入園
――おや、いらっしゃいましたか
ご入園前にパンフレットをお持ちになる方はこちらからどうぞ、『お客様』?
https://horror2017.hinaproject.com/teaser/
何も知らずに未知の領域に足を踏み入れるもよし、事前に予習してから出向くもよし、そちらは『お客様』のご自由となっております。
それでは、ごゆっくりと当園をお楽しみください。
「―――。」
気づいたら、『お客様』は見覚えのない遊園地の入口の前におりました。
寂れた景色。分厚い雲が世界を覆い隠した曇り空。
どう見ても、普通の遊園地ではありません。
「―――?」
『お客様』はキョロキョロと――右――左――交互に見回して戸惑っております。
「おやおや、どうしました?『お客様』?」
私は困った様子の『お客様』に声をかけます。
「―――?」
『お客様』はここがどこなのかを尋ねてきました。
「『ここがどこか』ですか?ひょっとして、知らずに迷い込んでしまったのですか?」
「―――。」
コクリと『お客様』は頷きました。
「少々お待ち下さい。お客様」
私はここのお偉いさんに連絡をとります。
……ふむ。
…………ふむふむ。
………………あぁ、そういう事ですか。
管理の甘いようで……後で、しっかり指導し直さなくては。
「『お客様』。どうやらこちらの手違いで、別のお客様と間違えて招待してしまったようです」
「―――?」
「ここに来るまでの記憶が無い?どう帰ればいいのか分からない?」
やはり、『お客様』は特別なゲストのようだ。
これは、丁重に扱わなくてはなりませんね。
「ご安心下さい、『お客様』。ガイドである私が責任をもって、ご案内します」
えぇ、せっかくの遊園地です。
何の思い出もなく、ここであっさり手ぶらで帰しては、私のこの仕事への熱意にヒビが入ってしまいます。
この――
「――裏野ドリームランドを、私が直々に隅から隅までご招待しようではありませんか」
私は手を広げて、『お客様』に言い放つ。
「―――――――――?」
おや?裏野ドリームランドを知らない?
「知らないのは無理もありません。ここは何年も前に廃園になった遊園地ですからね」
「―――!」
廃園になった遊園地と聞いて、『お客様』が目を見開く。
まあ、驚くでしょうね。
こんな寂れた景色で、廃園になった筈なのに――
「あはははっ!」
「きゃあああああああっ!」
「もぅ、マヂムリ……」
――他のお客様がいるのですから。
「ここは、かつて『子供が度々いなくなる』という噂で廃園になってしまったのです」
「―――?」
「廃園になったのに、何故今も動いているのか?それは企業秘密というモノです」
えぇ、機密もとい企密事項です。そう易々とお話するわけにいきません。
ですが、お客様がこの遊園地を最後まで楽しんだ暁には、いずれ――全ての謎を知る事になるでしょう。
「それでは、お楽しみ下さい。私が案内する――裏野ドリームランドを!」
私は『お客様』を連れて、廃園になった遊園地へと入っていった。
「―――?」
「えっ?入園料?『お客様』は特別なゲスト。今回は無料となっております」
「―――?」
「それでいいのかと言われましても、そもそも廃園になった遊園地ですから入園料なんて頂けません」
ですが、まあ――
「『お客様』がここの事を親戚やご友人等のお知り合いに紹介し、再度ご来園頂ければ、私も嬉しく思います」
私は営業スマイルで『お客様』に微笑みました。




