目覚めと再会。
俺は暗闇の中で、炎を見つめていた。
嫌になるくらい目の奥に刻み込まれた、赤い記憶。
俺から全てを奪った赤。
父が、執事やメイド、侍女のひと、商会員のみんな。
彼ら、彼女たちが俺のせいで死んでいく。
俺の前で、アイツが燃やしていく。
気持ち悪いくらいに赤い唇を嘲笑に変え、俺の頬に手を添える。
そこで、俺は………………。
目を覚ました。
俺は瞬時に辺りを見渡し、寝ていたことを自覚すると上半身を寝台から起こす。
「ここは、何処だ?俺は一体、なにを、」
頭を片手で押さえ、疑問がいくつも浮かんでくる中。
「ようやく、起きましたか。」
聞き覚えがあるような女性の声がした。
女性というよりは、少女のような幼さが残る声に、発生源の方へバッと振り向く。
「どうも、お久しぶりです。」
黒侍女服に白エプロンを着用した水髪碧眼の美少女がそこにいた。
俺はあまりの衝撃に声も出ない。
何せこの美少女は、俺が通っていた学園でかなりの有名人だったから。
フィリア・オルグナー。
彼女は生徒会選挙で反対数ゼロを叩きこみ、満場一致かつ歴代最少の齢で生徒会長へ就任した秀才。
眉目秀麗、才色兼備、文武両道を地でいく美少女だったため、学園での人気者だった。
そんな彼女が侍女服を着用していることの意味に気づくと、俺は瞬時に唯一の出入口である扉へ全速力で駆け出した。
「待ちなさい。」
フィリアに後ろ姿を晒した瞬間、彼女が手に持つトレイを俺の後頭部へ投げ、直撃する。
俺はあまりの激痛にその場で後頭部を押さえてしゃがみ込む。
「痛っ、なにすんだよ、先輩。」
フィリア先輩………、生徒会の一員であった学園生活での当時の先輩は本当に容赦がない。
先輩は、溜息をつきながら呆れたように肩を竦めた。
「急に出て行こうとするからでしょう。その臨機応変さは相変わらずのようですね、ゼロ。」
「………先輩がいるってことは、ヴァートリィ公爵の本邸なんだろ、ここは。」
「いいえ、違いますよ。ここは、ヴァートリィ公爵家の別邸、本邸から少し離れた場所にある屋敷です。ここは、半年前からヴァートリィ公爵閣下の一人娘が住んでいます。ゼロ、貴方には彼女に会っていただきます。」
フィリア先輩は淡々と俺に向かって、そう告げた。
俺にはこれが運命の分岐点だとこの時は分からず、のちにそう語ることとなる。