第百一話 定例ジョブ診断
○7月5日金曜日午前6時10分 北山崎ダンジョン○
早朝のハイテンションタイム、北山崎のスタート地点の断崖の上にはギルドクローバーの面々が勢揃い。
その活動を前にしてその中で一番年配のメガネ女史が口を開く。
「じゃあ今日からジョブ診断はここでやって貰います。
ジョブ診断は緑山さんの神界キュンキュン通信の習熟にもなるみたいだし、ハイテンションタイムも利用すればそのレベリングも捗るでしょ。」
ああ確かにそれなら拠点部屋でジョブ診断をするのは勿体ないわな。
「そして今後は誰かが新しくスキルを取得する度、今回の様な定例ジョブ診断を開催したいと思っています。」
ふ~ん、まあそんな風に決めといて貰えるとこっちも助かりますけど。
とはいえつい先日一通りジョブ診断を終えてしまって・・・
あっ、そういや昨日の花火の最中、俺もおんぶスキルなんつーモノを取得してたな。
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『おんぶLV1(18%)』
種類 :パッシブ
効果 :おんぶ時の負担軽減。
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まっ、こんな取るに足らんスキルなんだが。
「それじゃあ誰か新しいスキルを取得した人は居るかしら?
居たら挙手して頂戴。
まだ1日3人限定だし、ジョブ診断は先着順よ。」
「はい、先生。私は昨日スクープキャッチというスキルを取得しましたぁ。」
ノートパソコンを抱えた女性が元気よく手を高々と上に伸ばした。
そういう事なら俺も一応診て貰っとくか。
ゆっくりと挙手する少年。
「私は2つのスキルを取得しています。
是非私のジョブも診断して下さいませ。」
へぇ~円ちゃんは2つもスキルを新たに取得してたのか。
俺の背中におぶさってただけの筈なのに・・・う~ん。
それに引き替え桜の奴は今回新スキル取得とはいかなかったみたいだな・・・
一番はしゃいでたってのに。
ん?
「先輩、それじゃ手を挙げてる事にはなりませんよ。」
掌を上に開いただけの控えめな挙手を敢行する少女。
「うっ、煩いわね、ちょっと黙っといて。」
まあそりゃそうだろうなぁ。
昨日のお宝映像を残した後の先輩の挙動は明らかに可笑しかった。
とても気になってしまった俺が思わず解析してみれば・・・
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『セクシーショットLV1(18%)』
種類 :アクティブ
効果 :お色気を増す事が出来る。CHA値+5。
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なんとこんな夢が広がるお宝スキルを発見してしまいましたぁ♪
まっ、見た目とは真逆を行く堅物女子高生の先輩としては、意にそぐわぬこの素晴らしいスキルの取得に苦虫を噛み潰したような顔をしてましたけど。
いやぁ~それにしてもまあ乙女としてはこんなの名前のスキルを取得してはさぞ恥ずかしかろう。
だがその大きな胸をもっと張りたまえ、先輩。
このスキルはとても素晴らしいものですぞっ!あはっ♪
「あら、4人も居たの?
困ったわね、一人あぶれちゃうし。」
「あっ、それなら・・・」
「中川さん、俺のはおんぶスキルなんていう取るに足らなそうな奴なんで、また今度で良いっすよ。」
少年が少女の弱々しい声を掻き消すように発言すると・・・
「そう、じゃあ多田さんはまた明日って事でお願いね。
取るに足らないスキルといっても、そのデータも現状貴重なんだし。」
「ああ、了解っす。」
少女は少年をキッと睨みつけた。
逃がしませんよぉ、先輩。
「分かりました、今日は水島さんとかおるお姉さま、円さんの3名様ですね。
それでは参りましょう。」
と緑山さんによるジョブ診断が始まった。
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「先ずは水島さんのジョブですが・・・」
と緑山さんから結果を聞いた水島さんがダンジョン情報まで加えてプリントアウトした結果がこちら。
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク HN】
『パパラッチ』 必要スキル:スクープキャッチ 岩手県 北山崎ダンジョン(Dランク)
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「何か我ながら聞こえが悪いジョブ名ですねぇ。
でもここのダンジョンのコアで取得可能な様ですし、折角なんでここの攻略も是非頑張って下さいね、皆さん。」
ほう、この酷いスキル名を意にも介さず取得する気か・・・勇気あるな、勇者の俺より。
「では次にかおるお姉さまの診断に参りましょう。
来てます来てます・・・フムフムこれは中々ですねぇ。」
とそのお待ちかねのジョブ診断結果がこちら。
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク HR】
『なんちゃってビーナス』 必要スキル:セクシーボイス、セクシーショット、ウィークポイント 地元 緑山ダンジョン(Eランク)
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ほほ~う、この3スキルが見事に集結しましたか。
俺としてはもっとエロそうなジョブ名を期待していたんだが、う~ん。
取得するまでその効果が分からんのも至極残念だな。
にしてもここでまさかのなんちゃってシリーズか。
しかもこれまた緑山ダンジョンになってるんだが・・・あそこのダンジョンどうなってんだ?
「これも我が緑山ダンジョンで絶賛取扱中ですよぉ。やりました。」
「茜、余計な事言わないの。」
「いやぁ~先輩、これで俺となんちゃってシリーズ仲間ですね。
仕方ありません、もう行かないとは言いましたがまた緑山のダンジョンコアまで連れて行ってあげます。」
少年はプルプルとプリントを震わせている少女に言い放つ。
「そこっ、煩いっ!」
思いの外ダメージが深そうでござる。
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さてお次は円ちゃん。
このクンクンお嬢様が2つもスキルを取得していたって話なんだが。
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『マーキングLV1(10%)』
種類 :アクティブ
効果 :マーキングポイント周囲1m内に居ると野生の本能が高まっていく。
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『ライク ア ビーストLV1(13%)』
種類 :パッシブ
効果 :取得特技の使用が可能。
【特技】
『ビーストアタック』
種類 :アクティブ
効果 :野生の本能の高まりを攻撃力として昇華できる。
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これ一つ一つを見ると良く分からん感じだなぁ。
この野生の本能というキーワード・・・人間にこんな事言われても良く分からんし。
でもこの2つ、そんなキーワードを理解せずともどうすれば良いかという点で結構なコラボ具合を達成している。
つまり円ちゃん曰く彼女のマーキングポイントが俺の背中だとすれば、俺の半径1m以内ではお嬢様の攻撃力はある程度上昇するという事。
そしてそれがどの程度上昇するのか?
またこの周囲1mという範囲はスキルレベルのアップで上昇するのか?
と興味は尽きないのではあるが、それ以前の問題として彼女の運動神経の無さがこれまた足を引っ張ってしまわないかという方が心配である。
「もう十分キュンキュンさせて頂きましたぁ。」
巫女少女が声をあげると中断していたジョブ診断がここで再開。
「はい円さんの新たに加わったジョブは・・・」
とその結果が渡される。
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク SR】
『獣姫』 必要スキル:ライクアビースト、限界突破、ヒッププッシュ、マーキング 山梨県と静岡県の県境 富士ダンジョン(Aランク)、奈良県 奈良ダンジョン(Cランク)
【ランク HN】
『野生児』 必要スキル:ライクアビースト 栃木県 那須ダンジョン(Cランク)
【ランク N】
『マーカー』 必要スキル:マーキング 地元 緑山ダンジョン(Eランク)
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おっ、獣姫?SRランクって結構凄いのが飛び出したな。
「獣姫ジョブの取扱ダンジョンは日本では2か所。
一つはAランクの富士ダンジョン、もう一つはCランクの奈良ダンジョンだそうですぅ。
普通はCランクの奈良ダンジョンをお勧めするところなんでしょうけど、勇者さまはもう既にあそこに行かれたと仰ってましたので。」
うん、まあもう行けないけど・・・あれ?
「奈良ダンジョンはあの鹿で有名な奈良公園内にあるダンジョンです。
奈良公園の鹿は神の使いだなんて言われてますし、獣姫という高ランクジョブを取り扱うダンジョンが日本では富士ダンジョン以外ここだけって言うのも何だか頷けちゃいますね。」
ふっ、いえいえ、奈良ダンジョンの解説入りません(要りません?)よぉ~、水島さん。どうせ攻略しませんから。
マジコン開催期間中なら俺達は富士ダンジョンに大手を振って入れる。
つまりまた富士ダンジョンのダンジョンコアの部屋まで長距離転移する事も可能だって話だ。
でもまあ今は取り敢えず・・・
「円ちゃん、もう一度緑山まで行ってみる?
マーカージョブが取得出来るみたいだし。」
「御心配には及びませんよ、賢斗さん。
見ればSRランクの獣姫ジョブには野生児ジョブとマーカージョブの関連スキルが含まれているではないですか。
まだスキル上限に達するのはしばらく先でもありますし、ここはマジコン開催まで待ってみようかと思います。」
「そっすか。」
う~ん、お嬢様も富士ダンジョンと聞いてピンと来ちゃったみたいだな。
あわよくば先輩も付き合わせ、なんちゃってビーナスを超成り行きで取得させるなんて作戦を思い描いてみたのだが・・・まあいい、どうせ失敗濃厚だったし。
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「これでナイスキャッチが攻略するダンジョンの予定も大分見えて来たわねぇ。」
えっ、そんな事ありますかね?ボス。
「まず手始めに皆に攻略して貰うのはここ、北山崎ダンジョン。」
Dランクのダンジョンなら多田さんも文句ないでしょう?」
いえいえ何時俺がボスに文句など言いましたか?
「うふっ、ここをマジコン前までに何とか攻略しちゃって頂戴。
現状は入れるダンジョンがDランクまでに限られちゃってるし。」
えっ、結構な無茶振り具合だな、それ。
もう来週末には下見期間が始まっちゃうし、平日はそれどころじゃ・・・う~ん、まっ、出来ない事もないか。
「マジコンが終わったら今度はCランクダンジョンを攻略。
手始めは襟裳岬ダンジョンってとこかしら。
紺野さんの風弓の射手をうちとしては早めに取って貰わなきゃならないしね。」
「えっ、マジコンが終わったらCランクのダンジョンに入れちゃってる感じに聞こえてますが?」
「そりゃあ勿論Aランクのダンジョンで魔物をバンバン討伐してれば、Dランクなんてあっという間よ。
そしてDランクに上がれば第2種特別許可の申請資格が得られるし、その許可があればCランクダンジョンにも侵入出来るって寸法よ。」
本当かなぁ~、Dランクがあっという間って・・・確か買取1000万円超えないと無理だった気がするけど。
協会の魔石買取表に載ってる範囲で言えば、一番上の固定買取額がAランクの特大魔石20万円。
そんなのもうレベル40超えの魔物とか言われてるし、それを50体以上倒さないと無理なお話でしょうに。
でもまあやりようは無くも無い。
特大魔石というのはその最低ランクのEランクであっても魔石の買取額は12万円。
Aランク大魔石が6万円という買取額を考えるとその額がかなり跳ね上がる。
このクラスの魔物を積極的に討伐する事により・・・
いやそのクラスの魔物であってもレベル的にはレベル30代前半くらい。
そんなの現状倒せる訳ないし、無理なお話には変わりねぇな。
「どう?多田さん。イケそうでしょ?」
少年にニコリと微笑んでみせるメガネ女史。
「どっ、どっすかねぇ~。無理なんじゃないっすかぁ。」
「あら、まだ大会には一週間以上もあるのよ。
君はもう少し自分達の成長力も計算に入れた方が良いと思うわよ。」
それってこれから死に物狂いで頑張れって事っすかね?ボス。
次回、第百二話 合同探索と吸血の巫女。




