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ドリームキャッスルと廃園の理由

「――――――!」

「えっ、もうこんな遊園地で遊ぶなんて嫌だ?帰りたい?」


 そう言われましても、ねぇ?


「帰るのは構いませんが、どこから来たかも分からない遊園地。無事に帰れますか?」

「………。」


 私が脅迫気味にそう言うと、黙り込む。


 別に怖がらせるわけではありませんがね。


 ここがどういう世界かを知らない『お客様』を一人にするのは危うい事です。世間知らずのお坊ちゃんを陰から見守る執事の気分です。


「まあ、せっかく来た遊園地です。最後まで楽しんでいってください」

「――――――?」


 おや、次の噂は何かって?


「『お客様』の目の前にあるこの豪華なお城!この『ドリームキャッスルの地下』には何と『拷問部屋』があるとの噂が――って、『お客様』ー?そっちは違いますよー!?」


 説明してる途中で、逃げるように歩き出した『お客様』をすぐさま引き止める。


「――――――。」

「拷問部屋なんて論外?大丈夫ですよ。ファラリスとかアイアンメイデンとか、そんな物騒なモノはありませんから!」


 私は『お客様』を少々強引にドリームキャッスルへと引き摺り込む。


「ほら、豪華なお城でしょう?」


 内装は童話やファンタジーの中に飛び込んだような綺麗なお城。拷問とは無縁そうな空間です。


「ようこそ、お客様!――って、何であなたがここにいるんですか?」


 こちらに愛想笑いをしてきた係員が、私の顔を見て不機嫌そうにジトッと睨んでくる。


「こんばんは、ノエルさん?」

「こんばんは。出口はあちらとなっておりますので、速やかにご退場下さい」


 丁寧な口調で追い出してくる。なんて、酷い係員なんでしょう。


「先ほどお会いしたタルトくんの秘蔵写真がこちらに三枚」

「はいはーい!歓迎しますよ!お客様方!あちらに、王子様やお姫様の衣装があるので是非ともこちらで楽しんでいって下さいねー!」


 写真を奪い取ると、その勢いでターンして、表情を巧みに変えるノエルさん。


 ……まったくもって、チョロいですねぇ。


「――――――。」


 あ、『お客様』もそう思います?


「こちらのノエルさん。タルトくんがお好きでしてね。私も応援したいのですが……」

「くたばれ、ホモ社長」

「タルトさんは心は女の子です。ゆえに、ホモではありません。あと、私は別にタルトさんはそんなに――いえ、何でもありません」


『あんな可愛い男の娘に惚れないとかギルティ』なんて視線を向けられては堪りません。


 まあ、それはさておき……。


「存分に楽しみましょうか『お客様』」


 私は『お客様』の手を引いて、ご案内。


 ――え?とっとと、『真実』だけ見せて帰らせろ?


 そうはいきません。


 楽しまなきゃ損でしょう?


 ファンタジーな世界にありがちなカジノ。


 剣と魔法の世界を体験出来るVRアクションゲーム。


 当園限定のウザギちゃん、ウザナギくんのぬいぐるみがゲット出来る(誰得な)キャッチャー。


 他にも楽しむモノは沢山あります。


 ………。


 ………………。


 ………………………。


 ………………………………。


 上から順に楽しみ尽くした私達は噂の地下室へとやってきました。


「――――――?」


 二手に分かれた入口を見て、『お客様』は首を傾げる。


「そろそろ『お客様』も、ご自身の特別さを理解してきたのではありませんか?」

「………………。」


 今の自分とは関係のない視点。


 今だって、恐らく私の心の声が筒抜けなんでしょう?


 フフフ、何故でしょうね?


 この千里眼のような『特権』。それが『お客様』が特別である理由です。


 まあ、たまに『瞬間移動するお客様』もいたりしますが、それはいいでしょう。


「『お客様』なら、この怪しい部屋の中を入らなくとも、『視』て……そして、体験出来る筈です」

「――――――。」

「意図して起こせない?」


 まあ、そうなんでしょうね。


 この遊園地――いえ、『()()()()()()』では『お客様』はある要素が制限されます。


 それが何なのか?


 それを伝えると、『お客様』はこの世界から消えてしまうでしょう。


 ですから、それを伝えるのは最後です。


「では、イメージして下さい。今からこの先にあるモノを伝えます」


 大人と子供に分かれた二つの道。


 その先にはカプセル型の何か。


 そのカプセル型のモノは一人称視点のVRサバイバルゲームがプレイ出来ます。


 襲いかかるゾンビを倒す。


 感覚のリアルで、敵の悲鳴が地上にまで響き渡るような、リアリティのあるゲームです。


「………………。」


 ふむ、無事イメージ出来たようですね。


 では、私もガイドする為に、その視点を盗み見させていただきましょうか。




 ―――――――――――――――




「うわあああああああああああっ!?」


 敵の悲鳴がリアルなゲーム!最高だぜ!


 俺は新感覚のサバイバルゲームを楽しんでいた。


 俺の年?いくつだったかな?


 まあ、小学生だったのは確かだ。


 それより、このゲームは本当に楽しいんだ!


 銃を撃った時の反動で手が震えるこの感じ。


 ナイフで斬った時の肉を切る抵抗感。


 傷が残り、それに応じてその部位への攻撃のダメージが増加したり、大量の出血が続くと死んだり、どれもこれもリアリティがあるんだ!


「オラ!死ね!死ね!死ね!」

『GAME CLEAR!』


 EASY、NORMALとやってきたが、サバゲーをやり込んでる俺には物足りない!


 もっと、難しいのをやらねえとな!


 俺は迷わずHARD――はスルーして、その上のNIGHTMAREを選んだ。


 EASYとNORMALの差を見れば、NIGHTMAREも結構ムズい程度だろ。


 楽しむにはこれくらいじゃないとな!


 ――あらあら、NIGHTMAREは確か、わた……どっかの社長以外はノーデスクリア者がいないというのに……。


 ――ガスッ!


 何かをぶち抜く音が自分の頭から聞こえた。


「えっ――うぎゃあああああああああああっ!?」


 痛い!?


 頭が、痛い!?


 何だ、これ!?


 何だよ、これはっ!?


 俺、今……頭を撃たれたのか?


 何で、こんな所までリアルなんだよ!?


 ――そりゃあ、痛覚こと触覚もリアルにしないと、得物を握る感覚や大地を踏みしめる感覚は味わえませんよ。それとも、感覚のない幽霊にでもなってみますか?……なんて、『お客様』にしか伝わらない独り言なんですがね。


 俺は現実が受け入れられず、その場で固まっていた。


 ――バシュン!


 的としては最適なそんな行動をしていたら、当然撃ち抜かれる。


「し、しまっ!?――うぁああああああああっ!?」


 左胸がどうしようもなく、痛い!


 ズキズキする!


 だが、こんな所で止まっていたら、また撃たれる!


 どこかに場所を移さねえと!


 一度()()てから、この痛みが収まるのを待つんだ!


 ――ピチュン!

「う、うぁああああああああっ!?」


 う、腕がぁああああああああっ!?


 しかも、サイレンサー付きで場所が分からねえ。


 こんな入り組んだ所に撃ってくるなんて、どうかしてる!


 ――その後も少年は足掻き、そして死にました。何度も死の痛みを味わい、その心までもが死にゆく。そして、彼は……。


「死にたくない!死にたくない死にたくない!」


 ――かつて笑顔で敵を殺しておきながら、いざ立場が変わった途端、その年相応に泣き喚くのでした。




 ―――――――――――――――




「如何でしたか?『お客様』?」


『死を楽しめ』が、我が社員の口癖ですが、臨死体験は慣れないでしょう。


 焼死、丸かじり、無限の苦痛、そして今回の無限の死。


「………………!」


『お客様』が真っ青になる気持ちもよく分かります。


 お客様が落ち着くのを待ってから、私は話を始める。


「最悪の気分でしょう。少なくとも人が死ぬ様は見てても、いい気分にはなりません」


 それがたとえ復讐したい相手でも、喜びと同時にどうしようもない虚しさが湧いてくるモノです。


「このドリームキャッスルのテーマはアクアツアーと同じ『弱肉強食』。アクアツアーが『他種族間での逆襲』に対して、こちらは『同族を虐げる者が更にそれより強い虐げる者に苦しめられる連鎖』を表しています」


 正確には、『イジメっ子が大人にやられる様』と『大人が子供から逆襲を受ける』、そして『親が子供を知らぬ間に殺してしまう無知の恐怖』。


 様々なモノがありますが、表向きは『同族間での弱肉強食』の一言に尽きます。


「それと、ここでは稀にカプセルに入った客が消えたように行方不明になるそうです。これが廃園の噂である『子供がいなくなる噂』の真実と言われていますね」


 私は『お客様』に微笑んでみせた。

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