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第百二十六話 巨大ワームの住処

○マジコンオープニングセレモニー○


 午前11時30分、入口前広場のステージでは客席が一時撤去されそこにマジコン出場者達が整列。

 その周囲には何台ものテレビカメラと旗を持った大勢の人々が見守り、今正にマジコン大会の開会宣言が行われようとしていた。


『え~、ここに第20回マジックストーンコンペティションオールスターグランプリ大会の開会を宣言致します。』


ワァァァァ――パチパチ~


 うわ~、何この人の数・・・横断幕も一杯あるし。

 流石に人気投票で選ばれた探索者達だけあってファンの数も凄いもんですなぁ。


 観客を見渡せば沢山の横断幕がある中レッドライオンを応援する赤い横断幕が一際目立つ。


 にしてもやっぱレッドライオンの人気は頭一つ抜けてるな。

 ライオンの顔が描かれた赤い旗持ってる人も大勢居るし。


『それでは続きまして、オペラ歌手の葛西恵美さんによる国歌斉唱です。』


 ちっ、伊集院の横断幕まで見つけてしまった。


『 若武者 伊集院信長見参! ~若様ファン一同~』


 しかもちょっとかっこいい感じだし。

 あんな無愛想な顔してる癖に良く人気投票に選ばれたもんだ。

 とはいえそうなると俺達の横断幕も一つくらいあって欲しい所なんだが・・・おっ。


『頑張れ!美少女軍団ナイスキャッチ ~ナイスキャッチファン倶楽部~』


 何だろう・・・あの横断幕からは俺へのエールが微塵も感じ取れんな。

 でもまああっただけマシか、姿は見えんが蛯名っちも偶には良い仕事するじゃないか。

 後で褒めてやるとしよう、うん。


『きみがぁ~よぉ~お~はぁ~・・・♫』


 へぇ~、流石に上手いですなぁ、プロの歌い手は。


「ねぇ、ほら、賢斗君あそこ見て。私の横断幕を見つけちゃったぁ。」


 へっ、あっ、ホントだ。


『ぞっこん MY LOVE 紺野かおる ~かおる様崇拝連合一同~』


 でも何か表現が相当古臭いな・・・このかおる様崇拝連合とやらは爺さん達の巣窟か?

 まっ、外面清純そうに見える先輩は御年配諸氏にもウケが良さそうだけども、うんうん。


「賢斗ぉ~、あそこに私の横断幕もあるよぉ~。」


 おっ、まっ、先輩の横断幕があるなら桜のもあって当然だろうな。


『可愛さ爆発 マジカルピンクちゃん ~小田桜を温かく見守る会一同~』


 そしてこちらは結構紳士的なファン層をお持ちの様だ。

 にしてもこの二人にはファン倶楽部以外にも個人応援団体が発足してんのか。


「はぁ、私はまだまだの様です。」


 あ~、でも円ちゃんの場合はなぁ。


「いや、円ちゃんはモンチャレ出ていなかったんだから仕方ないって。」


「そうでしょうか?」


「うんうん、俺を見てみなって。

 円ちゃんと違ってモンチャレ出てたにもかかわらずあんな風に頑張って応援してくれるファンなんか一人も居やしないだろぉ?」


「うふっ、賢斗さんはホントに何時も円にお優しいですね。ニコリッ」


 俺の人気の無さも偶には役に立つもんだな、ふっ。


『むぅ~~すぅうぅ~まぁああでぇ~♫』


 あ~歌終わちゃったか。


ワァァァァ――パチパチ~たっださぁ~ん、いやっほ~う!


 ん、今この場で一番聞きたくない声が耳に届いてしまった・・・チラッ


 そこに居たのは赤い法被姿にねじり鉢巻きをした若い女性。


バサッ


『メロメロ成金ハーレム王一直線っ! 御存知火の玉マンこと多田賢斗ここに推参! ~蛯名っち一同~』


「・・・嘘つきっ。」


 よしっ、あいつはやっぱり後で締めよう、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○スタート前○


 国歌斉唱が終わるとステージ前での開会プログラムは終了。

 そこからダンジョン内のスタート地点まで出場者が順次移動する運びとなった。


『さあいよいよ選手達のダンジョン入りが始まりましたぁ。

 まず最初にダンジョンへと向かうのは人気投票第1位のレッドライオン。

 三連覇の掛かる今大会の大本命はその人気も絶大です。』


 出場者達がダンジョン迄ロープで区切られた花道を移動し始めるとアナウンサーがその光景を実況し沿道を埋め尽くす人々から歓声と拍手が巻き起こる。


ワァァァァ――パチパチ~

キャー、赤羽さぁ~ん


 次々と通過する出場者達はそんな声援に右手を上げ応えていた。


○スタート○


 11時55分、スタート地点となる富士ダンジョン入口から少し入った一角。


『中間集合時刻である明日の正午、そして終了時刻となる明後日の正午にまたこちらにお集まり頂く事になりますが、その際遅れますと失格とさせて頂きますのでくれぐれもご注意下さい。』


 開始5分前となり再び整列した出場者達は最後のルール説明を受けながらその時を待つ。


 にしても意外とオーソドックスな探索者スタイルってのは少ないんだな。

 戦隊ヒーローコスにくノ一ルック、アラビアンダンサーに、覆面レスラーなんて人達まで。

 う~ん、高ランクになると変わり者が増えるのか?

 なぁ~んかこの間の秋葉原ダンジョンを思い出しちまうし。

 まっ、とはいえここに居るのは皆さん高ランクの方々、そんな御大層なお立場ともなると目立つってのも大事なお仕事になっちゃうんですかねぇ。


『また提出して頂く魔石に関しましては本戦開催時刻外また富士ダンジョン以外での魔石が確認された場合、どちらも失格とさせて頂きますので十分確認されてから御提出の方宜しくお願いします。』


 ふ~ん、にしても魔石の獲得時間なんてどうやって調べるんだろ?

 俺の解析でもそこまで分からんのに。


『はい、それではあとスタート時刻まで5分少々。

 時間が参りましたら私がここで鐘を鳴らしますのでそれを合図に各自移動を開始して頂いて結構です。』


 おっ、いよいよかぁ、何か緊張して来た。


カラ―ンカラ―ンカラ―ン


ドンッ、ドドンッ、ドンッ


 大会職員が鐘を鳴らすとそれと同時に入口前広場の上空に花火が打ち上がる。


 スタート地点に居た50組の出場者達は夫々往還石を掲げて音も無くダンジョン奥地へと消えて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○本戦開始○


 本戦スタート直後、賢斗達が移動したのは10階層の階層ボス出現ポイント。


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


 そこには経験値共有的な面を考慮し当初の予定と違いメンバー全員が顔を揃えていた。


「うぉ~、雷すっご~い。」


 先生、嬉しそうっすね。


「一応言っとくと、この落雷エリアで上空を飛んだりするのは厳禁だからな。」


「どぉ~してぇ~?」


「上空まで行くと雷が落ちて来易くなるから。

 遠足で山行った時注意されなかったかぁ?高い木に近寄るなって。」


「あっ、あれそういう意味だったんだぁ~。」


 そして前方20m程先にはお目当ての魔物が鎮座していた。


 おっ、居た居た、白ゴリラ。


「あれを賢斗が一人でやっつけたのぉ~?」


「まあな。」


ヒュンヒュン


 えっ・・・投げナイフ?


 放たれた二本のナイフはまだ遠く離れたジャイアントスノーコングに見事命中。

 しかしその程度の攻撃は当の魔物は歯牙にもかけず動き出す様子すら無かった。


 何?今の。


 その時賢斗達の後方から二人組の女性が現れた。


「ほら澪姉、やっぱりこの子達初出場の高校生パーティーよ。」


 うわぁ~これはこれは開会式でお見受けした中でセクシー度ナンバーワンのお姉さま方じゃないですか。

 ・・・近くで見ると堪らんなぁ。


「もうこの10階層に居るなんて信じらんなぁ~い。」


 にしても・・・ゴクリ

 この人達、この雪ステージでもアラビアダンサー衣装なんだな。

 小麦色のお肌にビキニヘソ出しルックは何処であろうと非常にグットですけど。


「ホントそうねぇ、あっ、ご免なさいね、坊やにお嬢ちゃん達。

 少しエチケット違反だったかもしれないけどこれは魔石獲得を争う大会なの。

 先に攻撃を当てた方がルール上魔物と戦う権利があるのよ。」


 いや~、地肌は白いのかなぁ?

 その豊満なビキニラインを少し下へとずらして頂く事は出来ないだろうか?


じ~~~


「あっ、澪姉、その子何かエッチぃ目ぇしてるよ。

 姉さんの胸ばっか見てるし。」


 えっ、それは誰の事ですかね?キョロキョロ


「ウフッ♡まだ坊やにはちょっと刺激が強かったかしら。

 時間があれば色々と教えてあげちゃうとこだけど・・・」


 えっ、教えるって何をですかぁ?


「ちょっと澪姉、大会始まってるのにいい加減にしてよっ。」


 こら妹、余計な事を言うんじゃない。

 今とっても良いとこなのに。


「はいはい、奏は融通が利かないわねぇ。

 という事で悪いけどあのジャイアントスノーコングは私達踊り娘シスターズが頂くわ。」


 えっ、何?どゆこと?


「まったねぇ~♪」


 ちょっと、澪お姉さま、カムバァ~ク!


 踊り娘シスターズの二人は賢斗達の横を通過し魔物の方へと歩いて行った。


 何だろう・・・何も失っていないのに喪失感が半端ない。


 痛っ!


「何するんですかっ!先輩。」


「いい加減そのだらしない顔は止めなさい、もう。

 相手が美人だと直ぐそうなっちゃうんだから、まったくぅ。」


 なっ、そんな顔してま・・・う~ん。

 でも物事には余韻ってものがあるだろぉ?

 侘び寂びの分からん奴め。


「でも困ったわねぇ、ここの階層ボスを見事に取られちゃったし。」


 あっ、そういや失ったものはあったな。

 まさかここの階層ボスを本戦プランに入れてるパーティーが他に居たとは。


「そっすねぇ。」


 とはいえこうした競技では魔物の討伐権争いなんてものはごく当たり前。

 あの二人の言い分は何も間違っちゃいない。

 責められるべくはそんな大会に出ておきながらのほほんとお喋りしていた俺達の方だわな。


「ねぇ、賢斗ぉ~、この近くに他の魔物は居ないのぉ~?」


 ん、あっ、そっか。

 俺達は先輩の弓による雷鳴剣アタックを試しに来ただけだし、何もあの白ゴリラにこだわる必要など無い。


「おっ、そうだな。

 ちょっと探してみるわ。」


ドゴォォォー――ン


 えっ、何あのパワー。


 5mの巨躯を誇る魔物が美女の正拳突きで吹き飛んでいた。


 澪お姉さまのあの細腕にあんな力が・・・あっ、そういやさっき妹の方が何か踊ってたな。


「何あの白ゴリラ、全然大した事無いじゃない。」


「いや、あれ本来滅茶苦茶強い魔物ですよ、先輩。

 レベル27でHP、防御力、それに力とどれ取ったって相当高い上にあんな剛腕の腕輪で強化までされてるんですから。」


 この間の探索者が言っていた雪を使った特技系を抜きにしても俺達が普通にやって敵う相手じゃない。

 と言ってもあの二人と戦ってるのを見ると不思議と弱く感じて来るな。

 あれじゃ金属製の武器を使えないデメリットはまるで無いし、防御も完璧に相手の力を受け流してる。


 こりゃ討伐されるのも時間の問題だな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○巨大ワームの住処 その1○


 10階層出口から10km程移動した雪原。


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


 ここもまだ落雷エリア内であり、先程の桜の提案により賢斗が探し当てた一番数多く魔物の反応が集まっていたポイントである。


「変ねぇ、魔物の反応出たり消えたりしてるのに姿が見当たらないわ。」


「はい、目に見えない魔物なんて居るのでしょうか?」


 まっ、ゴースト系の魔物って線も確かに考えられる。

 しかしパーフェクトマッピングと言ってもその名前に反して遮蔽物内の探査まで無制限に行えるというものでもない。

 長くこのスキルを使ってきた俺に言わせれば、この反応は恐らく雪の中を魔物が移動していると見るのが大正解。

 そして今俺達はこんな話をしている場合なんかじゃ・・・


「皆っ!早くこっから逃げろっ!」


 ないっ!


パシャァァァァ


 雪中から突如大口を開け飛び出した巨大なワーム。


ガキィィィ――――ン


 賢斗はその牙を剣で受けると後方へ受け流した。


パシャ――――ン


 くぅ~、あっぶねぇ~。


 にしてもこんな奴等相手じゃ雷鳴剣アタックのお試しなんて言ってる場合じゃないな。


「皆、大丈夫か?一旦撤退するぞっ。」


「ちょっと待って、賢斗君。

 まだ雷鳴剣アタックのお試しが済んでないでしょ。」


「いやだって先輩、こんな奴等相手じゃ・・・」


「良いから良いから、取り敢えずスキル共有しちゃいましょ。

 私に良い考えがあるの。」


 えっ、何その良い考えって・・・


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○巨大ワームの住処 その2○


 魔物が集まっていたポイントから100m程離れた雪原に移動した賢斗達。


「じゃあ桜、お願いね。思いっきり行っちゃって良いから。」


「りょ~か~い。

 じゃあ行って来るぅ~。」


 成程、先輩の良い考えとはこういう事か。

 確かに雪が無くなっちまえばあの魔物だって視認可能。

 そうなりゃ雷鳴剣アタックのお試しくらいは出来そうだな。


「ファイアーボール・マキシマムぅ~。」


ドッカァァァァ―――ン


 賢斗達が遠くから見守る中、桜の杖から放たれた白火球は大爆発を引き起こした。


「たっだいまぁ~。」


「おうっ、相変わらず凄ぇ威力だな。」


 ここまで爆風が来てるし。


「ま~ね~。」


「さて、あのワームさん達はどうなったかしら?

 早速行ってみましょ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○巨大ワームの住処 その3○


 賢斗達が先程のポイントに戻ってみると巨大ワームの姿は無かった。

 しかし雪が完全に溶け地面が剥き出しとなったそこには無数の大きな穴が点在している。


「う~ん、どうやら地中に逃げられちまった様だな。」


 まあ雪の中を自由に移動出来る魔物が地中だって自由に移動出来たとしても何ら可笑しくは無いけど・・・飛んだ無駄骨だったなぁ。


「そうねぇ、当てが外れちゃったわ。

 何かここあの巨大ワームの住処みたいな感じだし。」


 確かにこの穴は周囲に掘られた土砂も無いし桜の魔法から逃げる為に急遽掘ったというよりは、前々から空いてた様に見える。


 とその時地面が揺れ出す。


ゴゴゴゴゴゴ・・・


 なっ、これってもしかして・・・間違いないっ、さっきの魔物だ。


「先輩、今がチャンスです。

 そこの穴から10秒後に魔物が飛び出して来るんで雷鳴剣アタックの準備を。

 他の皆は万一に備えて警戒態勢。」


「えっ、あっ、うん。分かったわ。」


 かおるは直ぐ様天に向かって弓を弾く。


「ほ~い。」


「了解しました。」


「8、7、6。」


「ちょっと待って、賢斗君。

 雷が落ちるタイミングがまだ掛かっちゃいそうよっ。」


 あっちゃ~、剣と違って雷を呼ぶ力が弱いってのかっ。

 むぅ~、こうなりゃ・・・


「先輩っ、上です。空に飛べば雷は直ぐ落ちる筈ですっ。」


「あっ、うんっ、分かったわ。」


「2、1・・・」


ドカドカドカァ―――


 うわっ、来やがったっ!


 地上に飛び出してきた魔物。


「せんぱぁ~いっ!」


 賢斗は空に向かって叫ぶ。


「ウフッ、お待たせ♡」


ヒュン


 上空から放たれた1本の魔鉄矢が見事ビッグスノーワームの脳天に突き刺さると・・・


ピカッ、ゴロゴロゴロォ


 そこに雷が落ちた。

次回、第百二十七話 100年間眠り続けるお宝。

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