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やっぱりトリップしないとだめですか?  作者: 物想空之
ジャングルノマクツ
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ダウジングする猫

魔窟編

6/7/8/9/10/13/14/17/18/21/(22)

エマ、もとい黒猫エマは、俺の前を歩きながら、ゴーグルを装着した。


「ごめんね、はぐれそうになってしまったわ。」

「エマが謝るなんて…珍しすぎてこわい。」

「失礼よ。」

「ところでそろそろちゃんと今回の仕事内容聞かせてくれないか?」

「だいたい察しているんじゃないかと思ったけど…。」

「ゆがみを検知したのはさっきの王国?」

「だね、そしてこの国に来たのは先の王国を救う手立てがあるから。」

「え、じゃあすぐ解決できるじゃん。」

「うーん、まぁね。」


エマが歯切れの悪い言い方をする。

何か懸案事項でもあるのだろうか。


「さっきのシカって人…。」

「ん?」

痕跡(マーカー)がなかった。」

「え?」

「この国は、ある中学の一クラスがトリップしてきたところから始まってる。」

「そうなの?」

「クラス単位のトリップってやつ、さっきの魔王と王の(しもべ)は今は雇用関係にあるけど、皆、そのときのクラスのメンバーだから…名残の痕跡(マーカー)が見えるはず。」

「へぇ、すごいじゃあ、ここまで繁栄させたのは彼らなんだ。」

「珍しく良識あるやつが上に立ったからかな?まぁ性格に多少難があるみたいだし、労務管理的には賃金の未払い問題が出て、うちに通報が来たことがあるみたいね。」


エマは、ゴーグル内に表示されているその情報を淡々と読んでいる。

俺は話を聞きながら、ゆったりと揺れるエマのしっぽに気をとられていた。


よくできてる、触りたい。


「そういえばさっきのシカもそんなことゆってたが、俺が見た感じ魔王の性格にこれといって変なところはなかったと思うぞ。」

「ん?まって、シカは魔王の性格のことを悪くいったの?」

「いや、悪くってほどでも…エマと同じように、性格に難がある、みたいな言い方してた。」

「ふぅん?」


エマはゴーグルを外し、首に下げた。

耳があるから頭に上げたくないんだな。


俺が猫耳を見ているのに気づき、エマは首をかしげた。


「そんなに猫耳がうらやましいなら、猫男になればいいじゃない。」

「いや、男に猫耳は需要ないだろ。」

「魔王は猫なら性別は問わない主義だそうよ。」

「いやいい…俺は従者で。」

「じゃあそんなにまじまじ耳を見るな。あとしっぽを触ろうとするな。」

「えー。」


エマのしっぽは、俺の手をのがれるように動いた。

ケチだな。


「魔王は部下にいくつか魔法をかけている。そのうちのひとつが、魔王への悪口を禁ずるというもの。」

「性格に難があるってのは悪口なのか?」

「魔王が嫌がる基準の悪口を禁ずるだからね…なかなか拘束力強いし、本来ならそれは減給発言。」

「本来なら?」

「シカにもう少し話を聞く必要があるわね。」

「?」

「そうだ、これ。」


エマはおもむろに懐から透明なシールのようなものを出す。


「またはぐれたら面倒だから、回数限定の通信能力(テレパス)渡しておく。貼っといて、手首あたりに。最大回数にはしてるけど、無駄に使わないでね」

「そうそう!言いたかったんだよエマ、俺にも道具もっと渡してくれって!」


俺は素直にそれを右手首につけた。

エマも右手首につけている。

貼るとそれは形がわからないほど肌になじみ、回数だけが見えるようになった。


「さっき、洞窟の前に出たっていってたよな?俺とだいぶ出口ずれたみたいだけど、何かあった?」

「んー王女と話し込んでた。」


エマはそう言いながらまたゴーグルをかけ、王国で使っていたダウジングを取り出した。

魔王の居城である遺跡から出ると、にぎやかな街並みが見えた。街の中から、何か痕跡を辿るのだろうか。


「何かお探し?」

「何かって確かなものでもないけど…”何か”を探してる。」

「俺にまだまだ言ってない情報が沢山あるって感じだな。」

「んー…シキには…情報を持たない状態でいて、気づいたことを言ってほしいのよね。」


それが本音ね。


俺はダウジングする黒猫の、ゆれるしっぽをまた目で追いながら、少し考えた。

先の王国を救う術があるのに、それをすぐに実行しないのは、あの王国のゆらぎは魔物や勇者が現れないことだけではないのだろう。王女と話し込んでいたということはそのとき何か重要なことでも聞いたんだろうな。


ふと、エマのしっぽがピンと張り、エマも立ち止まる。何事かとエマを見ると、驚いた顔をして一点を見つめていた。


「シキ、痕跡だ。」

「?僕のだれかがいるのか。」

「違う違う、見て、ものすごく、面白いやつがいる。」


エマはゴーグルをはずしてまばたきした。

視線の先を追うと、中世的な顔のやや異様なオーラをまとった輩が、八百屋の前でオレンジらしきものを手に取ってみていた。


「神だ。」

「は?」

「だから、神だよ。」


エマは目に見えて喜んでいた。

なにせしっぽが今までになく大きく揺れ、耳がぴくぴくと動いていたのだから。


俺たちは”神”に近づいた。


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