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第十一話 空気を凍らせる火魔法

○恐るべし、感度ビンビン○


 4月13日土曜日午前8時、白山ダンジョン入口から少し入った通路。

 そこには何時もの様に大岩ポイントへと向かう三人の姿があった。


 平日の普段は朝夕の2回ダンジョンを訪れハイテンションタイムだけ消化し帰るのが彼等の日課。

 しかし土曜日で休日となる今日は日中もダンジョンの奥へと探索を進める予定となっている。


 さぁ~て、今日は短剣スキルでも取得してみますか。

 折角先輩からこいつを譲り受けたからには早めにゲットしておきたいし。

 という訳で俺は大岩ポイントではドキドキジェットを温存し、後の魔物との戦闘時に使う事にしよう。

 それなら思う存分ご褒美タイムを堪能できますし、ムフ。


「先輩は今日何を取得するつもりなんですか?」


「う~ん、気になる?」


「いえ、別に。」


「ふ~ん、なら教えてあげない。」


 ふんっ、別にどんなスキルを取得しようが俺的にはあの色っぽいお姿をお見せ頂ければそれで十分ですけど。


「桜は何を取得するつもりなんだ?」


「そんなのその時にならないとわっかん無いよぉ~。」


 こっちはこっちで計画性が無さすぎだな。


 5分程歩くと大岩ポイントに辿り着いた。

 早速スキル共有を済ませると、彼女達の様子を窺い始める賢斗。


 まだかなまだかなぁ~♪チラッチラッ


 心の中で鼻歌交じりに期待を膨らませていると。


 おお~、やっぱり桜の健気に耐え忍ぶ感じは堪りませんなぁ、うんうん。

 って先輩、そこちょっと邪魔。

 今大事なとこなんだから・・・

 にしても先輩は何時になったらハイテンションタイムになるんだ?


 とそんな不可解さを抱き始めた時だった。


「賢斗君。終わったから奥に進みましょ。

 桜ももう大丈夫よね?」


「うん、私も終わったぁ~。」


 ちょっと待て。

 まだ先輩のセクシータイムが終わっていないんだが。


 これはもう慣れて来たから大丈夫とかいうオチなのか?

 いやそれなら桜の方もそれなりに慣れて来ていなければ可笑しい。

 う~ん、何だろう、このままでは夜安心して眠れそうもない。


「せっ、先輩、今日のハイテンションタイムは何を習熟したんですか?」


「ん、何?さっきは気にならないって言った癖に。」


「そんな事言わずに教えて下さいよ。

 このままじゃ気になって夜も眠れません。」


「うふっ、そんなに賢斗君は私の事が気になっちゃうのかぁ。

 うんうん、仕方ないから教えてあげる。

 今日は新しいスキルを取得するんじゃなくて、昨日取得した感度ビンビンスキルを試していたのよ。」


 へっ、それはどういったお話ですか?


「だってほら、ハイテンションタイム中は感覚がすっごく敏感になるじゃない。

 女の子的にあの敏感さは少し強過ぎるみたいだから感度ビンビンスキルを使って視覚以外の感覚を遮断してみたの。」


 嘘っ・・・あのスキルにそんな使い方が。


「結果的には随分意識を保つのが楽になったし、一先ず成功ってところかしら。」


 という事はつまりもう先輩のセクシータイムは永遠にやって来ないのでは・・・


「私もかおるちゃんに手伝って貰ってさっき感度ビンビン取ったよぉ~。」


 何だとっ!

 ・・・そういやさっき先輩が何かしていた様な。

 くそっ、知らぬ間に俺のご褒美タイムは呆気なくその幕を閉じてしまっていたのか。


 ゴクリ・・・恐るべし感度ビンビン。


「ほら、話したんだから先に行くわよ。」


 ショックから立ち直れない賢斗を置き去りに、少女達は軽い足取りでダンジョン奥へと歩いて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○初めてのパーティー戦闘 その1○


 午前9時、第1ポイントまで移動して来た三人。

 このポイントまではこれまで魔物と遭遇した事は無く比較的安全なエリアと言えた。

 それに加え今の賢斗の脳内マップではこの白山ダンジョンの1階層は8割方をマッピング済。

 一度マッピングしたエリアはその後継続して表示されるそのスキル効果は魔物や他の探索者、罠や宝箱と言った様々な情報を彼に教えてくれていた。


「とりあえず左ルートに行ってみますか。

 三人での戦闘を一度試しておきたいですし、それにはこっちの方がゴブリンとの距離が近そうなんで。」


 賢斗が声を掛けると無言で頷く二人。


 おっ、居た居た。


 しばらく進んだ枝道の20m程奥。

 脳内マップで知っていた事ではあるが三人は改めて目視により魔物の存在を確認した。

 ちなみにこのゴブリンのダンジョン内での視界は10m程度と人間のそれと殆ど差は無い。

 本来ならこんな目視確認ですらもっと苦労するであろうところだが、事前に視覚強化スキルを取得していた事が功を奏していた。


 この距離でも解析できるかな?


 解析スキルの解析可能距離は実は目視出来れば距離等関係ない。

 しかしスキルを取得し間もない賢斗はまだそんな事すら知らなかった。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:ゴブリン

種族:魔物

レベル:1(12%)

HP 9/9

MP 5/5

STR : 7

VIT : 5

INT : 2

MND : 7

AGI : 7

DEX : 5

LUK : 4

CHA : 2

【スキル】

『棍棒LV1(23%)』

【属性】

なし

【弱属性】

火属性

【ドロップ】

『棍棒(ドロップ率(10.0%)』

【レアドロップ】

なし

~~~~~~~~~~~~~~


 おっ、出来た出来た。

 にしてもなるほどぉ、こっちなら弱属性まで調べる事が可能なのか。

 ウィークポイントでは分からなかったもんなぁ。

 まっ、相変わらず知っててもあまり意味ないのは変わってないけど。


「少し遠いかもですけど、取り敢えず先輩の弓で狙ってみます?」


「うん、でもあんまり期待しないでね。

 この距離だときっと当てるのが精一杯って感じだし。」


「了解です。

 じゃあゴブリンが接近してきたら俺と桜で突っ込もう。

 先輩はその時の援護役もお願いします。」


「ほ~い。」


「うん。」


 かおるが弓を引き狙いを定めると賢斗は短剣の柄を握りしめる。

 しかしチラリと横を窺えば桜は棍棒を重た気に両手で引きずっていた。


ヒュン


 射られた矢は20m先のゴブリンの左肩に見事命中。

 ゴブリンは右手の棍棒を振り回し賢斗達に向かって来た。


ヒュン


 そこにかおるの第二射が今度は首に突き刺さった。

 するとゴブリンは動きを止め霧散していく。


「あら、意外と良い所に当たってくれたみたいねぇ。」


「アハハ~、何にもしないで終わっちゃったぁ~。」


 俺と桜が突っ込む前に戦闘終了か。

 こういう場合俺と桜には経験値は入らないよな?


 賢斗が解析で自分と桜のステータスを確認してみると経験値獲得率の変動は無かった。


 あ~これはちょっと攻撃の順番を考えないとダメそうだな。


 こうして初のパーティー戦闘は課題を残しながらも無事終了となった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○初めてのパーティー戦闘 その2○


 三人は左ルートの更に奥へと進んでいく。


「桜ぁ、次の戦闘ではこの石ころをゴブリンに向かって投げてくれ。

 やっぱりその棍棒じゃ桜が持つには重すぎるみたいだし。」


 そう言ってリュックから取り出した石ころを3つ桜に渡してやる賢斗。


 こいつは身体も小さいし、重たい武器は無理っぽかったしなぁ。


「うん、わかったぁ~♪」


 その優しさを素直に喜ぶ少女。


 加えて正直桜はちょっと鈍臭さそうだし。


 彼女にはこんな失礼な考えを少年が抱いている事までは伝わっていない様である。


 しばらくすると30m程先にゴブリンの存在が確認出来た。

 初撃はかおる、次が桜、最後に賢斗といった順番を繰り返す事でゴブリンが討伐されるまでに三人が一度は攻撃を加える事になる筈。

 先程の戦闘を踏まえたそんな考えを賢斗は二人に伝えておいた。


 これならまた経験値が偏ってしまう事も無いだろう。


 二体目のゴブリンとの遭遇。


ヒュン、グサッ


 初撃役のかおるが矢を放つとそれはゴブリンの腹部に突き刺さり魔物は矢を抜くこともなく向かって来た。

 するとすかさず次の攻撃役である桜が魔物に向かって石ころを投げたのだが・・・


「えいっ。」


ひゅ~ん、カツ、コロコロ


「「・・・。」」


 山なりに放られた石ころはゴブリンの手前で床に落ちた。


「桜っ、やり直し。」


「ほ~い。えいっ。」


ひゅ~ん、カキーン


 何だこいつ・・・俺の想像以上だ。


 桜の投げた石ころはゴブリンが持つ棍棒に見事弾かれた。


 そうこうしてる間にゴブリンとの距離は詰まってしまうと賢斗は自分からゴブリンに突っ込んで行く。


 稲妻ダッシュっ!


シュタシュタシュタ、シュピンッ


 魔物とのすれ違いざまに斬撃を1つ浴びせると魔物は怒った様に叫び声を上げた。


ギギャァァァァ―


ヒュン、グサッ


 最後はかおるの矢が左胸に突き刺さり魔物はそのまま消滅していった。


 よし、取り敢えず今回は俺と桜の経験値獲得率の方も上昇してる。

 にしても・・・あんなトスバッティングでも攻撃判定されんのか。


 う~ん、なぁ~んか納得がいかない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○空気を凍らせる火魔法 その1○


 左ルートの宝箱部屋に辿り着くとこの時既に開封状態。

 しかしこれは賢斗にとって想定内の事でありパーフェクトマッピングによりこの宝箱の復活時間をキチンと把握していた。


「桜ぁ、あと10分でその宝箱が復活するからそしたら石ころの補充が出来るぞ。」


 前回俺が開けた時には石ころが出てちょっと凹んでしまったが、なぁ~に先輩から聞いた話ではここのの宝箱は殆ど石ころしか出ないらしいじゃないか。

 それならあの時石ころが出たのも何等俺の所為ではなかった訳だ。アッハッハ


「ほ~い。」


 とはいえ今は桜の武器として石ころさんが必要ですし、よくよく考えてみれば随分お世話になってますなぁ、うんうん。


「でも賢斗君のパーフェクトマッピングってホント凄いわよねぇ。

 宝箱の復活時間が分かっちゃうなんて。」


「ああ、先輩も欲しいですか?

 習熟方法なら教えますけど。」


「う~ん、今は良いわ。

 君が居れば必要ないし、他にもっと欲しいスキルもあるもの。」


「何ですか?その欲しいスキルって。」


「そんなの内緒に決まってるでしょ。

 簡単に教えちゃったら面白くないじゃない。」


「・・・そっすか。」


 先輩の性格で、俺に素直に教えてくれる筈ないか。


 とそうこうする間にそろそろ宝箱が復活するお時間。

 開封済みの宝箱の前では桜がしゃがみこみ今か今かとその時を待っている。


 おっ。


ボワァ~ン


 突然開封済みだった宝箱が白い光に包まれる。


 へぇ~、宝箱が復活する時ってこんな感じなんだなぁ。

 にしてもこの宝箱の復活ってどのくらい時間が掛かるんだろ?

 もう光り出して3分くらい経つし結構長いもんなんだな。


 初めて見る光景に特に不自然さを感じる様子も無く眺め続ける三人。


 にしてもこれ、いつ終わるんだ?


 10分程経過し流石にその可笑しさを少しずつ感じ始めた頃、開封済みだった宝箱が一際眩しく発光しそれが収まると未開封状態の宝箱がその姿を現した。


 へっ?嘘っ。


 そこにあったのはおなじみの木製宝箱ではなく・・・


「あっ、やったぁ~、銀の宝箱だぁ~!」


「どうしてこんなのがここに出て来るのよっ!」


 かおると賢斗が驚く中、良く分かっていなかった桜だけが無邪気に喜んでいた。


 一体何が起こった・・・

 ここの宝箱は木製しか出ないって話だったよな。


「よぉ~し、それじゃあ開けちゃうよぉ~。」


 桜は物怖じする様子も無く宝箱の上蓋を押し上げる。


 賢斗とかおるも直ぐ様身を乗り出し三人同時に宝箱の中を覗き込んだ。


「お~なんか巻物のアイテムが入ってるぅ~。」


「こっ、これって、スッ、スキルスクロールじゃないのか?」


「そっ、そうね。私ダンジョンショップで本物見た事あるわ。」


 スキルスクロールの価値と言うのはその中身のスキルによるところが大きい。

 しかし幾ら安い物であってもそれは数十万円はする代物であり、この二人の驚きも無理の無いものであった。


「とっ、取り敢えず賢斗君、解析してみてよ。」


 賢斗はコクリと頷き巻物を解析した。


~~~~~~~~~~~~~~

『火魔法のスキルスクロール』

説明 :火魔法のスキルを封じ込めたスクロール。

状態 :未使用。

価値 :★★★

用途 :スクロールを開き使用することで、火魔法を修得できる。

~~~~~~~~~~~~~~


 うわぁ~凄ぇ~、魔法のスキルスクロールだって・・・しかも火魔法。


「こっ、これ、火魔法のスキルスクロールみたいだぞ。」


「ほんとにぃ~?やったぁ~♪」


「・・・こっ、こんな事ってあるのねっ。」


 三人とも一気に興奮状態に突入した。


 盛り上がったのは良いが、はてさて、問題はこのスキルスクロールをどうするか。

 まっ、その答えは出ちゃってるけど・・・チラッ


 かおるの顔を窺うと彼女は小さく頷いた。


「じゃあこのスキルスクロールは桜が使ってくれ。」


「えっ、いいのぉ~?」


「ふふっ、全然構わないわよ、桜。」


「だってさぁ~・・・」


「だっても何もここの宝箱からそんなスキルスクロールは普通出ないんだっつの。

 そんなものが出た理由は只一つ。

 ラッキードロップという桜の持つ強力なレアスキルの効果としか考えられない。

 それに桜は魔法使いスタイルで行きたがってただろぉ?」


「ホ~ント銀製の宝箱が出てきたところからぜ~んぶあり得ないくらい可笑しいし。」


「でもさぁ~賢斗ってお金ないんでしょ~?」


グサッ


 人がカッコイイこと言ってる時に・・・中々鋭い刃をお持ちの様だ。


「そりゃそうだけど火魔法のスキルスクロールを今後買うつもりなら、ここで売却するのは愚の骨頂も良い所。

 改めて買うとなったら何百万も損する事になるだろぉ?」


「そっかなぁ~?」


「そうなの。まっ、気が引ける様なら今後は宝箱の開封は全部桜に任せるから毎回気合入れて宝箱を開封してくれ。」


「あっ、賢斗君今良いこと言った。」


「ほら、先輩もこう言ってるんだし、今から桜は宝箱係に決定。

 多数決に乗っ取り一切の異議は認めませ~ん。」


「えっ、あっ、うん、分かったぁ~。じゃあこれから私がこのパーティーの宝箱係だねぇ~♪」


 こうしてこの火魔法のスキルスクロールは桜が使用する事になった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○空気を凍らせる火魔法 その2○


 スキルスクロールを広げるとそのスクロールは光の粒になりそのまま少女の身体に吸収されていった。


 へぇ~、スキルスクロールを使うとこ初めて見た。


「桜ぁ、火魔法スキルはちゃんと取得出来たか?」


「うんっ!ちゃんとアナウンスあったからだいじょぶぅ~。」


「にしてもホ~ント羨ましいわねぇ、桜。

 魔法スキルを持ってる高校生なんて殆ど居ないわよ。」


「エヘヘ~、なんかイグニッションって魔法が使えるみたぁ~い。」


「お~、さっすが攻撃魔法、強力そうなカッコイイ名前だな~。」


「そうねぇ、ゴブリンなんか一発で倒しちゃったりして。」


「そっかなぁ~。アハハ~。」


 大いに盛り上がる面々。


「試し打ちでもしといたほうが良いんじゃないか?」


「おっけ~。」


 賢斗とかおるの熱のこもった視線を一身に受け、桜は気合を入れるように右掌を前に突出し叫んだ。


「いっくよぉ~、イグニッションッ!」


・・・シュボッ


「「「・・・っ。」」」


 人差し指の先にライター程の小さな火が灯る。

 そしてその火が10秒くらいで消えてしまうと、みんなの笑顔も消えていた。


「そっ、そういえば、右ルートの宝箱部屋も早く確認しに行かなきゃだな。」


「そっ、そうね。」


「・・・う、うん。」


 顔を見合わせ頷き合うと何事も無かったように宝箱部屋を後にする。


 この時俺は初めて皆の心が一つになった気がした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○空気を凍らせる火魔法 その3○


 宝箱部屋を出た賢斗達は、折り返し第1ポイントへと歩き出した。


 いや~ビックリした。


 火魔法にその場の空気を凍らせる力があったとは。

 名前の響きが格好良すぎて完全に油断してたぞ。

 イグニッション・・・・そう、着火って意味だったな、確か。

 しばらく桜に話しかける時は、相当にデリケートな対応が求められそうだ。


 あ~でもMPの回復時間とかちょっと気になっちゃうところなんだが、う~ん。


「先輩、MPの回復ってどのくらい掛かるか知ってますか?」


「そうねぇ、0になった場合は大体6時間で全快する筈よ。

 最大MPが高ければ1ポイントあたりの回復はそれだけ早くなるし低いときはその逆なの。」


「それはつまり最大MPが1の場合は1ポイントの回復に6時間掛かるって事ですよね?」


「そうなるわね。」


 あれだけ喜んでいたのにあのしょぼいライターの火みたいな魔法を6時間に1回使えるようになっただけとは・・・やはり掛ける言葉も無いな。


 しかしまあそれは現状の話ってだけ。

 火魔法スキルをレベルアップさせれば、人気の高い火魔法だし真面な攻撃魔法を覚えて行ってくれる筈。

 そうなりゃ現状お荷物状態の桜も戦力として数えられるだろうし未来は明るい、うんうん。

 でもまあその為には身体レベルを上げて最大MPを増やしていく事も当然必要になって来る訳だが、まっ、その辺は一週間もすりゃ一つ二つ上がってるだろ。


 あれこれと今後に思いを馳せていた賢斗だが、気付けば既に第1ポイントをスルーし右ルートに入っていた。

 そして1km程進むと本日3体目となるゴブリンとの遭遇ポイントに辿り着いた。


 さて、桜も火魔法という攻撃スキルを取得した事だし、俺の方もそろそろ短剣スキルの習熟取得と行きますか。


 かおるの矢がゴブリンに向けて放たれると同時に賢斗もハイテンションタイムに突入しゴブリンへと突っ込んで行く。


 矢が太腿に命中し片膝をつくゴブリン。


シュタッ


 稲妻ダッシュでゴブリンの脇をすり抜けると後方から右肩を切り付けた。


シュピンッ


 ・・・アナウンスはなしか。


 流石にこれだけでは短剣スキルの取得とはいかないか。

 イメージや意識の高速反復はハイテンションタイムの十八番だが、習熟に実技を伴うスキルの場合それが通用しないもんなぁ。

 ハイテンションタイム中に短剣を使えば・・・なんて甘い考えは通用しないらしい。


 う~むどうする・・・このままだとスキルを習熟取得する前に、効果時間が終了してしまう。

 となれはここは一つ、動きのクオリティーを上げる方向で行ってみますか。

 上手く行くかは分からんがこのハイテンションタイム中の高速思考と鋭敏な感覚があれば最高の動きを構築する事が出来る気がするし。


 再び短剣を振り上げ、ゴブリンに切りかかる。

 まずはスムーズな短剣の軌道を考える。

 そして使われている筋肉に意識を集中し、魔素の変換エネルギーを集中。

 瞬間ごとの身体の動きを修正しつつ、最適解を導き出す。


 軌道は弧を描くように。


 筋肉の強化は瞬発力の強化を重点的に。


 身体の重心移動はより繊細に。


スパンッ!


 ゴブリンの肩口から先が両断された。


 よし、短剣での斬撃の型はこれが最適解。


『ピロリン。スキル『短剣』を獲得しました。』


 えっ、ホント?取れちゃった?

 ・・・やれば出来るもんだな。


 ということは最適な動作をした場合にもイメージの反復に勝るとも劣らない習熟効果が得られるとみて良いのかな?

 もしそうなら実技を伴う習熟方法のスキルもハイテンションタイム1回で習熟取得することが出来るぞ。


ひゅ~ん、トン、コロコロ。


 桜が石ころをゴブリンに命中させると・・・


ヒュン、グサッ


 最後はかおるがこの戦いに終止符を打った。


「賢斗君、棍棒のドロップがあったわよ。」


 おおっ、これも桜のラッキードロップ効果かなぁ。


「賢斗ぉ~、石ころ無くなっちゃったぁ~。」


「ん、そっか。じゃあこの先の宝箱部屋に行ってみるか。

 さっきは桜の所為で石ころがスキルスクロールになっちまったからなぁ。」


「ま~ね~。」


「あっ、でも石ころが欲しい訳だから次は俺が開けようか。」


「それは絶対ダメ~。宝箱係にまっかせっなさぁ~い。」


 ふっ、はいはい。

次回、第十二話 その結果に彼が満足する事は無かった。

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