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第百三十話 少女は自らその扉を開く

○午前の活動計画○


 ルンルンメンテの消耗から回復したかおるの目が覚めると時刻は7時半を回っていた。


「じゃあ俺と桜は14階層でキーアイテムの探索に当たるよ。

 先輩と円ちゃんにはその間二人じゃちょっと大変かもだけどワーム討伐の方を頼めるかな?」


「あっ、賢斗君。それなんだけど肝心の鍛冶スキルが昨日の夜取れなかったのよ。

 という訳で現状魔鉄矢が1本も無いし、昼までには何とかするつもりだから午前中の私は自由行動にでもしておいてくれるかな?」


「あっ、そうだったんすか。

 それなら仕方ないっすねぇ。」


 となると円ちゃんは・・・


「あっ、賢斗さん、今の私の力ではキャットクイーンシステムが通用しない魔物を一人で討伐は出来ませんよ。」


「ああ、うん、分かってるって、そこまで期待して居ないから安心して。

 円ちゃんには先輩同様午前中は自由行動して貰うつもりだから。」


 今の状況を考えると雑魚処理専用マシーンの円ちゃんが活躍出来る場所なんて思いつかないからなぁ。


「・・・分かりました。」


 あれっ、何か悪い事言ったかな?


 話が纏まるとスキル共有を済ませたナイスキャッチの面々は各自分散して行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○キーアイテム探索班○


 14階層のスタート地点出発後僅か10分。


 おかしい・・・夜中に確認した時は間違いなく向かい風だった筈。

 キーアイテムの在処に辿り着くにはまたかなり手こずるだろうと覚悟していたのだが・・・


 階層に吹き荒ぶ強風は賢斗達を目的地へと導く見事な追い風模様。


ゴソゴソ、ひょこ


 雪穴作成要員として同行していた桜が賢斗のコートの内側から顔を出す。


「もう確認ポイントに着いたのぉ~?」


 これもこいつのお蔭だろうか。


「ああ、予想よりかなり早いが、ここはもう100km位進んでるからな。」


「りょ~かぁ~い。」


ゴソゴソ


「ファイアーボールぅ~。」


ドォ~ン


 桜がコートの隙間から杖の頭を出し火魔法を放つとあっという間に雪穴の出来上がり。


 ・・・俺があれだけ苦労して雪穴を掘ったのは何だったんだろう。

 そして意外とこいつ無精だな、俺のコートからまるで出る気が窺えない。

 まっ、温かいし、別に良いけど。


 と早速方角ステッキで確認してみれば・・・


 う~ん、キーアイテムはまだ先みたいだな。


「桜、また飛ぶから顔引っ込めとけ。」


「ほ~い。

 じゃ、その前にエアホイッスル新しいのとこうか~ん。」


「へっ、何故交換の必要が?」


「だってお手入れの時間だも~ん。」


 う~ん、そんなの今必要か?

 がしかし俺はこのエアホイッスルを借りてる身分。

 大事に扱おうとする持ち主の意向には逆らえまい。


ピィィィ


「ほい。」


ぱくっ


シュタッ、キィィ――ン


 その後も100km毎に方角を確認して行く賢斗達。

 天候は猛吹雪であったが、風向きは変わらずその快調なペースが落ちる事は無かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○少女は自らその扉を開く○


 1階層の通路をトボトボと歩く少女。


 ・・・何だか気分がしょんぼりです。

 賢斗さんに期待して居ないと言われてしまいました。

 確かにキャットクイーンシステムが使えないと私は皆さんの足を引っ張るばかり。

 それに今はエボリューションの舞台探しも中断されてしまっています。

 このままでは・・・


スタッスタッスタッスタッ


「危ないにゃっ!」


シュタッ


パフッ


ズズズズゥ


 円の胸元の巾着から飛び出した小太郎が柏手を打つとワイルドドックは身体が硬直し急ブレーキ。


「しゃあぁぁぁ、にゃあっ。」


ボコォン


 そこへ毛を逆立てた子猫が鋭い猫パンチを放つと魔物は吹き飛び呆気なく霧散して行った。


「ボサッとしてると危ないにゃ。」


「えっ、ええ、それより小太郎、貴方何時の間にそんな戦い方を覚えたのですか?」


「昨日の夜一緒に猫拳の練習をしたにゃ。

 おいらもあの時ちゃんと猫拳スキルを習得してたにゃ~♪」


 あっ、そういえば昨晩・・・


「じゃあ次は猫拳の奥義を見せて上げますにゃん。

 この技を見たら小太郎は驚いて動けなくなっちゃっうかもしれませんにゃん。」


「そんな事ある訳ないにゃ~。」


「行きますよぉ~、にゃあぁぁ・・・」


 招き猫ポーズで集中力を高めると小太郎の目の前で素早く両手をパチン


「にゃっ!」


 すると小太郎は驚き、口を開けたまま固まってしまった。


 えっ、ホントに?


『ピロリン。スキル『猫拳』を取得しました。特技『猫だまし』を獲得しました。』


『ピロリン。スキル『ライク ア ビースト』がレベル2になりました。』


「ビッ、ビックリしたにゃ。

 急に何もできなくなったにゃっ。」


「えっ・・・ええ、当たり前です、小太郎。

 これが猫拳奥義猫だましですにゃん。」


 ・・・私の方がビックリです。


 と円が昨晩の事を振り返っていると・・・


「おいっ、また来るにゃっ!

 体調が悪いなら帰った方が良いにゃっ。」


 ・・・なら私にも出来る筈です。


「しゃあぁぁぁ、にゃおっ。」


 シャドーボクシングの射程範囲に入ると円は四つん這いの威嚇ポーズから鋭い猫パンチを放った。


ボコォン


キャイィ――ン、バタッ


 魔物は叫びを上げて倒れると数秒後には消滅して行った。


『ピロリン。スキル『猫拳』がレベル2になりました。特技『激おこ猫パンチ』を獲得しました。』


『ピロリン。スキル『ライク ア ビースト』がレベル3になりました。』


 あっ、やりました。

 この激おこ猫パンチという技が先程小太郎が使っていた技ですね。

 ほんの少し出来過ぎな感じもしますが、私もやれば出来るという事です。


 円自身良く分かっていない様だが小太郎とのSTR値の差は凡そ3倍、普通に考えれば同じパンチ技を放ったとしてもこの結果はあり得ない。

 しかし結果として今彼女は小太郎に迫る威力のパンチを放って見せた。

 これには当然その理由が存在し、それは同時にレベルアップしているライク ア ビーストが関係している。

 このスキルが持つビーストアタックという特技は本能を攻撃力として昇華するというもの。

 猫の闘争本能がスキル化された猫拳というスキルの特技と見事な相乗効果を発揮していたという訳である。


 とはいえこれで満足している場合ではありません。

 あの巨大ワームを一人で討伐出来るくらいにならなければ、きっと賢斗さんの期待を勝ち取る事は出来ませんし。


 でもこれ以上の攻撃となると・・・


 そして彼女のこのパンチはここでもう一段階そのギアを上げる事となる。


 もうアレを使うしかないのですね。


「小太郎、少しこちらに来るにゃん。」


「何だにゃ?」


ナデナデ


 これで準備完了です。


 とそこへ1体のワイルドドッグが駆け寄ってくる。


スタッスタッスタッスタッ


 今です。


 頑なに拒み続けていた少女は自らその扉を開く。


「しゃあぁぁぁ、にゃおっ。」


 音も無く一瞬で消滅する魔物。


「にゃっ、急にどうしたんだにゃっ!凄い威力だったにゃっ!」


 先程と同じ攻撃とは思えない結果がそこにはあった。


 やはり素早く動けちゃいそうです・・・タラリ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○鍛冶スキル○


 ダンジョン入口付近の一角。

 かおるは魔鉄の塊に手をかざし、加熱処理を行っていた。


『ピロリン。スキル『マテリアルヒート』がレベル2になりました。』


 あ~ん、賢斗君には何とかするなんて言っちゃったけど、これじゃ全然間に合わないわねぇ。

 ハイテンションタイムも終わっちゃったし、これはもう昼までなんてとてもじゃないけど無理よ。


「あっ、それ違いますよ、紺野さん。

 世間一般で鍛冶スキルと言われてるものは鍛冶という一つのスキルを指すのでは無く、鍛冶関連のお役立ちスキルの総称として使われているんですよ。

 鍛冶というのは沢山の工程がある作業ですし、そんな材料から一気に目的の物を作れちゃうのは錬金スキルくらいのものです。

 まあそういう私も探索者の勉強を始める前は同じ風に思ってましたし、勘違いされてる人の方が多いみたいですけど。」


 なぁ~んて、水島さんには言われちゃうし、スキル研究部の部員としては赤っ恥も良いところだったわ。

 にしても製錬に金属加工、マテリアルヒートに鍛冶叩きに研磨かぁ。

 最低この5つは取得してある程度レベルを上げないと素人が専用設備も無しに鍛冶なんて無理とかいう話だったし、やっぱり赤字覚悟で新しい魔鉄矢を購入するしかないのかしら。


 う~ん、あっ、そうだ。

 こうなったら椿さんに頼んでみようかしら。

 錬金スキルなら何とかなるかもしれないし、うんうん、善は急げね。


(あのぉ、こんにちは。

 紺野ですけど椿さん今ちょっと良いですか?)


(あら、かおるちゃん?

 貴方今マジコン本戦真っ最中の筈だと思うんだけど、一体どうしたの?)


(実はそのぉ・・・)


 と話を持ち掛けてみたものの。


(あ~、悪いけどそういうのはちょっと厳しいかなぁ、かおるちゃん。

 う~ん、何て言ったら良いのかな。

 錬金って基本的に素材を変化させるもので、製品を作れるスキルじゃないのよ。

 ほら、ポーションだって瓶が必要になっちゃうのは知ってるでしょ?

 まあポーション自体も製品と言えなくもないけど、つまりはそういう感じである程度制限があるみたいな?

 という訳で魔鉄を魔鉄鋼にしたりは出来るだろうけど、魔鉄矢の製作となると無理と言わざるを得ないわ。)


(ああ、はい、そういう事なら仕方ないです。

 どうもお時間取らせました。)


 あ~ん、残念。これでもう万策尽きちゃったわねぇ。

 でも魔鉄鋼かぁ・・・買い直すなら今度はケチらず魔鉄鋼矢を買った方が良さそうね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○キーアイテムの在処○


 14階層のスタート地点から800km程離れたエリア。

 フィールドエンドに程近いそこには一際高い雪山が立ち並び、その険しい山間を縫う様に進めばまるで隕石でも落ちたかの様なクレーター。

 その抉られた地形は湖面を分厚い氷で覆われたカルデラ湖を形成し、賢斗達はキーアイテムの在処と思しきその湖の畔に下り立っていた。


バサッ


「うぉ~、何かすっごいとこだねぇ~。」


 桜がようやく賢斗のコートの中から出て来た。


「そうだなぁ。」


クルクルクルゥ~、ドシ~ン


「ねぇ、賢斗ぉ~、今の何て技ぁ~?」


「ん、ありゃトリプルサルコウっつったかな。」


 凍った湖面上では先程から巨大なアイスゴーレム達がスケーティングの妙技を披露していた。


「あっ、あそこぉ~。」


 湖の中央に突き出したた氷岩。

 その氷の中には金色に輝く宝箱が見えた。


「ふっ、どうやら見つかったみたいだな。」


「うんっ♪」


 つっても、なぁ~んかちょっと引っかかるんだよなぁ。

 確かにこんなフィールドエンドに程近く、かつ、山間に位置するここはおいそれと来れないだろうし発見もされ難いだろう。

 しかし日本の精鋭達が100年も探索し続けてきたにしては・・・


 う~ん、まっ、続きは午後からにしとくか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○中間集合○


 正午前、中間集合時刻を控えた入口付近の集合場所には大会出場者達が集まっていた。


「おっ、こんなところで会うとは奇遇だな。」


 集合時間なんだから奇遇も何もないだろ。


「なっ!ちょっと待て多田、お前その剣どうした。

 尋常じゃない凄味を感じるぞ。」


 ん~、前と変わらん剣なんだが、まっ、随分進化を遂げちまってるからなぁ。


「ん、ああこの剣なら彼女から貰った。」


 賢斗は後ろに居たかおるを指さす。


 元は先輩に貰った短剣だし。


「お前の彼女は凄腕の武器職人なのか?」


「ちょっと賢斗君、彼女呼ばわりするのはちゃんと告白イベントが終わってからにして。」


 何だろう?この面倒臭い二人。


 集合時刻になると職員による点呼の後、順次獲得した魔石の提出。

 それが終わると即時解散となり出場者達はちりじりに散開して行った。


○中間発表○


 解散後賢斗達は昼食を取るためコテージへと歩いて行く。

 そして入口前広場のステージ付近を通り掛かるとそこには沢山の人だかり。


『さあお集まりの皆さぁ~ん、只今獲得魔石の中間集計を行っておりまぁ~す。

 今しばらく・・・あっ、どうやら中間集計が終わった様です。

 それでは後ろのスクリーンをご覧くださいっ!』


--------------------------------------

第1位 松永 秀治(1) 獲得額 6000000円

第2位 レッドライオン(3) 獲得額 5600000円

第3位 成瀬 浮雲(1) 獲得額 4500000円

・・・

第10位 マジックソルト(3) 獲得額 2200000円

・・・

第18位 踊り子シスターズ(2) 獲得額 1780000円

・・・

第37位 ロイヤルフェアリー(4) 獲得額 185000円

・・・

第39位 伊集院 信長(1) 獲得額 150000円

・・・

第50位 ナイスキャッチ(4) 獲得額 87750円

--------------------------------------


『ああっとぉ、これは驚きましたぁっ!

 3連覇の掛かるレッドライオンがなんと2位ぃ。

 そして現在1位に居るのはぁ、今回ソロで出場したノイジーガンズの松永秀治さんですぅっ!」


ウォォ――


「それでキーアイテムの場所が見つかったってホント?」


「ホントだよぉ~。

 でっかいゴーレムが三回転半やってたぁ~。」


「それってキーアイテムを守ってる魔物が居たって事なのかしら?」


「まあそんな感じですね。

 昨日俺が倒した奴が5体も居ましたから、宝箱に近づくだけでも結構大変そうでしたよ。」


「むふぅ、それならご安心下さい、賢斗さん。

 そんな魔物は円のハイパー激おこ猫パンチでイチコロです。」


 えっ、何その面白パンチ?


 未だ興奮収まらぬ人々の歓声が響く後ろをナイスキャッチの面々は何食わぬ顔で通過して行った。

次回、第百三十一話 もう一つの宝箱。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新と改定お疲れ様です。 さて、キーアイテムの在処と賢斗君地点にたどり着いた訳ですが… はてさて賢斗君の不安が的中するか否か パーフェクトマッピングがある以上、宝箱の存在を見落とすって…
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