第十二話 その結果に彼が満足する事は無かった
○その宝箱には罠がある その1○
右ルートを更に進むと程なく宝箱部屋に辿り着いた。
部屋を覗けばその中央にあったのはまだ開封されていない木製の宝箱。
早速部屋に入るとしゃがみ込んだ桜は宝箱係としての初仕事に取り掛かる。
「それでは、先生宜しくお願いします。」
「がんばって、桜。」
「うん、頑張るぅ~。」
先程火魔法のスキルスクロールという大層なお宝を手に入れた彼等。
この時の賢斗は宝箱の中身への興味が高過ぎ大事な事を忘れてしまっていた。
「それじゃあいっくよぉ~。」
桜は宝箱の上蓋に手を掛けると・・・
「あっ、ちょっと待ったっ!桜、その宝箱はっ!」
はっっとした表情で焦って制止する賢斗。
が時すでに遅し、桜がその上蓋を押し上げると中から白いガスが噴き出してしまった。
プシュー
「きゃっ。」
「あっ罠!」
ドサッ
白いガスに包まれた桜はその場に崩れ落ちる。
ったく、何やってんだ?俺は。
この前ここの睡眠トラップにやられたばっかりだろっ。
慌てて駆け寄り小さな身体を抱え上げる賢斗。
「大丈夫か?桜。ゴメン、注意するのが遅れちまった。
済みません先輩。
このガスは睡眠ガスの筈です。
俺はこの宝箱に罠があるって知っていたのに注意するのを忘れてしまいました。」
「そう、でも睡眠トラップで良かったわねぇ。
毒とかだったらかなり不味かったし。」
「そっすね。済みませんでした。」
「謝る相手は私じゃないでしょ。」
かおるに言われ桜の顔を窺えば、すやすやと気持ち良さそうに眠る美少女。
一応苦しんでいる様子はないな・・・
「悪かったな、桜。」
つか滅茶苦茶可愛いんですけど・・・ゴクリ
あ~こんな可愛い娘が今俺の腕の中でこんな無防備な姿を・・・
っと、いかんいかん。
自分の不始末の反省をしなければ・・・
いや念の為もう一回桜の顔を確認してみよう・・・チラッ、おおっ、やっぱり可愛い♪
こんな美少女の寝顔を真近で眺め放題とかこれからの人生考えてもきっと中々あるもんじゃ御座いませんぞぉ。
ということでもう一回だけ・・・チラッ
そしてさり気なくもう一回・・・チラッ
忘れたころにもう一回・・・チラッ
「何やってるのよ、賢斗君。
幾ら桜の寝顔が可愛いからって危なっかしくて見てらんないわ。
このままだとあっという間に狼さんになっちゃいそうだし。
もう、私の目がある事も忘れないでよね。」
「ぜっ、全然危なっかしくなんかごじゃりませんぞっ!」
あっ、しっ、しまった・・・久々の平安式カミカミ。
「ん、んん~。」
腕の中の少女が少し色っぽい吐息を漏らし始めると賢斗は慌てて彼女の顔から眼を逸らし平静を装う。
「さっ、桜、大丈夫か?」
「あ~うん。賢斗、おはよぉ~。」
「気分の方はどうだ?」
「う~ん、ちょっとすっきりした感じぃ~?」
顎下に人差し指を当て少し首をかしげて上目使いに答える桜。
起き抜けにも関わらずあざといな。
こんな可愛い仕草されたらギュッと抱きしめたくなるのが健全な男子としては寧ろ・・・ビクッ
・・・何だ?今の殺気は。怖い怖い。
「いやまあ兎も角大丈夫そうで良かった。」
「あっ、うん、私は全然だいじょぶぅ~。
勝手に寝ちゃったみたいでごめんねぇ~。」
「いや謝るのは俺の方だって。
この宝箱には睡眠ガスの罠が仕掛けられててさ、それ言うの遅れちまったから。」
「あ~、あの白いガスは罠だったのかぁ~。
でもやっぱり悪いのは私だよぉ~。
こんな罠に引っかかってちゃ宝箱係失格だもんねぇ~。」
そう言って頂けると非常に助かりますけど。
「まあ何にせよ、大事に至らなくてよかったわ。
という事でそろそろ宝箱の方を今度こそ開封しちゃいましょ。」
「えっ、まだ開けてなかったのぉ~?」
「宝箱係の桜を差し置いて俺達が勝手に開けるわけないだろぉ?」
「えっ、あっ、うんっ!」
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○その宝箱には罠がある その2○
桜を下ろしてやると再び宝箱の開封作業が始まる。
「では改めまして先生、宜しくお願いします。」
「桜、がんばって。」
「おまかせあれ~。」
今度は睡眠ガストラップを避ける為宝箱の後ろ側から上蓋を持ち上げてみる桜。
すると宝箱の前方へと白いガスがまた噴き出したが彼女は無事最後まで宝箱の上蓋を押し上げる事に成功した。
そしてその白いガスが晴れると三人は一斉に開封された宝箱の中を覗き込む。
「何この塊~?」
うわっ、重っ。
賢斗は早速のアイテムを手に取った。
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『魔鉄のインゴット』
説明 :魔鉄を成型し加工した塊。
状態 :良好。
価値 :★★
用途 :素材。
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「こいつは魔鉄のインゴットだって。
多分武器とかの素材アイテムじゃないかな。」
「ちょっと賢斗君、それホント?
魔鉄のインゴットって言ったら結構な値段で売れるしここではまず出ないアイテムよ。」
「それどうするの~?」
「そうだなぁ~。先輩はどう思います?」
「そんなのは勿論買取にまわすに決まってるでしょ。
鍛冶スキルでも持ってる人なら話は別だと思うけど。」
そうだよなぁ・・・素材なんて持ってても仕方ないし。
「いくらで売れるんだろぉ~。」
「私も買取額まではちょっと把握してないわねぇ。」
「まっ、でも解析の価値項目によれば星2つに判定されてるし結構期待出来るかもしれないな。」
「ホントぁ~?」
「ああ。よし、じゃあこいつは買取に出すって事に決定。
ダンジョン出たら売りに行ってみるか。」
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○初レベルアップ○
午前11時、宝箱部屋で昼食を済ませるとそのまま来た道を折り返した。
ゴブリンと遭遇することもなく再び第一ポイントに辿り着いた彼等は今度は残された中央ルートに入って行った。
100m程行ったところの落とし穴も今度は賢斗が上手く先導し無事回避。
程なくゴブリンとの遭遇ポイントに辿り着いた。
かおるの先制の矢の後賢斗が突っ込みゴブリンの右腕と足を両断、そこで魔物は行動不能になった。
そこへ桜がテケテケと駆け寄り、棍棒でポコッとひと叩き。
最後は賢斗がゴブリンの胸に短剣を一刺し。
石ころの入手が出来て居ない関係上桜がまた重い棍棒を使う羽目になってはいたが、危なげなく討伐は完了していた。
まっ、俺や先輩なら1人で十分倒せるような相手だし問題ないけど・・・
桜は遊んでる様にしか見えなかったな。
中央ルートの最奥には賢斗のマッピングもまだ済んでいない2階層への階段がある。
ゴブリンとの戦闘を重ねつつ、そこを目指して進んで行く。
そんな折、本日5回目となるゴブリンとの戦闘が終了すると賢斗の頭には待望のアナウンスが響いていた。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル2になりました。』
お~ようやくレベル2になれた。
にしても無駄に告知音が派手になってる・・・う~ん、悪くない。
っとまあそれはいいか・・・解析解析っと。
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名前:多田賢斗 16歳(168cm 56㎏ C88 W78 H86)
種族:人間
レベル:2(0%)
HP 8/10
SM 7/8
MP 1/3
STR : 7
VIT : 6
INT : 10
MND : 13
AGI : 10
DEX : 7
LUK : 5
CHA : 7
【スキル】
『ドキドキ星人LV10(-%)』
『ダッシュLV10(-%)』
『パーフェクトマッピングLV7(62%)』
『潜伏LV6(56%)』
『視覚強化LV6(66%)』
『解析LV8(18%)』
『聴覚強化LV5(40%)』
『念話LV2(24%)』
『ウィークポイントLV1(64%)』
『短剣LV1(4%)』
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にしても相変わらず特にパッとしない感じだなぁ。
これが標準だとあの鑑定士さんにお墨付きを頂いている訳だが、この二人のステータスを見ちまうとどうしたって色あせて感じる。
なんかこうもっと飛びぬけた要素って奴が足りないよなぁ。
所持スキルの数やレベルを除けばこの主人公のステータスは至って平凡なものである。
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○EXPシェアリング その1○
午後1時、中央ルートを進み2階層への階段まで辿り着いた賢斗達はまだ時間も早いのでそのまま2階層の様子を見に行く事にした。
そして階段から2階層に降り立つと賢斗の頭にはマップイメージが一気に広がる。
バババッ
うおっ、結構広範囲になってたんだな。
パーフェクトマッピングも既にレベル7にまでレベルアップ。
その基本把握範囲も周囲1kmをカバー出来る程になっていた。
「先輩、2階層に出現する敵ってどんな感じですか?」
「えっと確か2階層もゴブリンで一つレベルが上がるくらいの違いでしかなかった筈よ。
でも1階層と違って複数で行動していたりするから、その辺も気を付けないといけない所かな。」
ほう、流石物知りお姉さん。
探索者経験が長いだけありますなぁ。
「じゃあ最初は2体のゴブリンを探してみますか。」
「そうねぇ。」
2階層に下りたといっても洞窟型の構造は変わっていない。
取りあえず道なりに進みつつ探索範囲を広げて行く。
すると所々に枝道がありその奥にはゴブリンらしき反応も。
「先輩、ここの枝道の奥のゴブリンは2体みたいです。
仕掛けてみていいですか?」
「もう、何でも一々私に確認してちゃリーダー失格よ、賢斗君。
戦闘時の作戦を考えて皆に指示するのもリーダーの役目なんだから。」
「いやでも複数のゴブリンを相手するのは初めてですし。」
「まあしょうがないかぁ。
複数相手の場合はまず相手の足止め、その後厄介な攻撃をしてくる敵から各個撃破していくって言うのがセオリーよ。
そしてこの2階層のゴブリンは多少レベルが高くなったと言っても私たちは1階層のゴブリンに危な気なく戦えていたし十分通用するから大丈夫。
とまあこのくらいの事は今度からリーダーの賢斗君がちゃんと考えておいてね。」
・・・この人がリーダーやれば良いのに。
「はい。」
「っとにもう、返事だけは良いんだから。」
と話は纏まり戦闘開始。
先ずはかおるが20m程離れた短剣を持ったゴブリンに先制の矢を放つと太腿に命中させ見事にその動きを止めて見せた。
一方賢斗は武器を持っていない個体目掛けて突っ込んで行き何時もの擦り抜け様の斬撃に加え背後から膝裏を切り付けこちらも魔物の身動きを封じる事に成功。
「桜っ!」
「ほ~い。」
賢斗が桜の名を呼ぶと彼女は元気良く走り出し動けない2体の魔物に攻撃を開始した。
テケテケテケ、ポコ
テケテケテケ、ポコ
そんな心温まる攻撃が終わるとかおると賢斗の手により止めが刺され戦闘は無事終了。
賢斗はほっとした表情でゴブリンがドロップした魔石と錆びた短剣を回収する桜を眺めていた。
特に苦戦はしていないんだが一々桜に攻撃させるのが面倒いよなぁ、やっぱ。
戦闘中じゃなきゃこうしてとても癒されるだけの話なんだが。
「ねぇ、賢斗君。
今朝私のキッスシェアリングがレベル5になってEXPシェアリングっていう特技を覚えたんだけど、もしかしたら役に立つかな?」
EXPシェアリング?
「何か経験値の共有化っぽい感じの特技名ですね。
となるともしかしたら桜に攻撃させる手間を省く事が出来るかも。」
「うんうん、だからちゃんと効果を把握したいから、解析お願い出来るかな?賢斗君。」
ふっ、・・・先輩も考えてる事は同じって事か。
「了解です。」
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『キッスシェアリングLV5』
種類 :アクティブ
効果 :キスすることで、共有する効果。スキルシェアリング使用可。
【特技】
『スキルシェアリング』
種類 :アクティブ
効果 :相手の右手の甲にキスすることで、互いのスキルを1つづつ共有する。効果時間スキルレベル×3分。クールタイム6時間。
『EXPシェアリング』
種類 :アクティブ
効果 :左手の甲にキスをすることで、パーティー戦闘時の獲得経験値をメンバー間で共有する。効果時間スキルレベル×60分。
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おおっ、これは一人で敵を全滅させようが経験値は共有状態の全員に等分配されるって解釈で良いのかな?
そして効果時間も現状5時間でクールタイムも無いとなれば、これはかなり便利だぞ。
「EXPシェアリングの効果は・・・・な感じですよ。」
「そっか。予想通りの効果で良かったわ。早速やってみましょうか。」
かおるは賢斗と桜の左手の甲にキスをしてみた。
「う~ん、ちゃんと経験値が共有されるか確認したい所ですね。
実感が今一湧きませんし。」
「そうねぇ、経験値の獲得なんて体感出来るものでもないしね。」
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○EXPシェアリング その2○
程無く賢斗は3体のゴブリン集団を見つけ出す。
「先輩、次の枝道の奥にゴブリン3体が居ますよ。
取り敢えず俺と先輩だけで全滅させてみましょう。」
「分かったわ。」
「桜は見てるだけで良いからな。」
「・・・うん。」
とその戦闘はいとも呆気なく終了した。
かおるの矢は見事ゴブリンの喉元を捕らえ2体を一人で撃破。
賢斗もタイマン勝負ならレベル2のゴブリンには左程苦労はしなかった。
時間的にも先程までの半分以下でノンストレス。
肝心の経験値共有化も各々のステータスを解析してみれば・・・
「良かったな、桜。
これで無理して攻撃しなくて良くなったぞ。」
「えっ、あっ・・・うん。」
ん、何かこいつちょっと元気ないな。
まっ、初めての長時間探索じゃそりゃ疲れるしな。
その後2階層では4体のゴブリン集団と2回遭遇。
賢斗とかおるの二人でその殲滅を簡単に済ませると三人は1階層へと戻って行った。
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○少年が幾ら叫べどそれが戻る事はなかった○
大岩ポイントまで戻って来ると時刻は午後4時。
ここで本日二度目のハイテンションタイムを消化すれば今日の予定は終了である。
さて、夕方は雑誌に載ってたアレでも取得してみますか。
通常の習熟方法としては足音を立てないように注意しながら移動するといったところか。
賢斗は先ず足裏に魔素の変換エネルギーを集中、遮音防壁を構築するイメージを頭に描く。
そして足裏の感覚を研ぎ澄ませ母指球を接地させると地面の硬度を感じ取りながら少しずつその接地面積を広げていく。
重心移動に注意を払いつつゆっくりとした動作で他方の足を前方に運ぶとまた同様の作業を繰り返し無音歩行の完成形を模索していった。
もう一歩・・・もう一歩・・・もう一歩。
おっ、この感じ・・・
『ピロリン。スキル『忍び足』を獲得しました。』
よし、どうやら無音歩行をスキルに昇華する事が出来た様だな。
これで潜伏スキルも取得してるし雑誌に載ってた忍者走りって奴も出来るぞ。
それなりに高く売れそうなお宝の入手とEXPシェアリングという経験値共有手段の獲得。
メンバーの一人は攻撃魔法スキルを手に入れ彼自身も短剣と忍び足という2つのスキルを取得し身体レベルまで上がった。
結成したばかりのパーティーとしはとても大きな成果を上げたであろう本日の探索活動。
にしても・・・チラッ
「桜、どうだった?」
「うん、全然だいじょぶだったぁ~。」
ホントに桜まで普通にハイテンションタイムを消化しちまってたなぁ。
こんなにも早く俺の秘かな楽しみが奪われてしまうとは・・・
しかしその結果に彼が満足する事は無かった。
「何泣いてるのよ、賢斗君。」
戻って来いっ!俺のご褒美タイムっ。
次回、第十三話 パーティー名とランキング。




