ミシェルさんは、とってもつよいらしい。
………
「降参するから攻撃を辞めてくれ!!」
と、宮殿から出てきた偉そうな肥満体型のオッサン。肥満は国によっては豊かさの象徴とも呼ばれているのでひっきりなしに悪いとは言えないが、私的には目障りである。
「…二人はどう思う?この誘いに乗るか乗らないか。」
四方八方を破壊しぶっちゃけ暇そうだった二人に聞いてみる。
「私は乗ってみてもよろしいかと思いますわ。もしあの宮殿の中にいる雑魚風情が束になってかかって来ても、私達が負ける可能性は1%もありませんもの。」
「ミシェル様にお任せしますが、面倒臭いのでもう殺してもいいんじゃないですか?王を殺してこの国が纏まるのに後五百年はかかってくれたら万々歳ですね。」
オパールは一度攻撃を辞めウンタラカンタラする派で、アメジストはぶち殺し推奨か…
「見事に意見が別れたな…」
どうしたものか…と内心で溜息をつく。
「頼む!!もし侵略を辞めてくれたら我が国の守護獣である妖狐を差し出してもいい!!」
…その言葉は私の何かを刺激し、ミシェルの怒りを買ってしまった。私はミシェルでも詠でもあるが、全ての行動は二人の思いが一致し、それを行動に移しているに過ぎない。この男の言葉に詠は勿論苛立ちを感じたが、ミシェルに至っては苛立ちを越え、怒り、そして憎悪までもを生み出してしまった。
男、終了のお知らせである。
「…よくも、まあ、私の前で他者の自由を踏みにじったな…」
嗚呼、やはり私は詠ほどの耐え症はないらしい。
「…このミシェル・ローゼンベルクの前で虐待をしている男がいる事で、相当死にたがりな国だと思ってはいたがここまでとは思わなかったぞ?
この国の最大兵力をもってかかってこい。一人残らず綺麗に塵にしてやる。」
…だが、それでいい。交渉事や頭を使うことは全て詠にやらせればいい。私が出来る事など元より己の武力をもってして他者を蹴散らす事に限られている。
だから、少なくとも、この点に置いては私は詠より優秀だ。
………
「この国の最大兵力をもってかかってこい。一人残らず綺麗に塵にしてやる。」
と、彼女は言った。滅多に見せない殺意を感じる故、本気でキレているのだろう。
まあ、当然だろう。彼女は幼き頃まともに愛を貰えず、幼さ故に父親の思い道理に動くしかなかった事がある。
故に、自分の自由を人に制限される事の屈辱と喪失は誰よりも知っているだろう。
だからこそ、あの男が許せない。まず、守護獣や守護宝石は自ら望んでその役割についた訳ではない。人間が勝手に崇めているだけの存在。
人間如きが彼らの生き様を決めていい理由など何処にもないのだ。…ただ、唯一の例外を除けば。
その例外とは、我が主、ミシェル・ローゼンベルクの事である。自分は彼女に忠誠を誓った。彼女に焦がれ、生き甲斐とし、彼女の最善となるよう彼女に尽くす。
彼女だけは自分にそうさせる価値がある。
それ以外の人間?知った事か。というか、むしろ邪魔でしかないので全員消えてしまえ。
とはいえ、主が本気でぶちのめそうとしている相手を勝手に殺してしまうのもアレだ。
彼女が満足するまで全員等しく苦しめ。
自分達十二宝玉が動くのはその後だ。
………
剣を持った騎士が私に向かってくる。
殴る。
斧を持った傭兵が私の肩を切り刻もうとする。
殴る。
魔法陣から生成された魔法が私に向かってくる。
殴る。
剣技だろうが魔法だろうが数の暴力だろうが関係ない。そんな、雑魚が出す攻撃の威力など塵でしかない。塵も積もれば山となる。そんなことわざがあった気がするが、圧倒的な力の前では塵で出来た山など脅威でもない。
私の攻撃の余波が貧民街を壊さないかそれだけ少し心配だったが、細かい調整などは詠がしてくれているらしい。だから私は全力で力を振るえる。後の事などは気にしない。
私から吹っかけた戦いではあるが、別に本気を出していた訳では無い。詠というもう一人の私が銃と言うよく分からない太い棒で戦って見たいというから私は自分の身体能力を少し使っただけ。
まず、私が本気で戦おうと思えば、この国を滅ぼすのに一秒もかからないだろう。
即死系の回避不可攻撃を1回使えばそれで終わりだ。だが、それだと後ろにいるアメジストとオパールまでもが破壊されてしまうので自重する。
あと、この前気に入ったアップルパイのあるケーキ屋を巻き込まないようにしないといけない。
だから、本来ならばすぐ消せる様な雑魚相手にこんなにも時間を掛けているのだ。
なまじ、大きすぎる力も考えようなのかもしれない。
だが、気に入らないから殺す。イラついたから壊す。
その行為になんの問題があるのだろうか?
詠ならもしかしたら、自分の力の大きさを考え、自重していたのかもしれない。
だが私は違う。詠のように考えることは苦手だし、どちらかと言うと、自分が脳筋でどうしようもない馬鹿だということも自覚している。
だから──に頼んだのだ。
私のこのどうしようもない力をちゃんと制御の出来る頭脳を連れてこいと。
↓行動決定の、話し合いの様子。
ミシェル「このアップルパイ美味しそう。」
詠「でもこのチーズケーキ食べたい。」
「「…」」
ミシェル「なんだ、やるのか?」
詠「よかろう、やってやる」
「「最初はグー!!ジャンケンポン!!」」
ミシェル「ふっ」←チョキ
詠「なんっだと!?」←パー
この少女、文武両道のハイブリッドだが、阿呆である。