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第百四話 チューチュータイム

○7月7日日曜日午後1時 クローバー拠点部屋○


ガチャリ


 茜ちゃんのキュンキュンパワーを取り戻すというミッションを見事達成した俺が拠点部屋に帰還してみると、部屋中に立ち込めるカレーの香り。


「みんな何食ってんだ?」


「じゃじゃ~ん、北海道土産の襟裳とんがりスープカレー。賢斗も食べるぅ~?」


 えっ、俺のもあるの?流石先生。


 と渡されるレトルトカレーの箱・・・ふむ、こっから先は自分でやれって事ね。


 早速作って俺も食卓に加わる。


ズズ、パク、モグモグ


 おお、これは中々スパイシー、尖がった辛さとコーンの甘味がまた・・・


ガチャリ


「多田さん、先程調べてみたら確かにジョブスクロールの情報がネットにありましたよぉ。

 先日ダンジョンの宝箱から発見されたモノみたいで、使うとジョブが取得できる巻物アイテムらしいです。

 って、皆さんそれ美味しそうですねぇ。」


 おっ、そういや昨日高橋の奴が言っていたジョブスクロール、気になって調べて貰ってたんだった。


「光ちゃんも食べるぅ~?」


「いえ私はもうお昼頂いちゃいましたから。」


「ああ、水島さん。ありがとう御座いました。ジョブスクロールの件ならもう大丈夫です。

 茜ちゃんのキュンキュンパワーが回復したんで、その辺の情報もついでに聞いて来たんですよ。」


 茜ちゃん情報ではこのジョブスクロールなるアイテム、使えばダンジョンコアに触れる事無くジョブが取得でき、更には関連スキルもついて来るという優れものらしい。

 といってもこれはジョブというモノを人間社会に広める為、ジョブ導入にあわせスキルスクロール以上にレアな宝箱アイテムとして開放された代物。

 そして産出されるのはそのダンジョンで取り扱っているNランクジョブのスクロールに限定されるという残念な神様設定があるらしい。


「・・・とまあ茜ちゃんの話だとこんな感じのアイテムで、高ランクのジョブは手に入らないらしいですけど。」


「そうだったんですか。

 今ネットオークションサイトの方にも出品されてて、落札額が偉い事になってましたよぉ。」


「えっ、ホントっすか?

 ちなみにその落札額って?」


「えっと・・・あっ、今現在剣士ジョブのスクロールが1200万円近くまで上がってますねぇ。」


 高っか・・・Nランクのジョブにその落札額って。

 いやまだこのアイテムの効果も謎に包まれている現状、その希少価値といった点も考慮すればこんな値段になっちまうのも当然か。


 とはいえこんなものがダンジョンのお宝アイテムとして産出され始めたという事実は、ジョブというモノを多くの人々に知らしめる結果となるだろう。

 ・・・この分だと本来の取得方法が知れ渡る日もそう遠くない気がするなぁ。


「それより茜が元に戻ったってホントぉ?賢斗君。」

 まだ3時間くらいしか経ってないのに。」


「えっ、ああそれはもうバッチリ。

 茜ちゃんもキュンキュン衝動が抑えられないって言ってたくらいですから。」


「う~ん、何かそれ、前より酷くなってたりしない?

 あっ、まさか賢斗君、また彼女に変な事したんじゃないでしょうね?」


 こらこら、またとは人聞きが悪い。

 あっしは茜ちゃんに変な事をされた事はあってもした事は一度もありませんぞ。


「いや俺は紳士的に青いバラを茜ちゃんにプレゼントしただけですって。」


「ふ~ん、そんな事でホントに茜がまた賢斗君に好意を抱くようになったって言うのかしら?

 なぁ~んか怪しいわね。」


「ふっ、先輩、これが青いバラの奇跡って奴ですよ。」


 ペロペロの件は黙っとこう・・・話がややこしくなりそうだし、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○昼食後○


 さて思いの外茜ちゃんの件が早めに片付き、午後から時間が空いた訳だが。


「賢斗ぉ~、午後から何するのぉ~?」


「そうだなぁ、俺としては北山崎に行って2階層以降のお膳立てを進めときたいところだな。

 あそこの攻略もしておけって中川さんに言われちゃってるし。

 だから皆も自分の好きな事してて良いぞ。」


「そっかぁ、じゃあ私も2階層を見て周ってこよっかなぁ~。

 1階層は飽きちゃったしぃ~。」


「おっ、なら2階層の詳しい探索は桜に任せとくな。

 俺は攻略メインだから先を目指して素通りするつもりだし。

 先輩と円ちゃんは午後からどうする?」


「私は勿論賢斗さんのお膳立てに同行致しますよ。

 マーキングスキルを上げなければなりませんから。」


 う~ん、他にも上げるべきスキルはあるだろうに・・・

 まあ獣姫ジョブの関連スキルだという事を鑑みれば確かに上げておくべきだろうけど、このお嬢様の場合その大義名分の元、ぶっちゃけ俺におんぶされたいだけの気がする。

 まっ、移動に関しては幼女化した円ちゃんをおんぶする程度で支障が出る訳でもないんが・・・

 う~ん、猫人化の効果時間が切れるまでに俺の方のお膳立てが終わるかなぁ?


「了解了解。俺のおんぶスキルも上げられるから一石二鳥だし。」


 まっ、終わらなかったら一旦戻れば済むだけの話か。


「私はちょっと清川まで行ってこようかな。

 今日はダッシュスキルのレべリングをしたいし、そう考えると北山崎より清川の方が向いてるでしょ。」


 あのスキルはレベル上げないと使いもんにならんし、早めに上げたくなるよな。


「でも清川は人が居るからそれどころじゃないんじゃないっすか?」


「ああ、それなら大丈夫そうよ。さっき空間把握使ってみたら人の気配が無かったし、また以前の清川に戻ったんじゃないかしら。」


 へぇ~、思えばあれから2週間も経ってるし、そろそろモンチャレ優勝による俺達人気のほとぼりも冷めるか。


「じゃあ先輩の送迎は桜、頼めるか?」


「おっけ~。」


「あっ、良いの良いの。私の空間魔法もやっとレベル7になったから、一人で行って帰って来れるわよ。」


 ほう、そりゃまた結構な事で。

 でもやっとなどと言っているが、俺と比べりゃこれでも十分お早いレベルアップ。

 ふ~む、いよいよ俺もMPチャージリングが欲しくなってきたな。

 今現在の俺の貯金は皆さんの頑張りにより、何と400万円を超えている。

 パーティー資金も吐き出して貰えば直ぐ買えなくもないのだが・・・


「なあ、一つお願いなんだけど、俺もMPチャージリングが欲しくなっちゃってさぁ・・・えっとその足りない分をパーティー資金から出して貰って良いかな?」


「そんなに遠慮しなくて良いわよ、賢斗君。

 これすっごく便利だし、私達の指輪だってパーティー資金で買った奴でしょ。」


 おおっ、ありがたや、先輩からすんなりOKが出るとは。

 つかこいつ等がMPを分けてくれていれば、俺が買う必要もなかったりするとこだけどな。


「私も別にいいよぉ~、婚約指輪はペアで嵌めるものだってお姉ちゃんが言ってたしぃ~。」


 いっ、いやそういう意味で購入したい訳では無いですからね、先生。

 でもここでゴタクを並べると折角のチャンスが・・・う~む、一先ず黙っとこう。


「そういう事でしたら賢斗さんには収納石の指輪も是非ご購入して頂かなければいけませんね。」


 うん、それホント無駄。


「でもさぁ~、買った指輪は左手の薬指に付けなくちゃダメだよぉ~。」


 またややこしくなりそうな事を・・・


「あっ、そうねぇ、今桜良い事言った。」


 何処に良い部分がありましたか?先輩。


「賢斗さん、その今着けている指輪は他の指に付けちゃいましょう。」


 そう言われましても・・・このバイリンガーリングを他の指に移動すると水島さんにメッされるんだが・・・もう既に2回もメッされてるし。


ガチャリ


「別に新しい指輪を購入して下さるんなら構いませんよ、多田さん。

 もう十分楽しませて頂きましたし。」


 どうしたどうした、このタイミングの良さ・・・やはりこの部屋には盗聴器が?


「でも新しい指輪は誰に嵌めて貰うんです?」


 えっ?買ったら普通に自分で嵌めますけど・・・


「男性の指に指輪を嵌める行為は女性をとても満ち足りた気分にしてくれますからねぇ。」


 イタズラっぽい笑顔で少年を見る女性。


「あっ、それ私がやりたぁ~い。」


「何言ってるの?桜。世の中には年功序列というものがあるのよ。」


「お二人とも不公平はイケません。ここは3人一緒に賢斗さんの指に婚約指輪を嵌めるというのは如何でしょう。」


 ったく、水島さんも余計な事を。


「なあ、それって俺が買う指輪なんだからさぁ・・・」


「「「だから何っ!」」」


 発言権が無いでござる。


 そうこうしているとほどなく水島さんが新しいMPチャージリングを持って来てくれた。


「さあそれではみなさん。

 この少年は咄嗟に手を動かして他の指に嵌めさせようとする実に悪い癖を持っています。

 ですからしっかり彼の手を固定し、見事あの薬指にこの指輪を嵌めてさしあげましょう。」


 本気丸出しの注意事項だな、おい。


「「「はぁ~い。」」」


 何だろう・・・息の合った楽しげな返事が実に腹立たしい。


 少女達は小さな指輪を3人で小さく摘まむとそれを少年の薬指へと近づけていく。


「ほら賢斗君。もっと指を広げなさい。

 それじゃ指輪を嵌められないでしょ、もう。」


「えいっ!」


ポキッ


 少女は少年の小指を摘まんで外に広げるとニカッと笑う。


 先生、笑ってるけど今俺の指がポキッって言いましたよ?


「むふぅ~、賢斗さんも中々往生際が悪いお人ですねぇ。こうです。」


 中指を摘まんで逆に広げるお嬢様・・・実に楽しそう。


 一方少年の困惑顔を見つめる少女の顔は・・・


ニタァ


 あ~この顔で見られると蛇に睨まれたカエルの気分が味わえるな。


「さあ賢斗君。そろそろ年貢の納め時よ、ウフッ♪」


 にしても何だろう・・・本来MPチャージリングを手に入れて嬉しい筈なのにこの迫りくる敗北感。


スゥ~


 少年の薬指にMPチャージリングの輪が嵌められていく。


「やったぁ~、婚約成立だぁ~。」


「これでもう逃げられませんよ、賢斗さん。」


「ねぇ、賢斗君今どんな気持ち?ねぇ、ねぇ。」


 喜ぶ少女達と表情を失った少年。


「だったら逆に聞くがお前等、俺と婚約したって事がそんなに嬉しいのか?」


プイッ、プイッ、プイッ


 ほぉら、やっぱり口だけ番長じゃねぇか、ったく。

 ・・・これだから美少女の気まぐれは性質が悪い。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後3時○


 ようやく一息つくと少年は自分の指輪を眺める。


 ほう、俺の魔力は青白い感じの色だな。

 結構かっこいいかも、うん。


 っと、もうこんな時間か。

 そろそろ午後の行動開始と行きますか。


ガチャリ


「お待たせしました、勇者さまぁ。3時のおやつにたい焼きをお持ちしましたよぉ。」


「あっ、たい焼きだぁ~。」


「あっ、茜ちゃん、何時も悪いね。」


 出鼻を挫かれちまったな。

 まっ、折角だし頂きますけど。


 少年は紙包みを受け取ると早速中のたい焼きを一口。


「それでは私のおやつも失礼します、勇者さまぁ。」


 少女は少年の空いている手を掴み上げると・・・


チクッ


 痛てっ!何すんのっ、茜ちゃん。


 安全ピンで少年の指を刺すと滲み出す紅い血液。


「ここなら知り合いしか居ませんし、構いませんよね?」


 へっ、何が?


パクッ、レロレロ・・・


 う~ん、この光景・・・寧ろこいつ等に見られる方が困るんだが。


 少年が周囲に目をやると、たい焼きの一口目を頂こうとした瞬間まるで時間が停止したかの様に固まっている3人の少女達の姿があった。


「けっ、賢斗ぉ~、そっ、それはちょっとやり過ぎ大魔人だよぉ~。」


 いや先生、やり過ぎ大魔人は茜ちゃんの方だから。


「まあ賢斗さん、婚約者がありながら何て不埒な事を。」


 いやもうその婚約ネタで俺を脅すのは通じないぞ、お嬢様。


「ちょっと何やってるの?茜。早く離れなさい。」


 正気を取り戻した先輩が強引に茜ちゃんの身体を引き離す。


「こっ、これはチューチュータイムと申します。かおるお姉さま。

 こうする事により私のキュンキュンパワーが物凄く早く溜まるんですぅ。私のおやつにピッタリですね。」


 あっ、まただ・・・綺麗に傷が完治してる。


「そんなのどうだって良いのよっ。

 今後はそのチューチュータイムとやらは全面禁止。分かった?」


「そんなぁ、お姉さまぁ。」


 まっ、これを直にこいつ等に見られちまったら、禁止されるのも当然だわな。

 ・・・俺から見てもかなりアレだし。

 でも多分これには何か原因がありそう・・・傷まで治っちゃってるしな。


 それっ・・・あっ、やっぱり。


~~~~~~~~~~~~~~

『吸血キュンキュン契約LV1(2%)』

種類 :パッシブ

効果 :吸血行為によりキュンキュンパワーを上昇させる契約対象を1人決定できる。

【獲得契約内容】

『流血キュンキュン』

種類 :パッシブ

効果 :契約者の流血時その血液の摂取衝動を発症。その行為によりキュンキュンパワーのチャージが最大で通常の5倍となる。傷口治癒効果有。

~~~~~~~~~~~~~~


 茜ちゃんの奇行の正体はこのスキルっぽいな。

 そしてこの契約者なるお相手は恐らく俺で間違いない・・・そう考えると辻褄が全て合うし。


「先輩、茜ちゃん吸血キュンキュン契約ってスキルを取得しちゃってるみたいです。

 その所為で俺の血を見ると舐めたくなっちゃうみたいですけど。」


「そうです、かおるお姉さま。これは体質的な問題ですから、どうか今後もお許しを。」


「そんなお馬鹿な名前のスキルなんてある訳ないでしょっ!」


「いやホントですって。

 先輩も解析あるんだからみて下さい。」


「えっ・・・嘘っ。」


ガチャリ


「何か面白い事になってるわね。」


 おや?これまた抜群のタイミングで御登場ですな。


「そういう事なら今後はお医者さんにのところで輸血パックに採血して貰いなさい。

 それなら何時でも緑山さんのキュンキュンパワーが貯められるし、良い事尽くめって感じでしょ。」


 そしていきなり入室して来たにもかかわらず、全てを理解しているかの様に話し始めちゃってるボス。

 う~ん、いよいよ盗聴器の存在に確信を得て来たな。

 まっ、それはさて置き解析結果からして茜ちゃんの場合、別に俺の血液が欲しい訳では無く、吸血行為をしたいだけなんだが。


「まあそれなら賢斗君の指を口に入れちゃう必要もないですし、許せる範囲ですけど・・・」


 別に先輩に許して貰う必要などありませんよぉ~だ。


「じゃあ茜、これからはその輸血パックで我慢しなさい。」


「えっ、血液パックなんて不要ですぅ、かおるお姉さま。

 私は血液が好きなのではなく、勇者さまの指先から流れた血を吸う行為が好きなのですぅ。」


 ほら、やっぱり本人もそう言ってるし。


「馬鹿な事言ってんじゃないわよっ。

 いい?今後は一切チューチュータイムは禁止だからね。」


「うぅ・・・かおるお姉さまぁ。」


 なんという強引な解決策。

 くそっ、これでは茜ちゃんがあまりにも不憫・・・ってか俺と茜ちゃんのウィンウィンな関係が台無しに。


「先輩、勘違いしちゃいけません。

 茜ちゃんが好きなのは血液ではなく血を吸う行為。

 そんな解決策では彼女の欲求を少しも満足させる事が出来ませんよ。」


「だから何っ?」


 むぅぅ・・・今この人に何を言っても無駄でござる。

次回、第百五話 清川の不穏な人影。

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[一言] 北海道土産だと昔、トド・イルカ・ヒグマのカレーをもらったことがある
[気になる点] MPチャージリングは先輩の修復で改造出来ますか?
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