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世界が僕を悪魔と呼ぼうとも  作者: めもめも莉莉愛
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第2話:身体検査

「はーい、じゃあ次はうつ伏せになって腕を前に…おっけい!そのままの体勢でいてね!」



 翌朝、昨日の疲れを残しながらも起床したセツナは身体検査のため第二駐屯地の総合医務室の見たこともないような機械に囲まれていた。


「ちなみに今はなんの数値を測ってるんです?」

  機械などとは縁がなく扱える気もしないセツナであったが上半身に複数の吸盤がつけられ、吸盤から大元の機械へコードが伸びている装置をみて興味範囲で聞いてみる。


「んーと、すっごく簡単に言っちゃうとセツナくんの筋肉量を測ってるんだよ。能力無しでの身体強度とか身体能力、瞬間的な出力と持続力とかも今日1日で測っていくからね!」

 

  そう答えるのは第二駐屯地の軍医でありレイの親友でもあるユリア・アーノイド少尉だ。

  軍医というのは階級的には士官であり少尉以上の者を指す為、ユリアという一見すると幼い少女に見える彼女もまたレイと同じく将来を期待される一握りの天才とされている。


 

  能力者というのは発現したその時より外見が止まり、そこから緩やかに肉体年齢を重ねていく為幼く見える者でも実はその外見よりの3倍ほどの齢であるなんてこともザラにあり、ユリアもまた発現時期が早く実年齢と外見が伴なっておらず襟の少尉であることを表す金のバッチ、そしてクラス3rdの能力者であること表す白衣の下に着ている、軍服の左胸にある三つ星の刺繍がなければ実際は28歳のアラサーなどとは誰も思うまい。


  レイとユリアは8年前に入隊した同期であり衛生兵として軍医を志し入隊する者は、16歳から三年間能力者アカデミーで過ごしその後二年間を衛生兵としての知識と技術を学ぶ専門のアカデミーを卒業しなければならない。

 そのため衛生兵は最速で入隊するのが20歳であり、ユリアと兵士として最年少で入隊できる当時16歳のレイ、もう一人18歳で能力者アカデミーを卒業し現在は第三駐屯地の管理職でありレイとは犬猿の仲であるリュウ・ヤナギ中尉の三人が第206期生の出世頭として首都アリアにて名を轟かせていた。


 

  入隊当初から何かと三人で行動することも多く女性同士というのもありレイとユリアは非常に仲が良く、そのレイの弟分が入隊したとあってはユリアも一肌脱ごうと非番の時間を使ってセツナの身体検査を買って出た。




  セツナが男の子としてはとても心惹かれる複雑でメカメカしい機械に目を奪われているうちに検査は終わり、身体強度と能力の査定にさしかかっていた。




  総合医務室を出た後、軍服から訓練着に身を包み軽く身体をほぐしながらセツナは演習場でユリアのことを待っていた。

 移動するよう伝えられたものの何をするかは聞かされておらずただ身体の強度と身体能力、能力無しでの戦闘力を測るとしか知らないセツナは演習場をぐるりと見渡し何やら見慣れない、おそらく木製の人体と同じ関節数でできた人形が目に飛び込んで来た。


「ユリアさんまだかな……それにしてもなんだろうこれ、細かいキズがたくさんあるけど…」

「それは訓練用の敵性強化人形のリッキー君だよ!」

  考えにふけっていたセツナの背後から四角い箱を持ちながらユリアが現れた。


「制御玉っていってね、この箱の中にある玉をリッキー君のうなじにはめ込むとあら不思議!自律戦闘可能な優秀な訓練相手に変わるのさ!」


 制御玉には種類があり、段階的に強さを調節出来るようになっていて対素手での格闘や武器の指定なども細かく設定出来るようになっており敵性強化人形は訓練でとても重宝し定期メンテナンスは欠かさないがそれ以上に訓練に引っ張りだこなため細かいキズなどが絶えないのである。


「身体能力の査定が終わったらリッキー君と戦ってもらうからね!その前に……はいこれ!両手首と両足首につけておいて!」

  そう言ってユリアから金属でできたブレスレットのようなリングを渡された。


「セツナ君の筋肉の瞬間出力とか細かいデータを取るのに必要なの、身につけたら自動でサイズ調整されるから外れたりする心配はないよ!」


  そう言っているうちにユリアの方も準備が整い身体能力査定が始まった。


 短距離走から始まり握力測定や立ち幅跳びなどおおよその人間が経験したことのある項目や至近距離から弾が発射され避け続けるテストなど様々な工程が終了しついに戦闘力査定に移る。


「いやー、最近座学ばっかりで身体が鈍ってたんで久々に動かせて気持ちいいですね……ってどうかしましたか?」

「………なんでもないよ!したらちゃっちゃとリッキー君の設定終わらせちゃうね!」


 座学ばかりでストレスがたまっていたセツナは運動で発散出来た後なにやら考え込んでいるユリアに話しかけたが話を逸らされてしまった。

 なんでもないと言うならそんなに大事ではないだろうと思い、リッキー君との戦闘訓練に神経を集中させていく。


「はい!まずはクラス5th程度の徒手格闘モードでやってみよう!制御玉の持続時間は30分間だからその間に決着が着かなかったら戦闘力査定は終了だよ!」


 ユリアは箱から制御玉といわれる直径15センチほどの玉を取り出しリッキー君のうなじへ嵌め込む。

 するとさっきまで崩れ落ちるように地面へ倒れ込んでいたリッキー君がゆっくりと起き上がり両手を胸の位置まで上げ左手足を前に出しファインディングポーズをとった。


「5メートルくらい離れて向き合ってセツナ君が準備おっけーなら戦闘開始の命令を出すよ!危ないと思ったら緊急停止させるけど、リッキー君はセツナ君のことを本気で排除しにかかるから気を引き締めて本気で戦ってね。」

「はい、わかりました。」



 そう返事をしセツナは言われた通り5メートルほど間隔を空けリッキー君と向き合う。

 ユリアは一見すると両手は下に下げ脱力しこれから戦闘を行うにもかかわらず無警戒にみえるセツナに対して声をかける。

「それじゃ準備はいい?………始め!」



 始まりの合図と共にセツナが弾丸のようなスピードで飛び出した。極限まで脱力した身体から一気にトップギアまで力を切り替えることによりまるで雷の如くその場から消えたかのように一瞬で5メートルを詰めリッキー君の元へたどり着く。


 リッキー君も反応は遅れたものの迎撃するため、低い体勢で懐まで潜り込んできたセツナに対しカウンターの右膝を突き出す。しかしこれを読んでいたかのように右膝に左手を添え外側へ力をいなし、リッキー君の身体が開いてしまったところへ顔面へ右のジャブを三発放ち、そして体勢が崩れたところに左の追撃を放とうとするもリッキー君はそのまま倒れて動かなくなってしまった。




「あれ、もう終わり?」

 セツナとしては軽めのジャブしか放っておらずまだこれからという時にリッキー君が倒れてしまい思わずそう口にしてしまう。


「……セツナくんってもしかして誰かに格闘術とか師事してた?」

「あ、はい。近所に戦い方を教えてくれた師匠がいて、その人がいうには天穿ち(あまうがち)っていう格闘術らしいです。」


 やはり、とユリアは納得した。天穿ちとは脱力から瞬間的に力を入れることにより爆発的な速度を生み力の波を操ることにより細身の女性でも信じられないような威力の打撃で相手を破壊する武術である。ユリアはこれを何度も見てきたからこそ確信があったのだ。


「もしかしてだけどさっきのリッキー君まで辿り着いた移動法って、雷流らいなってやつ?」

「知っていましたか。天穿ちの中でも基本の動きで極限の脱力から瞬間的に力を入れることを操といいます。その状態、操の状態で移動する術のことを雷流っていうんです。」


 ユリアはレイの戦闘を何度も目にしてきたため天穿ちのことをよく知っていた。雷流に関してもレイがよく使う術であり一目見てレイも天穿ちの使い手だと見抜いたのだ。


(天穿ちの使い手ならクラス5th程度の強化人形を圧倒してもおかしくはない……けど気になるのはこの子の瞬間出力と筋肉量なのよねぇ)



 先程の戦いは時間にして約3秒、クラス5thとはいえそれを瞬殺してみせたセツナに驚愕した。


(さっきの身体能力の査定から感じてた違和感はこれなのね。)


 そう、ユリアは身体能力の査定の時からセツナに対して違和感を感じていた。例えば、握力の測定の時30秒間の持続握力の結果は45キロ。かなり平均的な数字だが次の瞬間的な握力の測定では220キロと驚異の数字を叩き出した。


(おそらく筋肉量や筋繊維というよりも脱力から瞬間的に力を入れても壊れない強靭な腱が天穿ちの鍵なんでしょうね)


 レイとセツナ、二人の天穿ちの使い手を知っているユリアはそう分析した。


「えーと、次は何すればいいですか?またリッキー君と戦闘とか」

 何やら思考の海に潜っているユリアにセツナが声をかける。するとユリアはハッとした顔でこちらを向き


「うーん、とりあえずのデータは取れたからまた明日にしよう!明日は能力有りでの戦闘も行ってもらうからよろしくね!」

「わかりました。」


 なんだか煮え切らないがセツナは納得し明日に備えるため演習場を後にした。


(明日はもうちょっと強いリッキー君と戦えるといいなぁ)


 そう思いながら自分の宿舎へ戻っていくのであった。









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