第5話:新人研修1
「いい加減しつこいってばもう!!」
謎の女性が現れた後、視界が暗転し気づいたらこの森の中に立っていたセツナ。 まだ思考は安定してはいなかったがとりあえず戦わなくては死ぬということは背後に三体の異形が現れた時に分かった。
背後に三体の異形が確認出来た瞬間、雷流で前方へと弾け距離をとり敵性勢力を観察する。
異形とは、文字の如く異なる形に進化してしまった存在。どこで生まれ、どこから来るのか未だに分かってはいないが異形にも種族と戦闘パターン、そして危険度というのが存在している。
セツナの背後に現れた三体の異形。上背は160センチほどで人間と似たような体つきに真っ白な肌、手足の長く強靭な爪と顔面は黒いインクをぶちまけたかのように真っ黒に染まっているのが特徴で、種族名は『ルーク』。好戦的であり人間が視界に入ると問答無用で襲いかかる典型的な種族の異形だ。
レイとの座学で異形の知識は頭に入っており、また個人的にも異形との戦闘経験は積んでいるため落ち着いて対処にあたる。
まず、ルークの基本的な戦闘パターンは三つ。
一つは左右の長く伸びた爪を大きく腕を振りかぶり叩きつけてくる攻撃。雷流にて距離を取った後、一体がまさに右腕を振りかぶりながら襲いかかってきたため落ち着いて身体を反転するように避け、そのままの勢いを利用してガラ空きの右側に移動し鳩尾に一撃右ブローを入れた後足元を払い、仰向けに倒れたルークの顔面を踏み抜いた。
ビクッッ!と二秒ほど痙攣し動かなくなった同胞を見て耳をつんざくような奇声をあげ残りの二体がこちらへ襲いかかってくる。
基本的な戦闘パターンの二つ目は硬い牙での噛みつき。
まともに受ければ能力者であろうと骨折は免れないであろうその噛みつきを紙一重で躱し右腕で抱くように首を固め180度捻り一瞬にして頚椎を破壊する。残りの一体も右拳の一撃によるカウンターで早々に破壊し一息つこうとした最中今度は北東二時の方向から五体のルークが走ってくるのが見えた。
ルークの戦闘パターンの三つ目は先程の奇声により仲間を呼ぶこと。
これにより単体としては雑魚だが、ひたすらに仲間を呼び初心者殺しで有名な異形としてルークは危険度5thに位置している。
危険度とは能力と同じように五段階あり
危険度1st……国家消滅レベルの存在であり単独でクラス1stの顕現者と渡り合う力を持つ。過去な二度、グロウストに出現しており二体とも撃退はしたものの討伐はなされていない。
危険度2nd……都市消滅レベルの存在であり単独でクラス2ndの顕現者、又クラス3rdの熟練の能力者と渡り合う力を持つ。発見例は度々上がるがクラス2nd以上の能力者、又は顕現者を含む一個師団及び一個連隊による殲滅が望ましい。
危険度3rd……都市が甚大な被害を被るレベルの存在であり単独で熟練のクラス3rdと渡り合う力を持つ。発見例は月で5.6件でありクラス3rdの能力者三人以上を含む一個大隊及び一個中隊により殲滅が望ましい。
危険度4th……小さな村や町が甚大な被害を被るレベルの存在であり単独でクラス3rdの能力者又は複数人のクラス4thの能力者と渡り合う力を持つ。発見例は多く主に複数で行動し、危険度5thの異形を連れているためクラス3rdの能力者を含む一個中隊及び一個小隊による殲滅が望ましい。
危険度5th……一つの重要施設が危険に晒される存在であり単独でクラス5thの能力者または一般的な無能力者の軍人と渡り合う存在。種族問わず必ず群れで行動し稀に上位種が行動を共にしているため注意が必要。発見例はかなり多くクラス3rdの能力者を含む一個分隊以上による殲滅が望ましい。
そして冒頭に戻り、初心者殺しで有名な『ルーク』による仲間呼びにより殲滅戦を余儀なくされているセツナ。
急所をほぼ一撃で破壊しているのだが、このルークという種族は複数人で同時に殲滅するか発現規模が広範囲に及ぶ能力で一気に殲滅しなければ近くの範囲にいるルークが尽きるまでが誘き寄ってくるためセツナのような徒手格闘を得意とする者とは相性が悪い。
「群れて襲えばいいと調子に乗りやがって……僕をあんまり舐めるなよ!!」
目の前には五体の異形、これらを一息に殲滅するためセツナは大振りの攻撃を避けながら呼吸を整える。
目を見開き雷流で一旦距離を取り、そこから雷の如く弾けるように三体のルークの元へ潜り込み、未だ反応できていない三体の異形の首元へ三連撃の神速の貫手を叩き込む。
天穿ちの中でも特に速度に秀でており名を雷槍というこの術は、脱力からの瞬間的な出力により鉄と化した手刀を相手の急所へ叩き込む術でルーク程度の異形では攻撃される前に声を発することなどできずに命を散らし、そのまま流れるように雷流での爆発的速度での移動後残り二体のルークも雷槍にて瞬時に葬った。
「はぁ……はぁ……はぁ……な、なんとか倒しきった…」
実に36体ものルークを倒し荒くなった呼吸を整える。
雷流や雷槍など天穿ちという武術は持続力は持ち得ておらず瞬時に敵を倒すことに長けている術が多く持久戦や何体もの敵を相手にする殲滅戦などはあまり向いていない。
「いきなり森に置き去りにされたと思ったらこれだもんなぁ、先が思いやられるよ」
そう愚痴りながらもセツナは内心命を懸けたスリリングな訓練に少し胸を躍らせながら、腰を落ち着けて休めるところを探すことに専念しちょうどいい切り株を発見したところで女性の悲鳴に似た叫びが響き渡った。