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第百二十一話 メモリアルフラワー

○7月15日月曜日午前8時 富士ダンジョン6階層○


 6階層スタート地点の上空でフロアを一望してみる賢斗。


 富士ダンジョンでは1階層から5階層までは見渡す限りの樹海フロアが続いた。

 しかし今彼が見る景色はその樹海の中を幾本もの川が蛇行して流れ、複雑に枝分かれした支流はフロアを無数のブロックに隔てている。

 そしてその川により区画されたブロックの一つ一つが3km四方は有る結構な広さ。

 当然そこには魔物の反応もチラホラ。


 何だかどこぞのジャングルって感じだな。

 川幅も結構広いし・・・まっ、関係ないか。


 普通の探索者なら先に進むには何度も川越えを余儀なくされそうな地形を前に愚痴の一つも溢してしまうところだろう。


「どうだ?出口通路の方角は分かったか?」


 上空から地上に降り立つ賢斗。


「ああ、次はあっちの方角だ、火の玉マン。

 さっさと行って来い。」


「ったく、その呼び方やめろって言ってるだろぉ?」


「敵前逃亡を図る様なお前にはこのふざけた愛称で十分だ。」


 ちっ、随分と真面な評価になったじゃねぇか。

 ったく、へいへい分かりましたよぉ。


 こうして賢斗と伊集院の下見3日目の探索が始まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○5階層 かおるサイド○


 昨晩、ナイスキャッチメンバー達は水島が昼間現地調査で入手した富士ダンジョン低階層におけるお宝アイテム情報を聞かされていた。

 そしてそれを元に今日の活動予定を話し合った結果、午前の女性陣達はかおるのみ別行動という形になっている。


 そして現在富士ダンジョン5階層出口付近の上空にはゴールデンイーグルに向けて奇声を発する一人の少女の姿があった。


「あっは~ん、うっふ~ん。」


 するとその魔物は急旋回。

 かおるの元へと近づいてくる。


 うふっ、どうやらオス個体だったみたいね。


 ホバリング中のゴールデンイーグルの背に乗るかおる。


 水島さんの話によればここの5階層に生えている古代樹は高魔力でこの日本では最高品質のダンジョン産木材。

 「弓矢や杖の素材としてもピッタリですよぉ」なんて言われちゃったら矢の消耗が激しい私としては宝の山みたいなものじゃない。


「じゃあ悪いけど、鳥さん。この樹海の中で一番矢に向いてそうな古代樹の元に連れて行ってくれるかしら。」


グエェ~


 今日はたっくさん古代樹の枝をお持ち帰りしちゃうわよぉ♪


 鳥型の魔物は分かったとばかり鳴き声を上げるとある一点を目指して飛んでいった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○2階層 桜円小太郎サイド○


 そのころ桜と円そして小太郎は2階層の入り口付近のエリアで猿型の魔物と戦闘中であった。


 光さんのお話では、ここのお猿さん達はお酒のアイテムをドロップして下さるとか。

 その中でもレアモンスターである銀色のお猿さんが落とす幻の銘酒はとても高額で取引されるそうです。

 となれば当然そのお酒を手に入れるのは私と桜のお役目ですね。


 と言っても木登りが得意な猿相手に、1階層で見せた円形ステージはその効果を発揮していない。


「出てこないねぇ~。」


ど~ん


 桜は巨木から飛び移って来ようとする魔物を火の杖で牽制。

 最初3体程の出現個体数だった猿型の魔物達は徐々に増え今現在7体。

 しかしそこにはまだレアモンスターと思しき個体は確認出来ていなかった。


「そうですねぇ、でも出現率は10%ですからもう少し様子見が必要ですよ、桜。」


「悠長に構えてる場合じゃないにゃ。

 早く猫の姿になってとっとといつもの奴で全滅させるにゃ。」


バコンッ


 個体数が増えるに連れ、猿型の猛攻を凌ぐのもキツくなって来ていた。


「お待ちなさい、小太郎。

 まだ水島さんの言っていたいぶし銀モンキーとやらの姿が見当たりませんよ。

 もっとお猿さん達が集まるのを待つのです。えいっ。」


 円がお尻を突き出すと、後方から襲い掛かった酔っ払いモンキーが吹き飛ぶ。


 やはりこれは戦闘にも役に立ってくれますねぇ。


『ピロリン。スキル『ヒッププッシュ』がレベル3になりました。特技『ヒップバズーカ』を取得しました。』


 あっ、やりました。

 ハイテンションタイムも無駄にせずに済んだみたいです。


「ほら、何かくすんだ銀色の猿が出て来たにゃ。

 早く何時もの奴で終わらせるにゃっ。」


 あら、ホント、ちょっと強そうな感じのお猿さんがお見えになりました。


「それじゃあ桜、先ずはあのいぶし銀モンキーに一撃加えて下さい。」


「おっけ~。」


 桜の協力なくしては、幻の銘酒大吟醸猿殺しは手に入りませんからね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○6階層 賢斗サイド○


 15分程でスタート地点付近に居た伊集院の元に舞い戻った賢斗。


「随分早いお帰りじゃねぇか。」


「ああ、初っ端だしちょっと裏ワザ使ったからな。」


ドカ~ン


 遠くで何か大きな爆発音の様なものがした。


「あはは、何だ。また火の玉マンになったのか。」


「人を変身ヒーローみたいに言うんじゃねぇっ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○5階層 かおるサイド○


 かれこれ20分程鳥型の背に乗るかおる。

 空中遊泳とは比べ物にならない速度の中彼女は同時に賢斗から共有したドキドキ星人スキルで古代樹達の魔力を確認していた。


 確かにここの古代樹達からは結構な魔力を感じるわねぇ。

 といってそれは高いレベルで拮抗していてどれもどんぐりの背比べ。

 これだっていうのが中々見あたらない。

 ホントは本命が見つかるまで取っときたかったけど、そろそろスキル共有の効果時間的にアウトだしもう待ってらんないか。


 飛行中の鳥型の魔物の背の上でドキドキジェットを発動したかおる。

 するとその感知範囲は一気に広がる。

 しかし如何にハイテンションタイムといえども流石にこの広大な富士ダンジョンのワンフロア全域を把握するには到底至らない。

 精々その把握範囲は10km四方といったところが限界であった。


 あ~ん、やっぱりまだ感知出来ないかぁ。


「ねぇ、一体何時になったら着くのかしら。

 もう早くしてくれないと他の鳥さんに乗り換えちゃうぞ。」


グエェ~


 鳥型の魔物のスピードが一気に加速した。


『ピロリン。スキル『風圧耐性』を取得しました。』


 すると程なく彼女の表情は驚きに満ちたものに変わっていく。


「えっ、なっ、なんなの?これ・・・1本だけ桁違いに高い魔力を感じるわ。」


バサッバサッバサッ


 その古代樹まで辿り着くとゴールデンイーグルはホバリング状態に移行、その樹の上をグルグル旋回し始めた。


 やっぱりこの樹、桁違いに凄い。


「有難う鳥さん。もう帰って良いわよ。」


グエェェェ~~


 悲しげな鳴き声を上げるとその魔物は飛び去って行く。


『ピロリン。スキル『テイム』を取得しました。』


 あら、テイムスキルを取得するのって結構大変って聞いた事あるけど、うふっ、まああっても困らないわよね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○2階層 桜円小太郎サイド○


 戦闘を終えドロップ品を回収する3者。

 すると桜が手に一升瓶を掲げて叫ぶ。


「猿殺しあったよぉ~。」


「やりましたね、これでこの光さんのリストに載ってる2階層でのお宝アイテムはゲット完了です。」


「それそんなに凄いのかにゃ?」


「はい、何でも以前アイテムオークションに出品された時には1000万円以上で落札されたそうですよ。」


「スキルスクロールより高いもんねぇ~。」


「おいらは焼きとうもろこしの方が良いにゃ。」


「アハハ~小太郎は焼きとうもろこし好きだもんねぇ~。」


「うふっ、小太郎、これが高値で売れたら焼きとうもろこしなんて好きなだけ食べられますよ。」


「それホントかにゃっ!

 だったらもっと頑張ってそいつをゲットするにゃっ。」


「いいえ、小太郎。こうしたものは一度に沢山手に入れてしまってはその価値が下がってしまうものです。

 今は次のお宝アイテム3階層の金色シルクをゲットしに向かいましょう。」


「そ~だねぇ~。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○5階層 かおるサイド○


 ホント立派な樹ねぇ。

 もうハイテンションタイムは切れちゃってるけど、それでもこの樹が凄いって事だけは分かる。

 この巨木だらけの樹海の中にあって、一際高貴さ見たいなものを感じちゃうもの。


 上空から先程の古代樹を眺めるかおる。

 その天辺には綺麗な瑠璃色の花が一つ咲いていた。


 う~ん、やっぱり枝を分けて貰うとしたらあのお花のついてる枝が良いわよねぇ。

 なんだか古代樹の力が天辺付近に集中してる感じもしてたし。


 かおるは花の付いた若枝に近づくとそっと手を伸ばす。


ヒョイ


 えっ?


 しかしその若枝はその手を避ける様に素早く枝を曲げる。


 錯覚かしら?

 今枝が動物みたいに動いたんだけど・・・ではもう一回。


ヒョイ


 これは間違いないわね・・・それっ。


ヒョイ


 ほれっ。


ヒョイ、スゥ~


 嘘っ・・・どういう事なの?


 その大樹は音もなくその姿を消した。


キョロキョロ


 周囲を見渡せば300m程離れた場所に先程の花が咲いた古代樹があった。


 あんな所に・・・樹木が転移するなんて聞いた事ないわよ、っとに。

 でも私の視認範囲にまだ居た事が命取りよ。


「こうなったらかおるお姉さんの本気を見せてあげるんだから。」


 かおるはまるでその枝を掴んでいるかの様に手の形を変えると・・・


 転移っ。


 一気に古代樹の近くに移動したかおる、その手には転移と同時にしっかりと若枝が掴まれていた。


 避けられる前に捕まえちゃえば良いだけの話よねぇ。


 若枝はまるでお魚の様にその身体を震わせる。


バサバサバサバサ


「ほうら、捕まえちゃったんだからもう観念しなさい。」


 かおるの言葉に一転今度はブルブルと怯えた様に震えだす。


ブルブルブル・・・


 あら、ちょっと可愛いじゃない。


「じゃああなたの力を少し分けて貰うわね。」


 かおるが鋸を取り出す、すると今度は古代樹全体が揺れ出した。


グラグラグラァ~


「ちょっとぉ、大人しくしてくれないかな。

 枝の1本や2本、こんな大きな樹なんだから問題ないでしょ?」


グラグラグラァ~


「もしかして貴方鋸が怖いの?

 それだったら自分からこの枝を落としてよ。

 そうすれば私も助かっちゃうし、良い子良い子してあげる。」


ポキンッ


 えっ、嘘っ、言ってみるものね。


 その枝が分離した瞬間、その古代樹全体が光の粒となって消滅していった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前11時45分 富士ダンジョン入口前広場○


 お昼休憩の為一時探索を中断し帰還の途に就くナイスキャッチ一同はダンジョン入口から出て来た。


「何すか?先輩。その棒っきれは。

 小学生の下校時じゃないんだから、持って帰るつもりならちゃんと収納して下さいよ。

 なんか一緒に居るのが恥ずかしいし。」


 かおるの手には件の若木がいまだ握られていた。


「だって仕方ないじゃない。

 この枝が収納するのを嫌がっちゃうんだから。」


 何だろう・・・ついに気がふれたのか?先輩は。

 植物がそんな意思を持ってる訳ないだろうに。


「じゃあちょっとその枝俺に貸してください。」


 賢斗が徐にその枝に手を伸ばすと・・・


ヒョイ


 なっ、今勝手に動いた様な・・・


○広場のステージ○


 お昼前のこの時間。

 集まっている人々を楽しませる為、毎日人気探索者へのインタビューイベントが開催されている。


『え~、本日の特別インタビューはこの人。

 人気Bランクパーティーロイヤルフェアリーのリーダー西条沙織さんにお越し頂きましたぁ。』


ワァ―――パチパチ~


『それでは今大会の意気込みを一つ伺ってみましょう。

 どうですか?西條さん。

 この大会の出場も3回目になりますし、そろそろ上位入賞、いや優勝も意識しちゃってるんじゃないですか?』


『いいえ、私達に優勝なんてまだ無理ですわ。

 こう見えて自分達の実力を過大評価する様なマネは致しませんの。』


『あはは、そうですか。

 では今大会の目標は?』


『それは勿論この富士ダンジョンの樹海の中にあると噂される幻の霊木を見つける事ですわね。』


『ああ、あの綺麗な瑠璃色の花が咲いてるっていう古代樹の事ですかぁ。

 でもあれって噂ですよね。

 去年一度その花がドローン映像に映った事で話題になってましたけど、実際そのポイントに行っても何も確認されなかったそうですよ。』


『まあ、何も知らない貴方に一つ良い事を教えて差し上げますわ。

 あの花は恐らく100年を迎えたダンジョンに咲くメモリアルフラワー。

 その花が付く枝は植物を自在に操る力があるとされ、外国の某巨大ダンジョンで発見されたそれは既に国宝級の扱いを受けておりますのよ。

 といってもこれはきっと広大な樹海を持つダンジョン限定のお話でしょうけど。』


『それはホントですかぁ?

 仮にそんなのが見つかったら、西条さんも国民的探索者の一人になっちゃいそうですね。』


『ええ、もし見つける事が出来た暁には麗しのグリーンマスターとでも呼んで貰おうかしら。』


『あはは、分かりました。』


 とそこへナイスキャッチ一同が通りかかると、会場が俄かに騒がしくなり始めた。


「おっ、おい、あれってもしかして今西条さんが言ってた花じゃねぇか?」


ザワザワ・・・


 するとステージ上の女性は血相を変えてマイク越しに声を張り上げる。


『ちょっとそこの枝を持った彼女っ!お待ちなさいっ!

 少しこのステージ上まで登って来てその枝を見せて頂戴っ!』


 しかし当の枝を持った女子は何食わぬ顔で通過していく。


『ああん、もうっ、そこの可愛いらしい彼女。

 どうか少しお時間頂けないかしら。』


「あらやだっ。今の可愛い彼女って私の事かしら?どう思う?賢斗くぅ~ん。」


 いや可愛いかどうかは別としてそんな枝持って歩いてるのは先輩くらいのもんだろうな。


「まあ先輩の事じゃないっすか?」


「あら、やっぱりぃ?可愛い彼女って言ったら賢斗君的には私になっちゃうもんねぇ、ウフッ。」


 う~ん、実に扱いに困る。


 なんて事をしてる間にステージ上には一人の女性が登壇していた。


「え~先程の呼び掛けはこの超可愛い蛯名っちの事でしょうか?」


『貴方な訳ないじゃないっ!第一枝を持ってないでしょっ!』


 あいつも自分の事を可愛いとか思ってる口だったか。

次回、第百二十二話 ドリアードの長弓。

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉ラッキードロップの補正 なるほど 読み返すと、緑山のボスを倒した時(79話)のドロップが82話で2本(2体分)ドロップしてたって書いてありますね(桜嬢が止めを刺したのは1体)。 ただ、…
[良い点] 更新と改定お疲れ様です 流石、割りきって資金稼ぎに入った時のナイスキャッチのアイテム収集能力は反則ですねぇ 出現率の低いレアモンスターが1割という高確率でPOPして、コンマ以下の確率だっ…
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