第7話:新人研修3
(いくわよ……3、2、1!!)
カウントダウンが弾けると同時にセツナも弾け飛び一瞬でその異形、ルーク三体の背後をとり雷槍にてその命を刈り取っていく。仲間が倒れ伏していることにようやく気付いた残りのルークは奇声を発しながらセツナへと襲いかかる。
「キィャ「うるっっっさぁぁぁぁぁああああい!!!」
ルークの奇声と重なるようにリリアーナの気合の入った怒声が重なった。異形にまともな思考と感情があったら、お前の方がうるさくね?と思いながら頭を吹き飛ばされていただろう。
「ふぅ……こんなもんかしら」
「ここら辺の異形はだいぶ片付いたね。殆ど見なくなってきた」
「そうね、そしたら後は食材よ!食べなくても平気だけどやっぱり強い力には美味しいご飯が欠かせないものね!」
身体を休めるのに丁度いい洞穴を見つけたセツナ達はそこを拠点にしようと周囲の異形を殲滅しまくっていた。
その異形狩りも一通り終わったためリリアーナがご飯モードに入ってしまったのである。ちなみに食事といっても川にいる魚や虫などしか食べるものといってはないのだが。
意気揚々と川へ足を運んだものの一匹も釣れずに不貞腐れるリリアーナに、川からの帰り道で見つけた甘いリンゴに似た果実を与え機嫌を取り周りを見渡すとだいぶ日が落ちてきたので二人で洞穴の奥へと移動する。
ちなみに洞穴には何者も潜んでおらず休んでる隙に実は奥から……なんてこともないようにしっかり確認である。
「へー、セツナってあのレイ・デバイス少尉の弟でガイアのスラム出身なのね。だったら一般入隊っていうのもそのとんでもない武術も納得だわ」
「うん、これぐらいしかあそこから抜け出せる方法が思いつかなくてね。あとレイ姉さんと僕は血の繋がりはないよ、それにしてもよくレイ姉さんのこと知ってたね。もしかして有名なの?」
自分たちは本当の兄弟ではないという事を言いつつやはり大好きな姉がこうして入隊したばかりの隊士にも知られているのは鼻が高くもう少しリリアーナにレイのことを聞いてみる。
「そりゃ有名も有名よ!一般入隊でありながら僅か8年で二等兵から少尉まで駆け上がったのよ!それに加えてあの美貌でしょ!史上初の女性での将官も夢じゃないっていわれているわ」
「そ、そんなに人気なんだねレイ姉さん……ちょっと会わないうちにほんと遠くまで行っちゃったんだなぁ。ちなみにレイ姉さんも天穿ちは使えるよ、恐らく僕以上の練度で」
レイと会わなかった八年の間、セツナも死に物狂いで努力してきたつもりだったがレイもまた過酷な環境で自分を奮い立たせてきたのだろう。
久しぶりに会ったレイは美しさも際立っていたがそれ以上に武芸者としての仕上げられたその練度にセツナは驚きつつも納得し再びレイを目標として掲げいつか追い越すと胸に誓った。
「セツナ以上の武術にあの能力でしょ……付け入る隙がないというか自分が天才なんて呼ばれているのが恥ずかしくなるわ」
(そう言えば姉さんの能力って教えてもらってないな)
レイとみっちり座学を学んだ時も結局手合わせの時間はなく能力も分からずじまいだったことを思い出し、この研修が終わったら手合わせをせがむことをセツナは心に決めた。
「そろそろ休みましょう。明日も寝れる保証はないから寝れるうちに寝といた方がいいわ」
「うん、そうだね。色々話してくれてありがとうリリアーナ。おやすみ」
「こちらこそよ、明日もよろしくねセツナ。」
そうして朝方日が昇るまで特に何事もなくぐっすりと睡眠がとれた二人は何かが割れるような音と共に起床する。
二日目。何かが割れるような、不穏な音で目を覚ました二人は起きてすぐに臨戦態勢に入る。目を合わせ同時に頷き音のする方へと飛び出していった。
本来、この研修の目標は三日間生き残ることであり異形をいくら倒したからといって、人をいくら助けたかといって何の得にもならない。しかしリリアーナとセツナという二人はかなりのお人好しで考えるよりも先に身体が動いてしまうタイプというのはいつの時代も損をするものである。
実は顕現者『耳アリ目アリ』によって討伐数はカウントされているのだがそんなことは頭から完全に抜け、今は一秒でも早く割れた音の発生源へ辿り着く事しかセツナたちの頭にはなかった。
「セツナ!あれ!」
リリアーナが指を指しながら叫んだ先には上背で2メートルは超えているだろう、ガタイだけでいったらガリウスよりもやたらと筋肉質で真っ白い人型の異形と長い黒髪をポニーテールのように結いリリアーナやセツナと世代は変わらないであろう冷たい印象を持つが整った顔の、まるで侍の様な外見の少年が、おそらく刃長90センチ程であろう一般的に大太刀と呼ばれる刀を持ち異形と相対していた。
セツナ達はまずでかい異形よりも取り巻きのルーク達を排除することに専念し、侍の少年が気を引く中背後から一気に強襲をかける。
取り周りは五体、内三体は固まっていたのでセツナの刃脚一閃で一掃、残りの二体もリリアーナが豪快にまとめて叩き割り残すはでかい筋肉質の異形だけとなった。
「助太刀感謝致す!俺の名はリュウジ・ヤナギ!主な武装はこの大太刀で能力は具現化系クラス4thの凍土創生!簡単にある程度の規模の氷を造形し創造できると思ってくれ!」
そういいながら黒髪の侍、リュウジは異形の投げ飛ばしてきた大岩を分厚い氷の壁を瞬時に創生して防いでいく。
「了解!僕はセツナ!能力はあるけど発現出来ないからあてにしないでね!近接格闘ならそれなりにこなせるよ!例えば……こんな風にね!」
セツナは話の途中で雷流によって瞬時に異形の懐へ潜り込む得意の形から両手を地面につき膝をおり脱力、そこから操によって身体の中の波をあやつり一気に力を加え砲弾の様な威力の両脚蹴りを異形の顎めがけ真上に撃ち放った。
いかにも重そうな異形が3メートルほど中に浮いたところを待ってましたと言わんばかりに上空から加速し金棒を振り上げながらリリアーナが落ちてくる。
「私はリリアーナ・レイス!強化系クラス4th腕力強化の脳筋金棒使いよよっっしゃぁぁぁぁあああ!!!」