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第百二十七話 100年間眠り続けるお宝

○巨大ワームとの戦闘終了後○


 動きを止めた巨大ワームが霧散していくとメンバー達から賛美の声が飛んだ。


「めっちゃすっごかったよぉ~、かおるちゃん」


「ええ、流石かおるお姉さまです」


「急所狙いで一撃とは流石でしたね、先輩。

 幾ら雷鳴剣アタックと言えども相手はレベル25の強敵でしたし、普通なら2回はあの技の攻撃が必要だったと思いますよ」


「うふっ、ありがと皆。

 でも威力があり過ぎるってのも困ったものね。

 落雷に打たれた所為で新調した魔鉄矢が1本使い物にならなくなっちゃったわ。

 これ1本7万円もしたんだから、っとにもう」


 あ~矢の耐久度なんて剣に比べたらたかが知れてるもんなぁ。


「それでしたらかおるさん。

 戦利品としてこんな大きな魔石が手に入りましたしこれを売ったお金で新しいのを購入致しましょう」


「あっ、そうだったわね・・・」


 キラン、その瞬間子猫の目が不敵に光ると、円の掲げる大魔石に一撃を浴びせた、バシッ。


「「「「あっ・・・コロコロコロォ、コーン、コーン、コーン」」」」


 地面を転がる大魔石はそのまま巨大ワームの巣穴に見事カップイン。

 落ちていく魔石のぶつかる音が空しく彼等の耳に届いた。


 こりゃ随分下まで落ちてったみてぇだな。


「ったく、何やってんだよっ、小太郎。

 大事な魔石だってのに」


「おいらは悪くないにゃっ!

 あんな玉を目の前に出されたら、勝手に身体が反応するにゃっ!」


 文句を言う賢斗に対し小太郎が自身の正当性を主張すると・・・


 たっ、確かに猫的にはそうかもしれん。


 一瞬で子猫に言い負かされる主人公。

 巣穴を覗けば落ちた魔石は目視で確認出来ず脳内マップでもその位置までは特定できない。

 この不祥事を無かったものにしようと画策した彼が次に取った行動は、無言で温存していたドキドキジェットを発動し巣穴の中へとゆっくり降りて行く事だった。


 ったく、余計な仕事を増やすなっつの。

 おっ、あったあった。

 にしてもこの巣穴って・・・


 程なく賢斗が落ちた魔石を拾って戻ると・・・


「あ~良かったぁ、割れちゃったりしてなくて。

 危うく魔鉄矢の補填が出来なくなるところだったわ、どうもありがと、賢斗君」


「でも先輩、昨日俺が倒したあの白ゴリラの魔石ですら買取査定が5万円でしたよ。

 雷鳴剣アタック1回使う毎に毎回7万円の矢がダメになってたら完全に赤字ですけど」


「えっ、嘘っ、こんな大きな魔石でもそんなに安いの?

 桜、悪いけど後で付き合って頂戴。

 この溶けちゃった魔鉄を使って魔鉄矢の自作に挑戦してみるから」


「ほ~い」


 ・・・赤字回避に涙ぐましい努力だな。


「それはそれとしてちょっとここで俺から一つ提案なんだが」


「なによ急に、賢斗君。」


「えっと、さっきこの穴に少し入って気付いたんだけど、ここに沢山ある巣穴ってどうやら全部100m程地下にある大きな空洞と繋がっててさ、そこが巨大ワーム達の根城になってるみたいなんだ」


「ふ~ん、で、それがどうしたって言うの?」


「いやだからレベルは25でもその数が10体以上となれば、円ちゃんのエボリューションの候補地の一つとしてどうかなって」


「あ~、そういうことぉ。

 まあ円のエボリューションなら雷鳴剣アタックが使えない地下でも討伐は可能でしょうけど」


「賢斗さんっ!あのワームは白ゴリラよりレベルが低い魔物ですよっ!」


 う~ん、やはりこのお嬢様の牙城は堅いな。


「もっ、勿論俺はまだメインステージを求めて下層探索を続けるつもりだって、円ちゃん。

 でもキャットクイーンシステムの戦闘って一瞬でケリがついちゃうだろぉ?

 猫女王様の降臨時間を考えれば効率の良い狩場を何か所か転移で巡る作戦もアリかなって思うんだ」


 とはいえ実際問題、今後の下層探索が上手く行くとは限らん訳だし、レベル32の魔物が出現する階層に辿り着けたとしても最高のステージとなる狩場が都合良く見つかるなんて保証は何処にもない。

 こうして候補地を幾つかピックアップし最悪の事態に備えておくのは当然であり必要不可欠だと言えるんだが。


「なるほどねぇ、今の私達は魔石の獲得競争をしてる訳だしレベル25の魔物を大量討伐出来るとなれば確かに見逃せないわね」


 そうそう、これと同じような狩場を2、3か所用意出来ればきっとレベル32のステージに勝るとも劣らない結果を得られる筈。


「まっ、猫女王様の力を最大限に活かす為には幾つか候補地を用意しておいた方が良いですからね」


「あっ、そういう事かぁ~」


「むふぅ、賢斗さんは円を活かす方法をそこまでお考えだったのですね」


 ふむ、よしよし、これで最悪メインステージの探索が上手く行かなかったとしてもお茶を濁せる目途が立った訳だ、うん、きっと大丈夫。


「まっ、つー事で直ぐ転移出来る様俺はこれから地下の大空洞の様子をちょっと見て来るよ。

 皆はこれ以上こうしているのも時間の無駄だしそろそろ本戦プランの方に戻っといてくれ。」


「りょ~か~い」


「そうね、エボリューションステージの探索は賢斗君の仕事だものね」


「ではまた後程です、賢斗さん」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○予定していた本戦プラン○


 少女達の本戦プランの手始めは5階層の階層ボスの討伐。

 しかし彼女等がその階層ボス出現ポイントに向かってみると既に先客の姿が。


パチン


 戦闘を終え手に持つ鉄扇を閉じた女性探索者がかおるの元に近づいて来た。


「あら、また人の獲物を横からかすめ取るおつもりかしら?紺野かおる。

 でもここのボス狼達は今し方我々ロイヤルフェアリーが討伐させて頂きましたわ。

 当てが外れて残念でしたわね、オーホッホ」


 そんなつもりは少しも無いわよ。

 にしても最悪ねぇ、よりにもよってこの女が居るなんて。


「アハハ~、そうみたいですねぇ。

 じゃあ私達はまた後で出直す事にします」


「うふっ、少しお待ちなさい、紺野かおる。

 私達はここにベースキャンプを張るつもりでおりますし、この大会中ここのボスの討伐権は誰にも渡さないつもりでおりますの。

 リスポーン待ちなんてセコいマネをなさっても無駄ですわよ」


 セコいのはどっちよっ。

 5階層の階層ボスをBランク探索者様がずっと独り占めとか高ランク探索者だったらもっと下層で討伐活動してなさいよ、っとにもう。


「まああなたがあの枝を譲ってくれると言うのなら、交渉には応じて差し上げますけど、オーホッホ」


 あんたなんかに譲る訳ないでしょ。


「いえ結構です、行こう、皆」


 とはいえ実際困ったわねぇ、ベースキャンプとか悔しいけど私達とは本気度がまるで違う。

 こんな女でも流石はBランクって事かしら。


 その後三人が1階層スタート地点に移動してみると・・・


「ほら、そっち行ったぞ」


「おうっ、任せろっ」


シュピンッシュピンッ


「にしても体力勝負は否めないが、魔物を探す手間を考えりゃ、ここの狼達をずっと相手するってお前の作戦もそんなに悪くねぇ」


「だろぉ?灯台下暗しってな。

 これなら去年よりはずっと良い順位が狙えるってもんだ」


 ここでも2組の探索者パーティーが戦闘を繰り広げていた。


「1階層の狼さんもダメみたいだねぇ~」


「はい、これだけの先行者がおられては幾ら狼の数が多いといっても直ぐに討伐されてしまいます」


「はぁ~、目の付け所は皆一緒って事ね」


 ここもダメとなるとなぁ~んか嫌な予感がしてきたわねぇ。

 折角立てた本戦プランだけどこれは大幅な見直しが必要かしら。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○巨大ワームの巣○


 残された賢斗は一人巨大ワームの巣穴を再び覗き込む。


 曲がりくねった穴内構造、下方から魔物が襲って来ればそれ程余裕のないこの穴の中で真面な戦闘は無理。

 そんな諸条件を考慮し賢斗は短距離転移の連続使用という最短時間での移動手段を選択。

 20秒程すると穴の出口から頭を出した彼の目前には高さ自体は2m程度と言ったところだが100m四方は有りそうな大空間が広がっていた。


 うほ~、居るわ居るわ、もう数える気にもならん。

 ふふっ、これだけ居ればさぞ経験値の方も美味しかろう。

 ・・・って、何あれ?


 広がった空間の恐らく中央部。

 遠目ながら解析をした賢斗はその結果に息を飲む。


 ゴクリ・・・こんなものが100年間この穴ん中でずっと眠り続けてたってのか。


 巨大ワームが密集するそこには、地表から大きなドリルの様なものが突き出していた。


 ・・・地下探索車両 ドリリンガーのオブジェクト。


 う~ん、にしてもどうすっかなぁ。

 アレって間違いなく乗り物系オブジェクトだろぉ?

 見つけたは良いが、仮令たとえあの乗り物系オブジェクトの第一発見者が俺だとしてもその所有権はキーアイテム所持者の方に発生するってこの前水島さんが言ってたし。

 そしてそのキーアイテムまで未だこの富士ダンジョンの何処かに眠ってると考えるのは少々虫が良過ぎる話だもんなぁ。


 ・・・まっ、ダメ元で確認くらいはしてみるか。


○ダンジョン外へと移動○


 10分後、賢斗は一人ダンジョンを出た。

 そして富士ダンジョンの入り口を100m程先に臨めるポイントで方角ステッキを立てる。


「ドリリンガーのキーアイテム、パタン」


 試行を繰り返す事30回。


 よしっ、取り敢えずはダンジョン入口の方角を指し示しているな。

 今度は場所を変えてやってみよう。


 とそんな試行を3つのポイントで繰り返してみると、見事にステッキが指し示す方角は富士ダンジョン入口でクロスするのだった。


 これはもうキーアイテムが富士ダンジョン内にあると判断して良いよな?

 となれば現状の俺達の第一優先事項はこっちに変更するべきかもしれない。


(ちょっと賢斗君、悪いけど今直ぐコテージまで来て。

 緊急ミーティングよ)


 おおっ、それは願っても無い。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緊急ミーティング○


 午後3時、コテージ内のリビングではかおるの呼び掛けにより緊急ミーティングが開かれていた。


「もうホント最悪よっ。

 私達が行くところ行くところ他の探索者さん達が居るし、何とかしてよっ、賢斗君」


 口を尖らせ、賢斗を睨むかおる。


「はい、かおるさんの仰る通りです。

 これでは円の活躍の場がありません」


 頬を膨らますお嬢様。


「まださっきのおっきいワーム以外何にも倒してないんだよぉ~」


 自信満々に不出来な結果を報告する桜。


 何だろう、喜んで馳せ参じてみれば来るなり皆のストレス解消の捌け口にされるとか。


 しかしこの三人の報告を聞いてみればこうなる事は事前に予測しておくべきだったかも知れない。

 初出場の俺達の探索範囲はこの広大な富士ダンジョンの一部に過ぎない。

 そしてそれは俺達よりこの富士ダンジョンの探索期間が長い探索者達からもカバーされている事は考えるまでも無いだろう。

 そんな状況で一斉に同じ目的で行動を開始すれば、最初に雷鳴剣アタックのお試しなんかをしていた付けが大きな痛手となって帰って来るのは明らかだろうし。


 でもまあそういう事なら寧ろこっちの話は切り出し易い。


「じゃあ皆の状況も加味して俺から一つ提案。

 いっその事魔石を稼ごうとするのはハイテンションタイムの時くらいにしておかないか?」


「ならそれ以外の時間は何するつもり?

 少しでも時間があるならマジコンの上位を狙うのが今の私達のやるべき事でしょ」


「ええまあそれはそうなんですが、実は先程それ以上に対応を優先すべき事件が発生致しまして」


「何よ、その事件って」


「それはですねぇ・・・斯々然々」


「えっ、嘘っ、あの巨大ワームの巣にそんなものが・・・」


「確かにそれは大事件です。」


「賢斗ぉ~、それホントぉ~?」


「ああ、間違いない。この目でちゃんと見たからなぁ。

 俺的な意見を言わせて貰えば、どう考えても初出場の俺達がそんなブッキングが多発する低階層の魔石獲得争いで優位に立てるとは思えないし、これ以上それに付き合うのは時間の無駄。

 ここは潔くそっちは諦め、皆にもあの乗り物系オブジェクトのキーアイテム探しを手伝って貰おうかと」


「確かにそのお宝は是非とも手に入れたいわねぇ。」


「はい、少し残念に思いますが、円のレボリューションは毎月出来ますしここはそちらを優先して頂いて構いません」


「うんっ、ドリリンガー乗ってみたぁ~い」


「でもそんなに上手くユニークトレジャーが見つかるでしょうか?

 この富士ダンジョンは出現してもう100年も経っていますし」


「そうねぇ、もう何処かの誰かさんに発見されてしまってる可能性の方が高いし、仮にまだこのダンジョンの何処かに眠っていたとしてもそれを本戦期間の2日間で見つけるなんて到底無理よ」


「まっ、二人の意見は御尤もなんですが、実はさっきこいつを使ってダンジョンの外で確認してみたんですよ」


 賢斗は方向ステッキを掲げて見せた。


「そしたら見事にこの富士ダンジョンの方角を指し示してくれました。

 間違いなくまだこの富士ダンジョンの何処かにキーアイテムは眠っている筈です。

 そしてこのステッキをダンジョン内で使えばどの階層のどの方角にお目当てのお宝が眠っているのかくらいは教えてくれると思いますよ」


「ホントにぃ?

 そのアイテムって確率50%の代物だし、ダンジョン外で上手く機能してるかどうかも怪しいでしょ?」


 うっ、痛い所を・・・そんなに俺の言葉が信用出来ないんですかね?先輩。


「じゃあ賢斗ぉ~、それ私がやってみるぅ~」


「おっ、おう、そうだな。

 ステッキを立てて「ドリリンガーのキーアイテム」と言って離せば10回に5回はダンジョン入口の方角に倒れる筈だから桜もやってみてくれ」


 俺以外が使った所を実際にお見せすれば流石にこの頑固者も納得するだろ。


 桜は賢斗の手から方角ステッキを受け取る。


「ドリリンガーのキーアイテムぅ~」


パタン


「あっ、ホントだぁ~、富士ダンジョンの方に倒れたよぉ~」


 よしっ、先ずは順調な滑り出し。チラッ


「一回じゃとても信用出来ないわよ、桜。

 もう少し続けて頂戴」


 まっ、1回程度じゃそう来るわな。


「ほ~い。」


 と桜が方角ステッキの試行を繰り返していくと・・・


 えっ、なにこの怪現象。


 彼女の倒したステッキは100%の確率でダンジョン入口を指し示してみせた。


 まさか・・・桜が使えばこの正解率50%の方角ステッキも100%当たる代物になっちまうのか?


 まっ、それはこの際おいといて・・・


「どぉ~ですか?先輩。

 これでもう疑う余地等微塵も無くなりました。

 みんなでトレジャーハント頑張りましょう」


「言われなくても分かってるわよ。

 でも別に私は協力するのが嫌だった訳じゃ無いんだし、君にそんなドヤ顔される覚えは無いわよ」


 へいへい。

 にしてもそうだ、桜の奴なら方角ステッキ10でも十分使い熟せるかもしれない。


「水島さぁ~ん、居ますかぁ?」


 自室に居た水島がリビングにやって来た。


「はぁ~い、何でしょう多田さん」


「えっと急な話で悪いんですが、方角ステッキ10を大至急用意して貰いたいんですけど」


「えっ、あのまるで使い物にならない売れ残りを?」


 ちょっと待て、そんなモノを俺は以前お勧めされたんだが?

次回、第百二十八話 無欲の勝利。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 方角ステッキ100なんてぶっ壊れ道具があるのに何故乗り物が発見されてないか不思議。寧ろ全てのダンジョン乗り物が発見されててもおかしくない。
[良い点] 一瞬で子猫に言い負かされる主人公が、一番素敵。 笑わせてらいました! 方角ステッキの使い方なども設定色々考えてあって作者様素晴らしい。。。
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