第百二十話 その真相は暴かれる
○7月14日日曜日午後10時 富士ダンジョン5階層通路出口前○
午後8時を過ぎ、帰還した賢斗は遅めの夕食を皆と取りつつ5階層の階層ボスポイントに到達した事をご報告。
すると少しでも早く攻略を進めなければいけない事情また皆のMP回復等を考慮した結果、もう夜も遅いこんな時間ではあるがボス討伐に乗り出す運びとなった。
ちなみに賢斗に取り残された伊集院はあの後ボス狼達を一人で討伐し帰還している。
しかし富士ダンジョンに於ける階層ボスのリスポーン時間は1時間。
5階層の階層ボスポイントの30m手前までやって来たナイスキャッチメンバー達の目には大穴を守るかの様にその前で寝そべる5体の銀色の狼達の姿が映っていた。
「んじゃ作戦はさっき話した通り。
桜以外の皆は全力で狼達をあの場所から逃げ出さない様に牽制。
桜は魔法少女に変身して上から最大火力のマキシマムをあの狼達に叩き込む係、以上。」
高い岩壁に囲まれた立地は正に袋の鼠。
攻撃が当たってくれさえすれば魔法少女となった桜が放つマキシマムの威力でこの様な戦闘は直ぐに決着が着くというのが今回賢斗が立てた作戦である。
戦闘を前にスキル共有を済ませると賢斗の背には猫幼女、頭の上には金色のオーラを放つ子猫が乗っかる。
「それじゃあいくよ、作戦開始っ!」
かおると賢斗は瞬時にシルバーワイルドウルフとの距離を10m程のところまで転移で詰める。
ガルルルルルゥ~
すると即座に臨戦態勢に入る狼達。
「サンダーボール・アンリミテッド・クインティプル。」
バチバチバチィ~
5つの雷球が放たれると狼たちの動きは一瞬止まる。
「ストーンウォール・アンリミテッド・トリプルですにゃん。」
ズゴゴゴ・・・
完全包囲とはいかないが、3つの土壁は狼達の逃げ道を狭めた。
そしてまだ動きが完全ではない狼達、その1体が土壁の隙間から這い出ようと顔をだしたところを・・・
バコンッ
子猫のオーラハンドが殴り飛ばし、土壁の中へと押し戻す。
「スターダストレイン。」
ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・
そしてかおるが放った無数の矢が山なりに降り注ぐと最早狼達は身動きが出来ない。
よしっ、今だ、桜っ!
って、デカっ。
賢斗が上空を見上げると、両手を突き出す少女の前には10mを超す巨大な火球が白い輝きを放っていた。
「いっくよぉ~。」
それは狼達の頭上に舞い降りてくる。
「ファイアーボール・マキシマムぅ~。」
えっ、ファイアーボール?
あれって単体魔法だろ?
いやまああの大きさならそんな事お構いなしに範囲攻撃出来ちまうけど。
つか、ちょっとあの色・・・もしかして不味くないか?
ドッカァァァァ―――ン
地上に落ちた白火球は大爆発を引き起こした。
うわっ、ここもヤバいっ!
「逃げろぉっ!」
○戦闘後○
上空に転移し難を逃れた賢斗の元に桜とかおるも集まって来た。
眼下にはまるで昼間火の玉マンが作ったクレーターと同じ規模のものが見えている。
「いやぁ~ビックリしたねぇ~。」
「桜、あんたもうちょっとセーブして撃ちなさいよ。」
「うん、今度からそうするぅ~。」
にしてもホント想像以上の威力だったな。
「賢斗にゃん、大変です。
小太郎の姿が見当たりませんにゃん。」
「あっ、ホントだぁ~。」
「まさかさっきの爆風に巻き込まれたんじゃ・・・」
辺りを伺い悲壮感を漂わせる少女達。
「なぁ~に、小太郎なら多分心配いらないって。ほれっ。」
賢斗は顎をしゃくって地上の一点を指示す。
「あれがどうしたって言うのよ、賢斗君。」
そこには植物等生えていなかったこのボス出現ポイントには似つかわしくない広葉樹の落ち葉が降り積もっていた。
全員で地上に降り立つと賢斗はその落ち葉の塊に向かって声を掛けてみる。
「ほら、出て来い小太郎。」
ガザガザモゾモゾ・・・
落ち葉の中から顔を出す子猫。
「呼んだかにゃ。」
「良かったぁ~。ゴメンねぇ~、小太郎ぉ~。」
ニカッ
「にゃあ~これはもう焼きとうもろこし5本くらいじゃないと割に合わないにゃ~。」
「りょ~か~い。」
この子猫、随分頭の回転速くなったな、うん。
こうして富士ダンジョン5階層で階層ボスとの戦闘を終えると、彼彼女等の身体レベルは一つずつレベルアップ。
またシルバーワイルドウルフのドロップ品として魔石の他にその毛皮が5つと氷魔法のスキルスクロールが2つ。
6階層のスタート地点を確認に行った賢斗が戻って来ると皆揃って帰還するのであった。
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○午後11時 コテージリビング○
コテージに戻ると賢斗は早速リビングで寛いでいた水島に今回の戦利品の査定をお願いした。
「氷魔法のスキルスクロールですかぁ。
これはかなりレアな部類になりますし、水魔法の上位みたいな扱いですから一つ400万円以上はしますよ。」
おおっ、やった。これで金欠状態脱出だ。
いやぁ、やっぱ魔法のスキルスクロールは良い金になりますなぁ。
「それとこっちの毛皮の方も一つ50万円。
シルバーワイルドウルフの毛皮は結構高級素材として取引されてますからねぇ。」
「うふっ、あんな水着装備買わされ後だし、助かっちゃうわね。」
「そうだねぇ~。」
「はい、探索者たる者赤字収支ではいけません。」
いやぁ、ホントホント。
「ねぇ、賢斗君。このチャンスにちょっとあの狼さん達を周回してみない?」
「あっ、良いっすね、それ。」
これだけの稼ぎを生み出すのならば、攻略を急ぐ事情を加味しても当然これはアリだ。
レアドロップ率0.0001%と言えども、うちの先生の前では関係なし。
ここのリスポーンは1時間と早いし、先生のMP回復次第ってところはあるが1日3回程度の討伐は可能。
朝昼晩の3回って形にすれば、お膳立てにそこまで影響も出なそうだしな。
「勿論お金になるのも魅力だけど、この狼さん達の毛皮ってとっても綺麗だし冬に向けて少し取っときたいのよねぇ。
こんな素材を使ったマフラーとかコートを着て学校に行ったらきっとみんな驚くわよぉ。」
まあ先輩なら裁縫スキルを持ってるし、そんな防寒アイテム程度簡単に作れそうだな。
と言ってもそんなの学生が登校時に着るには不釣り合いだし派手過ぎだと思うんだが。
「かっ、かおるさん。それなら是非私にもお願いします。」
「ええ勿論良いわよ、円。」
「かおるちゃん、私もぉ~。」
「分かったわ。」
まっ、桜たちのお嬢様女子高ならそんなに目立つ様な代物でもないのか。
「賢斗君はどうするぅ~?
愛しの先輩の手作りマフラぁ~、桃色高校生の君としてはやっぱり欲しいかなぁ?ウフ♡」
あれ?先輩の手作りマフラーとか言われちゃうとちょっと・・・いやかなり欲しいな。
相手が先輩じゃなくても女子からの手作りマフラーと言えばある意味一つの男の夢だったりするし。
「俺は別にいりませんよ、そんなの。」
少年はぶっきら棒な返事を返す。
しかしもっと普通に聞けんのか?この大馬鹿野郎は。
だぁ~れが桃色高校生だっつのっ!
そんな風に言われて作って下さいとか言えるわけねぇだろ。
賢斗の返事にカチンと来たのか、かおるは立ち上がると彼の元へ歩みよりその両頬を押さえる。
「ホントかなぁ~、おでこタッチしちゃうぞ、こいつぅ~♪」
あっ、ちょっ、止め・・・
かおるは瞼を閉じるとゆっくり自分の顔を賢斗の顔に近づける。
ってなんだこのキスへのカウントダウン的状況。
無意識に俺のお口も先輩の唇をお迎えに行ってしまう。
コツン
あっ、しまった。
予告されていたにもかかわらず、こうも易々とおでこタッチを許してしまうとは。
「ほらぁ、やっぱり。意地張ってるとホントに作ってあげないぞ。」
「・・・はい。」
おでこタッチって回避不能な代物だったんだな、うん。
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○7月15日月曜日午前7時 富士ダンジョン1階層通路○
昨夜のミーティングで当初の予定にボス狼退治が組み込まれ、下見期間3日目となる今日は朝早くにダンジョン入り。
既にボス狼退治のひと仕事を終え帰還の途に就いていた。
「あとは昼と夕方の都合3回狼退治をする予定だから、桜は日中MPを節約しといてくれ。」
「りょ~か~い。」
いやぁ~ボロい稼ぎだなぁ、ホント。
今朝は氷魔法のスキルスクロールが3つもドロップしたし、Aランクになれば毎日こんな稼ぎにありつけるのかぁ。
一行がダンジョン入口から出てくると入口前広場にある12基のスクリーン全てにこの下見期間中の大会参加者達の戦闘シーン等の模様が映し出されるようになっていた。
そして賢斗達がそこに通りかかると、丁度2基ある大きなスクリーンの一つに先程5階層のシルバーワイルドウルフ相手に桜が巨大ファイアーボールを放つシーンが流れ始めた。
おっ、あれさっきの俺達の戦闘か・・・随分早いな。
ウォ―――
湧き上がる歓声。
まっ、あれは驚くだろうな。
「なっ、あれがファイアーボールだとぉ?
まるで星でも落っことしたみてぇじゃねぇか。」
「そうだな、あれはもうファイアーボールなんかじゃねぇ。
言ってみりゃファイアースターってところか。」
「ああ、もう私あのファイアースター使いのファンになってしまいましたわぁ。」
ざわつく観客席。
この様子じゃ桜にはファイアースターなんてカッコイイ二つ名が付いちまいそうだな。
・・・なんと羨ましい。
そんな事を思っていると中央の席に居た女性が立ち上がり大声を張り上げる。
「皆さぁ~ん。ちょっとタンマタンマぁ~。
こちらはナイスキャッチファンクラブの者ですぅ~。
彼女の二つ名ならもう決まってますのでマジカルピンクちゃんでぜひお願いしまぁ~す。」
「そっ、そうか。うむ、まっ、確かにそっちの方が可愛い桜ちゃんにはピッタリかもな。」
「ああ、魔法も凄いがファイアースターという二つ名では彼女のキュートさまで表現しきれてなかったぜ。」
「そうねぇ、ファイアースターも良かったけど、マジカルピンクちゃんの方が可愛くて素敵っ!」
どうやら犯人はあいつだったみたいだな。
ひとしきり騒ぎが収まるのを見計らい、賢斗は客席の中へ入って行くと一人の女性の耳を引っ張り連れ出してくる。
「あいたたたた、ちょっと多田さん、痛いです。
蛯名っち涙がちょちょぎれちゃいますよぉ。」
容疑者確保、うん。
「おい蛯名っち、お前さっき折角決まりかけた桜のカッコイイ二つ名を自分の好きな形に誘導しただろっ。
まさか俺の火の玉ボーイの二つ名を火の玉マンにしたのもお前の仕業じゃないだろうなっ?!」
「はい、前回も蛯名っち超頑張りました。褒めちゃって下さい。
あっ、ナデナデでも可です。はい。」
蛯名は臆面もなく賢斗に自分の頭を差し出す。
やっぱりか。
「褒めねぇし、ナデねぇよっ。
つか何でお前が俺達の二つ名に介入してんだよっ。
良い迷惑だろうが。」
「まあファンクラブ会長と言えばナイスキャッチファミリーの一員。
確かに二つ名に介入するのはどうかと私も思いましたが、別に迷惑をかけた覚えはありませんよ。」
・・・お前は全くの部外者なんだが?
「いや被害者を2人も出てんだから、しっかり迷惑かけただろ。なぁ、桜。」
「えっ、あっ、うん。そっ、そうだねぇ~。」
「う~ん、これはどうも多田さんは大きな勘違いをしているようですねぇ。」
そんなもんしちゃいないっつの。
「では小田さんに質問します。
ファイアースターとマジカルピンクちゃん。
どちらの二つ名がお好みですか?」
「う~ん、えっとねぇ~、どっちかって言ったらマジカルピンクちゃんの方がいっかなぁ~。」
なっ、まさかの裏切り。
・・・いやまあこの二択ならそう答えても可笑しくは無いか。
女子的感覚で言えばちょっと可愛い感じがするマジカルピンクちゃんの方が好みかもしれんし。
「ほら多田さん、お聞きになりましたか?
私のした事はとても小田さんの為になってるじゃないですかぁ。ぱちぱち~。」
くそっ・・・確かに桜にとっては迷惑な話では無かった様だ。
しかし俺の火の玉マンの方は間違いなく迷惑その物、最早言い逃れは出来まい。
「まあ桜の場合はそうかもしれんが、じゃあ俺の方はどうしてくれるんだ?
火の玉マンなんて二つ名、俺は真っ平御免なんだが。」
「そうですか。でもあまり主観的な意見にとらわれるのもどうかと思いますよぉ。」
ん、何言ってんだ?こいつ。
「では今度は多田さん以外の皆さんに質問します。
多田さんの二つ名として火の玉ボーイと火の玉マン、どちらが相応しいと思いますか?」
「火の玉マンの方が良っかなぁ~。何か賢斗っポイしぃ~。」
俺っポイとはどういう意味ですか?先生。
「そんなの決まってるじゃない、火の玉ボーイじゃつまんないし。」
この人には端から期待しとらん。
「そこは15点差で火の玉マンの勝ちですね。」
なっ、3対0だと・・・いや待て、こんなの納得できるかっ!
「ナデナデでも可です。はい。」
するかっ!
つかもっと俺の意見を尊重しろっ。
次回、第百二十一話 メモリアルフラワー。




