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第百十八話 燃える飛行体

○7月14日日曜日午前10時30分 富士ダンジョン2階層上空○


 昼間はやっぱり飛行する魔物さん達が出現しちゃうよなぁ。


キィィ――ン


 飛行を続ける賢斗の後方には3体の鳥型の魔物が迫って来ていた。


 にしても参った・・・

 このレベル13のゴールデンイーグルとかいう鳥さん、更なるスピードアップを果たした今の俺よりてんで速いんでやんの。

 こっちは限界ギリギリの高速飛行で戦闘どころじゃないってのに、このままじゃ普通に追いつかれちまう。


 う~ん、こうなりゃあれを試しに使ってみますか。

 何時かは試さにゃならんかったし、勇者オーラがある今なら死ぬこたぁ無いだろう。

 うん、よし、決めた、使おう。


 発動っ、勇者オーラ。


ボファッ


 それじゃあ行きますよぉ~・・・う~む、やっぱちょっといやかなり怖いなぁ。

 ええい、必要に迫られたこの状況、最早臆している訳にもいくまい。


「それでは行ってみましょう、ロケット噴射スタート開始5秒前、4、3、2、1、ゼロぉっ!」


ドッちゅ~~~ん


 まるで第2エンジンが点火したかの様な加速重力が賢斗を襲う。


「のわぁぁぁぁぁぁ~~~~。」


 その速度は数秒の内に音速の域にまで近づき、賢斗の勇者オーラは徐々に赤みを帯びて行く。


 ヤバいヤバいヤバい。

 これもうハイテンションタイムにでもならなけりゃ完全に制御不能だぞ。

 減速しようにも何故かロケット噴射スタートを発動してからまるで言う事を聞いてくれないし、スピードはどんどん上がって行く一方。


『ピロリン。スキル『風圧耐性』がレベル2になりました。』


 おっ、勇者オーラを纏った状態でもレベルアップしてくれた。

 まあダメージは無いが風圧に耐えてる感はあるからな。

 でも今ってハイテンションタイムでもないよな?う~ん・・・やったねっ♪

 ってそんな事考えてる場合じゃないな。


 この音速を超え更に上昇を続けているスピードがあれば、あっという間にこの2階層のフィールドエンドにだって辿り着けるだろう。

 しかし勇者オーラの効果時間は3分。

 もしこの効果時間を過ぎてしまえば、ハイテンションタイム無しに風圧耐性スキルを直ぐレベルアップさせる程の極度の風圧に晒され、そのまま制御を失った俺は何処かに激突。

 まだレベルの低い俺の衝撃耐性スキルでその衝撃に耐える事が果たして・・・

 そんなの無理に決まってますって。


 いや待てよ。


 勇者オーラには一旦解除機能が付いている。

 停止する時にまた使えば良いだけの話なんじゃないか?


 今俺の閃いた作戦はこうだ。


 今現在ロケット噴射スタート発動時に比べれば、その加速力は緩和されつつあり徐々にではあるがブレーキ制御も回復の兆しが見られる。

 更に慣性力も働き始めたこの高速飛行状態に入っている間ならば、衝撃耐性スキル等無くても特に問題無いだろう。

 となればこの高速飛行状態に於ける他の問題点を解消する事が出来れば、勇者オーラを停止時の為に温存する事も可能という訳だ。うんうん。


 ではその他の問題点であるが、先ずは勇者オーラを取り巻く高熱問題。

 と言ってもこれはまあこの間取得した大気圏再突入プロテクトを使えば特に問題ない筈・・・無駄に性能高かったし。


 残る他の問題点は風圧による消耗ダメージ。

 この点に関しては確かにかなりの風圧だと予想されるし、風圧耐性を取得したばかりの状態では万全な対策は現状無いと言わざるを得ない。

 しかし先程1つレベルアップもしたし、消耗はするだろうが即死する様な代物では無い筈。

 ちょっと過激なスカイダイビングだとでも思えば、まあ、うん、きっと大丈夫な・・・かなぁ?

 いやいや、ドキドキジェットを使えないこの状況下であれ、ウォーターヒールを使えばHPとSMを随時回復してやる事も可能。

 精神的にも疲弊するのは否めないが、ダメならダメでそこで改めて勇者オーラさんに再登場して頂けば良いだけの話である。


 あ~でもやっぱ怖いな。

 最後には何処かに激突する事が前提の超高速飛行プログラムとか、いくら勇者オーラがあるからって頭のネジがぶっ飛び過ぎな作戦だし。

 でも躊躇する度ボスのあの笑顔がチラつくんだよなぁ。

 う~ん、病気かな?

 っと、もう勇者オーラの残り時間も少ない。

 何はともあれ、やってみるしかないか。


 大気圏再突入プロテクト、発動っ。


 勇者オーラ、一旦解除。


ボフゥ、バサバサバサバサ・・・


 うぉっ!風圧耐性が上がってもこれか・・・これもう限界ギリギリ。

 でも何とか耐えられてる、う、うん。

 早めに回復しとこう。


「あわわわわ・・・ウォ、ウォ、ウォ、ウォーターヒール。」


 口開けるんじゃなかった。


 赤く染まった燃える飛行体は2階層フロアの上空を駆け抜けて行く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○富士ダンジョン2階層 3階層への通路付近の監視ポイント○


 樹海のとある巨木のてっぺん、そこには救援係として監視を続ける探索者の姿があった。


キランッ


「ん、なんかこっちに向かってくるな。

 またゴールデンイーグルか?っておいおい、普通じゃないぞあれっ。」


 双眼鏡を覗けば、そこには真っ赤に燃える謎の飛行体。

 救援係は急ぎジャンプし30m下へ一気に飛び降りるともう一人の救援係に声を上げる。


「ここに居るとやばいぞ、相棒。」


「どうしたどうした、血相かいて(変えて)。」


「いいから、こっから早く逃げるんだっ。」


 その僅か10秒後。


バキバキバキバキィィー、ドゴォォォ――――ン


 突如飛来したそれは樹海の木々をなぎ倒すと轟音と共に地上に激突し大地を震わせた。


「「うわぁ~~っ。」」


 爆風に飛ばされた二人の上に大量の土砂が降り注ぐ。


「ぶったまげたぁ。」


「もう少し逃げるのが遅れてたら間違いなくお陀仏だったぞ。」


 辛くも逃げおおせた2人の救援係は土砂を押しのけ立ち上がると今出来たばかりの惨状を見つめる。


 なぎ倒された巨木はバチバチと音を立てながら灰色の煙を舞い上げ、密林だったそこには直径20mを超える大きな窪地が出来上がっていた。


「なんだこりゃあ?

 隕石でも落下したっていうのかぁ?」


「いんや、こいつはUFOが落下したんだろう。」


「ぶぁ~か。

 ここはダンジョン内、隕石だろうがUFOだろうがそんなもん落下してくる訳ないだろぉ?

 大方どっかのお偉いAランク様が強力な魔法を放ったんだろうさ。」


「いや隕石はお前が言ったんだろう。

 ってちょっと待て、あそこに何か居るぞ。」


 指をさしたその窪地の中心には、人のモノと思われる2本の足が地面から突き出ていた。


「おいあれっ、もしかして人間が地面に突き刺さってるんじゃないか?」


「確かに・・・俺にもそう見える。」


 ほどなく窪地の中心へと駆け寄って来た2人は、足を一本ずつ掴むと上に引き抜こうと力を込めた。


「「そ~れっ!」」


ズポッ!


 引き抜かれたのはまだ若い探索者姿の少年。

 その引き抜いた身体を仰向けに寝かせると一人がその頬をパチパチと叩く。


「うっ、う~ん。」


パチッ


「おっ、気が付いたか?」


「なあ、お前ってもしかして宇宙人か?」


 えっ、何故俺がドキドキ星人だと?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○富士ダンジョン入口前広場○


 スマホ片手にマジコン会場を歩く水島。


「どう、光。そっちの様子は。」


「ええ、もう結構人は多いですよ。

 うちも出店を出してナイスキャッチのグッズ何かを売れば、それなりに捌けちゃいそうです。」


「そう、それなら一応後で出店の出店料とかもそっちの協会で調べておいて頂戴。

 今年は無理でも来年があるしね。」


「あっ、そうですね。」


『ピンポンパンポ~ン。え~マジックストーンコンペティション会場にお越しの皆様、この度のご来場誠に有難うございます。

 つきましてはまだ下見期間中ではありますが、先程富士ダンジョン2階層にてテスト中のドローンカメラより大変珍しい衝撃映像が届きましたので、ご来場の皆様には特別にいち早くご覧頂こうかと思います。

 どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ。』


「なに?今の。」


「ああ、何かこの会場には大きなスクリーンが幾つも用意されてるんですよ。

 ドローンカメラで撮ったダンジョン内の映像を一足早くここに来ている人達に見せてくれるみたいですね。」


「へぇ、そんな事まで、やっぱり探索者協会は儲かってそうね。」


 ブラックアウトしていたスクリーンには2階層の樹海上空を水平飛行する赤い火の玉が映し出された。

 すると徐々に巨大スクリーンの元に人々が集まって来た。


ザワザワザワ・・・


「なんだ、あの飛行物体は。まるで落下する隕石の様な感じだが、完全に水平飛行してやがる。」


「だったらあれはUFOなんじゃないか?」


「全くどいつもこいつも・・・ありゃあ火の鳥に決まってるだろぉ?

 伝説級の魔物ならあの高速飛行も頷けるってもんだ。

 隕石とかUFOがダンジョン内に出現したとか笑わせるのもいい加減にしろ。」


 これまで誰も見たことの無い燃える飛行体に様々な憶測が飛び交う。


ザワザワザワ・・・


ドゴォォォ――――ン


 スクリーンの映像が赤い火の玉が地上に落下するシーンを映し出すと来場者達からどよめきが上がる。


ウオォォォ―――


「ああっ、落下しやがったっ!」


「うゎ~、2階層の出口通路付近の樹海が大惨事じゃねぇか。」


「いったいさっきのはなんだったんだ?」


「待てっ、あの中心に誰かいるぞっ。ほら、救援係が向かっていった。」


ズポッ!


 あっ、多田さん。


「うおぉっ、生きてるぞ、あいつ。」


「誰なんだよ、あの火の玉ボーイは?」


「俺、知ってるぜ。

 あの顔はモンチャレパーティー部門優勝パーティー、ナイスキャッチのリーダー、多田賢斗だ。」


「ホントかよっ、って事はつまりあいつは高校生でEランクって事だろぉ?

 何で高校生ルーキーにこんな事が出来るんだよっ。」


「赤羽さん、なんすかね、あれ。」


「俺に聞くなっ。あんなもん俺だって見た事ねぇ。」


「そっすか。」


 ちっ、もう現れやがったか。

 この大会の不確定要素って奴が。


「これまた派手にやっちゃってますねぇ、まっ、多田さんらしいですけど。」


「どうしたの?光。」


「いえ、ちょっと多田さんが盛大にやらかしちゃったみたいで・・・あっ、説明が長くなりそうなんでまた後でご連絡します。」


「ちょっと光っ、待ちなさい。」


ガチャ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前11時10分 富士ダンジョン2階層入口付近○


「ようっ、待たせな、伊集院。」


 いやぁ、酷い目にあったな、しかし。

 まさかロケット噴射スタートを発動すると、しばらくブレーキ不能状態になってしまうとは。

 いやあれはフルブレーキをイメージして尚、加速力の方が勝っていたというべきか。


「いや、俺もここの階層には少し用事があったし、気にするな。」


 そしてその加速が収まった時には見事にあの超高速飛行状態になっちまってた。

 およそ400km以上あった道のりを2、30分で移動とか、ありゃもう音速ダッシュと変わらない。


 にしても最後は地面に激突か・・・まっ、自分から突っ込んで行った訳だけど。

 脳内マップさんから5km先に目的地発見のお知らせを受けても、どうやったって上手く止まれんかった。

 あれ普通だったら軽く死んでたな、うん。


「にしてもお前、もう3階層まで行って来たのか?」


「まあな、と言っても次からはきっとこうはいかないぞ。

 もう少し長い時間、まあ2時間は見ておいてくれ。」


 とはいえ今後の方針としては、風圧耐性のレべリングを優先し飛行速度時速300km位を目指そう。

 この程度であってもこの富士ダンジョンの次階層通路までの距離を考えると1、2時間で辿り着ける筈。

 これならかなりのペースで下の階層へ進めるだろうし、何より勇者オーラを使ってあんな無茶な超高速飛行をするのはもうコリゴリだ。

 まっ、どっち道1日1回しか使えないけどな。


「それと俺は一旦昼休憩をダンジョン外で取る予定だから、次別れたら午後3時くらいに3階層の入り口付近で待ち合わせって事で良いか?」


「時間が分かっていれば問題ない。

 まあ3階層もまだ手応えの無い雑魚ばかりだとは思うが、暇つぶしくらいにはなるだろう。」


「そういや2階層ってどんな魔物が出現したんだ?」


「そんな事を聞いてどうする。

 こんな階層の弱い魔物の情報等、お前にとってもどうでも良い事だろう?」


「いやそんな事ないですって、伊集院さん。

 あっしにとっちゃここの魔物達は強敵そのもの。」


「また三文芝居を始めたのか?

 お前モンチャレで俺が中三の時苦労したシルバーワイルドウルフを軽くあしらってただろ。」


 いやあれは激闘の末何とか倒したんだが・・・つかこいつ何歳からダンジョン入ってんだよ。


「まあいい、と言ってもこの階層に出現した魔物で俺が知ってるのは酔っ払いモンキーというレベル13の魔物くらいだな。」


 ふ~ん、レベル13ね。

 となるとこの階層に出現する魔物のレベルは総じてレベル13ってとこで間違いなさそう。

 ・・・この程度ならまだうちのメンバー的にも問題なさそうだな。


「と言ってもこいつはここに来る前親父から猿酒を土産に持ち帰れと厳命されてたから知ってるだけの話。

 こんな2階層の弱い魔物相手に一々鑑定メガネなんぞ掛けて調べてられるか、バカバカしい。」


 そっすか・・・まあスキルが無いとめんどいかもね。


「あっ、そっすね。それじゃあそろそろ移動しましょうか。」


「ふむ、良かろう。」

次回、第百十九話 ツーショット写真と火の玉マン。

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[良い点] 火の玉ボーイ多田 二つ名付いちゃったかな?w 勇者関係の二つ名が付くことはなさそうだ
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