少年を拉致することにした。
「彼は………、まさか!」
カレンは倒れている少年を見て、驚く。
「カレン、もしかして知人だった?有名人?」
「知人という程ではないですが、名前と姿くらいは知ってます。学園で何度か見かけたことがありますので。彼はゼロ・グリフィス。彼の父はサーチグリフ大商会の会頭でしたから。学園でも有名でした。」
カレンは顔を俯かせて、彼の容態を確認するために傍でしゃがみ込む。
「サーチグリフ大商会って、あれだよね。何ヶ月前かに大炎上があった………。」
数ヶ月前のこと。
とある貴族の邸宅で、火災事故が起こった。
それは、サーチグリフ大商会がその貴族を訪ねている最中に発生し、重傷者や死者が多数おり、新聞の一面にも取り上げられるほどの事故だった。
幸い、放火などの事件ではなく、事故であることが判明しており、故意によるものでないことも原因もはっきりしているため、この件は国王陛下の名の下に完結したのだった。
「ええ、何でこんなところにいるのかは分かりませんが、彼は大商会の跡取りでした………。」
「………カレン。彼を回復させてから、公爵邸へ連れて来て。私はこのままお父様と合流してあげるから。」
私は少し間を置き、思考を巡らせてからカレンに命じた。
「………!?お嬢様!わたしは反対です!」
だが、カレンは私の命令に反抗した。
それはそうだ。
私はお父様じゃないし、カレンの主はお父様だから。
さらに、これは紛れも無く拉致の所業であり、犯罪行為に分類されるだろうから。
だけど、私はカレンの傍まで近づき、胸倉を掴む。
「かれん、あなたにきょひけんはない。しってるよね、あなたたちがはんとしまえになにをしたのか。」
私はカレンの胸倉を掴みながら、顔を至近距離まで接近させ、瞼が無くなるほど眼を見開いて目前のカレンを脅迫した。
カレンは身体をビクつかせて、冷や汗を額から流す。
「わたしはわすれない。ゆるしたつもりもない。あのひのことを。だから、よけいなかんしょうはしないで。………………………分かったなら、指示に従いなさい。」
私には、負の記憶がある。
それは、拒絶の記憶であり、私の中がどす黒く染まった日。
両親も知らない、僅か半年前の記憶。
私がバカだった頃の記憶。
そして、何者にも代え難い宝物を見つけた時の………。
それを引き合いに出し警告した瞬間、カレンは表情を青褪めて頷くだけだった。
私はその答えに満足したことを分からせるために掴んでいた胸倉を離し、最後に笑顔を見せた。
カレンはすぐに彼を肩に担ぎ、白翼を羽ばたかせて上空へ消えた。
私はそれを確認してから、小声でとある名を呼んだ。
私をお父様の元へ連れてってもらうために。
私の宝物である彼女の名を。
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