第百三十二話 ドリリンガーの操縦桿
○キーアイテムを手に入れろ その3○
「・・・とまあこんな感じで、魔物はどうやらこの湖の中にはこの1体しか居ないみたいだったんだけど、場所が悪くってさぁ。
氷岩を下から溶かしてると、下の魔物が襲ってくるかもしれない。
そしてその下の魔物の巣穴の奥にはもう一つの宝箱があったし、俺的にはそっちが本命のユニークトレジャーじゃないかって思うんだけど。」
超一流の探索者様なら上の5体のゴーレムを討伐出来るだろうし、凍った湖の中へ入る様なマネはしないだろう。
位置的条件もクリアだし、100年間誰にも発見されていなかった点も湖底の宝箱なら納得がいく。
「ふ~ん、まあ確かにそっちが本命かもねぇ。
とはいえ先ずは作戦を変更せずに行ってみましょ。
私が氷岩の下まで行って穴を作ってみるから、下の魔物が襲って来る様ならその隙にこっそり巣穴のお宝の方を頂いちゃえば良いんだし。
襲って来なかったらそれはそれであの金製の宝箱が手に入るでしょ。」
「あっ、そっすねぇ、それじゃあそれで行ってみますか。」
確かにこの作戦ならどっちかの宝箱は手に入るしな。
「じゃあ一旦クローバーに戻って着替えて来るから、賢斗君はちょっと待ってて頂戴。」
「ちょっと行って来るぅ~。」
「では小太郎もついでに拠点部屋に置いて来ます。
この子は水の中は嫌いでしょうし。」
「当たり前だにゃ。」
まっ、その方が安全だな。
と待つ事10分、サンバカーニバル姿の三人が再び現れる。
くぅ~、またこの姿の三人に会える幸せ。
はっ、こんなエロ可愛い姿を公共電波に乗せる訳にはっ!クルッ、クルッ
ふぅ、ドローンは無いみたいだな・・・何か知らんが、この強風でも見事に飛行してたし。
「うわぁ~、やっぱり滅茶苦茶寒いわよ、ここ。
早く水の中に入っちゃいましょ。」
まあそのセクシー装備でも0度以下の気温は対応外だろうし。
「うん。」
「では行きましょう、賢斗さん。
今度は私のシャークヘッドグローブの力をお見せしますよ。」
ガチンッ、ガチンッ
何か物騒なグローブだな、それ。
ドボンッ、ドボンッ、ドボンッ
おっと、俺も遅れる訳には・・・
ドボンッ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○キーアイテムを手に入れろ その4○
水中に入り、氷の下を泳いで行く一同。
いやぁ~、眼福眼福ぅ~♪
あの太ももから臀部に掛けての動き。
ホ~ントそのサンバカーニバルは最高の装備ですなぁ。
フライの推進力が無かったら、このご褒美ポジションのキープもかなり大変だろうと思いますし、その性能はかなりのものですよぉ♪
お~、何とズーム機能まで・・・
ムグゥ
(ちょっと賢斗君、人のお尻で何やってるのよっ。
っとに、ちゃんと前見て泳ぎなさいよねっ!)
(いえ、しっかり前は見てましたが?)
何故か脳から停止命令が出なかっただけで。
とようやく氷岩の真下ポイントに辿り着くと水深は20m弱といったところ。
(でも変ねぇ、着いたは良いけど湖底に穴なんて何処にもないわよ?)
えっ、嘘。
(ホントにお宝あったのぉ~?)
いやいやちゃんとありましたって。
しかし賢斗も湖底に目を凝らしてみるが空洞はおろか魔物の存在すら確認出来ない。
そして脳内マップに至っては何もない只の湖底といった感じに表示されている。
あれ、おかしいな。
ハイテンションタイムで確認した時は確かにあった筈・・・う~ん、こんな事ある?
腕組みしながらしばし熟考、湖底を眺めていると・・・
(では賢斗さん、これから円のシャークヘッドハイパー激おこ猫パンチをお見せしますよ。)
いや今それどころじゃないでしょ、お嬢様。
(しゃあぁぁぁ、にゃおっ。)
ガチンッ、グリュリュリュリュゥ~
その瞬間強烈な水流が賢斗達を襲った。
うわぁっ!
なっ、ちょっとちょっとぉ、今度のお嬢様のパンチは自爆パンチですかぁ?
いっ、いやっ、違うっ!
咄嗟にガードした両腕の隙間から前方を窺っているとチカチカと何かが明滅を繰り返す。
なっ、何だっ、あいつっ!
明滅が収まるとそこには5mを有に超す髭を1本失ったナマズ型の魔物が現れていた。
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名前:お化け白ナマズ
種族:魔物
レベル:30(92%)
HP 77/89
SM 66/66
MP 64/64
STR : 43
VIT : 42
INT : 39
MND : 37
AGI : 35
DEX : 37
LUK : 47
CHA : 35
【ジョブ】
『インビジブルイーターLV1(6%)』
【スキル】
『アースクエイクLV10(-%)』
【強属性】
水・氷・土属性
【弱属性】
火・炎属性
【ドロップ】
『アースクエイクのスキルスクロール(ドロップ率(75.0%)』
【レアドロップ】
なし
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あっぶねぇ~、今俺達こんな奴に襲われる寸前だったってのか。
そしてつまりさっきの攻撃は・・・何かゴメン、円ちゃん。
にしてもインビジブルイーターって・・・まあでも確かにあのデカい口なら上からガブッと食われちまいそうだ。
って、ちょっと待て・・・こいつジョブ経験率が上がり始めてるのか?
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『インビジブルイーターLV1(6%)』
ランク :R
ジョブ効果 :なし
【関連スキル】
『ステルス迷彩L11(-%)』
『大食いLV11(-%)』
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ちっ、なるほどな、パーフェクトマッピングでも騙される訳だ。
(賢斗ぉ~、宝箱があるのはあの穴の中ぁ~?)
へっ、あっ、底の空洞がちゃんと見えてる。
髭を失った大ナマズはステルス迷彩スキルの効果を維持出来なくなっていた。
(おっ、おう、そうだな、あの穴の奥に宝箱が有る筈だぞ。)
にしてもどうする?
空洞の入り口が見つかったは良いが、こんな凶悪そうな魔物が居たんじゃ・・・うわっ、また来やがったっ!
ガチンッ、グリュリュリュリュゥ~
(あっ、やりました。
もう一本お髭を頂いちゃいましたぁ。)
ってあれ・・・お嬢様がさっきから予想以上の大活躍なんだが。
確かに初撃が命中した事に関しては偶然の賜物としか言い様が無い出来事。
がしかしこの二撃目に関しては本物で、如何に格上と言えどもシャドーボクシングの遠隔攻撃はその特性上射程範囲内では回避不能に近い。
(どうですか?賢斗さん、円のシャークヘッドハイパー激おこ猫パンチは?)
うん、ホントその何とかパンチ凄い。
つか勇者の俺より勇敢だな、このお嬢様。
またシャークヘッドグローブを装着したお蔭で水中でありながらその威力も僅かばかり上昇。
大ナマズの弱点部位を破壊するには十分の威力を発揮していた。
(じゃあさぁ、もうお宝取りに行こぉ~?)
いやいや、それは目の前の大ナマズさんに聞いてくれ。
ってあれ、意外とイケそう?
また一つ髭を失った大ナマズはまるで方向感覚を失ったかの様にグルグルと同じ場所で暴れていた。
つか何か知らんが大チャンスだな、これ。
・・・ここはお嬢様の活躍に賭けてみるか。
(円ちゃん、悪いけどこれからあの洞穴に突入するからこいつの足止めを頼めるかな?)
(はい、賢斗さんのご要望とあれば円は幾らでもそれに応えて見せますよ。)
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○キーアイテムを手に入れろ その5○
円を残し、湖底の空洞入口まで転移した三人。
グラグラグラ・・・
(賢斗ぉ~、何かちょっと揺れてるよぉ~。)
湖底に下り立った彼等はそこで初めて地面が揺れている事に気付いた。
改めて周囲を確認すればブクブクと小さな泡が立ち上り、あたかも地震の前触れを予感させる。
あっ・・・アースクエイクLV10(-%)
これはあいつの仕業か。
ボロボロボロ・・・
(ちょっと賢斗君、急がないと不味いわよっ。)
空洞内では天井から細かな岩の破片が落ち始めていた。
(そっすね、急ぎましょう。)
ドスッ、シュルシュルシュルゥ~
先行するかおるが落下寸前の天盤にドリアードの矢を放つと生い茂った蔦植物が天井の落下を防ぐ。
しかし刻一刻と崩落が進む中、その通路は次第に狭くなっていく。
(あったよ、賢斗ぉ~。)
おおっ!銀色?
って、上の宝箱よりグレードが下がってんじゃねぇか。
う~ん、これはこっちがハズレという線も出て来たな。
とはいえリトルマーメイドの操舵輪も銀の宝箱だったし見限るにはまだ早い。
(じゃあ桜、早いとこ分身1号さんで宝箱を開けてくれ。)
(おっけ~、ぶんし~ん。)
召喚された桜分身1号が宝箱の上蓋を押し上げると・・・
モワモワモワ~
宝箱の周囲が紫色に濁り始める。
あっ、分身1号さんがっ!
僅かに浮き上がった桜分身1号は光の粒となって消滅していった。
あれは猛毒トラップか?
(どうするの?賢斗君。
このチャンスを逃したらもう私達には後が無いわよ。)
ダンジョン内のフィールド復元には24時間程掛かると言われる。
マジコン期間という制約を加味した彼女の言葉の意味を賢斗も良く理解していた。
(分かってますって、先輩達は一足先に逃げて下さい。
あとは俺が勇者オーラで何とかしますから。)
(あっ、その手があったわね。)
じゃあ、後は頼んだわよ、賢斗君。)
そんな言葉を残すとかおると桜はその場から姿を消した。
このチャンスは絶対に逃す訳には行かない。
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○キーアイテムを手に入れろ その6○
むふぅ、ついに私は賢斗さんの期待を取り戻してしまいましたぁ♪
つきましては何としてもこの足止め役のお勤めだけは立派に果たさなければなりません。
でもこうして見ているだけというのも何だか物足りない感じですねぇ。
何かこう、そうそう、頑張りました感が足りません。
やはりここはもう1本くらいあのお髭を頂いちゃう事にしましょうか、チラッ
円が大ナマズを見やると髭の一本が赤く光っていた。
アレにしましょう。
何だかとっても立派に見えますし、賢斗さんもきっとお喜びになる筈です。
しゃあぁぁぁ、にゃおっ。
ガチンッ
ズゴゴゴゴゴゴゴォー
大ナマズの髭が切断された途端、湖底が大きく割れ、水中の水が大きく揺れ出した。
あっ、洞穴が・・・タラリ
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○キーアイテムを手に入れろ その7○
さて、俺もお宝を回収してとっととこんなとこからおさらばしますか。
勇者オーラ、は・・・
ドゴゴゴゴゴォ―、プシャー
瞬間大きく揺れ出した湖底、亀裂の入った地面からは数百度の熱水が噴き出す。
うわぁっ、なっ、あっちぃぃぃ~~~っ!
賢斗は直ぐ様大気圏再突入プロテクトを発動。
キュアキュアヒィ~~~ルッ!
回復魔法を掛けまくる。
ふぅ~、何が起こったっ!?
未だ収まらぬ強烈な熱水流。
賢斗は横壁に手を掛け宝箱の行方を確認する。
あっ、あれはっ!
横転した宝箱から円形のアイテムが飛び出すと銀の宝箱は消えて行った。
コロコロコロ・・・
やっぱりこっちが本命だっ!
スト~ン、コーン、コーン、コーン
しかしそのアイテムは亀裂の入った湖底深くへ落ちて行く。
待てぇ~。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○キーアイテムを手に入れろ その7○
湖底からの脱出を図った賢斗は湖畔で待っていた三人と合流。
しかしそこは未だ揺れがかなり激しかった。
そして安全な場所を求め直ぐコテージのリビングへ転移するとようやくメンバー達から賢斗を労う声が飛んだ。
「さっきの地震だいじょぶだったぁ~?」
「おう、まあ何とか。」
「良くお戻りになられました、賢斗さん。
円はとっても心配しておりましたよ。」
「うん、サンキュ、円ちゃんも足止め役ご苦労様。」
「でもまあそんなにしょんぼりしなさんなって。
確かに残念な事ではあるけれど、何時かまたこの富士ダンジョンに来た時のお楽しみって事で。」
何を勘違いしてるか知らんが、俺を元気付けたいのならその既に皆さん羽織っているロングコートを脱げば良いだけの話ですよ、先輩。
「何言ってんですか、先輩。
お宝はほれ、この通り。」
「なぁ~んだ、とっても不機嫌そうな顔してるから、ダメだったかと思ったじゃない。」
・・・そりゃあんな目に遭えば笑顔も消えるわ。
「それがドリリンガーのキーアイテムなのぉ~?」
「ああ、間違いない。
こいつが俺達が探し求めたキーアイテム、ドリリンガーの操縦桿だ。」
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『ドリリンガーの操縦桿』
説明 :地下探索車両の操縦桿。
状態 :良好
価値 :★★
用途 :不明
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「やったぁ~、これでドリリンガーに乗れるよぉ~♪」
「そうねぇ、後は円に頑張って貰うだけだし、大した危険も無いでしょ。」
「はい、お任せください、かおるさん。」
ふっ、まっ、こうして無事お宝が手に入ったのは良かったが、最後はホ~ントヤバかったなぁ。
大火傷は負うし、お宝は亀裂の中に落っこちてくし・・・
「ったく、あんな大地震洒落になんねぇっつの。」
最後に賢斗は笑みを見せながらもそんな愚痴を溢すのだった。
「えっ、あっ、円は何もしませんでしたよ、賢斗さん。
決して赤くなった髭など切ってはいません。ヒュ~、ヒュ~」
何だろう、この証拠不十分な真犯人。
次回、第百三十三話 発進、ドリリンガー。




