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第百二十九話 真夜中の活動報告

○真夜中の活動報告 その1○


 クンクン・・・何かいい匂い・・・ムクリ


 一人早めの睡眠を取っていた賢斗は甘やかな香りに包まれ目を覚ました。


 あ~、もうこんな時間か。

 って事はこの匂いの正体はあいつ等か?

 夜の内に鍛冶スキルを取得してくるとか言ってたし、クールタイムが終わる頃合いを見計らってスキル共有を済ませて行ったってとこかな。


(桜ぁ、起きてるかぁ?)


(あっ、賢斗ぉ~、まだ起きてるよぉ~。

 今ねぇ、ダンジョン入口でかおるちゃんの鍛冶スキルの取得をお手伝い中ぅ~。)


 ああ、やっぱり。


(これ終わったらコテージに戻って寝るつもりだから、別に心配しなくてだいじょぶだよぉ~。)


(円ちゃんは?)


(ああ、円ちゃんなら隣で小太郎と一緒に猫拳の練習中ぅ~。)


 何かまた妙な事を始めてんな、お嬢様。

 ・・・ちょっと見てみたい気もする。


(了解、じゃ、俺も今丁度目が覚めたとこだから、これから活動再開と行くわ。

 そっちも俺の姿が見えなくても心配要らないからな。)


(ほ~い。)


 午前1時、3時間程の睡眠を取った賢斗は下層探索の最前線である13階層スタート地点へと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○真夜中の活動報告 その2○


 13階層の上空を飛行する賢斗。

 スタート地点から雪が降り、次第に降雪が酷くなっていくのは10階層辺りからの天候変化と同じ様相で、中盤以降から出現し始める落雷エリアも今回のルート上には無く順調そのものに見えていた。


ビュオォ~~


 ん、何か風が強くなってきたな。


 最初はそれ程気にならなかったものの、その向い風は次第に強さを増していった。


 ふぃ~、ったく、途中から大変も良いとこだったぞ。

 てんで前に進まないし、一気に風圧耐性がカンストしちまってる、ってあれ、これは良い事なのでは?う~ん。


 これまでと左程変わらない距離、当初のペースが持続出来ていれば1時間半もあれば辿り着いたであろう。

 しかし時刻は既に午前4時を回り、3時間という彼にとっては非常に長い所要時間がその困難さを如実に証明していた。


 とはいえもう強い向い風にはうんざりだな。

 次の階層は是非追い風で・・・


ビュオォォォ~~


 午前4時10分、階層間通路を抜けるとその天候は横殴りの強風が吹き荒ぶ猛吹雪だった。


 ・・・横だったか。


 気を取り直しフロアに踏み入ると賢斗は方角ステッキを立てた。


「ドリリンガーのキーアイテム。」


 そしてその手を離すと・・・


ビュオォォォ~~


 方角ステッキは風に吹き飛ばされていった。


 あっ、待ってぇ~~~、スタスタスタッ、ツルッ、ドシンッ

 痛っててぇ~、くそっ、下が氷みたいに堅くなってるぞ。

 こりゃもう飛んでった方が良さそうだ、待てぇ~、キィーン


 と程なく方角ステッキの回収に成功した彼だったがそこで新たな問題が浮上している事に気付く。


 ・・・にしてもどうすっかなぁ。

 このままではこのフロアで方角ステッキが真面に使えん。

 穴を掘れば良いだけの話に見えるが下は堅い雪に覆われている。

 桜が居れば火魔法で事は簡単に済みそうなんだがあいつはもう寝ちまってるだろうし、う~ん、こんな事ならツルハシでも用意しとけば良かった。


 とはいえかくなる上はこうするしかあるまい。


ガキッ、ガキッ


 賢斗は愛剣を抜くと堅くなった雪面に斬撃を放ち始めた。


 おっ、意外と削れていくな。

 流石は攻撃力が上がっているだけある。

 つってもこんな使い方してると刃毀れが非常に心配なんだが。


ガキッ、ガキッ


 あっ、くそっ、やっぱりか。

 もう既にちょっと刃毀れしちまってる。

 う~ん、このままだとまた先輩にメンテを頼まなければならない事に、つってもこの状況を何とか出来る名案が他にある訳でも無し・・・


 と不承不承に作業を続ける事1時間、極寒の中で汗を拭う賢斗の前には1.5m四方の雪穴が出来上がっていた。


 はぁ、はぁ、とんだ重労働だったぜ、おまけに剣の刃毀れ具合も取り返しのつかないレベル。

 昨日の今日でこの有様じゃ、先輩にあわす顔がないな。

 とはいえそれを今悩んでも仕方あるまい。

 取り敢えずはこんな雪穴を掘った目的を果たすとするか。


ドシ~ン、ドシ~ン


 えっ、何この地揺れ。


 方角ステッキを手にした彼の脳内マップには1体の魔物の存在が観測されていた。


 ったく、こんな時に。


 一旦通路内に避難し魔物をやり過ごす賢斗。


ドシ~ン、ドシ~ン


 通路前を通過して行く5m程の巨大な魔物。


 うひゃ~、魔物の正体はレベル29のジャイアントアイスゴーレムさんすかぁ、なんがもう氷の巨人って感じだなぁ。

 って、馬鹿っ、テメェ止めろっ、その穴を踏み潰すんじゃ・・・


ドッシィィィ~~~ン


 アイスゴーレムは雪穴に足を取られ、その巨体は地響きと共に前に倒れ込んだ。


 なっ、何て事してくれてんだよ、こいつは。

 人がその穴を掘るのにどんだけ心を削りつつ労力を費やしたと思ってんだっ!

 むぅぅ・・・これは少し懲らしめてやらねばならん様だな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○真夜中の活動報告 その3○


 怒りに駆られ通路から飛び出した賢斗はその頭で討伐までの作戦を組み上げる。


 ジャイアントアイスゴーレムの弱点は左胸にあるコア。

 そこに剣を突き刺し雷鳴剣の一撃を加える事が出来れば如何にレベル29の魔物と言えど倒せる。

 ついでに前回のメンテで結構雷を呼ぶ効果を持つに至ったこいつの力も見せて貰うとしますか。


 落雷エリアでは無いスタート地点、彼もまだ未検証の剣の新効果に全幅の信頼を寄せている訳では無く、普通なら挑む気にすらならない格上。

 しかし魔物は半分以上堅い雪にその身体を埋め、直ぐには立ち上がりそうに見えない。

 この機に乗じてこの作戦を決行すれば魔物の左胸に背後から剣を突き刺すくらい造作もないだろう、有利なシチュエーションがそう彼に訴える。


 ふっ、この賢斗さんを怒らせるとは、只では済みませんよぉ。


 倒れた魔物の背中に立つと賢斗は左胸目掛けて剣を突き立てる。


ガキンッ、じ~ん


 硬ってぇ~。


 その切っ先は氷の体表を1cmも削って居ない、しかも少しずつ修復まで始まっている様に見える。

 普段の彼ならここで諦めていたかもしれない。


ガキッガキッ


 ふはははっ!俺の怒りはまだ収まってませんよぉ。


 しかし懲りずに彼はまだその痺れた手を止めなかった。


ガキッガキッガキッガキッ・・・グラッ


 程なく魔物がその巨体を起こし始めた。


 おっとっと、もう俺のやりたい放題の時間は終わりか。


 だがこの時点ではまだ刀身は十分な深さに届いていなかった。


 まっ、必死に剣を突き立ててたら結構満足しちゃったし、今日のところはこのくらいで勘弁してやるとするか。


 グッ・・・って、あれ?剣が抜けないんですけど。


グラグラグラァ


 うわっ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○真夜中の活動報告 その4○


ドシ~ン、ドシ~ン


 賢斗が再び通路に退避するとジャイアントアイスゴーレムは彼の愛剣を背に突き刺したまま遠ざかって行く。


 さて、困った事になったな。

 このままでは俺の大事な剣があの巨人にお持ち帰りされてしまう。

 う~む、となればここは不安はあるがもう雷を呼んでみるしかないか、雷が落ちればその衝撃で剣も深く突き刺さってくれるだろうし。


 去り行く魔物の背に転移すると剣の柄を握って叫ぶ。


「お~い、雷ぃ~。」


 よしっ、退避。


 一旦転移で距離を置き、魔物に突き刺さった剣の様子を見守る。


 おや、この方法じゃダメなのかな?

 とはいえこの状況じゃ天に剣を掲げる事は出来ないし、その上結構呼べるって事は呼べない時があっても然るべき。

 う~ん、何がダメな原因か良く分からんな。

 つってもこのまま放置も出来ないし・・・


ゴロゴロゴロォ


 あれ、何か空に雷雲が立ち込めて来ている様な・・・


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


 瞬間雷鳴が轟き稲光が魔物の背に落ちる。


バチバチバチィィィィ


 おっ、やった。

 ホントに雷を呼べちゃったぞ。

 まっ、かなりの時間差攻撃だったが。

 とはいえ雷雲を呼び寄せるまでちょっと時間が掛かっただけの話で方法的には使い手が念じてやるだけで良さそうだ。


 しかしジャイアントアイスゴーレムはまだ倒れてはいない。

 それどころか見る見るうちに剣を背に突き刺したまま破損個所が修復されて行く。


 ああっ、くそ。

 どうやら一撃じゃコアまで届かなかった様だな。

 でもあの破損状態でもう一度剣を押し込んでやれば。


 賢斗はまた魔物の背に転移し雷を呼ぶ。


「来いっ、雷っ!」


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


バチバチバチィィィィ


 今度は瞬間的に雷光が落ちて来ると賢斗が退避する間もなく雷が落ちた。


 うわぁっ!痺れるぅ・・・てっ、転移。


 あ~ヤバかった。

 にしても落雷の直撃を受けた割には意外と大丈夫だったんだが、ヒール、ヒール。


 以前雷鳴剣アタックをしていた探索者は絶縁仕様の装備を身に付けつつも落雷に打たれ倒れていた。

 今の状況も正にそれと同じ筈だったのだが。


 これってつまりあの剣がある程度電撃を吸収してくれたって事か?

 何か魔物の背中で未だにバリバリ言ってるし。


 まあ何にせよタイミングは掴めたし、あの剣の耐久度を考えるとあと1回が良いところ。

 次のラストアタックで必ず奴を仕留めなければ。


 賢斗のサードトライが始まった。


「来たれっ、雷っ!」


 彼は直ぐに転移で移動。


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


 落ちる雷光、その瞬間斜め上から飛翔して来た賢斗は剣の柄を押し込む様にヒーローキックを放った。


バチバチバチィィィィ、キーン


 深々と突き刺さった剣は落雷の衝撃を余すところなくコアに伝える。


シュタッ


『パンパカパーン。多田賢斗はレベル17になりました。』


 ふっ、お前も運が悪かった様だな、この賢斗さんを怒らせちまうとは。


カランカラン、ビリビリィ・・・ビリィ


 おっ、この剣まだ帯電してる。

 う~ん、引っ込め。


 賢斗が剣を拾い上げて念ずるとその帯電状態は直ぐに収まる。


 おっ、ちゃんと言う事聞いてくれるじゃん


 って、あれ、雷鳴剣アタックを3回も使ったのに消耗の仕方がかなり軽減されてる。

 う~ん、これなら10回くらいは行けるかも。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○真夜中の活動報告 その5○


 午前6時、賢斗はまだ14階層のスタート地点に居た。


 はぁ、はぁ、ようやく完成したな。

 またあんな魔物がここに来る事も考えられるし早いとこ用事を済ませちまうか。


 雪穴の中に方角ステッキを立てると上から手で押さえる。


 先ずは15階層通路から・・・よしっ、あっちだな。


と5分程で出口確認を終えると次はキーアイテムの有無確認。


「ドリリンガーのキーアイテム。」


パタン


 そんじゃ2回目。


「ドリリンガーのキーアイテム。」


パタン


 えっ、今2回連続で同じ方角に倒れましたけど?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○真夜中の活動報告 その6○


 帰還した賢斗は朝食の席で早速メンバー達にキーアイテムのある階層が判明した事を報告していた。


「・・・とまあそんな訳で、ついにキーアイテムのある階層が分かったんだ。」


「うお~、やったぁ~、でも賢斗ばっかりレベルアップしたのは狡いよぉ~。

 賢斗が一人で倒すといっつもドロップが魔石だけだしさぁ~。」


 ぐぬぬ、確かにあのアイスゴーレムさんは氷の指輪何つー結構良さ気なアイテムのドロップ率が60%もあったけど。


「ええ、一人で何時も危険な魔物に飛び込んで行くのは賢斗さんの悪い癖です。」


 いや、今回は俺もほんの少しお仕置きしてやるだけのつもりだったんだが。

 にしても何だろう、こんな朗報をお届けしているのにまさかの批判の嵐。

 どうやらレベルアップをしたと言ったのは逆効果だったらしい。


「で、その魔物を倒すのに雷鳴剣アタックを3回も使ったって言うの?

 まあ強敵相手じゃそれも仕方ないだろうけど、もう少し自分の剣を大切にする事も考えた方が良いんじゃないかしら。」


「はい、それについてはホントにご免なさい。」


 と賢斗が深々と頭を下げていたその1時間後。

 再びルンルンメンテを施された彼の剣には待望の変化が訪れていた。


 ふっ、どうやら俺はついに伝説の雷鳴剣を手に入れてしまった様だ。

 しかし何だろう、この湧き上がる蛇足感は。


~~~~~~~~~~~~~~

『たまに氷を切れちゃったりする雷鳴剣』

説明 :天候に関わらず雷を呼ぶ事が出来る。雷属性(大)。雷耐性(大)。帯電持続(小)。電撃吸収(小)。氷斬特化(小)。ATK+19。

状態 :400/400

価値 :★★★★★★

用途 :レジェンドウェポン

~~~~~~~~~~~~~~


 やっぱりツルハシを準備しとくんだった。

次回、第百三十話 少女は自らその扉を開く。

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― 新着の感想 ―
[一言] たぶんつぎは 「多分スムーズに火や土や鉄が切れちゃう氷特攻能力のある雷鳴剣」 とか、てすかね?
[良い点] 杖を追いかけコケる主人公。 こんな小ネタ挟んでくるから作者様流石です。 誰からのツッコミもなく一人で頑張る賢斗さん。 私の気持ちは蛯名っち。。。 [気になる点] なんの匂いかな?私気になり…
[良い点] 更新お疲れ様です。 おー、キーアイテムの階層が判明しましたね。 とは言え、何処にあるかという問題は残っている訳ですけど リトルマーメイドのみたいに隠されている可能性もありますし、エリア的…
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