。
賢斗はパネル上のボール型マウスを動かしYesをクリック。
すると解析中の文字と共に進捗状況を表すパーセンテージが表示され数秒後それは完了。
前面モニターにはその解析結果が表示された。
--------------------------------------
鉱脈解析結果
詳細 比較的高純度の魔銀鉱石が採れる小規模鉱脈です。
推定埋蔵量 約1.2トン
鉱脈評価 C
--------------------------------------
って、嘘、こんなに一杯?
「ねぇ、賢斗君。魔銀鉱石が1.2トンってこれ全部私達が一人占め出来るの?」
「そうじゃないっすかねぇ。
こんな地下深くになんて、誰も来れないと思いますし。」
「やったぁ~♪」
「はい、ここは皆でかおるさんの様に採掘スキルを取得し、全部頂いて帰りましょう。」
「あっ、でも待って円。
幾ら採掘スキルを全員が取得したって、これだけの鉱脈を全部採掘するには数日は掛かると思うわよ。
そして今はマジコン期間限定でこの富士ダンジョンに入れているだけな訳だし、実際全部を回収するなんて無理よ。」
確かに、くぅ~、こんなお宝を前にして全部回収出来ないとは、う~ん、何か回収機能は付いて無いのか?
パラパラ・・・おっ。
「その点も心配要らないみたいですよ、先輩。
このドリリンガーには自動採掘機能まで付いてるみたいですから、単にその鉱脈を掘り進めれば鉱石を自動採掘し選別保存までしてくれるみたいです。」
「えっ、そんな便利機能まであるのぉ?
ダンジョン産の乗り物ってホント凄いわねぇ♪」
うんうん、1.2トンの魔銀鉱石なんて売ったら一体幾らになる事やら・・・いや~、笑いが止まりませんなぁ♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○発進、ドリリンガー その5○
1時間程掛かった魔銀鉱石採掘が終わると賢斗達は新たな鉱脈を求め更に地下へと進んだ。
しかし地下2000mを超えた辺りでその先のマップ表示は無くなっている。
う~ん、これは地下のフィールドエンドって事か?
『間もなく階層間隔壁に到達します。
階層ボス出現階層につき階層隔壁突破ブーストはその使用を認められておりません。』
へっ?何?階層間隔壁?どゆこと?
パラパラパラ・・・
--------------------------------------
階層隔壁突破ブースト
ドリルユニット後部のジェットエンジンが噴射され、超高速回転となったドリルユニットが階層間の次元隔壁を突破します。
※階層ボス出現階層での使用には制限が掛かるケースがあります。使用する際はアナウンスの指示に従って下さい。
※魔力消費が大変激しいのでご使用の際はくれぐれもご注意下さい。
--------------------------------------
う~ん、これを使えばつまり下の階層へと行けてしまうのか?
流石に階層ボス出現階層では使えない様だが、実際とんでもない機能だな、これ。
こんな事が出来るなら態々危険を冒して15階層への出口を見つけに行く必要だって無い訳だし。
「なあ皆、取り敢えずこれ以上下には行けないみたいだし、次は14階層へ行ってみないか?」
「それって今度は14階層の地下をこの乗り物で探索してみるって事?」
「ええ、まあ。
もっと深い階層であれば魔銀鉱石以上の鉱脈があるかもですし、何と言っても15階層への探索の手間が省けそうですからね。」
「うん、じゃあ早く14階層へ行こぉ~。」
「ではあの湖の畔から地下に潜ると致しましょう。」
と女性陣達は先行して14階層へと転移して行く。
残った賢斗は後ろのハッチから外に出ると、車両後部の小さな扉をスライドしボタンをポチッ。
ボンッ
いや~、何気にこの機能も非常に助かる。
異次元収納つっても無限にそのスペースがある訳でも無し、持ち運びまで便利だなんて、全くぅ、憎い憎い♪
一瞬でカプセル型の小さなアイテムになったドリリンガーを拾い上げると賢斗も転移で14階層へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○金の宝箱 その1○
通常フィールドに出てみれば辺りは既に夕景色。
午後6時を回り賢斗達が再びお化け白ナマズの居た湖の畔にやって来ると、既に地震は収まり辺りは静けさを取り戻していた。
う~ん、まあちょっと時間延長するとしても、夕食前に15階層までは行っときたいよな。
「賢斗君、ちょっとアレ見て。」
ん、おっ、あれは・・・
平坦な分厚い氷に覆われた湖面は先の大地震により結構な変わり様。
大きな亀裂の後、割れて盛り上がった氷盤がそのまま再凍結したかの様な凹凸な湖面。
そして湖中央、金の宝箱が入った氷岩の周りでは下半分以上を氷に埋められ身動きが出来なくなったアイスゴーレム達が両手をジタバタさせていた。
何だろう、既に興味は地下探索へと向いている状況なんだが、こんな大チャンスをみすみす放っとく訳にもいかないわな。
「じゃああいつ等の処理は俺に任せて下さい。
先輩達はお宝の回収作業をお願いします。」
「賢斗君一人で大丈夫なの?
まあ近くに居るし直ぐ助っ人に入れるから別に良いけど。」
「心配ご無用、あいつ等の倒し方ならもう既に分かってますし、チャチャッと片付けて見せますんで。」
「わぁ~い、金のお宝だぁ~。」
「何やら私にはとっても良い予感がしますよ、賢斗さん。」
と賢斗のアイスゴーレムの背後から左胸目掛け愛剣を突き立てる作業が30分程で終了するとかおるの氷岩を溶かす作業も無事終了。
そして場面は既に面々が少し離れて見守る中、桜が生み出した分身さん1号が金の宝箱を今正に開けようかといったところである。
「じゃあいっくよぉ~。」
パカッ
おおっ、この宝箱はノントラップか。
いや~分身さん1号が無事だと何だかちょっと嬉しい、うんうん。
なぁ~んて感慨に浸っていると、既に宝箱の周りは女性陣が占拠し賢斗の入り込む隙間は無かった。
・・・なんてこった。
「やったぁ~、金のお宝初ゲットぉ~♪」
宝箱の中に手を伸ばした桜が右手を掲げて立ち上がる。
んっ、あれは・・・
次回、第百三十五話 青春の苦い思い出。




