影彩童女〈ルーチェ〉
度々編集を重ねまして、ようやくまとめました。
度重なる編集で読者の皆皆様にはご迷惑をお掛けして
申し訳ありません。
引き続き、よろしくお願いします。
「こういうのは、どう?」
時は遡り、ゼロの処遇を話し合っている時。
リナは観察が必要だと言い、レオは不安の感情からか怪訝な表情で、ロキや他の七人も同様の意見なのだろう。
私はそんな彼らの懸念を払拭するため、提案を述べる。
「ルーチェを呼び戻して────────」
一通の便箋をリナに突きつけた私の一言で彼らは真意を理解する。
だって彼女は………。
場所は変わって、隣国の皇城。
そこは軍事国であることもあり、難攻不落の謳い文句で有名かつ、皇帝が君臨する強大な要塞となっている。
そんな皇城の大理石が敷き詰められた廊下を一人、軽やかな足取りで渡り歩き、誰にも認知されない少女がいた。
腰まである銀色の髪は光に反射するようにキラキラと輝き、晴れ渡る空のような色合いの瞳は爛爛と歓喜に満ちていた。
そんな彼女の片手には、一枚の便箋が握られている。
宛名には少女が書いたような可愛らしい筆跡で、”最愛のルーチェへ”と綴られており、差出人の名は”S”の一字のみ。
だが、彼女には差出人が分かりきっていた。
自分のことを最愛と呼ぶ、たった一人の敬愛する主君。
彼女は親指でその可愛らしい筆跡をなぞり、微笑む。
「ゔっ………………、」
手紙を持つ手とは反対側から短い呻き声が聞こえ、微笑んでいた表情を消して、彼女………ルーチェはそちらを振り返って憎らしげに顔を顰める。
「………声をあげるんじゃねぇよ。お前は黙って僕についてくれば良いんだからさぁ。」
手紙を持つ反対の手には、鎖が握られており、彼女が強めに引っ張ると男の首に絡みついた首輪が引き締まり、呻き声をあげた。
男の両手は手錠で拘束され、口には猿轡、首には首輪が装着されており、屈辱的な苦悶の表情を晒している。
「今まで暴君だった皇帝がさぁ、今やこんなザマだなんて。国民たちが知ったら歓喜するんじゃない?でも僕は慈悲深い(笑)からさぁ、僕の玩具として衆目から隠してあげてるわけ。なのにご機嫌な所に水を差してくるなんて、死にたいってこと?お前は僕の玩具らしく身の程ってもんを知った方がいいんじゃない?あは、ははははは⭐︎」
彼女が皇帝だった男を鎖で繋ぎ、引き摺るように連れまわして、叫ぶように高らかに嘲笑する。
城内では夥しい数の使用人や文官、騎士、貴族たちが突如として発生した皇帝の失踪事件への対処のために忙しく走り回っており、ルーチェの高らかな嘲笑は聞こえない。
ここに皇帝とルーチェが存在していることを認知している者は一人だっていないのである。
───ルーチェ・フェビアテス。
世界最強の組織『十凶紋』の一人であり、『影彩童女』と呼ばれる彼女は世界随一の諜報や隠密に特化したプロフェッショナルであり、裏社会の権力者でもある。
彼女の血統紋章『煌命彩生』は他者の認識に介入し、彼女がいたという痕跡すら残さず、気付かせないのだから。
「主から呼び出しがあったし、ついてこい。」
ルーチェは手綱の鎖を引きながら命令する。
そんな彼女に命の主導権を握られている皇帝は苦虫を噛み潰したような表情で嫌々なことを隠しもせずにルーチェの後ろに追随する。
ルーチェは久々に主君に逢える歓喜を胸に秘め、軽やかな足取りで皇城を後にした。
ルーチェの過去については番外部屋に掲載しております。