終止符
ミチ「……受け取ってもらえるといいな──」
「誰かにチョコあげる?」
──なんて、彼女に無邪気な顔で訊かれた帰り道。
私は少し笑って「あげるよ」と答えた。
「誰々? あたしも知ってる人?」
興味津々というように目を輝かせる彼女。
私の本命は──、今目の前で、私のチョコの行方を気にするあなたなのに……。
「知ってるよ、……でも、きっといい返事はもらえないかな……」
と私が少し苦笑いして言うと、彼女は「え? 何で?!」と驚いた。
興味津々に輝いていた目が、少し大きく開かれて、驚きに変わる。
「ミチ優しいし、頭いいし、スタイルだって、顔だって可愛いし、断られる理由が見当たらないもん」
「それは言い過ぎ──」
まさかそんな風に思ってくれてたなんて、恥ずかしい、けど……嬉しい──。
私はニヤけそうになるのを堪えながら、今度は彼女に訊いてみる。
「そういうミナは、誰かにあげないの?」
「え? あたし? あたしは……。内緒!」
と彼女──ミナは、少し考えるようにどこかを見てから、人さし指を口に当てて笑った。
「何それ、私に言わせといて自分は言わないわけ? ずるい」
「ずるくないよー、ミチも内緒って言えばよかったんだよ」
「……ずるい」
私が少し拗ねたようにしてみると、ミナは「じゃあ……」と口を開く。
「あたしも……、ミチと同じだから──いい返事、もらえないかも」
とミナは寂しげに笑って、前を向いた。
私は返す言葉を見つけられなくて、そうなんだ……と呟くことしか出来なかった──。
家に着いてから、私は自分の部屋で悶々としていた。
「……訊かなきゃよかった……」
ミナにあんな顔をさせてしまったのが嫌だった。
それよりも、ミナに想っている相手がいたことがショックだった。
今までミナとは好きな人の話をしたことがなかった。というのも、私が好きなのはミナで、ミナから好きな人がいるなんてことを言われたら、私が傷付くから。
それに、ミナに「好きな人いないの?」なんて訊かれても、ミナが好きなの、なんて言えるわけもなくて……。
だから、日常会話でそういう内容の話はしてこなかった。
……だからか、今日ミナに好きな人がいるというのを知って、上手く言葉を返せなかった。
あの時、私が聞き返さなければ、ミナに好きな人がいることを知ることも、ミナにあんな顔をさせることもなかったのに……。
「……私のばか──」
どうにもならない思いが、少しでも軽くなるように、自分に小さく悪態を吐いて、私はベッドに倒れ込んだ──。
*
それから数日。
ミナは特に変わりなく、私と一緒に過ごしていた。
一緒に登校して、お昼を食べ、それぞれ部活に行って、時間が合えば一緒に帰る──。
そんな日常に、私は終止符を打とうとしている。
……いや、打たなくてはいけないのだ。
お互いの将来の為にも──。
今まで、ミナへの想いは口にしたことがなかった、というか言わなくてもいいと思っていた。
でも、ある出来事によって、想いだけは伝えないといけないと思った。
それは去年の秋、私たちが高校一年で初めての文化祭が終わった日のことだった。
クラスの男子が、ミナに告白した。
それを知ったのは、文化祭が終わった次の日。
ミナが、もうびっくりしたよーと笑って打ち明けてくれたが、私はひやひやした。
ミナが告白される可能性を、忘れていた。
というか、ミナを好きになった男子が告白してくるという考えが、すっぽりと頭から抜け落ちていた。
普通に考えれば、好きな人に告白して上手くいけば付き合うことになるのに、私はその可能性を見落としていたのだ。
だから、ミナから告白されたことを打ち明けられた時、ひやひやした。
それから、付き合えなくてもいい、気持ちだけは伝えようと思った。
伝えた後、“友だち”に戻れないとしても、私のことはどうでもいい。ミナの将来が明るいものになるのなら、先に終止符を打っておくべきなのだ。
……私の胸の苦しみは、きっと時間が解決してくれるから──。
*
そして迎えた、バレンタイン当日。
普段お菓子を作らない私は、チョコのタルトが作れるというキットを買って、チョコタルトを作った。
初めてにしては、ちゃんと出来た方だと思う──。
「……あれ? ミチまだ居たんだ?」
職員室から戻ってきたミナが、私を見つけて声を掛けた。
今は放課後で、教室には私とミナしかいない。
「今日確かチョコあげるんじゃなかったっけ? もしかして、もうあげたの?」
「ううん、まだ……。ミナは? もうあげたの?」
「ううん、あたしもまだ……」
とミナはリュックを開けて、可愛くラッピングされた袋を取り出して見せてくれた。
「そっ、か──」
これから、ミナが誰かにそれをあげに行くのを考えたら、チクリと胸が痛んだ。
これ以上胸が苦しくなる前に、ミナに伝えよう、私の想いを……。
「あのさ、ちょっといい……?」
「うん……?」
ミナが私の方に近付いて来たのを確認してから、私は伝えた。
「チョコ、あげないのかって、前訊いてきたでしょ? その相手……、ミナなの──」
そう告げると、ミナは目を少し大きく開いてから「え?」と不思議そうな顔になる。
「……どういうこと?」
少し考えてから、ミナは苦笑いになった。
私は、出来るだけわかりやすく、ミナに伝える。
「──私が好きな人は、ミナなの。友だちの好きじゃなくて、その……恋人になりたい、とか、そういう、好き……。わかった?」
ミナを見ると、まだ理解していないのか、私をぽかんとした顔で見ていた。
私はそんなミナに、追い打ちをかけるように続ける。
これで終止符が打てるなら──。
「……そういう意味で、私がミナの隣にまだ居てもいいのなら、受け取って──?」
私は、昨日ラッピングしたチョコタルトをミナに差し出した。
ミナは、チョコタルトと私を交互に見てから、少し拗ねたような顔をする。
「……ちゃんと言ってよ」
「え……?」
「気持ち……! ミチの気持ちだよ……本命に渡すんなら、ちゃんと気持ち伝えて渡さなきゃ、受け取りたくても受け取れないじゃん──!」
とミナは少し顔を赤くして怒った。
……そんなことを言われたら、期待しちゃうじゃないか──
「っ……ずっと、大好きでした、私と……っ、付き合ってください……」
気付いたら視界が歪んでいて、涙を拭ってからミナを見る。
ミナは満面に笑みを浮かべて、私のチョコを受け取っていた。
「もっちろん! こちらこそ、大好きだよ! よろしくね──」
ふと自分の手の中に重みを感じて目線を落とすと、ミナの可愛くラッピングされた袋があった。
驚きよりも、嬉しさの方が強くて、私はまた視界が歪むのを感じる。
ミナが「何で泣くのー?」と笑みを含んだ声で訊いてくるから、私は泣きながら「大好き……っ」と答えになってない答えを口から吐いて、涙を拭う。
……終止符を打つという考えは、今私の中から消えた。
だって、これからもミナの隣に居られるのだから──
食べました。
ミナ「……ん、美味しい!(目を輝かし)」
ミチ「良かった……(微笑み)」
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