表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

最後の巡り

「今までお疲れ様でした、『お客様』」


 私はそのように労いの言葉をかける。


「――――――?」


『突然、どうした?』と言われましても、次が最後のアトラクションとなるからです。


「次の観覧車。担当係員は私こと巡が務めます。早速、向かいましょうか」


 そう言って、私は『お客様』をご案内致しました。


「こちらが当園自慢の特大サイズの観覧車です」


 真下で見上げると、そのとてつもない大きさに目を奪われる事でしょう。


「ここはですね。『近くを通ると「出して……」という小さな声』がするという噂があるんです」

「――――――?」

「地味ですが、怖い話ですよね。何せ、怪しい声がするのはここだけです」


 しかし、それは……もう……。


「残念ながら『お客様』がこの観覧車を楽しむ事は出来ません」

「―――?」


 私が告げると、『お客様』は首を傾げる。


「―――!」


 続けて、殺されると勘違いしたのか身構える『お客様』。


 やはり、先ほどの会話もバッチリ『視』られていましたか。


 ですが――


「そういう事ではないのですよ。私の視界を見れば分かるでしょう」


『お客様』にはさぞ綺麗な観覧車が回り、お客様方がそれに乗って楽しむ光景が見えている事でしょう。


 しかし、私の視界では観覧車は一部が壊れて、釣り合わなくなっています。


 では、少し昔の話をしましょうか。




 ―――――――――――――――




「……出して……出、し……て……」


 ある少年は動かなくなった観覧車の前から聞こえる謎の声に耳を傾けていました。


「ねぇねぇ、お姉さん?何で、あそこから声が聞こえるの?」


 少年は近くで佇む女性に声をかけます。


「―――!」


 すると女性は一度、驚いたように目を丸くしました。


「……そう、知りたいの?」

「うん!」

「それじゃあ、教えてあげる。ここで何があったのかを――」


 女性はここで起きた出来事を話し始めました。




 ―――――――――――――――




 ある日、私が長いこと付き合っている彼とデートしている時だった。


「手、出して?」

「えぇー?やだ、もぉー!その手には乗らないわよ!」


 彼はまた私の苦手な爬虫類の置物を出すつもりなんだ。


 もう!いい加減私も騙されないのに!


「いいから!」

「イヤ!」

「ほら、お願いだから!一生のお願い!」


 彼は大袈裟に手を合わせてまで頼み込んでくる。


「イヤよ!また私を驚かせるつもりでしょ?」

「そんな事しないって!命賭けるから!」

「こんな事に命賭けないでよ。バカ……」

「今回ばかりは真剣なんだ」

「えっ……?」


 彼の目はいつにもなく、真っ直ぐで初めて見た顔をしていた。


 そんな顔を見てたら思わずキュンときちゃって――。


「――も、もう!分かったわよ!はい!これでいい?」

「あぁ、ありがとう」


 彼はそう言って、私に手を重ねようとして――事件は起きてしまった。


 ――ギィ……ギィ……


「「えっ?」」


 彼が腰を上げた途端、上から嫌な音がした。


 ――ガシャン!ガタガタガタガタ!


「っ………!」

「きゃっ!?」


 彼は上を見上げたかと思うと、私を強く抱きしめた。


 直後、何かが崩れる音と共に、世界がグルリと回るのを感じた。


「ッ〜〜〜!」


 ―――?


 腰が痛い。強く打ったみたいですぐには動けそうにない。


 周囲を見渡すと、私はあるモノを目にしてしまった。


「……うそ、でしょ……?」


 彼は手を出したまま、動かなくなっていたのだ。


 そこには、プレゼントと思われる小さな箱が乗っていた。


「い、いやぁああああああああああっ!?」




 ―――――――――――――――




「それから彼は、あの日渡せなかった後悔を抱いたまま、ここに囚われているのよ」


 そこで、女性の話が終わりました。


「そうなんだ……」


 少年は悲しげに俯いています。


「あなた、泣いてるの?」

「な、泣いてないよ!僕は立派なあととり?にならなきゃいけないんだもん!」


 目から大粒の雫を零しながらも必死に取り繕う少年に、女性は笑いかけます。


「そう……優しい子なんだね」

「……うぅっ……」


 女性が少年の頭を撫でると、少年はよりいっそう悲しそうな表情をしました。


「ありがとう。あなたがこの悲しみを分かってくれるのなら私と彼はきっと救われる」


 女性はそう言って、少しずつ離れていく。


「それじゃあ、行きましょ?」


 女性は、姿は見えないがどこかで呻く男に話しかけると、そのまま天へと昇っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ