そういうマホウ
「さて旅人よ。」
まさしく、俺様という感じの魔王様が、俺の目の前で怪しげな笑みを浮かべて座っている。
子供とも大人とも言えないほどの年に見える。
容姿はそれなりに整っている。
羨ましいと思う程度には。
二人ほど、侍女なのか女性が両隣に佇んでいた。
シカは、俺の右後ろに控えており、遺跡の頂上の広い空間に、俺と魔王の声だけが木霊した。
「はい。」
「ジャングルからの旅人には二種類いてな?」
「はい。」
「隣国のスパイか、あるいは時空を超えてきたものか、どちらかだ。」
「どうしてですか?」
「そういう魔法を、僕がかけている。」
俺様な感じだが一人称は僕なのか、と俺はのんきに思った。
「その恰好を見てもどちらか判別がつかぬが、どうなんだ?」
「正直に言って信じるものなんですかね。」
「信じるぞ、ここで嘘は吐けぬからな。」
「そういう魔法を、あなたがかけたんですか?」
「そうだ。」
「俺は時空を超えてきたものです。」
「どこからきた?」
どこから。
さて困った。
ハザマの世界と言って通じるものか。
俺がこの世界を去れば俺の記憶は消えるわけだから一時的にバラしても良いかもしれない。
しかし…この国には時空を超えてくる旅人がいるということは…時空を転移させる魔力が存在しているのかもしれない。
ハザマの世界は知らざる者には探せない場所であるが、俺がいる間に知っている誰かが発見してしまったら、少々面倒なことになってしまう。
「答えよ、旅人。」
「我々はとある王国から参りました。」
凛とした声が響いた。
後方から飛んできたその声の主は、フード付きのマントを羽織っており、俺の隣まで歩いてくる。
「シカ、旅人は一人だったのでは?」
「私はその者と時空を超えるときにはぐれてしまった者、丁度良く洞窟の目の前に出ることができまして、街の者に魔王への謁見をすすめられたのです。」
「ふむ、フードをとれ。」
魔王は納得したようだ。
ここでは嘘をつけないそうだからな。
俺はというと、そのよく見知った声に安心していた。
しかし、フードをとった見た目に、絶句した。
その頭には、見事な黒い猫耳が生えていた。
エマおまえ…ずっと思ってたが…毎回トリップ楽しみすぎだろ。
「ほう。」
「我々のいた王国はかつて魔物が現れており、それを倒す勇者が国に訪れ、魔物を倒し、王国の王女に婿入りすることで平和を保って言いました。」
「つづけろ。」
「しかし前勇者が魔物を根絶やしにしてしまい、今や勇者が訪れることはなくなりました。我々は、現王女様に婿を探す、あるいは何か別の手立てを探すために時空を超えてきたのです。」
なるほど、物は言いようだ。
確かに俺たちはハザマの世界の者だが、どこからきたかと言われたら、先の王国のことを述べても嘘にはならない。少しずるい気もするが。
「ほう、して、僕に何か手をかしてほしいのか?」
「それはまだ何とも…少し都市を拝見させていただいても?いい案が浮かぶかもしれません。」
「良かろう。怪しいものではなさそうだ。何より僕は猫が好きなんだ。ゆっくりくつろいでくれ。用があればいつでもできることはしよう。シカを世話係につけるから好きに使え。」
「ありがとうございます。」
どこで仕入れたのか、魔王が猫を好きだという情報を聞き、その猫耳を生やしたのだろう。
デキる幼馴染だ、まったく。
そして似合っている。
耳、触ったら怒るだろうか。
「いくぞ。」
エマが俺にそう言う。
俺は軽く魔王にお辞儀をし、うしろにいたシカにも会釈をした。
エマはなぜかシカをじっと見ていたが、何も言わず、その場を後にした。