ある日常
「あー……もう朝か……」
朝、目を覚まして毛布からもぞもぞと抜けだした俺は、大きく欠伸をした。それから体を伸ばして意識を覚醒させる。
今日もいい朝だ。窓から差し込む朝日が体を温めてくれている。窓から見える空は気持ちよく晴れ渡っている。そこには雨の気配は微塵もない。
とりあえず部屋から廊下に出て居間に向かう。足音は立てずに歩く。昔からの癖で、つい足音を消してしまうのだ。
居間には一人の女の子がこちらに背を向ける形でソファに座っていた。この家での家族構成上では「妹」に当たる少女だ。小学生で、まだ着替えていないのかパジャマのままだ。
足を忍ばせたままその頭に触れる。
「わあっ?……なんだ、コタローかぁ。びっくりしたー」
こいつは昔から俺のことを呼び捨てで呼んでくる。こっちの方がよっぽど大人なんだから、もう少し敬意を込めてくれればいいのだが。
「まだお母さんが朝ごはん作ってるところだからもうちょっと待っててね。できるまで一緒にテレビ見ようよ」
そう誘われたが、それよりも先に身支度を整えておきたかった。顔を洗い、身だしなみを整える。ついでに水も飲んでおく。
それから少女の隣に座り、ごはんが用意されるまでソファで一緒にテレビを見た。テレビの中では女子アナと男のベテランアナが、最近流行りのスイーツに舌鼓を打っていた。
「いってきまーすっ」
小学校が少し遠いところにあるため、少女はいつも早く家を出る。それを見送った俺は、少し家の中でゆっくりしてから、外に出た。
特に行く当てがある訳ではないし、とりあえず家の前の道を進んでみることにしよう。軽く弾みをつけて縁石に上り、バランスを取りながら歩く。
縁石から落ちたらゲームオーバー、だなんて子供みたいだが、今日は晴天でもありそんな気分になっていた。もちろん足音を消すことも忘れない。というか勝手に足が音を立てないように歩いてしまうのだが。
「あ、コタローじゃん。ご機嫌だねー」
縁石の上を歩いて少し、そう声をかけられた。若い女の声だ。
向かって右に目をやると、そこに声の主がいた。名前はハル。まんまるの目とほっそりとした体が特徴的で、こうして外に出るとよく出会うやつだ。
「今日は天気がいいからな。童心に帰って、ってやつだ」
「晴れの日好きだもんねー、あなた。まあ私も雨は好きじゃないけど」
「誰だって雨で濡れたくはないからな。それに湿気が多くなるのも好きじゃない。ハルだってそうだろ」
「まあねー」
他愛も無い話をしながらハルと共に歩く。「なんであなたはいつも無愛想な口調なの?」「あっちの丘の方今度一緒に行ってみない?」「この前、見晴らしがいいと思って木に登ってみたら登りすぎちゃって降りるのがすごく大変だったのー」などなど。いつもながら豊富な話題の種を持っていることには感心する。
こういう世間話を気安くできるのは今のところハルだけだ。もちろんハル以外にも知り合いはいるのだが、道で会えば挨拶を交わす程度の仲でしかない。もしかしたら俺が外に出るのも、ハルとただ雑談でもしたい、そういう気持ちがあるのかもしれない。絶対に口には出さないけど。
「じゃ、またね。バイバイ」
「おう」
しばらく歩いて、ハルとは別れた。雑談をして時間を潰す。これがハルとの毎回の過ごし方になっている。
思ったより遠くまで来ていたので、今日のところはこれで家に帰ろう。そう思って俺は帰路に就いた。
家に着き、玄関から入る。玄関には靴が一足。母親のだろう。まだ妹は戻ってないようだ。
家に帰ってからはただ適当にごろごろし、明日の過ごし方を考えながら妹の帰りを待っていた。
「コタローコタロー、今日ね、学校でね~」
俺を見るなり楽しそうに話しかけてくる妹。聞き流しながらも家の中で妹と遊んでやり、それからごはんを食べて部屋に戻る。
そして毛布の中に潜り込む。
さて、明日の天気はどうなるかな。晴れだったらどこに行ってみようか。明日への楽しみから、胸の高鳴りに合わせるように揺れるしっぽ。そんなことを考えながらも俺の意識は薄れてゆき、そのうちにぱたり、としっぽも毛布に倒れた。
初投稿であり初めてちゃんと小説の形にした作品です。