第百三十一話 もう一つの宝箱
○中間結果のご報告○
昼食を終えた賢斗達が午後の探索へ出発すると、リビングに残された水島はマジコンの中間順位の結果を中川に報告していた。
「それで多田さん達の中間順位はどうだったの?」
「はい、お昼の中間発表では最下位になっちゃってました。」
「えっ、嘘、最低でも30位台はキープすると思っていたのに。」
何なの?この予想外の結果は。
世間的には順当だって言うかもしれないけど、あの子達の事を良く知ってる人間からしたら・・・これはきっと何かあったわね。
「ちょっと光、この順位には何か理由があると思うんだけど。
貴方、何か心当たりはない?」
「それがですねぇ、私もさっき初めて聞いたんですけど、どうやら本戦に入ってからこの富士ダンジョンで乗り物系オブジェクトを見つけちゃったらしくて。」
「えっ、それホント?」
「はい、ですから多田さん達は今本戦なんかそっちのけで、トレジャーハントに全力投球って感じみたいです。」
何か眩暈がする程斜め上の展開ね。
・・・流石の私もそこまで予想出来なかったわ。
「注意した方が良かったですか?
ちょっと判断に迷ったのでまだ何も言ってませんけど。」
とはいえそういう事なら少し話は変わってくる。
「う~ん、いえ、取り敢えずはそれで正解よ、光。」
Gランクの高校生パーティーがマジコンに出場し乗り物系オブジェクトを発見?
これだけでも十分凄い事だし、あの子達が浮かれてキーアイテム探しにまで手を出したくなる気持ちも分かる。
しかし彼らに道を作ってあげる立場の私としては本来止めてあげるべきところ。
たった二日でキーアイテムまで見つけて乗り物系のお宝を手に入れるなんて到底無理だし、大事な本戦順位を落としてまでする事じゃない。
でも仮にそれが実現したとすれば・・・
「光、マジコン順位も大事だけど、その乗り物系オブジェクトを本当に手に入れる事が出来れば順位が最下位だろうと関係ない。
かなり話題にもなるでしょうしそれを補って余りある成果と言えるわ。」
「そうですよね、私もどっちが良いか凄く悩みましたけど。」
何にせよ、残りはもう1日しかない。
今から方針転換したってきっと期待した順位には届かないでしょうね。
「うん、ここはもう少し様子を見ましょう。」
私のご褒美を無視してまでそんな選択をしたのなら・・・
「あっ、はい、分かりましたぁ。」
手に入りませんでしたじゃ済まさないわよ・・・多田さん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○キーアイテムを手に入れろ その1○
ハーックション、ジュル
あ~、やっぱ寒いねぇ、この階層。
午後に入り14階層の外れで見つけたキーアイテムポイントにやって来たナイスキャッチの面々。
クルクルクルゥ~、ドシ~ン
「あっ、本当に魔物がスケートしています。」
「だから言ったでしょ~。」
さぁ~て、どうすっかなぁ。
宝箱の入った氷岩の傍へは転移で直ぐ行けるだろうけど、問題はその周りを滑っている5体のゴーレム達。
お宝を取り出すのにも時間が掛かりそうだし、どう見ても奴等を倒さないとダメっぽい。
つっても・・・
「ねぇ、賢斗君、あのゴーレム達レベル30もあるわよ。
しかも氷上ダンサーなんてジョブまで持ってるし、これだけの数が居ると普通に行ったらまるで倒せる気がしないんだけど。」
そうそう、俺が倒した個体よりこいつ等強そうなんだよなぁ。
真面にやり合っても勝てる見込みないし、当初の計画ではもうここで猫女王様にそのお力を発揮して頂くつもりでいたのだが・・・
う~ん、あの金の宝箱はホントにユニークトレジャーなんだろうか?
「で、作戦はどうするの?賢斗君。
もうここで円にエボリューションして貰うのかな?」
「いやぁ、俺としてはまだここで猫女王様の御降臨は早い気がしてるんですよねぇ。
なぁ~んか100年も発見されていない割には結構目立つところにありますし。」
「言われてみればそんな気もするけど。
まあ超一流の探索者ならこのエリアにも来れちゃうだろうし。」
「だったらどうするのぉ~?」
う~ん、手段は幾つかあるにはあるが。
「ちょっと皆の意見も聞かせて貰って良いかな。」
お嬢様も何か新しい技を手に入れたみたいだったし。
「桜だったらあのお宝を安全に手に入れるとしたらどうする?」
「えっとねぇ、あの氷の岩の上からドーナツ型のおっきいファイアーボールを落とすよぉ~。
そうすればさぁ、ゴーレムも近づけなくなるしぃ~。」
あっ、なるほど、氷岩周囲の湖面を溶かして堀を作る作戦か。
意外と試してみる価値がありそうだな。
「先輩の方は何か良い考えありますか?」
「う~ん、あっ、そうだ。
私昨日マテリアルヒートって言う物質を加熱するスキルを取得したんだけど、こういうのはどうかな?
端っこの湖面の氷を溶かして穴を開けるの。
水中からあの氷岩の真下まで移動して宝箱の下の氷を溶かしてあげれば・・・
ねっ、結構良い作戦でしょ。」
ふむ、金庫破りの泥棒みたいな発想だが、なかなかどうして。
時間は掛かりそうだが、氷の下の水中に魔物が居ないとすればその安全性は桜の案より格段に高い。
「円ちゃんならどうする?」
「そんなものは正面突破に決まっていますよ、賢斗さん。
私には猫拳秘奥義ハイパー激おこ猫パンチがありますから。」
ほう、あの巨大ゴーレムを見て尚そんな大口を叩けるのか。
ハッタリ臭がプンプンするが、ここは何はともあれそのハイパー何チャラパンチを一度見せて貰らった方が良いかも。
「じゃあ円ちゃん、そのパンチをあっちの山の方にちょっと撃ってみてくれる?」
「ええ、良いですよ、賢斗さん。
これを見ればもう賢斗さんは私に期待せずにはいられませんよ。」
円は猫人化すると四つん這いになる。
「しゃあぁぁぁ、にゃおっ。」
ドゴォ~~ン
凍った雪面に直径1mの大穴が出来た。
おおっ、何だ?この虚弱体質お嬢様とは思えぬ破壊力。
・・・確かに大口を叩くだけの事はある。
にしてもこれは一体どういった絡繰りだろう?
「最初はおいらの激おこ猫パンチより弱かったにゃ。
途中から急に凄くなったにゃ。」
「コッ、コラ、小太郎、余計な事を言うんじゃありません。」
えっ、途中から凄くなった?
う~ん、これは・・・
「小太郎、もしかしてその時円ちゃんからナデナデされなかったか?」
「さっ、されたにゃ。あにき、良く分かったにゃっ。」
・・・やっぱり。
普通に考えれば小太郎と同じ猫拳スキルのパンチを放ったとして、このお嬢様のパンチ力が小太郎以上というのは有り得ない。
しかし俺の想像通りなら話は別。
小太郎以上の破壊力にまでなっている点にはまだ少し疑問が残るが、お嬢様がスペシャルスキル獣纏の力を解放し小太郎の身体能力を手に入れたというのは間違いないだろう。
ってあれ、しかしそうなるとこのお嬢様はもう既に小太郎と同等の素早さを手に入れているって事だよな?
「円ちゃんってさぁ、もう結構素早く動けたりしない?」
「えっ・・・なっ、何を言っているのか分かりませんよ、賢斗さん。ヒュ~、ヒュ~」
・・・口笛、へったくそだな、おい。
とはいえこの円ちゃんを加えて俺達が総力戦を挑んだとしても苦戦は必至。
あの巨大ゴーレム達との戦闘は避けれるものなら避けておきたい。
と最終的に賢斗が選んだのはプランBのかおるの作戦。
まっ、このプランだけ唯一ゴーレム達との戦闘を回避出来る可能性があるからな。
確かに水中の状況に不安はあるが、ダメならそこでまた他の選択肢を模索すれば良いだけ。
先ずは下に潜ってその状況だけでも確認しておくべきだろう。
賢斗達は早速湖の端へと移動し計画の実行に移った。
湖上にしゃがみ込んだかおるは湖面の氷に手をかざす。
攻撃魔法の様な派手さも無く、氷岩周りを周回するゴーレム達が臨戦態勢に入る様子はない。
次第に湯気が立ち上り、湖面に張った分厚い氷は順調に溶かされていった。
そして30分程掛かったその作業は、厚さ2m以上の氷に直径50cm程の縦穴を作り上げる事に見事成功。
そこで先ずは誰か一人が中に入って水中偵察をする事になったのだが・・・
「じゃあ俺が先に中に入って様子を確かめて来るよ。」
「ちょっとそれ正気なの?
賢斗君は大人しくここで待ってれば良いじゃない。」
「賢斗ぉ~、お水すっごく冷たいよぉ~。」
「はい、賢斗さんの海パンには保温機能もありませんし。」
女性陣がこんな心配をするのも当然で、サンバカーニバルが無い賢斗では限りなく0度に近い水の中を泳ぐ事など自殺行為そのものである。
しかし彼の決意は固く決して譲る事は無い模様。
ああ、分かっている。
「でもほら感度ビンビンだってあるし、中に入ったら直ぐハイテンションタイムで寒さ耐性系のスキルを取得出来るか試してみるんですよ。
そのついでになっちゃいますけどハイテンションタイムならちゃんとこの湖全体の把握もパーフェクトマッピングより正確に出来ます。
それに俺だけお宝ゲットの瞬間に立ち会えないのは何とも寂しい限りですし。」
しかしこの水中偵察が上手く行ったとすれば、皆も一緒にこの水中に潜る事になる。
セクシー装備を装着した美少女達が泳ぐ姿を後ろから堪能するという大事な仕事が俺には待っているのだ、うん。
実はこの作戦を選んだ真の理由はこれだったりする。
「っとにもう、仕方ないわね。
風邪をひいても知らないわよ。」
「ホントに大丈夫ですか?賢斗さん。」
「でも何かエッチィ目ぇしてるよぉ~。」
しぃ~~~っ!
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○公開収録○
中間順位発表が行われた入口前広場ステージ上では引き続き週末の放送に向けた公開収録が行われていた。
『どうですか?中山さん。
現在第1位の松永秀治さんと第2位レッドライオンの戦闘映像を立て続けに見て頂きましたが、中山さんの見解を一つお聞かせ願えますかぁ。』
『ん、まあこれはあくまで予想の範疇だが、赤羽の奴は恐らくバーサーカーみたいなジョブを取得したんだろうな。
一時的にではあるが、攻撃力が格段に上がってる。
まあその分自制が利いてないしこれまでの様な連携が影を潜めちまってる。
結果的に見ればその点が今現在2位になってる原因と言えるかもしれない。
一方松永に関して言えば、こいつも恐らく何等かのジョブを取得している筈だ。
あんな空中に爆弾を無数にセットする機雷エリアみたいなもんを一瞬で作っちまう芸当は初めて見たし、本人は只魔物が倒れるのを見物しているだけで良い。
今回ソロで出場して来たのもその辺が理由だろう。
とはいえこれは共通して言える事だが、これだけ高い能力を使えばクールタイムもそれなりに長くなるのは間違いない。
ずっとこんな風に戦えてりゃ、獲得金額があの程度で済む訳がないからな。』
『ええっと、ジョブというワードが出て来ましたが、それは今結構話題になりつつあるアレの事ですか?
ご覧の方々も私の様にまだ良く分かっていない方もいらっしゃるかと思います。
少しその辺のお話もして頂いて宜しいでしょうか?』
『う~ん、まあそれに関しちゃ俺も大人の事情でまだあまり詳しく話せねぇけどな。
とはいえジョブってのにはランクがあって高ランクのジョブを手に入れるとああいったスペシャルスキルが手に入る事があるんだよ。』
『スペシャルスキルですかぁ。
ジョブにはそんな秘密もあったんですねぇ、大変勉強になります。
しかしそこまでお詳しいという事はもう既に中山さんもジョブというモノを取得してらっしゃるとか?』
『ああ、俺のジョブはSSRランクのソードマスターだな。』
『うおぉ、SSRランクと言えば最上位ランクですよねぇ。
そんなカッコイイジョブまで存在し、かつ、それを日本を代表する中山さんがもう既に取得しているとは、大変驚きですぅ。』
『まっ、SSRが最上位って訳でも無いんだが、他にもSSRランクには勇者やら魔法少女っつうジョブがあったりするからな。』
『えっ、それ本当ですか?
魔法少女なら私、今大会の出場者の中で少し思い当たる人物が居ますけど。』
何?まさか桜の嬢ちゃんがあの年でもうマジコンに?
いや、あの二人なら・・・
『あっ、今の無し無し、カットしてくれ。』
週末のテレビ放映ではこのコメントはきちんとカットされていた。
しかしこの場に居合わせていた観客の中には当然雑誌社の人間もチラホラ。
マジカルピンクちゃんこと小田桜が本物の魔法少女だという噂はその後日本中に広がっていく事になる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○キーアイテムを手に入れろ その2○
一旦クローバーに帰還しお着替えを済ませた賢斗は極寒の中海パン一丁で水中ダイブを敢行した。
水中に潜るとその透明度は高く、猛吹雪の外と比べれば穏やかそのもの。
岩質の底には疎らに植物が生え、湖岸に近いその場所の深さは上の氷と合わせ4、5mといったところである。
何か水の中の方が快適だな。
まっ、多分この水凄い冷たいんだろうけど。
賢斗がドキドキジェットを発動してみると・・・
『ピロリン。スキル『寒冷耐性』を取得しました。』
あっ、やっぱりこんなに直ぐ取得するとは、感度ビンビンなかったら本気でヤバかったかも。
そして今度は湖の全体の状況を確認。
ん、これは・・・
金色の宝箱の入った氷岩の丁度真下辺り。
湖の底は大きな空洞構造が確認でき、そこには1体の大型の魔物。
そして空洞の最奥には・・・
(賢斗ぉ~、水の中の様子はど~お~?)
(ああ、桜、こいつは思わぬ大収穫だぞ。
もう一つ宝箱が見つかった。)
次回、第百三十二話 ドリリンガーの操縦桿。




